【年末年始特別企画】本田雅一の第3のエコカー「イース」実走行燃費テスト(後編)
36km/L台にも突入!? 10・15モード燃費をも上回る驚きの低燃費


PC WatchやAV Watchでおなじみで、かつ軽自動車のエンジンを使ったレースにも参戦している本田雅一氏によるダイハツ「ミラ イース」レビュー。後編では、京都の街中でイースと普通のミラの乗り味を比較。そして帰路ではイースのエコランに挑戦する。

 一般道や箱根越え、高速道路など、東京~京都間約500kmで普通のミラと燃費対決した初日。その模様は前編を参照頂きたいが、後編では続く2日目。予想以上の好燃費で気分が楽になったためか、早朝5時半の起床にもスッキリ。軽自動車で500kmの旅なんて、きっと疲れるに違いない。きっと無理してるんだよね? と思うなかれ。取材、撮影、執筆で腰痛持ちの僕の腰をもってしても、この長旅でも充分快適だった。10年ぐらい前までは、東京から関西、長野、新潟と長距離ドライブを頻繁にしていたが、当時乗っていた普通乗用車に比べて遜色ない印象だ。

 なんてことを前日にも感じていたのだけど、一晩眠って自分の体でその疲れを感じたとき、改めてドライブのラクさを感じたのだ。もちろん、徹底して軽量化された車体、機能的ながら簡素に徹した内装、シャシー構造も細かく簡素な設計とすることで低コストになるよう工夫されたミラ イース(以下イース)は、普通のミラ(以下ミラ)に比べると“走り”の質は落ちるのかもしれない。そもそもロングドライブ向けの車種でもないしね。

 でも、ロングドライブでも意外に疲れない印象には、何かきっと理由があるはずだ。そんなことを考えながら、初日と同じくダイハツ広報の谷村氏とともに、京都の名所巡りに出かけた。そしてその後のクライマックスは、新名神から東名高速へとつないでの燃費チャレンジ。軽自動車が不得手な高速道路というステージでどんな数字を挙げることができたのだろうか?

少しカタめの足は、意外にワインディングで好印象?
 今回の京都へのトリップ。もちろん、主目的はイースの燃費を確認することなのだけど、ほかにも普段の使い勝手がわるいようでは困る。ということで、ミラとイースを京都の街中で乗り比べてみることにした。

 軽自動車を長時間運転するのは本当に久々だけど、ミラに乗っているとその間の進化をダイレクトに感じることができる。ずっと軽自動車を乗り継いできたり、あまり走りについて注意してこなかったりした方は、さほど意識していないかもしれない。しかし、ミラの乗り味は実に“乗用車的”。

 エンジンの設計が洗練された、シャシー構造が工夫された、あるいは遮音材やタイヤが改良された、といったひとつひとつの改善が積み重なった結果だろうか。いかにも軽自動車的な軽薄さが抜けている。ここまで改良するには、そうとうの努力の積み重ねがあったに違いない。ドアを閉めるときに、“バタン!”ではなく“ボスッ”という音がするなんて、昔は想像もしなかったからね。

ミラ イースと普通のミラ。似ているようだがその乗り味は結構違うほんのわずかだが全高が低いイース。前方投影面積の縮小は空気抵抗低減に繋がる見た目にはほとんど違いがないが、イースの方がエンジンは2世代新しい
見た目ではあまりエコカー然とした主張が少ないイースエッジの立ったリアエンドのフィニッシュは空力性能向上のため
イースのために開発したというタイヤは、指定空気圧が260kPaとかなり高めアイドリングストップや、燃費状況によって色が変わるエコアシスト機能はミラにはない機能車内の広さはご覧のとおり。大人4人が乗っても余裕の広さ。そしてドアの開く角度もスゴイ!

