マシンを大幅アップグレードしたSUPER GT仕様の「レガシィB4」
2012年規定に合わせたマシンで一時は2位争いも


大幅にアップデートされたレガシィB4とドライバーの山野哲也選手(右)、佐々木孝太選手(左)

 4月30日、5月1日に開幕したSUPER GT。そして、一昨年2009シーズンの中盤よりGT300クラスに参戦し始めたのがスバル(富士重工業)のレガシィB4だ。スバルとしてはWRC(世界ラリー選手権)を撤退した後、初の本格的なモータースポーツ参戦であり、しかも従来のインプレッサではなくレガシィというところで、スバルファンのみならず大きな注目を集めている。

 当初は4WDでの参戦であったが、やはりまったくの新規マシンで、さらに4WDとなるとセッティングが暗中模索の状態となり、昨年は2WD(FR)へと仕様を変更して参戦。パワーよりもコーナリングに強いマシンのため、第5戦SUGOの結果に期待が持たれたがそのSUGOを逃し、苦手と思われた次戦鈴鹿でまさかの初優勝を手に入れている。

一昨年の中盤より、SUPER GTのGT300クラスに参戦したレガシィB4

 そして開幕した2011シーズン。2WD化によってマシンの方向性も見え、次なる躍進と思いきや、なんとチームはレガシィを大幅に改変してきた。外観上は大きな変更はなさそうに見えるが、実は変わっていないのはボディーカウルくらいで、その内側のフレームは全く新規に作り直されている。

 具体的には、従来のフレームはカーボン補強フレームと呼ばれるものだったが、これをパイプフレームに変更した。これに伴いサスペンションの取り付け位置なども一新され、エンジンやトランスアクスルといった基本的な配置は換わらないものの、インタークーラーやエアクリーナーなどのレイアウトを変更している。

 これは、2012年のレギュレーションにいち早く適合させたもの。2012年の規定では、同じGT300クラスを走るFIA GTとの性能差を減らすため、JAF GTは車高を10mmアップし、リストリクターを1/2サイズ拡大することになっている。これはJAF GTと比べFIA GTのほうがパワーに優れ、コーナリング性能に劣るためで、JAF GTの車高を上げることでコーナリング性能を落とし、リストリクター径を拡大することでパワーアップさせるのが狙いだ。ボンネット形状やウイング形状もレギュレーションが変更されたが、それらもすべて準拠したものとしている。

 パイプフレームにすると剛性面では不利になるとのことだが、ボディー全体が均一によじれるようにすることで、過度な特性変化がないようにしたと監督。さらにサスペンションなども、問題となっていた部分を改善するような形にしていると言う。実際にシェイクダウンの際には山野選手が「クルマがコンパクトになったような印象」だと語っていた。

 さらにインタークーラーと言ったエンジン補機類に変更が加えられているのも特徴だ。従来カーボンでフタをされていたグリル部にダクトが開き、そこがエアクリーナーのダクトとなった。さらにインタークーラーは小型化されている。これは従来はインタークーラーが大きすぎたためで、さらにエアクリーナーの形状を変更することで、ラムエア効果を期待しているとのこと。リストリクターの拡大と併せ、今回パワーもアップした形だ。

外観上は2010モデルと大きく変わっては見えないボンネットのダクト形状なども変わらないリアウイングは2012レギュレーションに合わせて変更されている
エンジンルームは、インタークーラーとエアクリーナーのレイアウト変更が目を引く(写真左、中が2011年シーズン、写真右が2010年シーズン)
カーボンでできたエアクリーナー。その入り口はグリルに繋がる以前はカーボンでフタがされていたグリルにエアインテークができたエンジンルーム左右に伸びるダクトは車内へ繋がる。決勝ではデフロスターとして使った
フレームの形状やサスペンションの取り付け方、スタビライザーの位置なども変更されたこれは昨年の仕様
トランスアクスルやリアサスペンション周辺。写真右は去年のものだが、こちらも大きく変更されているのが分かるサスペンションアームなども新規に作られている
ドア後部にダクトが開いたのは、外観での数少ない変更点の1つダクトはリアブレーキの冷却に使われるブレーキ自体は前後とも昨年と変更ない
コクピットは、シートやステアリングなどに変更は見られないが、以前はコクピットがカーボンでできた箱のような形だったのに対し、パイプと鉄板を繋いだような形になっている。これが一番の変更点だ

 いざレース。スピード重視の富士ではやはりパワーに勝るFIA GT勢が予選上位を独占。JAF GTの中では3番手となり決勝は10番手からのスタートとなった。

 そして雨の決勝。4WDではなくなったレガシィだったが、アップデートされたマシンと雨が得意な山野選手のドライビングと相まって、中盤では2位争いに加わるまでにジャンプアップした。しかし途中でワイパーが動かなくなり、さらに佐々木選手に交代後、今度はおそらく充電系のトラブルでバッテリー残量が低下。「使わない機器のスイッチを切りながら走った」(佐々木)と言うが、残り10周を残してストップしてしまった。

予選ではフェラーリはBMW、ポルシェといったFIA GT勢に負けたが、決勝ではどんどん順位を上げていった
2位争いを繰り広げたが、降りしきる雨の中、ワイパーが動かなくなるトラブルに。しかも視界を塞ぐ位置でワイパーが止まってしまった
佐々木選手にバトンを渡すと、今度は充電系のトラブルでバッテリー残量が低下。なんとかゴールまで持たせようと努力したものの、残り10周でストール。その5周後には赤旗中断でレース終了となった。その5周が悔やまれる

 しかし今回の結果でチームは確かな手応えを感じていたようだ。レース後の取材で山野選手は新マシンについて、「どこか1つだけではなくて、コーナリングもパワーも全体的によくなった」と述べていた。しかし一方でまだまだテストが不十分なことを挙げ、今後さらにセッティングを煮詰める必要はあるとした。さらに佐々木選手の意見で、決勝直前にマシンセッティングを変更したとのこと。これが吉と出るか凶と出るかは賭けだったが、よい方向に出たので、これもまた次に向けての方向性が見えたと監督。

 次戦岡山については、やはりパワーが上がってもコーナリング重視のマシンのため、選手、監督ともにあまり自信なさげな表情。第3戦のセパン辺りからは優勝争いに絡んでいきたいと言う。また、今後はそういった苦手なコースをなくし、トップチームと争っていくのが目標だと加えた。

レース終了後のドライバー2人本島伸次監督。「最初は予選突破もままならなかったのに」と当初を振り返り、マシンの進化に手応えを感じているようだ

 最終的にはマシントラブルに見舞われてしまったものの、確実に速さの片鱗を見せたニューレガシィ。多様なクルマが争う今シーズンのGT300クラスだが、そんな中でもレガシィの活躍に期待をせずにはいられないだろう。

(瀬戸 学)
2011年 5月 11日