日産、530PSの「GT-R」11年モデル発表会
“本当の姿”を現したGT-R

GT-R開発責任者の水野和敏氏と11年モデルのGT-R

2010年10月18日開催



開発責任者であるチーフビークルエンジニア&チーフプロダクトスペシャリスト&プログラムダイレクター 水野和敏氏

 日産自動車は10月18日、グローバル本社ギャラリーで「NISSAN GT-R」の11年モデルの発表会を開催し、開発責任者であるチーフビークルエンジニア&チーフプロダクトスペシャリスト&プログラムダイレクター 水野和敏氏が概要説明を行った。

 今回の11年モデルは、標準グレードの「GT-R Pure edition(ピュアエディション)」を筆頭に、装備が異なる「GT-R Black edition(ブラックエディション)」、「GT-R Premium edition(プレミアムエディション)」、「GT-R Spec V」のほか、新たにオリジナルのインテリアを選べる「GT-R EGOIST(エゴイスト)」、サーキット専用車「GT-R Club Track edition(クラブトラックエディション)」がラインアップされる。


アンヴェールされた11年モデルのGT-R

 現行GT-Rが登場した2007年に、水野氏は「GT-Rの本当の姿は3年後にお見せする」と発言していた。その公約どおり、今回発表された11年モデルのGT-Rは、フルモデルチェンジに匹敵すると水野氏は語る。

 V型6気筒DOHC 3.8リッターターボエンジンは、ブースト圧やバルブタイミング、空燃費などが変更を受けるとともに、インレットパイプ径の拡大やエキゾーストパイプ断面の拡大により吸入/排気抵抗を低減させ、これまでの最高出力357kW(485PS)/6400rpm、最大トルク588Nm(60.0kgm)/3200~5200rpmから390kW(530PS)/6400rpm、612Nm(62.5kgm)/3200~6000rpmにそれぞれ向上した。また、最高回転数は従来の7000rpmから7100rpmに高められ、これにより最高速は315km/hとなった。0-100km/h加速タイムは、11月に仙台ハイランドで計測予定としている。

 また、GT-Rがバージョンアップされる度に公表されるニュルブルクリンクサーキットのラップタイムは、天候不良のため公開タイム計測ができなかったと言う。しかし、非公式ながら一部ウェット路面でのタイムアタックでは、従来モデルを上まわる7分24秒というタイムを出すことに成功したと言う。

 その一方で、10・15モード燃費は8.5km/Lに向上するとともに、JC08モード燃費を8.6km/Lとしたほか、超低貴金属触媒などの採用により「平成17年基準排出ガス75%低減レベル」を達成。CO2排出量は295g/kmから279g/kmに抑えられた。

 エクステリアデザインでは、バンパーサイドに高輝度LEDデイライトを採用したほか、フロントグリルの開口面積を拡大してラジエーターへの流入空気量を増加させるとともに、バンパー両端に設けられる整流フィンを従来の1段から2段に増設することで、エンジンルーム内の空気をこれまで以上にスムーズにホイールハウスから吸い出すことに成功したと言う。こうした変更によって冷却性能を高めるとともに、Cd値は0.26(従来は0.27)に、フロントダウンフォースは約10%向上。あわせてブレーキ冷却性能も高まったとしている。

 足まわり関係も、多数の変更を受けた。

 サスペンションはエンジンの出力増加とダウンフォースの増大にあわせ、新構造のアルミ製フリーピストン仕様のショックアブソーバーを採用。フロントショックアブソーバーとスタビライザーのレバー比を変更したほか、フロントキャスター角を従来の5度35から6度に変更し、直進時の安定性、転舵時の応答性などを高めた。あわせてリアサスペンションのロールセンターの位置を下げてトー特性を変更し、旋回時の内輪グリップ力も高められたと言う。

 また、フロントブレーキローター径を従来のφ380からφ390に拡大することでストッピングパワーを高めたほか、フロントバンパーの2段整流フィンによる冷却効果の向上とあわせ、高温時の耐フェード性、ペダルコントロール性も一層高められている。

 タイヤは新コンパウンドを採用するダンロップ製の「SP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT」。トレッドおよびサイドウォールの剛性を高め、直進安定性を向上した。これに組み合わせられるホイールは、新デザインのレイズ製アルミ鍛造ホイールとなる。

 インテリアはドライカーボン製のセンタークラスターフィニッシャーを採用するとともに、スイッチ類をマッチブラックカラーに変更。また、コンソールやエアコン吹き出し口に採用されるクローム加飾部はブラックスモーク処理が施された。

11年モデルのGT-R(写真はGT-R Black edition)
フロントグリルの開口面積は拡大されラジエーターへの流入空気量を増加することに成功バンパーサイドに高輝度LEDデイライトを採用したほか、2段式の整流フィンが設けられたホイールハウスからエアを抜くアウトレットダクトがフロントフェンダーにつく
リアスポイラーカーボン製リアディフューザーは後方にさらに伸び、リアのダウンフォース量が約10%向上したリアのホイールハウス後方にもアウトレットダクトが装備される
V型6気筒DOHC 3.8リッターターボエンジン「VR38DETT」は従来の480PSから530PSとなったGT-R Pure editionのインテリア最高回転数は7100rpmに引き上げた
GR6型デュアルクラッチトランスミッションカーボンのクラスターフィニッシャーが与えられたGT-R Pure editionは本革とパールスエードのコンビネーションシートを標準装備するが、撮影車はメーカーオプションのSpec V用RECAROカーボンバケットシートを装着していた
GT-R Premium edition

