「シビックWTCC」がウエルカムプラザ青山で一般初公開
本日18時まで展示中

シビックWTCC壮行会が開催されたをウエルカムプラザ青山。壮行会開催前は、シビックWTCCはベールに覆われていた

2012年10月15日18時まで展示



 シビックWTCCを擁して、今週末鈴鹿サーキットで開催されるWTCC(世界ツーリングカー選手権)への参戦を開始する本田技研工業は、それに先立つ10月13日に東京のホンダ本社にあるウエルカムプラザ青山において、参戦を記念した壮行会を開催した。

 この壮行会には、WTCCにホンダワークスとして参戦するHonda Rascing Team JAS 代表のアレッサンドロ・マリアーニ氏、デビュー戦のドライブを担当するティアゴ・モンテイロ選手、本田技術研究所 シビックWTCC開発プロジェクトリーダーの堀内大資氏が参加して、トークショーなどが行われた。

 このトークショーの中で、壮行会開催前日までに行われたスポーツランド菅生でのプライベートテストにおいて、1分28秒台のラップタイムで周回することができたことなどが明らかにされた。シビックWTCCがデビュー戦となる鈴鹿でどのような戦いを見せてくれるのか、大いに期待が持てるイベントとなっていた。

モータースポーツのホンダが、グローバルモータースポーツに帰ってくる!
 WTCCは5つあるFIAの世界選手権の中の1つで、市販されているツーリングカーをベースに戦う選手権となっており、まさに世界一の箱乗りを決定する激しいレースが展開されている。今週末(10月21日~22日)には、第19戦、第20戦に相当する日本ラウンドが鈴鹿で開催されることになっており、そのハイライトなどに関しては別記事が詳しいのでそちらをご参照いただきたい。

 ホンダは、2008年末に経済状況の悪化からF1世界選手権への参戦を休止して以降、インディカー・シリーズへの参戦や国内のSUPER GT/フォーミュラ・ニッポンへの参戦こそ続いているものの、世界選手権への参戦はなく、モータースポーツイメージが強かったこれまでのホンダからすればやや寂しい状況になっていた。しかし、今年の2月にWTCCに2013年からフル参戦と、この鈴鹿ラウンドから残りの3ラウンド(日本、中国、マカオ)にテスト参戦する予定を明らかにし、WTCCを舞台にしてグローバルなモータースポーツシーンに帰ってくるとことに大きな期待が持たれている。

フリーアナウンサーの久保田光彦氏(左)、土屋圭市氏(右)

ホンダの新開発エンジンHR-412Eを搭載したシビックWTCC
 壮行会では、冒頭にフリーアナウンサーの久保田光彦氏と、ドリキンこと土屋圭市氏が登場し、WTCCのレギュレーションや見所などが説明された。土屋氏は「WTCCは30分程度の超スプリントレース。スプリントレースには集中力が必要で、タイヤを持たせることなんて考えないでいいので、ガチンコバトルを楽しむことができると思う」と紹介し、「SUPER GTならタイヤがとか、ウエイトハンデが……と言い訳の余地があるが、WTCCのようなタイヤもワンメイクでということになれば、逃げ道はない。ドライバーにとってはドライバー冥利に尽きるレールだと思う」と述べ、レーシングドライバーとしての視点から、WTCCが魅力的なレースであると説明した。

 その後、クルマを覆っていたベールがはがされると、その下からシビックWTCCが現れ、日本のファンに向けては初めて実車が公開された。土屋氏に「さりげなくオーバーフェンダーなのが格好よい」と評されたそのシビックWTCCは、欧州で販売されている5ドアのシビックをベースにしている車両で、ホンダが新たに開発した1.6リッター直列4気筒ターボエンジン「HR-412E」が搭載されている。


シビックWTCCを初公開
ホンダ開発のHR-412Eエンジンフロントグリルには、ホンダのレーシングカーの証しであるレーシングレッドのHマークGTウイング風のリアウイング
片側のリアランプをつぶしてマフラーになっているユニークなデザインリアビュー。なお、無限(M-TEC)は来年よりエンジンのメンテナンスなどを担当するフロントホイール部。タイヤはワンメイクのヨコハマタイヤ

 なお、発表された資料によれば、HRはHonda Racingの頭文字、4は4気筒の頭文字、12は2012年モデル、EはEngineの頭文字から取られており、ホンダレーシングの4気筒エンジンで2012年型モデルという型番になっている。このため、おそらく来年以降のモデルに搭載される場合には、HR-413Eなどになるのだろう。なお、発表されたスペックなどは以下のとおり。

HR-412Eエンジン
エンジン形式直列4気筒 DOHC 直噴ターボ
排気量1.6リッター
重量89.2kg
回転数8500rpm
最大馬力320PS以上(33mmエアリストリクター)
最大トルク400Nm以上
ターボチャージャーギャレット GTR2560R

GREとして開発されていたHR-412EをWTCC用に改造してシビックに搭載
 その後、ステージにはWTCCにホンダワークスとして参戦するHonda Rascing Team JAS 代表のアレッサンドロ・マリアーニ氏、デビュー戦のドライブを担当するティアゴ・モンテイロ選手、本田技術研究所 シビックWTCC開発プロジェクトリーダーの堀内大資氏が呼ばれ、5人でのトークショーが行われた。