 足のチューニングもしなやかで、微小振幅をうまく吸収しながら、ゆったりとした乗り味を、軽自動車の小さなフォーマットの中で精一杯に演出しようとしている。ということで、今回のテーマ車種ではないミラへの好印象を深めた。

 ではイースは?というと、ミラとはかなり違う設定。シャシーやサスペンションの基本的な構成は同じだが、谷村氏によると細かなサスペンションチューニングは異なっており、より少ない遮音材で効果的に騒音対策するため、入れる場所も変えていて、総合的な印象も違うと言う。

 石畳が敷かれた祇園、町屋が立ち並ぶ中を走り抜けてみると、確かにかなり乗り味が違う。イースはややバネレートが高く、石畳を踏みしめるロードノイズも周波数がやや高い印象。これは遮音材の入っている場所の違いだろうか。フラットな路面での差は大きくないが、石畳のようなやや特殊な路面条件では、ミラの足が持つしなやかさが欲しくなる。

祇園の街並みにも自然と溶け込むイース小さなボディーは狭い路地もお手の物
だが、石畳の上ではノイズや足の硬さが気になる嵐山の竹林。途中の細い路地も、取り回しの良さで気軽に運転できた

 軽量化と低価格化、それに低燃費化。とかく“低価格化”という部分は見逃しがちだが、いくら低燃費でも車両価格が上がってしまえば、コストを吸収するまでは“お得”にはならない。そんな中で一般舗装路での乗り心地を犠牲にせず、どう足回りをまとめるかに腐心したのがイースなのかな? とそんなことを考えながらドライブした。

 こうした変化を“クルマとしての質が上がってきたのに、これじゃ退化じゃないの?”と言ってしまうのは簡単だけど、燃費や価格を最重要視した従来とは別の設定条件、進化のベクトルで作った“オルタナティブな選択肢”としてイースを用意したのというのは、それはそれで納得できるものだと思う。

 前編で“イノベーション”について考えてみたいと書いたが、軽自動車を取り巻く状況が変化する中で、これまでとは違うクルマを模索したという意味で、イースのやり方もまたイノベーションのひとつなんだろうと感じた次第だ。

 さて祇園の路地裏から嵐山の竹林まで、軽自動車ならではの軽快さで一回りしたあと、嵐山パークウェイで峠道を抜けてみた。いや、もちろんミラもイースも、峠の走りを楽しむクルマじゃないよね。でも、ハンドリングを感じるには絶好の機会だ。

 街中でしなやかな足を披露したミラは、短いリズムでの切り返しは少し不得手。ロールが大きく、ハンドルを切り返したときの揺り戻しもゆったり。ワインディングのリズムと車体のロールのリズムが合わない。

 ところが、やや固めのバネレートのおかげか、イースはリズミカルに気持ちよく走ることができる。ややダンピングが弱めでバネの強さが勝ってる印象があるから、あまり飛ばすと車体が跳ね始めるかもしれないが、イースで峠を攻めたりはしないよね?法定速度を守りながら、余裕のある安全で運転している限り、僕はイースの走りの方がいいと思った。

ワインディングを走ると、イースの軽快感がマッチする

 ロードノイズの周波数がやや高めで大きい印象だが、そのあたりは街乗り専用車と考えたときには気にならない。とはいえ、イースの燃費を実現しつつ、もっと走りの質感を高めたクルマは出ないの?と思うよね。

 その点について、谷村氏は“イーステクノロジ=上質さを諦める”ではなく、ここをスタート地点に上級グレードへも同様のコンセプトを展開。上質さと燃費の両立も目指すことを強調していた。

 でも、80万円を切るグレードでこれだけ走ってくれるんだから、僕はかなり満足度高いなぁ。テクノロジーの使い方は様々。ひたすら低燃費と価格に特化したクルマがあってもいいと思う。中途半端ではなく、初心貫徹で徹底しているところはイイと思うなぁ。

 実用性を落としつつ、2ドアのコンパクトな車体としたコンセプトカーとしてのイースから、その志は後退してしまったなんて声も聞いたけれど、軽自動車の地方コミュニティの中での役割を考えると、今の形のイースは正解なんだと思う。もちろん、だからこそ現に売れているヒット商品になっているんだろうね。

 それにもうひとつ、峠で走りやすいと感じたところがある。それはCVTのセッティングだ。ミラのCVTは上り、コーナー立ち上がりでアクセルを踏み込むと、減速比が急に大きくなりすぎてエンジン回転上昇が先行、トルク感をあまり感じない時間が長かった。

 これに対してイースのCVTは、同じような場面でも、減速比が急激に大きくならず、トルクがしっかり掛かる回転域でキッチリ前に進んでる感を感じつつドライブできた。

 実際にはミラの方が駆動力がかかっているのかもしれないが、感覚としてはイースの方がしっかりとトラクションを感じることができる。このあたりも、リズミカルに運転できた原因かもしれない。

