自工会定例会見、「電力の安定供給は国民の議論を経て」
TPP参加と取得税・重量税廃止を要望

志賀会長

2011年7月12日開催



 日本自動車工業会が7月12日に開催した定例会見において、同会の志賀俊之会長は、電力の安定供給を要望するとともに、その方針は国民の議論で導きだされるべきとの考えを示した。

増産と電力不足への対応
 志賀会長は会員各社の生産正常化のめどが付き、「夏から徐々に生産量が上がってきて、ほとんど制約がなくなる10月以降、大増産に入っていく。これが日本の復興に大きな力になる」「上期は(震災の影響で生産が)落ちているので、下期でこれを埋めないとトータルでGDPが下がる」と、増産に転じることを示唆。

 また志賀会長がCOOを務める日産自動車を例に、「木金休業・土日出勤」やピーク電力の時間帯を外したシフト体制、消費電力をスマートメーターでリアルタイムで可視化したことなどにより、目標の15%を上回る節電を実現していることをアピール。増産のために木金に休日出勤となっても「全ての工場が動くわけではなく、どこかの工場のラインが1つ、あるいは部品工場が動くということ」なので節電効果は十分にあるとした。

15%の削減目標を達成した上で、木金はさらに56~62%を削減。月火水も20%前後の削減を積み増している今年の7月5日と気温が同程度だった昨年の7月27日の、追浜工場の消費電力を比較。ピーク時間帯を外したシフト編成などにより、日中の消費電力を大幅に削減している

 増産に転じる一方で、全国の原子力発電所の再稼働の見通しがつかない中、夏以降も電力不足が続くことが懸念される。志賀会長も「産業界の立場で申し上げると間違いなく、安定供給の問題、(自家発電や再生可能エネルギーなどの対策による)コストの問題は当然ある」としつつ、「“原発を止めてもらっちゃ困る”という私の発言を期待しておられるかもしれないが、国民の皆さんが不安をぬぐい去れない状態の中、我々も日本の中で生活していて、産業界も同じ思いだろうと思う。最も日本にとってよいこと、国民にとってよいこと、産業界にとってよいことを、建設的に議論していくのが本来のあり方。どれくらいのコストがかかって、どれくらいの空洞化が起こるか、それによって失業率が上がって、それに対してどうなるか、それについて建設的に議論がなされることが、批判をすることは容易だと思うが、産業界の姿としては本来の姿だと思っている」と、国民の議論によって、原発再開や再生可能エネルギー利用などを含めたエネルギー供給問題が決まるのが筋との見方を示した。

 さらに、「我々としては今の状態の中で仮に再稼働できないのであれば、どういう対応ができるのかということを、今回の夏の節電と同様に、冬場のこと、あるいは来年の夏のことも視野に入れて、まずは国民の納得で方向がつけられ、その与えられた状況の中で自動車産業として精一杯なにができるかということを議論していくのが筋と考えているし、私自身も社内でそのような指示をしている」と、自動車業界は国民による議論の結果に則した対応をすべきとの見解を示した。

 また再生可能エネルギーについても「どういう形になるのか分からないが、1つの方向性として、長期的な時間軸でうまくマイルストーンをのせて、再生可能エネルギーにシフトしていくのは、CO2やエネルギーのセキュリティの問題としても、日本にとって決して悪い話ではない」と肯定的に捉えつつ、「仮にそういうシナリオができたとき、どのくらいコストに影響するのか。自工会として960万台を日本で生産し、約12兆円強の輸出を行なっているわけで、こういう日本を支えてきた産業が、どういう影響を受けるのか。例えば買取制度で、50億円くらいのコストであれば業界としての努力で自然エネルギーの買取制度をサポートしていこうということになるが」と、さまざまな影響の勘案と、やはり国民的な議論が必要と述べた。

貿易協定で韓国車と同じ土俵に
 会見冒頭のあいさつでは、6月に発表された経産省の「日本経済の新たな成長の実現を考える自動車戦略研究会」による中間取りまとめを受け、国際貿易協定による競争力強化と、自動車関連税の簡素化による国内需要拡大を訴えた。

 国際貿易協定については、韓国と欧州連合(EU)の自由貿易協定が7月1日に発効し、韓国からの部品の関税が撤廃され、完成車の関税も3~5年で撤廃されることを提示。「韓国は昨今実力を上げ、世界各地域においてシェアを伸ばしている。それに加え、FTAにより韓国車のみ関税が撤廃されれば、日本車にとって競争環境が不利になると言わざるをえない」とし、韓国車と“同じ土俵”で戦うために、EUとの経済統合協定の本格交渉と早期締結を要請。

 「そもそも昨今、韓国車は欧州で大変な伸びを示している。韓国メーカーの努力による実力アップが当然ベースにあって、加えてウォン安があって、そこにこれからFTAが始まって、我々は10%のハンデを乗用車が背負っているが、彼らはそれがなくなる。欧州市場は重要で、現地生産も相当やっているのですべてが輸出できなくなるわけではないが、ライアンアップすべてが現地生産というわけにはなかなかいかない。そういう意味ではますます苦しい戦いになる。性能など、自動車メーカーとしての本質的な部分で競争するならどこが相手であろうと真剣に競争するが、そうではないところでハンデを背負っている。日本の工場のみなさんが必死にがんばってくれているだけに、悔しい思いがぬぐい去れない」と述べた。

韓国が自由貿易協定を結んでいる市場は日本よりはるかに大きい韓国メーカーは世界でシェアを伸ばしている

 また環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が、関税撤廃の議論だけでなく「貿易と投資の自由化に向けての世界のルールづくり」の場となりつつあることをあげ、「こうしたルールは日本の産業界にとっても重要な課題であり、ルールづくりの過程で参加していくことが必要。日本政府におかれてはTPPへの早期の参加をお願いしたい」とした。

 一方国内では、1990年から自動車市場が縮小し続けており、このままでは国内での自動車生産が維持できないと示唆。この国内市場低迷の一因を「自動車ユーザーは、取得、保有、走行の各段階において合計9種類で、約8兆円もの税金が課されており、とくに取得、保有にかかる税負担は欧米諸国と比較して2.4~49倍であり、国際的に見ても極めて過重な税負担となっている」と税負担にあると述べた。

 このため、「消費税との二重課税であり、かつ道路特定財源の一般財源化により課税根拠を喪失している自動車取得税」と「自動車特定財源の一般財源化により課税根拠を喪失した自動車重量税」の廃止を訴えた。

国内市場の縮小が進めば国内生産の維持が困難に。その一因は重い税負担日本の自動車ユーザーの税負担は過重

(編集部:田中真一郎)
2011年 7月 12日