第57回「マカオグランプリ」リポート
かつてない大混戦を制したのはモルタラ選手

決勝スタート直後のクラッシュ。今年のマカオグランプリはかつてないほど荒れたレースになった

2010年11月18日~21日開催



 今年で57回目を迎えた伝統の一戦、「マカオグランプリ」が11月18日~21日に開催された。マカオグランプリは、中国の南にあるマカオ特別行政区の市内、一般道路を閉鎖した1周約6㎞のギアサーキットと呼ばれるコースで行われる。

 グランプリの名が冠されるメインレースは、F3のレース。グランプリレースがF3となったのは1983年からで、この1983年のチャンピオンはアイルトン・セナ。その後、ミハエル・シューマッハなど多くのF1ドライバーがマカオグランプリを経験している。日本人でマカオグランプリのF3チャンピオンになったのは、2001年の佐藤琢磨と2008年の国本京佑の2名のみ。

 今年のマカオグランプリF3レースには、日本勢から国本雄資(全日本F3選手権Cクラスチャンピオン、国本京佑の実弟)、関口雄飛(全日本F3選手権Cクラス2位)、山内英輝(全日本F3選手権Cクラス6位)、佐藤公哉(全日本F3選手権Nクラス4位)、ラファエル鈴木(全日本F3選手権Cクラス3位・日系ブラジル人)の5名のドライバーが出場。世界中のF3上位入賞者と、激しい戦いを繰り広げることとなる。

日系ブラジル三世のラファエル鈴木。2007年にアジアンF3に出場。2008~2009シーズンはドイツF3、今年は全日本F3に参戦。マカオは初参戦今年から全日本F3のCクラスに参戦している関口雄飛。マカオには2005年にフォーミュラルノーで参戦。マカオF3は今年デビュー2009年~2010年に全日F3ナショナルクラスに参戦している佐藤公哉。マカオには2008年にフォーミュラBMWで参戦し3位表彰台に立っている
今回のマカオグランプリでは日本人最上位となった山内英輝。2008年に全日本F3ナショナルクラスに参戦、今年はCクラスに参戦している。マカオは今年がデビュー2009年から全日本F3Cクラスに参戦している国本雄資。今年の全日本F3チャンピオンでもある。マカオは2008年にフォーミュラBMWで初参戦。マカオF3は昨年参戦している

 日本のF3レースは金曜日から日曜日までの3日間のスケジュールで行われるが、マカオF3は木曜日からの4日間スケジュール。多くのドライバーは火曜日にはマカオに到着し、火曜日、水曜日は徒歩によるコースチェックなどを行う。何しろ、コースは一般道路。昨年走ったことがあるドライバーでも、どの路面がどうなっているかは実際に見てまわる以外に知る方法はないのだ。

山側のコースは左右がガードレールではなくむき出しの壁となっている部分も多く、軽いヒットでもマシンが大きな損傷を受けることも多いドライバーのコメントによれば、今年は路面がかなり荒れていたと言う。予想だにしないマシンの動きに翻弄されたドライバーも多いメルコヘアピンの立ち上がり。このコーナーはマシンが曲がるのがやっとで、追い越し禁止区間。サポートレースに出場したランボルギーニなどは、テールスライドさせないと曲がれない様子だった
メルコヘアピンの進入。立ち並ぶビルの間を走ることになるマカオグランプリでは、日差しの当たる部分と影となる部分があり、路面状況を把握するのも難しいドナマリアベントの手前にある右直角コーナー。上りとなるこのコーナーは死角も大きい。奥に見える赤白のゼブラウォールのコーナーも多重クラッシュの名所山側の道はかなり幅が狭い。海の向こうに小さく見える赤い屋根を持つ白い建物がピットにあるコントロールタワー

 今年のマカオグランプリを一言でまとめるなら、かつてないほどの荒れ模様。F3だけでなく、あらゆるレースが荒れに荒れ、赤旗中断やセーフティカーの導入は当たり前といった様相だった。

 走り始めとなった木曜日の練習走行では、ベルテッリ・ボタスがトップタイムを記録するも、予選1回目には昨年の優勝ドライバーであるエドワード・モルタラが逆転。日本勢は15位に関口、16位に山内、17位に国本、20位に鈴木、27位に佐藤という順。

 金曜日もフリー走行ではボタス、モルタラが1位、2位。土曜日の夕方には予選の2回目が行われる予定だったが、ほかのレースで何度も赤旗中断となり、予選2回目は土曜日の午前中に延期された。その予選2回目では再びモルタラがトップで、ボタスが2位。ポールポジションはモルタラに決まった。日本勢は鈴木が21位で最上位、関口23番手、山内26位、国本27位、佐藤28位となった。

 このグリッド順は、土曜日午後に行われる予選レースのためのもの。日曜日の決勝グリッドは土曜日の予選レースの結果で決まる。土曜日の予選レースも表彰式はあるが、どのドライバーもターゲットとしているのは日曜日の決勝レースだ。しかし、土曜日のレースでよい成績を残さないと決勝レースのグリッドでよい位置につけないのもまた事実。

予選レースのスタートをリスボアベントから。トップで行くモルタラは、イン側をおさえている。後方ではクラッシュが発生

 そして、その予選レースでみごとに勝ったのがモルタラだった。スタートの周回で3台のマシンがリタイアに追い込まれる厳しい展開のなか、モルタラは2位に2秒以上の差をつけてトップチェッカーを受けた。最大のライバルと思われたボタスは9秒647遅れの4位となった。日本勢は国本が17位、鈴木18位、関口20位、山内21位、佐藤25位。

 日曜日、いよいよ決勝レースだ。フォーメーションラップを終え、各マシンがグリッドについた。レッドシグナルがブラックアウトし全車がスタートしたかに見えたが、後方で大きなトラブルが発生。4台のマシンがスタートできずにコース上でクラッシュしている。さらに、マカオでもっともクラッシュが多発するリスボアベントでも、1台のマシンがストップ。セーフティカーが導入された。ホームストレート上では4台のマシンが止まっているため、セーフティカーは最終コーナーをパスしピットロードを走行。各マシンもこれに続き効率よく4台のマシンを排除していった。

 ポールポジションからスタートしたモルタラであったが、オープニングラップでチームメイトのダニエル・アブトとローレンス・バンスールに抜かれ順位を3位まで落としてしまう。しかし、この後の3周目にアブトがクラッシュし2度目のセーフティカーが入る。この時点でトップはバンスール、2位がモルタラとなる。モルタラはこのセーフティカーランで、バンスールとのギャップを詰め、リスタート後には猛烈にプッシュ。バンスールを抜きトップに躍り出る。その後も、予選タイム(2分11秒165)に迫る2分11秒480(11周目)をたたき出し、最終的にはバンスールに2秒以上の差をつけてトップチェッカーを受けた。

 モルタラは昨年に続き2回目の優勝。マカオグランプリのメインイベントがF3になってから、2度の優勝を記録したのはモルタラが初となる。

 一方、日本人ドライバーは山内の13位が最上位。国本16位、関口20位。佐藤は完走24台中24位だったが、ラップされることはなく同一周回でレースをフィニッシュしている。

日曜日の決勝レースのスタート。決勝は15周で争われた。この時点ではモルタラはトップをおさえている史上初となる2連勝にチームスタッフも歓喜の雄叫びをあげた。まるでF1のワールドチャンピオンを獲得したかのような大騒ぎ2度目のマカオF3優勝という快挙。何年か後にはギアレースでも優勝し、マカオの歴史にその名を刻んでほしい

(諸星陽一)
2010年 11月 24日