日産リーフを1カ月間借りて使ってみた(前編) 自宅で充電できなくてもなんとかなりました |
日産リーフをお借りし、1カ月に渡って電気自動車の生活をしてみた。通勤や街中での買い物、そして2泊3日の旅行まで、果たして電気自動車の生活とはどのようなものなのかをお伝えする |
昨年末に日産自動車から正式に発売開始された電気自動車(EV)のリーフ。筆者の住む神奈川ではEVを強く推進していることもあってか、結構街中で見かけることも多くなってきた。この度、日産から1カ月に渡ってリーフを借りることができたので、そのリポートを3回に渡ってお届けしたい。
いわずもがなリーフは100%電気で動く。つまり充電こそが要となる。筆者は賃貸マンション住まいではあるが、部屋の直下に駐車場があり、延長ケーブルを使えば駐車場に電気を引くことができる。100Vだと空っぽから満充電にするまで16時間が必要だが、満充電なら160km程度走れるとのこと。普段は主に電車通勤で週末しかクルマを使わない筆者は、週に1度満充電にする程度で大丈夫という安直な計算をしていた。
しかし実際に借りる際にその旨を伝えると、100Vでも充電できなくはないが、電流量が大きく、専用のコンセントでないとブレーカーが落ちたり、古い家屋だと配線が発熱して最悪火災に繋がる可能性があるとのこと。前者ならばブレーカーをもどせば済む話だが、後者はやっかいだ。賃貸マンションの配線が古いかなんてわからない。幸い自宅の近所にはいくつか急速充電ができる場所があるので、自宅での充電は断念し、それらを活用することにした。
日産本社でリーフを借りて走り出す。満充電、メーター表示では残り約160km走れることになっている。エアコンでどれくらい悪化するかと思ったが、これならさほど心配する必要なさそうだ。聞くところによると、エアコンよりヒーターのほうが電費に影響するらしい。
これまでにテスラロードスターやスバルのステラEVの試作車に乗ったことがあるが、それらがいかにもEVらしい低速からの太いトルクを感じたのに比べると、アクセルに対するトルクの付き方が比較的普通のガソリン車に近い。とくにECOモードにするとトルクが細くなり、ノンターボのコンパクトカーを運転している感覚だ。もちろんアクセルペダル踏み込めばターボ車の様な太いトルクが背中を押し、EVらしい走りを楽しめるが、普通のクルマから乗り換えても違和感を感じさせない味付けはとてもよくできていると思う。
とにかく静粛性は秀逸で、決して高価なオーディオシステムではないが、オーディオがよく聞こえる。EVやハイブリッド車でよく感じるキーンという電子音も、ゼロではないがよく抑えられているし、スピードを上げていった時の風切音、ロードノイズも、エンジン音がしない分、気になるはずが、よく抑えられている。初めて作ったEVとしてこの完成度には感服させられる。
初日は横浜でリーフを借りた足で都内の会社に向かい、夜に帰宅。自宅では前出の理由で充電できないので、どこかで急速充電しなくてはいけない。
我が家の近所にはいくつか急速充電できる場所がある。もっとも近いのがスーパーオードバックス江田で1回525円、そのすぐそばに建設会社で無料で充電させてくれるところがあるが、こちらは平日のしかも17時までということで、なかなか利用できる機会は少なそうだ。さらに少し離れると日産のディーラーがあり、一般的なリーフオーナーであれば、ここで無料で充電できる。ただし借りている日産のクルマは法人契約のため525円がかかる。で、そこからさらに数km行くと第三京浜道路の都筑PA(パーキングエリア)に無料の充電器がある。第三京浜に乗らなければいけないが、1区間なら通行料は50円。しかも24時間いつでも充電できる。帰宅したのは夜中なのでスーパーオードバックスもディーラーも閉まっており、選択肢は都筑PAに絞られた。
家から都筑PAまで片道十数kmと充電の30分で戻って来たのは1時間以上あと。自宅で充電できればしなくてよい手間だと思うとちょっと気が萎える。