燃費チャレンジ500km! 見事、カタログ燃費超えを達成?
 さて、両車を乗り比べながら撮影をこなしていると、冷たく強い風と薄暗い曇天に見舞われた2日目のドライブも、徐々に天候が好転。嵐山での休憩を兼ねたランチタイムを経て、さっそく京都南IC(インターチェンジ)へ。荷物をすべてミラに移した上で、高速道路直前のガソリンスタンドで満タンに。

 帰路は余分な荷物を積まず、ドライバーが身ひとつで高速道路をエコランする。といっても、もちろん極端に低い速度では交通の流れを阻害してしまう。新名神から東名高速を通る経路で、まわりの速度にも合わせながらのエコラン。僕とダイハツ・谷村氏、それに編集瀬戸とカメラマン安田の4人で交代しながら東京・世田谷のゴールを目指す。

 途中は紀伊半島や箱根を越えるところで、かなりのアップダウンもある。前日の三島塚原ICからの407.3kmでは、第一名神を経由して23.12Km/Lという成績。いくら燃費はあまり気にせず、法定速度内でまわりのクルマに合わせて好きなように走ったとはいえ、これをカタログ燃費の30Km/L (JC08)に持っていくのは厳しいかもしれない。

 なんて想像をしていたのだけど、ダイハツ・谷村氏は余裕の表情を崩さない。「では僕がトップバッターで行きましょう!」やはり谷村氏、なかなかの大物。なにしろ第1区間は甲南PA(パーキングエリア)までの上りの多い区間。

 前日に走行した感覚から、100km/hの巡航では分が悪いことがわかっている。とはいえ、あまりゆっくり走るわけにはいかないから、第1通行帯を走る貨物車輌を走行ペースの目安として走ろうと打ち合わせして谷村氏がスタート。

 「これでカタログ燃費割り込むようなドライブだと、夏のボーナスは厳しい査定になるよね~」なんていう我々の軽口にも動じず、スルスルっとICの合流ランプから名神高速道路へ。そろり、そろりと運転するかと思いきや、まさかのキビキビとした運転! 編集瀬戸、カメラマン安田氏と共に「ホントに大丈夫?」と心配しながらのスタートとなった。

第1走者はダイハツ広報の谷村氏。メーカー代表としてイースの低燃費を実証できるか!?渋滞を避けるため、午後にスタートけっこうなペースで走る谷村選手。エコランだって分かってる?

 高速に乗ってからも谷村氏は快走。70km/hぐらいで走るトラックには目もくれず、第2通行帯にレーンチェンジしながら、前のクルマを追いかけ、80km/h程度のトラックを見つけるやいなや、その後ろに付いて定速走行を始めた。

 ご存知のように大きく重く、しかも燃費がビジネスとしての収益性に直接影響するトラックのドライバーは燃費改善の術をよく知っている。単にペースメーカーとしてトラックを利用するだけでなく、燃費走行のお手本として後ろをついていこうということだろうか。やはり谷村氏、タダ者ではない。京都南ICから甲南PA間の結果は?というと

第1区間(京都南~甲南PA)
ドライバーダイハツ 谷村
距離98.1km
区間燃費32.43km/L
見事!! 10・15モードをも上回る32.43km/Lをマーク。これで次のボーナスも安心?

 なんと谷村選手! JC08のカタログ燃費を見事上回ったのはもちろん、10・15モードでのカタログ値までも上回った。これで今年の夏のボーナス減額(?)なんて心配もなくなり、交代時には満面の笑顔。一方、僕ら残された3人には大きなプレッシャーがかかることになった。

 とはいえ、甲南PAから次の交代場所である浜名湖SA(サービスエリア)までは、アップダウンこそ頻繁にあるものの、さほど急な勾配はない(その点は第1区間も同じで、新名神は意外にアップダウンが少ない)。さらに浜名湖SAから富士川SAまでは、緩やかな下りが多い区間だ。

 第2走者は僕、第3走者はカメラマン安田が担当したが、いずれもかなり良好な燃費を稼ぐことができた。特に浜名湖SA~富士川SAの区間では35.77km/Lという驚きの燃費をたたき出した! 富士川SA直前では36km/L台にも乗ったと言う。

