スバルも出展した「2012年国際航空宇宙展(JA2012)」
第2会場のセントレアでは、飛行展示や働くクルマの展示なども

第1会場のポートメッセなごや

2012年10月9日~14日開催



 10月9日~16日まで「2012年国際航空宇宙展(JA2012)」がポートメッセなごや(名古屋国際展示場、愛知県名古屋市)と、セントレア(中部国際空港)で開催された。国際航空宇宙展は、航空機関連企業、宇宙関連企業のトレードショー。商談がメインのイベントとなるが、第1会場のポートメッセなごやでは10月9日~12日をトレードデーとしているほかに、12日~14日をパブリックデーとして一般入場者向けに展示。パブリックデーのみ入場可能な第2会場のセントレアでは、航空機や飛行場で使われる特殊車両の展示を行った。

 国際航空宇宙展は近年では4年に1度開催されており、前回、前々回は神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で開催された。首都圏以外で開催されるのは1983年の岐阜基地以来のことで、セントレアを使って開催されるのは初めてとなる。中京地区が再び選ばれたのは、ボーイング787の主要部品の生産地域でもあり、日本が約40年振りに生産する三菱航空機の旅客機「MRJ」の本拠地であることが影響している。

 中京地域は古くから製造業が発達していた個所で、トヨタ自動車、三菱自動車工業の主要生産拠点があり、本田技研工業は隣の静岡県浜松市が発祥の地。スズキは今でも浜松に本社を置く。またスバル(富士重工業)はセントレアのすぐ近くに半田工場を持ち、航空機製造を行っている。

 国際航空宇宙展では、第1会場のポートメッセなごやで各種航空機部品などの展示が、第2会場のセントレアで実際の航空機や特殊車両が行われており、第1会場、第2会場の順で紹介していく。

第1会場:ポートメッセなごや
 ポートメッセなごやでは、第1展示館と第3展示館で主要な展示を実施。第2展示館は受付やパブリックイベントのスペースとして使用されていた。

 スバルは、ボーイング787の中央翼を製造しているが、その中央翼の模型を展示。主翼と胴体をつなぐ主要な部品であることをアピールしていた。また、3面スクリーンを用いたフライトシミュレーターも展示。このフライトシミュレーターは、操縦桿を通じてパイロットの意図を把握し、操縦桿の反力で自律操縦システム(知的支援操縦システム)の意図を伝えるというもの。これによりパイロットの操縦負荷を低減すると言う。現在スバルのクルマでは先進安全技術「EyeSight」が人気だが、基礎研究などは航空宇宙部門とつながっていると言い、航空機でも使えるような高い安全性を持つ先進技術開発が同社のバックボーンとなっているのだろう。そのほか、構造物の非破壊検査が可能な「損傷モニタリングシステム」や、スバルがライセンス生産し、防衛省に納入する「AH-64D アパッチ」の模型なども展示されていた。

コーポレートカラーで構成されたスバルブースボーイング787に使われている中央翼の模型。主構造物として半田工場からセントレアを通じ、米国ワシントン州のボーイング エバレット工場に出荷されている3面のディスプレイを用いたフライトシミュレーター。操縦桿の前にはMFD(マルチファンクションディスプレイ)も設置されている
損傷モニタリングシステム。各部に取り付けられた超音波受発信機で、損傷を検知するスバルがライセンス生産するAH-64D アパッチの模型

 国際航空宇宙展で1番人気となっていたのが三菱航空機のブース。三菱航空機は、航空機製造で高い技術力を持つ三菱重工業を母体に、三菱商事や三井物産、住友商事、トヨタ自動車などが出資を行い、新型リージョナルジェット旅客機MRJの製造のために設立された。そのため、メイン展示はもちろんMRJ。MRJの模型と、実物大キャビンを展示しており、実物大キャビンは日本では一般初公開。三菱の航空機製造は名古屋を本拠地とするためか、このMRJの実物大キャビンは大人気で、シートに座る順番待ちの列が途切れることなく続いていた。

