帝人のCFRPは「数百万円クラスのクルマ」の「一番大きな構造」に使用
車両の市場投入は2015年頃か。帝人の会見より

TVカンファレンスで米国から質問に答えた帝人の亀井 専務執行役員

2011年12月9日



 帝人と米ゼネラル・モーターズ(GM)は9日、GMが全世界で展開する量産車向けに、CFRP(炭素繊維複合材料)コンポジット製品を共同開発すると発表した。同日、帝人は都内でTVカンファレンスを開催。帝人の亀井範雄 専務執行役員が米国から、この発表について報道関係者からの質問に答えた。

「年間数万台以上生産される数百万円クラスの量産車」にCFRPを使用
 この共同開発のベースになるのは、帝人が開発した熱可塑性樹脂を用いたCFRPコンポジットの量産技術。「熱可塑性樹脂を用いたCFRPコンポジット」とは、亀井氏によれば「カーボンファイバーで補強されたコンポジット」ということになる。

 「鉄の10倍の強度と4分の1の軽さ」と発表にあるように、CFRPコンポジットは軽量かつ堅牢なため、環境・燃費・安全対策に最適な素材とされているが、生産性に問題があり、量産車への適用は難しかった。しかし帝人は、1分以内にCFRPコンポジットを成形する量産技術を開発、これがGMに採用された。

 発表どおりに、GMが全世界で展開する乗用車、トラック、クロスオーバーなどの量産車に使用するということ以外、具体的な車種や投入時期などは明らかにされなかったが、帝人としては「少なくとも年間に数万台以上が生産・販売される、数百万円クラスのクルマ」に使用されると認識していると言う。

CFRPを使うのは「自動車の基本的な一番大きな構造部分」
 開発されたCFRPコンポジットをクルマのどの部分に使うかについては「英語で言うと“structural component”、自動車の基本的な一番大きな構造部分に用いていく」とのことで、モノコックやフレームといった骨格部分へ適用されると思われる。

 また、「並行してドアなどそれ以外のパーツにも当然応用されていくと理解している」としており、大規模にCFRPを使用した軽量化が計画されているようだ。

鉄並みの価格にはならないが、車両トータル価格は下がる可能性も
 鉄をCFRPコンポジットに置き換える部分が大きければ大きいほど、軽量化の効果は高いが、生産性と並んでカーボン製品の問題とされているのが、「鉄の10倍」と言われる価格。量産により現在よりも下がることは期待されているものの、亀井氏は「kgあたりの単価は、カーボンファイバーの価格が鉄に相当に近寄るということにはならないだろう」と言う。

 「ただ」と亀井氏は続けた。「(CFRP)コンポジットの構造体を作ることで、より広くクルマの生産自体が省力化されるだろう。今、クルマは約2万~3万点の膨大な部品が必要になっているが、可能な限りそういうプロセス、部品の省力化を含めた、全体のクルマのコストダウンにも通じるようなものづくりを図っていきたい」。

 CFRPコンポジットは軽量かつ堅牢なため、鉄よりも部品を大きくして、部品点数を減らすことが可能だ。これにより生産コストを下げ、CFRPコンポジット単体での価格の高さを相殺して、車両価格を下げることが目論まれているようだ。

 CFRPを使ったクルマのほうが、現在の鉄のクルマよりも安くなると考えているのか? と亀井氏に聞いてみたところ「そこまでのコスト試算を自動車メーカーから明確に現時点で提示されているわけではないので、残念ながらその質問には今時点ではお答えしようがない。しかし、このような取り組みを世界的なメーカーがやることは、そのバックグラウンドに、そういうことが可能になるという技術判断があるものと、我々も理解している」と答えた。

課題は信頼性
 一方で、大きな部品や基本骨格は、後からの交換や補修が困難な部分であり、また安全を司る構造体でもあることから、高い信頼性が要求される。

 亀井氏が「このような抜本的に新しい基材(CFRP)が、よりクルマの構造部材まで使用されるということになる限りは、安全性、信頼性、多くのことにおいてより詰めた確認、評価が必要になってくるだろう。今共同開発の中にもその中の項目が含まれているとご理解いただいていい」と言うように、コストダウンだけでなく、クルマでの使用に耐えるだけの信頼性、安全性の確保も課題となっている。

製品の発売は2015年頃?
 このCFRPコンポジットを使用したGM車の発売時期は「まだ開示するステージではない」としたが、「一般的な話」と前置きして、「この10年間で、日本、米国、欧州できわめて厳しいCO2排出規制、燃費規制が敷かれようとしている」とし、「2015年近辺には各国、日本だけでなく米国、欧州どこでも施行される中で、より抜本的な軽量化をされたクルマが具体的に市場に出されると想定しており、その目標において開発を進めている」と述べたことから、2015年頃には製品として市場に投入されることが予想される。

 亀井氏は「おそらくGMだけでなく、各社が規制への対応として、いろいろな角度から、より効率的なクルマの設計・開発に取り組んでいることだろうと認識している」と言うとおり、帝人は日本の御殿場をベースに自動車用のCFRPコンポジットの研究・開発を数年来進めており、開示はされていないものの、日本の複数メーカーとも具体的な取り組みが継続されていると言う。

(編集部:田中真一郎)
2011年 12月 9日