そしてもう1つ問題に気がついた。そういえば急速充電だと80%までしか充電できないのだ。充電が終わった時点でメーター表示の航続可能距離が120km程度。実際に運転してみると分かるが、120kmといっても120kmまるまる走れるわけではない。心理的には残り30kmともなれば、「そろそろ充電しなければ」という気持ちになる(慣れるとだんだんギリギリまで攻められるようになってくるのだが)。つまり安心して走れる距離は90km程度ということになる。自宅で充電できないという足かせは、予想より大きいようだ。
とは言え、普段の週末の買い物程度であれば、ほとんど不都合は感じない。仮に80kmしか走れないとしても、片道で走れるのは40km。40kmと言えば一般道なら1時間以上掛かるような移動距離だ。日常の買い物で1時間以上掛けて出かけるような機会は少ないだろう。筆者の場合は自宅で充電できないため、出かける度に都筑PAに寄る必要はあるが、自宅で充電できる環境であればまったく問題なさそうだ。
また、神奈川であれば、たとえばららぽーと横浜やイケアの駐車場には普通(200V)充電器が用意されていて、買い物中に充電できる。イケアには計4台の充電器があるので、行っていたら使われていた、ということはほとんどなさそうだし、ららぽーと横浜ではEVユーザーであれば、2時間分駐車が無料になる。
ただし、いずれも1人が独占しないように1時間で充電が切れるようになっている。普通充電で1時間というと距離にして20~30km程度。もちろんないよりはずっとよいが、電欠という不安をすっかり解消してくれるような頼れる存在ではない。これはディーラーでも同じで、普通充電設備を持った日産ディーラーはあちこちにあるのだが、1カ月のリーフ生活で利用することは1度もなかった
ららぽーと横浜にある普通充電器(200V) | 無料で充電できるが、1回60分まで。1人が占有しないためだ | 200Vと100Vの充電コネクターは右側のカプラーに繋ぐ。左側が急速充電用だ |
普通充電で1時間充電してみたところ、バッテリー目盛りが2つ増え、航続可能距離が34km増えた | ららぽーと横浜の駐車場は土日祝日は有料だが、EVのオーナーは2時間無料のサービスが受けられる |
普通充電で活用させてもらったのは、自宅から徒歩圏内にあるサンクスだ。ここにも普通充電器(無料)が設置されていて、特に時間制限がない。遠出をする前日には都筑PAで急速充電をしたあと、ここで充電させてもらい満充電にするような使い方をさせてもらった。時間は掛かるが家で時間がつぶせるのでとても有用だ。ただ、心情的には無料のものを何度も使わせてもらうのも気が引ける。個人的には多少でもお金を取ってもらった方が、気兼ねなく使えるように思える。
問題になるのはちょっと遠出をしなければならない時だ。あるとき、数カ所で取材をしてから会社に行く機会があった。会社に着く頃には残りの走れる距離が30kmとなってしまい、ギリギリ自宅までは届かない計算。調べると会社の近所では千代田区役所の駐車場が22時まで充電できることがわかった。自分の行動範囲で急速充電設備を見つけられると、それだけで心理的にとても安心できるようになる。
しかし、うっかり安心しすぎると大変だ。あるとき、同じように会社まで来たら電池残量が少なくなっていた。充電をしようと千代田区役所に行ったら丁度先客が入ったばかりとのこと。一度退散して帰りに来ようと思っていたのだが、そうしたらうっかり22時を過ぎてしまった。
残念ながらリーフのナビは、最寄りの充電施設は調べられるものの、営業時間内かどうかは検索結果に反映されない。なので、1つずつ詳細情報を調べる必要がある。しかもまだ充電施設はディーラーか役所が大半を占めていて、そんな夜中にやっている施設は限りなく少ない。「場合によってはどこかの駐車場にクルマを置いて電車で帰るか」などと最悪な事態を想定しつつ探したら、運良く到達できそうな場所に急速充電設備のある24時間駐車場を発見することができた。
こんな時は、いくら払ってもよいから充電させてほしいと思う。各自治体などがEV普及のために急速充電設備を設置しているが、実際にEVのユーザーとなってみると、設置するだけでなく土日だろうと夜間だろうと使わせてもらえなければ意味がないと痛感する。日産ディーラーに関しても、お盆期間中は24時間無料で開放していたが、先日火曜日に行ったら定休日のため昼間でも充電できなかった。