 MRJは、今後20年間に5000機以上の需要が見込まれる70~90席クラスのリージョナルジェット機市場に向けて販売される旅客機で、初飛行は2013年を予定している。航空機の場合は、クルマと比べて製造に時間がかかり、また価格も億円単位となるため、とくに事前受注が大切。実物大キャビンは顧客(航空会社)に実際に座ってもらい、実機ができる前に乗客(航空会社の顧客)にとって大切な室内を確認してもらうためのものとなる。

 その特徴は、ライバル機(エンブラエル EMB170/190、ボンバルディア CRJ700/900)と比べて、キャビンの高さが高く、幅が広いこと。シート幅も18.5インチ(ライバル機は18.25インチ~17.3インチ)と、優れており、荷物置き場となるオーバーヘッドビンも最も大きいと言う。実物大キャビンでは2+1のプレミアクラスシートと、2+2のスリムシートを設置。スリムシートでは、前後29インチピッチ~32インチピッチまでの異なるシートピッチ展示をすることで、前席との間隔を体感できるようになっていた(プレミアムクラスは38インチピッチ)。

 IATA(International Air Transport Association)で規定されている機内持ち込み可能な最大サイズ(9.8×17.7×22.0インチ)のローラーバッグを、1つのオーバーヘッドビンに2つ収容できる展示も行い、スペース効率の高さを見て分かるようにしていたほか、車いす対応ラバトリー(トイレ)、ギャレーなども見ることができるようになっていた。

MRJの模型。MRJは、最先端の空力設計、最新鋭エンジンの採用などで、圧倒的な運行経済性と環境適合性を持つと言うMRJの実物大キャビン。日本では一般初公開。長蛇の列ができていたキャビン内部。2+1のプレミアムクラスシート
三菱航空機のスタッフに座っていただいたところ。シート幅など十分なものであることが分かる38インチのシートピッチMRJの窓。上部が広く、下部が狭くなっている。そのほか窓につながる内装材も下部が凹んだ形状となっており、快適性の向上を図っている
エコノミークラスのスリムシート。スリムにすることで、広い足下スペース確保を狙う。座り心地も短距離なら十分と思えるものだったが、振動との兼ね合いもあるので、仕上がりに期待1つのオーバーヘッドビンには、機内持ち込み最大サイズのバッグを2つ収納可能
天井の照明にはLEDが使われている。凹凸で光の陰影が刻まれているが、凸面は富士山をモチーフにしている
CA(キャビンアテンダント)の作業場となるギャレー車いす対応ラバトリー

 実際に座ってみた感触は、プレミアムクラスシートはゆったりとしていてさすが“プレミアムクラス”というべきもの。一見座面や背もたれが薄くて硬そうなエコノミークラスのスリムシートも、それほど硬くなく、またホールド性もよいので、MRJが想定する短距離(長距離タイプのMRJ90LRでは航続距離3300kmにもなるが)の移動では十分と思えるものだった。なお、このスリムシートには日本独自の3次元立体編み物技術が採用されている。窓は上部を広く、下部を狭くした形となっており、「強度を保ちつつなるべく広くした」とのこと。意外と快適な移動ができるのではというのが、実物大キャビンを体感した印象だ。航空機の場合は航空会社でフルカスタマイズ発注可能なため、これらのシートがそのまま搭載されるかどうかは未定だが、コスト的には有利になると思われるので、これらのシートが搭載された量産機の登場に期待したい。

