トランスミッションメーカー「ジヤトコ」の工場を見学してきた

ジヤトコ富士工場のエントランス

2012年3月6日開催



ジヤトコの秦孝之取締役社長

 ジヤトコは3月6日、報道陣に向けて工場見学会を開催するとともに、同社の取り組みや今後の展開などについて、取締役社長の秦孝之氏が登壇して説明会を開催した。

 ジヤトコは自動車用自動変速機の開発、製造、販売を行っている企業。1970年の設立当初は「ジャトコ」と小さい「ヤ」を使っていた。その後、日産自動車のAT・CVT部門を分社化したトランステクノロジーと1999年10月に合併、「ジヤトコ・トランステクノロジー」を設立。そして2002年4月に社名を「ジヤトコ」に変更し、2003年4月に三菱自動車工業のAT・CVT部門を分社化したダイヤモンドマチックと合併して現在に至っている。主要株主は日産自動車、三菱自動車工業、スズキで、出資比率はそれぞれ75%、15%、10%となっている。

 近年はステップATのみならず無段変速機(CVT)の開発にも注力しており、2010年のCVTの生産台数は1200万台を誇る。グローバルシェアで見ると48%となっており、CVTのサプライヤーとして業界トップを走る。

 そのCVTだが、これまでは軽自動車から大型のFF車まで4種類のCVTでカバーしてきたが、今後は日産「マーチ」「ジューク」「ティーダ」、スズキ「スイフト」「スプラッシュ」「アルト」「ソリオ」などですでに採用されている副変速機付きの「CVT7」、中・大型FF車用の「CVT8」(およびハイブリッドFF車用の「CVT8 ハイブリッド」)の2つのCVTでカバーしていくと言う。

 CVT8とCVT8 ハイブリッドは日産と共同開発したもので、CVT8は軸径を小さくしたプーリーと形状を変更した新開発のベルトを採用することで、軸間距離を大きく変えることなくプーリー比を拡大し、変速比幅をCVTとして世界トップレベルの7.0とした。また、オイルリーク量を低減させることでオイルポンプを小型化するとともに、構成部品300点(60%)の見直しや、新開発の低粘度オイルを採用したことで、2~2.5リッタークラスで採用していた従来のCVTと比べフリクションを約40%低減させることに成功した。これは約10%の燃費向上にあたると言う。

 CVT8 ハイブリッドは1モーター2クラッチシステムをCVT8に内蔵し、コンパクトで優れた車両搭載性を実現しており、日産が2013年に北米市場に投入する新型ハイブリッド車に搭載する予定。CVT7は同社の富士工場、掛川工場、ジヤトコ広州が、CVT8とCVT8 ハイブリッドは八木工場とジヤトコ メキシコが生産を担う。

 他方、同社は「2018年度に売上高1兆円企業になる」ことを中期目標に掲げているが、この目標を達成するには新興国市場の開拓が重要になると言う。秦氏によれば、「2015年、2016年においても新興国市場では安価なクルマが中心となることから、安価なマニュアルトランスミッション(MT)が主流になると予想されているが、我々は敢えてここに挑戦をする」「燃費性能に優れ、乗り味を損なわない。そういった2ペダルを新興国にも問うことができれば、(2ペダルよりもMTの比率が大きいという)割合そのものを変えることができる」と、ジヤトコ自身で市場を創造することが、中期目標を達成する大きな要素になると述べた。

ジヤトコの会社概要会社の変遷売上高の推移
国内の生産、開発、営業拠点および関係会社海外拠点ジヤトコ製CVT搭載車
新世代CVTのCVT7、CVT8、CVT8 ハイブリッドジヤトコ製ステップAT搭載車CVT、FF用AT、FR用AT、その他の販売台数推移。2010年にはCVTの比率が59%まで拡大している
国別生産台数比率中期目標として2018年度に売上高1兆円企業になることを掲げているグローバル市場動向予測
グローバル生産台数計画海外拠点の動向。ジヤトコ メキシコでは、生産能力を2013年中頃までに70万台から120万台に引き上げる海外拠点の動向。ジヤトコ(広州)自動変速機有限公司では2013年春までに生産能力を73万台から90万台に高める
海外拠点の動向。ジヤトコ タイランドは2013年中頃に稼働開始予定ロシアに海外拠点を設立し、ロシア車大手のアフトワズ向けに小型FF車用4速ATを6月に出荷開始。これに伴い、トリヤッチに営業サービス拠点を設立する

工場内を写真で紹介
 さて、今回のジヤトコの工場見学は静岡県富士市にある富士工場で行われた。富士工場はFF/FR車用4速AT、FF車用CVTの組み立て・機械加工、AT・CVT部品の鋳造・鍛造・熱処理などを担っており、第1~第4地区に区切られる。今回は、第1地区の第1工場と第2工場を見学。第1工場はムラーノ、エルグランド、マーチ、キューブなどで使われるCVT1/3を、第2工場はCVT7の生産を行っている。

 本来であれば建屋内は撮影不可となっており、今回は特別に公開されたものとなる。そのため、工場内の一部のみの紹介になることをご了承いただきたい。

ケース組み立て前の最後の確認作業では、万が一混入したコンタミネーション(異物など)をバキュームで吸い取る作業を行っており、品質管理に余念がない。同社ではコンタミネーションを「コンタミ」と呼んでいた生産ラインを2階から望んだところギアの歯車を切削加工する際に用いられる「ホブカッター」と呼ばれる加工工具
ファイナルテストエリア。トランスミッションのユニット内に油を入れ、性能チェックを行う。その後ユニットを高速で回すといった振動テストを実施し、振動が出ないかを確認している。ちなみに富士工場ではユニットを1時間に90台を組み立てているが、そのすべてのユニットで性能チェック、振動テストが行われていると言う
手前に並ぶ部品の奥に見えるのが、1962年から採用されている「連続ガス浸炭焼き入れ炉」。ガスが充満した炉の中で各部品は約950度で熱され、金属の表面に炭素を浸透させる。その後、約50度の油の中に自動的に運ばれ、5分ほど油につけて冷却することで金属自体の強度を高める。ただし、急冷した金属は「硬いが欠けやすい」との欠点が出るため、粘り強さを出すために約170度の炉の中で1~2時間熱される
こちらはムラーノ、エルグランド、マーチ、キューブなどで使われるCVT1/3の生産に伴い導入された「真空浸炭焼き入れ炉」。炉の中を真空状態にした後、炭化水素などの浸炭性ガスを部品にあわせて少しずつ添加し、浸炭・加熱処理を行う。酸化の危険がなく、かつ高温処理が行えるため、連続ガス浸炭焼き入れ炉と比べ40%の時間で処理が完了すると言う
プーリーの加工ライン
仕上げ加工で使われるロボット。パレット内に用意される鋳造部品をロボットが取り出し、バリ取り仕上げを行う
リーフのDC/DCコンバーター(リチウムイオンバッテリーの360V電圧を12Vに下げ、電装品用のバッテリーを充電する)のケース加工ライン。ジヤトコとして初の電装部品用ケースの量産ラインとなる。このラインは女性スタッフ主導で作業しやすい環境づくりをテーマに作られたのだと言う

(編集部:小林 隆/Photo:堤晋一)
2012年 3月 28日