 ホンダのワークスカーを走らせるHonda Rascing Team JASの代表であるアレッサンドロ・マリアーニ氏は、欧州F3000、F1チーム(スクーデリアイタリア~ミナルディ)などを渡り歩いた歴戦のレース屋でHonda Rascing Team JASの母体となっているJAS Motorsportには2004年に加入し、現在では代表を務めている。マリアーニ氏は「ホンダと再び仕事ができるようになって嬉しい。7月に実走テストにこぎ着けてから昨日まで実に3000kmを超える距離を走り込むことができている。今年の3つのラウンドではまずは競合と比べて自分達の立ち位置がどこであるのかを確認する段階にあると考えている」と述べ、今年は確実に完走を狙って、シビックWTCCがどの程度の競争力をもっているのかを確認する。

 ティアゴ・モンテイロ選手は、この日本ラウンドの前までは、セアトのカスタマーチームで走っていたのだが、それをシーズン中に解除しての移籍になる。なお、2013年からの本格参戦にあたっては、このモンテイロ選手と、現在セアトのワークスチームのルコイルレーシングに所属しているガブリエル・タルキーニ選手の2人が努めることになる。

 モンテイロ選手はポルトガル出身で、2005年にジョーダンからF1参戦を果たしており、その年のアメリカGPで表彰台を獲得するなど実績十分のドライバー。WTCCには2007年から参戦しており、優勝経験もあるなどWTCCでの経験も豊富な選手だ。モンテイロ選手は「6カ月と短い期間だったけど、テストで走るたびに車はよくなっている。昨日までの菅生テストでは、予選シミュレーションも、決勝シミュレーションもできており、結構よいレベルにあると思っている。以前乗っていたセアトと比較すると、ブレーキングで突っ込める点がアドバンテージになっていると思う」と、仕上がりは順調であると明かした。

 本田技術研究所 シビックWTCC開発プロジェクトリーダー 堀内大資氏はこれまでインディカー用エンジンなどを開発してきたベテラン開発者で、ホンダ側のエンジン開発の総責任者となる。今回のWTCC用として開発されたHR-412Eは「元々はWTCC用として開発していたものではなく、FIAが提唱していたGREと呼ばれるスタンダードなレーシングエンジンを開発しようということで始まったプロジェクトだった。昨年から基礎研究を行っており、今年に入ってWTCCへの参戦が急遽決まったため、それをWTCC用に改装して7月にシビックに乗せることができた」と述べ、元々はGRE(Global Race Engine)と呼ばれる4気筒の汎用レーシングエンジンとして基礎研究していたモノを、WTCC用として投入した開発経緯を明らかにした。GREは、さまざまなレーシングカーに搭載できるように、FIAが1.6リッター、4気筒、直噴、重量などをすべて規定したエンジンで、S2000規定に準拠したラリーカーやWTCCのツーリングカーなどを意識して作れらた仕様であるため、ホンダのGREエンジンもそのままWTCCに使うことができたということだ。

 堀内氏によれば「正直7月の最初の段階ではオイル漏れなど初期トラブルが起きてまともに走らせることも難しい状況だった。しかし、2回目のテスト以降ではJASのクルーも夏休み返上で作業してくれたこともあり、トラブルを解消し、ロングランテストもできるようになった。ホンダはフォーミュラーカーの経験は多いが、ツーリングカーに関してはさほど多くないのも事実。今年に関してはテスト参戦で、まずは恥ずかしくない走りを見せ、2013年には優勝を狙っていきたい」と語り、2012年に関してはテスト走行と位置づけ、2013年シリーズから勝ちを狙いに行く。

Honda Rascing Team JAS 代表 アレッサンドロ・マリアーニ氏(左)、デビュー戦のドライブを担当するティアゴ・モンテイロ選手(右)本田技術研究所 シビックWTCC開発プロジェクトリーダー 堀内大資氏(右)
スポーツランド菅生でのテストの模様HR-412Eエンジンのスペックも紹介

鈴鹿のWTCC予選でQ1突破できるかに注目
 土屋氏を交えたトークセッションでは、土屋氏が「私が聞いたところだと、昨日までの菅生テストでは1分28秒台のラップタイムで回ったとのこと。これは足まわりもエンジンもカリカリにチューンしたSUPER GTのGT300にも匹敵するタイムですごいことですよ」と、菅生で出したタイムを明かし、注目を集めた。菅生でそれだけのタイムが出ているということは、鈴鹿でもかなりよいタイムが期待でき、いきなりQ1(トップ10に入ると、第1レースの順位を決めるQ2に進出できる)入りなども期待できるのではないだろうか。

 土屋氏に現在の仕上がりを聞かれた堀内氏は「エンジンとしてはやらなければいけないことは沢山あるので、ドライバビリティに関しては合格点はもらっているが、パワーに関してはもっと欲しいと言われている、現時点では70点ぐらいではないか。鈴鹿では来年どのレベルにいないといけないのかを確認したい」と述べ、現在取り組んでいるターボエンジンのアンチラグシステム(タービンをオフスロットル時にも回しっぱなしにしておくことなどで、ターボラグを減らすシステム)などを改良することで、より強力なエンジンを開発していきたいと説明した。

 このシビックWTCCは、10月15日までウエルカムプラザ青山に展示され、その後は週末WTCCが行われる鈴鹿サーキットへと運ばれる。

(笠原一輝)
2012年 10月 15日