 そのほかのポートメッセなごやの展示は写真で紹介していく。

三菱電機のモービルマッピングシステム(MMS)を搭載したアルファード。カメラとレーザーで車両周辺を3D地図化していく
MMSによって生成された3D映像。これは名古屋駅周辺こちらは新東名高速道路
IHIは、多数の航空機用エンジンや、その模型を展示していた。写真はCF34ターボファンエンジン
V2500ターボファンエンジンの実物だが、先頭部のみこちらはV2500ターボファンエンジンの模型。エアバスA320などに使われるベストセラーエンジンGE90ターボファンエンジン(模型)。ボーイング777が採用
PW1100G-JM ギヤードターボファンエンジン(模型)。次世代旅客機であるエアバスA320neoなどに採用GEnxターボファンエンジン(模型)。ボーイング787に採用。ANAはトレント1000だが、JALはこのGEnxを装備防衛省向けエンジン XF5-1ターボファエンジン。試験用であることを示すXの名前がついており、先進技術実証機に搭載するエンジン
ネ20ターボジェットエンジン。第2次世界大戦中に作られた、国産初のジェットエンジン。国産初のジェット戦闘機「橘花(きっか)」用のエンジン
国産ロケット「H-IIA」などの模型展示H-IIAは、第1段エンジンにLE-7Aを搭載するが、そのLE-7A用のターボポンプ。写真左が液体水素用、写真右が液体酸素用。いずれも左側から燃料が流入し、2段圧縮を行う。タービンの形が異なるのは、回転数や燃料の粘度が異なるため
はやぶさの模型(写真左)、はやぶさ2の模型(写真右)
旅客機メーカーのボーイングは、次世代旅客機の模型やフライトシミュレーターの展示を実施
住友精密工業は、ホンダが開発している旅客機「ホンダジェット」の前脚と主脚を展示ロッキード・マーティンは、航空自衛隊に採用の決まった「F-35」の模型を展示。日の丸バージョンとなっていた
ANA(全日本空輸)は、国内線プレミアムクラス、普通席のシートを展示。座って確かめられるようになっていた写真(左、右)は、いずれもプレミアムクラスのシート。ボーイング777-200ER新造機(国内線仕様)より順次導入されている。USB給電も可能
普通席のシート。足下の構造を工夫し、薄型背もたれを採用するなどで、従来より広い空間を確保している
CAの歴代の制服展示も行われていた。訪れるお客さんの年代によって、「懐かしい~」と反応する制服が異なるそうだ。ANAは今年で60周年となる
JAL(日本航空)は、エグゼクティブクラス(国際線)のシェルフラットネオシートを展示。こちらもその座り心地を楽しむことができる


第2会場:セントレア
 セントレアでは、航空機展示や空港で使われている特殊車両の展示を屋外で、学生の就職を意識した各種展示を屋内で行っていた。空港での展示となるため、週末はヘリコプターのホバリングなどの飛行展示を実施。航空自衛隊のブルーインパルスも演技を行い、多くの観客がその演技を見るために訪れていた。屋外展示場は空港の滑走路に近づいた場所に設けられていたため、セントレアを離発着する旅客機を普段より近くで見られることも人気につながっていたようだ。

週末にデモフライトを行った、航空自衛隊のアクロバットチーム「ブルーインパルス」

 セントレアの展示に関しても写真で紹介していく。

屋外展示・航空機

スバル製の国産軽飛行機「FA-200」を2機展示。いずれもアクロバット飛行チーム「RED SUBARU」の所有機MRJが注目を集める三菱重工業が1970~1980年代に開発・製造していた国産ビジネスジェット「MU-300」。ダイアモンドエアサービス所有の1機
航空自衛隊所属の国産輸送機「C-1」同じく航空自衛隊所属の国産練習機「T-4」。プラット&ホイットニー製のエンジンを採用するC-1とは異なり、T-4はIHI製の国産エンジンを採用しているこちらも航空自衛隊所属の国産練習機「T-7」。スバル製
JAXA(宇宙航空研究開発機構)の実験用機「飛翔」。ベース機はセスナのサイテーション・ソヴリンビジネスジェットのトップシェアメーカーであるガルフストリーム・エアロスペース製の「Gulfstream G450」。人気モデル「Gulfstream IV」をベースに最新のハイテク装置を導入した新鋭機JCAB(国土交通省・航空局)所有の飛行検査機、ボンバルディア製の「BD-700」
朝日航洋のセスナ製「モデル560・サイテーションV」「キングエア」の相性でも知られるビーチクラフト社のターボプロップ機「B200」。展示機は中日本航空所有パイパー製「PA-28RT-201T」。PA-28シリーズのなかのArrow IVと呼ばれるモデルで、垂直尾翼にT字翼を採用したタイプ
WACO Classic Aircraft製の複葉機「Waco YMF-F5C」JA2012での展示というわけではないが、中部国際空港からボーイング787の部材を運搬するための「B747-400LCF(通称:ドリームリフター)」が、JA2012開催のタイミングで2機(N747BCとN780BA)飛来し注目を集めた。現在世界に4機のみが運行されており、その半分がセントレアに集結したことになる