 GT-R EGOISTは、インテリアのアッパーカラーとロアカラーの組み合わせにより20種類のカラーバリエーションを設定し、キルティングとステッチをあしらった専用本革シートを採用する。エクステリアではカーボン製リアスポイラー、チタンマフラー、専用エンブレム、GT-R EGOIST専用カラーのレイズ製鍛造ホイールなどを装備する。

GT-R EGOISTはステアリング中央のエンブレムに作業工程に1カ月かかると言う漆加飾の輪島蒔絵を採用するほか、ユーザーのドライビングポジションにあわせて専用設計されるBOSEオーディオなどを装備する。オーナーは組立を担当する栃木工場で購入したGT-R EGOISTが組み立てられていく様子を見学できる
ディーラーにはGT-R EGOIST用のシミュレーターが用意され、カラーコーディネートなどを自由にセレクトできる

 GT-R Club Track editionは、サーキット走行用のモデルで、NISMO大森ファクトリー、ノバ・エンジニアリング、ノルドリンクの3社のみでの販売となる。

 エンジンこそ標準モデルと同じだが、フロアアンダーコートや助手席/後席シートなどが剥がされ、車重は従来モデル(GT-R Pure edition)の1730kgから1660kgに軽量化される。装備面では専用車高調整式サスペンション、専用ECM(Engine Control Module)、専用TCM(Transmission Control Module)、専用ABS/VDCユニットなどを装備。フロントおよびリアデフクーラーを搭載し、冷却性能も高められる。インテリアでは4点式ロールケージや6点式シートベルト、はね上げ式のステアリング、カットオフスイッチなどを標準装備する。

 さらに、6点式ロールケージ(フロント2点追加)、カーボン製ドアトリム、レカロ製バケットシート、トランスミッションクーラーなど多数のオプションパーツも用意され、さらなるチューニングが可能となっている。

サーキットでのみ走行可能なGT-R Club Track editionは、サーキット専用部品を標準車で使用される部品に変更すればナンバー登録も可能だが、乗車定員は2名となる

 水野氏は、GT-Rの存在意義について「スーパーカーには社会的責任がある」と述べ、高いパフォーマンスを持つモデル(例えば俊敏なハンドリングや高いブレーキ性能など)は結果的にライフセーブ、すなわち人の安全をも確保すると言う。

 11年モデルの出力が530PSに向上したことについては、「狙った数値ではなく結果」とし、これは10・15モード測定よりも厳しい基準が設けられるJC08モードで10・15モード燃費を上まわる8.3km/L(10・15モードでは8.2km/L)を実現したことについては、CO2排出量の改善、排気ガスのクリーン化など、「いろいろと効率化を追求した結果」(水野氏)だと言う。

 発表会では、0-100km/h加速の実験時のスピードメーターをグラフ化したものを例に挙げ、「ここでは1速から2速に変速してもグラフに段がついていないことに注目してもらいたい。変にチューニングしたクルマは必ず段がつく」と述べ、エンジン出力を高めたにもかかわらず、低中速域の加速がなめらかかつ路面にトラクションがしっかりかかっていることを紹介した。なお、このときの0-100km/h加速は3.2秒(真夏の計測時)だったと言う。

11年モデルの性能変更点JC08モードで10・15モード燃費を上まわる8.3km/Lを実現
0-100km/h加速の実験時のスピードメーターをグラフ化ピンク色のラインがスピードメーターをグラフ化したもの。1速から2速に変速しても段がついていないことが分かる

 Cd値が0.26になったこと、フロントダウンフォース量が約10%向上したこと、ブレーキ冷却性能が高まったのは、同社の栃木工場に「F1の開発もできる」(水野氏)と言う移動地面板(ムービングベルト)付きの実車風洞を活用した結果と述べる。

 また、水野氏自ら設計にかかわったと言うブレーキについて、「空力性能と冷却効率が高まったことで、ブレーキを踏んでもすぐに冷える。レーシングカーで700度が限界と言われているのに、街中を走るGT-Rは800度以上にも耐える」と、その性能の高さをアピールする。また、ブレーキパッドとローターの摩耗性を向上したことで、オイル交換距離が延長できたと言う(サーキットテストで従来の1.3~1.5倍に長寿命化)。

 タイヤは、ダンロップとの共同開発によるGT-R専用規格。「SP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT」はサーキットで使用されることを前提に、最大6000kgの入力(大型トラック並み)に耐える高荷重性能が与えられたほか、急加速・急減速時のリムずれ防止のため特殊なビート構造とローレット構造を採用。また、パンクをしても4WDユニットを破損しないようランフラット構造とし、310km/hまで性能保証する。

 タイヤの安全性についても、実際にニュルブルクリンクサーキットで破損再現テストを行い、破損をしてもコースからガレージまで自走で帰ってくることができたと言う。なお、バースト時の車速は270km/hだったそうだ。このタイヤ安全性については、「タイヤメーカーのみならず、自動車メーカーが一体となって今後タイヤの安全性を提言していかなければならない項目だと思う」と語った。

 最後に、ニュルブルクリンクサーキットでのタイム公開にこだわる理由について、「ニュルで7分24秒を出したモデルは標準車であり、スペシャルモデルではない。このタイムを出したサスペンション、ブレーキ、タイヤなどのノウハウはすべてのGT-Rにフィードバックされている」とし、今後もイヤーモデルごとに進化した証としてニュルのタイムにこだわって行きたいと述べた。

11年モデルのアウトラインCd値は0.26になった
タイヤはダンロップとの共同開発によるGT-R専用規格の日産純正部品扱いタイヤの破損テストも行われた

(編集部:小林 隆)
2010年 10月 18日