第2区間(甲南PA~浜名湖SA)
ドライバー本田雅一
距離116.2km
区間燃費33.95km/L
第2走者は僕。谷村選手がよい結果を出したのでプレッシャーエコランと言ってもあまり遅いと危険なので80km/h程度で巡航あとちょっとで34km/Lだったのに残念!最後の上りで落としてしまった
第3区間(浜名湖SA~富士川SA)
ドライバーカメラマン安田
距離126.0km
区間燃費35.77km/L
カメラマン安田氏へバトンタッチ下りが多いとはいえ負けた。悔しい! なんと一時は36km/L台までいったと言う

 僕の走行中、気をつけていたことは加減速を急峻にしないことに加え、下りや追い風の際にアクセルを踏みすぎ、スピードが上がってしまわないようにすること。上りでの燃費悪化はどう頑張っても節約できないため、下りでの燃料をいかに減らすかを主眼に置いて走ってみた。

 しかし、こうして原稿を書きつつ振り返ってみても、高速走行で34km/L前後という数字はスゴイ。4人乗車の広い室内を実現したボディーに660ccという排気量の自然吸気エンジン。ハイブリッドシステムもないのに、高速道路で34km/Lですよ!

 ミラで移動するサポートチームとも「これはよい記録になりそうだね」と(時間が経過するとともに責任が重くなる最終走者の編集瀬戸を除き)、徐々に話が弾んでいったのだった。

アンカーは担当編集の瀬戸氏。東名高速で最も標高の高い御殿場越えの区間だ

 ということで、最終走者の編集瀬戸に最後のバトンタッチ。富士川SAから東京ICを出て近くのガソリンスタンドまで、もっとも大きな障害はやはり東名高速の最高地点である御殿場越えである。ちなみに交代するまでの平均燃費は34.08km/L。残り約135kmをよほどわるい燃費で走らない限り、カタログ燃費は越えてくれそうだが、御殿場越えによる燃費悪化は無視できないか……。

第4区間(富士川PA~東京IC)
ドライバー編集担当瀬戸
距離134.9km
区間燃費32.86km/L
東京ICを降りてついにゴール区間燃費は32.86km/L、全体の平均燃費は33.69km/L京都でリセットしたトリップメーターは476.1km。新名神を使ったので少し短くて済んだ

 見事、この区間だけでも10・15モードのカタログ燃費を上回ることができた。結果、476.1kmにおよぶ走行の平均燃費は33.69km/L。燃料消費は、ほぼ14L。イースの燃料タンクは30Lだから、京都を往復してもまだあまる!という素晴らしい結果となった。

 でも、それってかなりゆっくり走行だったんじゃないの?と思うかもしれない。しかし、京都発はおよそ13時半。東京ICを出たのが20時だから6時間半。この中には3回の休憩時間も含まれている。その時間ロスを仮に30分と見積もると、平均速度は79.35km/h。メーター読みなら85km/hといったところだから、長距離巡航のペースとしては十分なものだったと言えるのでは。

ミラの平均燃費は26.50km/L

 ちなみにミラの方は……というと、こちらも26.50km/Lと大健闘。CVTのセッティングの違いや車重の重さ、荷物に3名乗車と条件の違いこそあれ、元々のエンジン設計の優秀さがあるのだろう。イースもスゴイが、ミラも意外に頑張る。各区間の燃費は下の一覧のとおり。街乗りではアイドリングストップの違いがイースとの明確な違いとして出てくるだろうが、なかなかどうして、ミラやムーヴの燃費向上も、これならイケそうではないかな?と思えるものになった。

燃費比較イースミラ
第1区間32.43km/L26.16km/L
第2区間33.95km/L26.72km/L
第3区間35.77km/L27.05km/L
第4区間32.86km/L26.09km/L
全体平均33.69km/L26.50km/L

 出発前は“第3のエコカー”という謳い文句に、軽自動車とエコのイメージが結びつかず、当初はどう原稿を進めるか頭を悩ましていた。しかし、発売後の好調なイースの売上げと同様、いったん動き始めると、燃費とコストを重視したシティコミューターとして、ミラとは異なる価値を上手に引き出していることを強く感じることができた。

 クルマは乗って、毎日使いこなさなければ真価はわからない。イースはそんな当たり前の心構えを、僕に今一度思い起こさせてくれたのだった。

470km以上走って33km/L越えは見事!! 大満足の結果です

(Photo:安田 剛/本田雅一)
2012年 1月 11日