日産、市場導入直前の技術を紹介する「先進技術説明会」【後編】
80km/hでも衝突を避けられる緊急操舵回避支援システム

緊急操舵回避支援システムのデモの様子

2012年10月17日発表



 日産自動車の追浜グランドライブで開催された「先進技術説明会&試乗会」。今回の先進技術説明会で発表されたのは、「環境技術」「安全技術」「ダイナミックパフォーマンス技術」「ライフオンボード技術」の4項目。詳細は関連記事を確認されたい。

ステアリングを自動操舵して追突や衝突を回避する「緊急操舵回避支援システム」
 日産は、「ビジョン・ゼロ」を合い言葉に、日産車による死亡、重傷者数をゼロにするという究極の目標を掲げ、安全対策への取り組みを一貫して強化している。数値目標としては、1995年比で2015年までに日産車が関与する先進国での死亡、重傷者数を半減することを掲げてきた。すでに、日本とイギリスでは2009年の時点で1995年に対して半減を達成していて、2020年には2015年比でさらに半減させることを目標にしている。
 
 究極の目標であるビジョン・ゼロを達成するために重要なキーテクノロジーとなるのが「緊急操舵回避支援システム」になる。一昨年の先進技術説明会では、60㎞/hからの追突回避が可能な衝突回避支援コンセプトを発表している。

 今回、公表された衝突回避システムは、ステアリングを自動操舵して追突や衝突を回避することができるというもの。自動ブレーキに操舵を加えることで、統計上では約90%の事故を防ぐか軽減できると言う。

 具体的な制御だが、走行車両のまわりを確認しているのは、フロントとリアバンパーの左右、そしてフロントセンターに設置されたスキャニングタイプのレーザーレーダー。さらにフロントとリアのバンパー内にはミリ波レーダー、ルームミラー前方に単眼のCMOSカメラも付いている。カメラ、ミリ波レーダー、レーザーレーダーの3つを統合して制御することにより、衝突を防ぐステアリング操作を行っている。

緊急操舵回避支援システムを搭載したリーフ。スキャニングタイプのレーザーレーダーをフロントとリアバンパーの左右およびフロントセンターに設置するほか、フロントとリアのバンパー内にはミリ波レーダー、ルームミラー前方に単眼のCMOSカメラも付いている

 それぞれの役割は、レーザーレーダーが前方の縁石やガードレール、壁など道路上にどのような障害物があるかを判断する。リアに設置されたレーダーは、後方から接近してくる車両などを確認する。後方の確認をするのは、前方の安全だけを確認しつつ緊急操舵すると、後方から追い越してくるクルマがいた場合に衝突する可能性があるためと言う。

 また、カメラやミリ波レーダーは前方の安全を確認していて、歩行者の飛び出しや追突の可能性があったときに危険性を知らせる。走行しているときは、常に3つのセンサーが起動していて、どこに衝突を避けられるエスケープゾーンがあるかを計算する。レーザーレーダー、ミリ波レーダー、CMOSカメラは他社の衝突回避技術でも使われているが、3つを統合してエスケープゾーンを見つけ出すシステムは非常に高度で、日産独自のものとなる。

 実際に緊急操舵回避システムが装備されたリーフに乗り込んでみると、今回のテスト用に設けられたモニターにリアルタイムでエスケープゾーンが示されていた。

 まずは歩行者の飛び出しの体験だが、会場では50㎞/hで走行していてクルマの陰から歩行者を模した人形が飛び出してくるシチュエーションが用意されていた。歩行者はクルマの陰に隠れているので見えない。走行車のリーフが近づくと人形が飛び出すのだが、見事にエスケープゾーンに逃げ、人形との衝突を回避した。

 続いて追突回避のシーンだが、先ほどの50㎞/hよりも速度を上げて70㎞/hで走行する。こちらは、前方の停車車両に近づくにつれて警報のアラームがなる。警報が鳴っていてもブレーキを踏むなどの回避動作をしないと操舵回避を行う。こちらも、難なく前方の停車車両を避けて追突を回避した。
 
 緊急操舵回避システムに使われるセンサーは、アラウンドビューモニターで使われるミリ波レーダーやCMOSカメラなので、すでに実用化されている機能が多い。統合制御に関しては新規のシステムになるが、実用化へのハードルはそれほど高くないとしており、早期の導入が期待される。

