日産自動車、2010年度は過去最高の販売台数に
10月には全工場でのフル生産体制を目指す

2010年度連結業績について発表するカルロス・ゴーン社長兼最高経営責任者

2011年5月12日発表



 日産自動車株式会社は5月12日、2010年度(2010年4月~2011年3月)連結業績を発表した。

 連結売上高は前年比16.7%増の8兆7730億円、営業利益は72.5%増の5375億円、経常利益は前年比158.9%増の5378億円、当期純利益は653.1%増の3192億円の増収増益になった。

 東日本大震災の業績への影響は、特別損失として396億円だった。内訳は、操業休止期間中の固定費で198億円、被災した在庫の廃棄損として54億円、被災した固定資産の廃棄および修繕費で72億円、固定不能債権およびお客様支援で48億円、その他で24億円となっている。

 2011年度の全世界の販売台数は、前年比19.1%増の418万5000台となり、同社においては過去最高の年間販売台数となった。

 カルロス・ゴーン社長兼最高経営責任者は、「2010年度は過去最高の販売台数と成長を実現した。金融危機から立ち直り、健全なバランスシートと経験豊かなマネジメント、確かな土台を足場に成長軌道に戻る」と宣言。「3月11日に発生した大震災は大きな影響をおよぼしたが、10月中には国内外のすべての工場でフル生産体制を再開できる」とした。

 なお、自動車事業におけるフリーキャッシュフローは4593億円。自動車事業実質有利子負債を完済し、年度末には2933億円のキャッシュポジションになった。

2010年度の財務実績
東日本大震災の業績への影響は、特別損失として396億円を計上した全世界の販売台数は、前年比19.1%増の418万5000台で過去最高の年間販売台数を記録した

日本での販売台数は年間60万台に
 日本における売上高は前年比17.1%増の4兆4239億円、営業利益は前年の43億円の赤字から764億円の黒字に転換した。

 日本市場向けの販売台数は前年比4.7%減の60万台。ジュークやセレナ、エルグランドなどの新型車が牽引したことにより市場シェアは0.1%増の13.0%となった。また第4四半期は市場全体が23.7%減となる中で、市場占有率は0.3%増の14.9%になったと言う。

 北米における売上高は前年比16.9%増の3兆2685億円、営業利益は8.2%増の2256億円。北米市場の販売台数は、16.6%増の124万5000台。第4四半期の米国での販売台数は25.0%増の28万5400台となり、インフィニティは17.5%増の2万7800台となった。カナダでの市場シェアは5.3%、メキシコの市場シェアは23.1%になった。

 また、欧米における売上高は前年比22.1%増の1兆4217億円、営業利益は331.0%増の364億円。欧州市場での販売台数は、19.3%増の60万7000台となり、そのうち、西欧の販売台数は前年比10.6%増の46万9400台。ロシアの販売台数は84.9%増の10万2500台となった。

 アジアにおける売上高は前年比51.3%増の1兆9084億円、営業利益は127.3%増の1711億円。販売台数は36.2%増の131万1000台となった。そのうち、重点市場とする中国市場では販売台数が前年比35.5%増の102万3600台となり、第4四半期の販売台数はシルフィ、ティアナ、キャシュカイの好調により、前年同期比25.5%増の26万8600台に達している。

 その他地域における販売台数は、前年比28.2%増の70万9000台となった。そのうち、中南米の販売台数は65.7%増の16万9400台、タイの販売台数は87.6%増の6万4900台、インドネシアの販売台数は65.4%増の4万2600台、中東の販売台数は0.5%増の18万台となった。

日本、北米、その他市場に向け10車種を新規投入した。そのうち西欧の販売台数は前年比10.6%増の46万9400台だった欧州市場での販売台数は19.3%増の60万7000台。中国市場では販売台数が前年比35.5%増の102万3600台で、第4四半期の販売台数はシルフィ、ティアナ、キャシュカイの好調により前年同期比25.5%増の26万8600台に達した
ゴーン社長は電気自動車分野において先行していることを強調した

電気自動車の投入成果に自信
 ゴーン社長は、「2010年度は、手ごろな価格のゼロ・エミッション車の発売と、中国における継続的な拡大に取り組んだ」とし、電気自動車への取り組みについては、「ゼロ・エミッション車第1号となるリーフの投入をコミットし、米国、日本、欧州で手ごろな価格の電気自動車を発売できた。現在、5000台以上のリーフが街中を走っており、一から作り上げた100%の電気自動車ではもっとも台数が多く、他社の電気専用車の倍以上の実績となっている。他社が独自の量販電気自動車を投入するまでに、日産は何年分もの経験を積むことになる。この差を今後とも維持していく」と強気の姿勢を示した。