実際に利用してみると、実は新旧さまざまなタイプの急速充電器があることが分かる。そして新しい小型のタイプは、旧モデルと比べるとだいぶ本体価格が安くなっているらしい。とは言え数百万円というレベルで設置費用が掛かるため、台数を増やすのはそう簡単ではないと思う。ただ、今すでにある充電器を24時間利用可能にすることは、それほど難しくはないはずだし、そうなることでEVのハードルはグッとさがるハズである。
急速充電器本体の種類も様々なタイプがあったが、コネクターもいくつか種類があった。写真はもっとも最初期のタイプ。動きが複雑で最後まで慣れなかった | レバー1つで操作できる都筑PAのタイプはとても操作が簡単。とは言えコネクターの重さは従来タイプと同じ | 首都高速の八潮PAで見つけた最新タイプのコネクター。ボタン1つで力がいらないうえ、コネクター自体がとても軽くなって取り回しがラクになっていた |
実はまさに借りていたリーフを返却する日、ジャパンチャージネットワークが、会員制充電サービスネットワークの運用を開始することを発表した(詳細は関連記事参照)。これは認証カードをタッチすることで充電器が利用可能となるもので、これにより無人でも24時間365日、運用・課金ができるシステムとなる。まさに1カ月間使用して、欲しいと思っていたシステムである。
当初は神奈川を中心とした関東圏50個所とのことだが、今後もっともっと増やしていってもらいたいと節に願う。他の記者からは、有料にした時点で加入者は激減するのでは? といった声も聞かれた。確かに役所やディーラーなどで無料で充電できる日中であれば、有料のところよりも無料の場所を選ぶだろうが、夜8時を過ぎれば状況は一変する。いくら払っても充電できることが重要なのだ。
それにこうした課金システムを確立することで、急速充電器の数が増えれば、今までいけなかったところにもいけるようになる。惜しむらくは神奈川を中心に展開しているところだ。神奈川や東京はよそと比べればまだまだ充電設備が充実している。それよりもまだまだ充実しているとは言えないエリアにこそ、充電施設を増やして欲しい。例えば先日茨城に仕事で行った際も、前日の夜に移動するつもりだったが、充電できるのがほぼディ-ラーだけのため、ディーラーの営業時間中に移動することを余儀なくされた。これもディーラーが24時間充電できるようになれば解決することだ。
ジャパンチャージネットワークでは、ファミリーマートやびっくりドンキーなどにも急速充電器の設置を広げていく | 充電器に併設される認証システムに認証カードをタッチすると24時間いつでも充電することができるようになる |
リーフはクルマとしてはとてもよくできている。しかしインフラの不足がまだまだ足かせになっているのは否めない。だが現時点であっても、近所の買い物とか、送り迎えなど、まさにセカンドカーとしての役割であれば、あまり不満を感じることはなさそうだ。
それにメリットも実は大きい。例えば急速充電が1回500円だとしても80%の充電で80~100km程度走ると、レギュラー145円の計算で22~28km/L程度のランニングコストになる。自宅で充電すれば通常の料金でも全くの空っぽから満充電で455円程度。これで堅実なところで150km走ったとして48km/L相当。いつまで続くか不明だが、夜間の割引などを利用すれば電気代は半額程度になるので、96km/L相当というとんでもなく安いランニングコストになる。
ただし、街中の買い物中心での利用と考えると、3ナンバーサイズというのは少し大きすぎるように感じる。世界的な市場を見据えてのサイズだろうが、現状のインフラの事情を考えれば、メインの利用は短距離なので、1.3リッタークラスのボディーサイズでも十分だったと思う。ちょっと都心を離れれば、ミニバンとコンパクトカーといった2台体制の家は少なくない。助成でかなり安く買えることと、このランニングコストを踏まえれば、セカンドカーにEVというのはむしろ強くオススメできる内容だと思う。現状生産台数の半分が国内を走っている状況を考えれば、十分考慮の余地はあるだろう。
と、すっかり前編で落ちがついてしまっているが、次回はそんなリーフで世界遺産の白川郷まで旅行にいってみたので、その模様をお届けしたい。果たしてリーフで長距離を走るとどうなるのか?
(瀬戸 学)
2012年 9月 28日