会場では50㎞/hで走行し、クルマの陰から歩行者を模した人形が飛び出してくるシチュエーションが用意され、見事に人形をかわした

アドバンスド・パーキング・アシスト
 狭い駐車場での車庫入れや縦列駐車などが苦手で、ついついスペースの大きな駐車場を探してしまう人も多いのではないか。今回紹介された「アドバンスド・パーキング・アシスト」は、アラウンドビューモニターと電動パワーステアリングを統合制御することで、自動操舵によりパーキングへクルマを誘導してくれるシステムになる。

 同乗テストでは、リーフにアドバンスド・パーキング・アシストが装備されていて、さらにリーフのフロア下と駐車スペースには非接触式の充電装備を設置。充電システムは、アドバンスド・パーキング・アシストを応用したシステムで、自動で駐車場へ停車させ、非接触式充電により自動充電を開始するというもの。

アドバンスド・パーキング・アシストを装備したリーフに加え、リーフのフロア下と駐車スペースには非接触式の充電装備が設置されていた

 まずアドバンスド・パーキング・アシストだが、車庫入れにも縦列駐車にも対応していて、バックさせる方向は左右どちらでも可能。駐車位置の微調整もモニター上ででき、ドライバー側のスペースを広げることもできる。カーナビのモニターに目標の駐車スペースが表示されたら、ギアをリバースに入れる。そこから先は自動で操舵してくれる。パーキングによっては、切り替えしが必要な場合もあるはずだが、5回くらいの切り替えしならば軌道を計算して自動で停車できると言う。ただ全自動ではないので、まわりの状況は見る必要があり、障害物はソナーなどで知らせてくれる。全自動での制御も可能なのだが、あくまでも市販を前提としているので、操舵などだけをアシストしてくれる。

 リーフに装備された非接触式充電は、以前から公開されているシステムだが、リーフ側と駐車スペース側のコイル位置をしっかりと合わせないと充電効率が落ちてしまう。そこで、アドバンスド・パーキング・アシストと合わせることで確実な充電位置に停車させられる。また、プラグ充電の煩わしさを解消する役目もあり、市販化へ向けて市場調査を行っていると言う。

アドバンスド・パーキング・アシストのモニター画面。駐車位置の微調整もモニター上でできた

e-NV200

e-NV200
 最後に、リーフに続くゼロエミッションカーとして市場に導入される電気自動車(EV)「e-NV200」とベースとなっている「NV200バネット」の比較試乗についても触れたいと思う。

 e-NV200は、今年のデトロイトショーで公開された商用にも使えるピュアEV。すでに商用のモデルではFedExと共同で実証実験が行われていて、2014年度までにはリーフに続く第2のEVとして市販化される予定となっている。パワートレーンはリーフと同様で、航続距離や急速充電時間などもリーフに準じている。

 まず、リアの荷室に150㎏の荷物を搭載したNV200バネットに乗ったのだが、重心位置が低くロール量も少なめ。荷物を運ぶことが前提の商用モデルなので、ロール量が少なければ荷物のバランスが崩れることも少ない。パワートレーンの出力的にも十分な許容量で、不満なく走る印象だ。

 続いて、こちらも荷室に150㎏の荷物を搭載したe-NV200に試乗した。ベースとなるNV200バネットも重心位置が低く感じたが、さらにバッテリーなどの重量物が車両の下側に装備されていているので安定感が高い。それなりに車高があるのだが、コーナリングなどでもキャビンが外に振られる感覚がなく、NV200バネットより商用モデルとしての優位性が高いのではないかと感じた。

 試乗コースの途中で停止からの加速を比較したのだが、モーターで駆動するためスタート時の加速は鋭い。停止場所から100mほど離れた目標地点での終速は、NV200バネットとさほど変わらなかったが、50mくらいまでの加速はe-NV200が圧倒している。商用なので加速性能を意識することはないだろが、荷室に重い荷物を載せても意のままに加速できる性能は、ドライバーがストレスなく走れるという意味でもアドバンテージになるだろう。

(真鍋裕行)
2012年 10月 23日