 また、米国ではリーフのWebサイトに34万5000人が登録し、2万人以上から予約申し込みがあることを示し、「2014年までには8車種の電気自動車を投入する。2016年までは日産とルノーの電気自動車のラインアップは限定的な競争環境の中で販売される。また、2010年度には、英国サンダーランド、米国スマーナ、ポルトガルのカシアでバッテリー工場の建設に着手。2015年度までに50万基のバッテリー生産能力を有することになる」と述べた。

 日本における福島第一原発の事故を背景にした電気に対する国民の意識変化が、電気自動車におよぼす影響については、「電気自動車へのイメージが下がるとは考えていない。電力を作る方法は原子力以外にいくつもある。天然ガス、水力、火力のほか、太陽光などの自然エネルギーもある。発電ソースを変えればよいだろう。また、被災地にもリーフを提供することで喜ばれている。電気自動車には蓄電するという技術が搭載されており、停電した家庭用の電源として利用できるのも電気自動車のメリット。また、もっとも安い時間帯で自動的に充電する経済合理性もある。むしろ、利便性が高いものとしての認知が高まるだろう」とした。

中国市場は日産にとって最大の市場に
 一方、中国市場での成長については、中国・東風汽車との協業成果に触れながら、「2003年における日産の販売台数は9万4000台。これが現在では100万台を超える販売台数となり、グローバル販売台数の4分の1を占めている。日産にとって最大の市場になっている」とし、「需要の拡大に対応するべく、北京にデザインスタジオを新設し、2012年度には年間120万台の生産規模を目指す」と語った。

 さらに、2010年度はリーフをはじめとして、10車種の新型車を投入したことを示す一方、ミニバンのNV200がニューヨーク市のタクシーに採用されたことを紹介。「ニューヨークのタクシーにNV200が選定されたことは大きな喜びである。選定の一助になったのは、燃費がよい内燃機関車という点だけではなく、電気自動車としても提供できるという点。日産のブランド力向上、販売拡大につながる」と語った。

2011年度業績見通しは6月に公表
 なお、2011年度の業績見通しについては、「震災の復旧状況は刻一刻と変化しており、状況に応じて対策を見直している。現段階では状況の把握に努めており、業績見通しを発表するのは時期尚早と考えた。6月に開催する定時株主総会までには明確する」として、現時点での公表は避けた。

 ゴーン社長は、「2011年度は、前年度に比べて販売台数は伸びると想定している。ただ、シェアが伸びるかどうかは別の問題である。また、利益についてはまだ明確にできないが、戦っていく姿勢を持っている」などと語っている。

もっとも被害の大きかったいわき工場も5月中にはすべての工程を再開する予定で、10月を目標に国内外のすべての工場でフル生産を再開させたいとゴーン社長は言う

日本での100万台生産体制を維持
 一方で、東日本大震災の被害における復旧状況については、「震災の被害がもっとも大きかったのは、いわき工場と栃木工場。COOの志賀の指揮のもと、全社災害対策本部を発足し、各拠点の復旧活動に取り組んでいる。4月11日には、部品の供給に応じて車両の生産を開始し、いわき工場のVQエンジン組立ラインは4月18日から操業を再開し、残る工程も5月中には再稼働できる。3月11日以降からの復興に対する社員の取り組み、サプライヤーとの連携には、私自身、感銘を受けている。10月には国内外のすべての工場で、フル生産を再開したい」と語った。

 また、震災によって3つの課題があるとし、「1つめは寸断されたサプライ・チェーン。ここでは、複数の重要なサプライヤーに対して支援を行い、同時に部品やその構成部品の代替品確保を行っている。2つめは夏場に想定される供給を上回る電力需要。全社的な節電とともに、夜間操業や自家発電の活用を検討し、休日振り替えも検討していく。そして、3つめには福島原発事故による放射能汚染の風評被害。3月から日本製の商品の放射線量測定を実施し、輸出車両の安全性に対して継続的に確認している」と語った。

 加えて、「今回の震災は、グローバル生産と輸出拠点としての日本の将来に疑問符を投げかけたが、はっきりと申し上げたいのは、日産は国内での生産100万台体制を維持することを改めてお約束する。日産は成長を遂げており、国内の生産能力が必要。またホームマーケットである日本のモノづくり力の維持、向上を重視している」としている。

震災のあった3月11日に全社災害対策本部を立ち上げた3月11日のいわき工場の様子。エアダクトの倒壊、エンジン落下、設備の損傷など深刻な被害があった放射能汚染の風評被害を抑えるため、3月から放射線量測定を実施している

(大河原克行)
2011年 5月 12日