屋外展示・ヘリコプター

ロビンソン製「R22」。個人所有機でコックピットの見学も可能だった川崎重工業製「BK117B-1」。ボディーのペイントから防災ヘリとして使用されているようだ
陸上自衛隊所属の「OH-1」陸上自衛隊所属の「UH-1J」海上自衛隊所属の「SH-60J」

屋内展示

ジェットエンジンの内部構造が分かる動作模型。戦闘機などで使われるターボジェット、民間ジェット機で利用されるターボファン、双発以上のプロペラ機の主流であるターボプロップ、ヘリコプターで使われるターボシャフトは、いずれもこのタービンエンジンを核としている中日本航空専門学校のブースで展示されたレシプロエンジン、ピストンエンジンなどと呼ばれるエンジンの実物モデル。単発の小型プロペラ機などで利用されているアリソン製ターボシャフトエンジン「250-C20」の実物モデル
ヒューズ製369型ヘリコプターのローター・ヘッド。鋳造アルミ合金製で4枚のブレードを装備している国産旅客機として日本の空を飛び、2006年に旅客運航から全機が退役した「YS-11」のコックピットトレーナー。多数のアナログのメーターが古き時代を感じさせる。
JALのブースで展示された、ボーイング777のランディングギアに使用されているラジアルタイヤの切断モデル。トレッドは3回まで張り替えて利用されるボーイング747-300以前のいわゆるクラシックジャンボやDC-10などで使われたプラット&ホイットニー製ターボファンエンジン「JT9D」のファンブレード
整備士が作成したという、木製のボーイング787コックピット。近代のグラス化されたコックピットと、先述のYS-11のコックピットを対比してみるとおもしろい川崎重工業がライセンス生産した「ヒューズ500」。運動性能のよいコンパクトなヘリコプターであることから、1960年代以降、警察、消防、報道、海上保安庁、自衛隊などさまざまな用途で用いられた

働くクルマ・特殊車両

降雪時・凍結時に凍結防止剤の散布と、除雪作業を行う「プラウ付き凍結防止剤散水車」。プラウの幅は4.5m。除雪時には幅60mの滑走路を同時に3台並んで3往復するこちらも降雪時に活躍するスノースイーパー。前方のブラシを回転させて雪を掃き、左右の排風機から送風して雪を吹き飛ばす走行しながら消火活動が可能な空港用大型化学消防車。もっとも大型なこのタイプは水タンク1万2500L、消化剤タンク800Lの容量を持つ
同じ空港用化学消防車の高速タイプ。通常の大型化学消防車が80km/h到達に31秒かかるのに対し、こちらは20秒で到達。水タンク3000L、消化剤タンク200L。最速で現場に到達して初期消火作業にあたる多数の医薬品や単価、医療用テントなどを積載して、事故現場で野戦病院となって活動する救急医療搬送車
ここからはイベントとは関係のない、空港内の作業車両。こちらはタラップ車やパッセンジャーステップカーなどと呼ばれる車両。ターミナルビル直結のボーディングブリッジを使用しない場合に乗客の乗り降りに用いられる奥の2台は「カーゴローダー」と呼ばれる車両で、飛行機からコンテナなどの積み下ろしを行う。手前の一台は「ベルトローダー」と呼ばれ、コンテナに積まれない乗客の荷物を旅客機の後部格納庫へ積み下ろしする積み下ろしされるコンテナは、コンテナトラックで連結されて地上を走行する
いわゆる「トーイングカー」。前輪と接続し、バック走行ができない飛行機を、駐機場から誘導路まで押し出す飛行機へ給油を行う給油車(リフューエリングカーやサービサーとも呼ばれる)。中規模以上の空港ではハイドランド方式と呼ばれる給油方式が多用されており、給油車は駐機場まで送られてくる燃料を吸い上げ、航空機へ給油する中部国際空港の駐車場では会期中、キャデラック、シボレーの展示会も行われていた

【お詫びと訂正】記事初出時、働くクルマの写真と説明にずれがありました。お詫びして訂正します。



国際航空宇宙展事務局 宮修一氏

記者会見
 国際航空宇宙展を主催する日本航空宇宙工業会はトレードデーの最終日に記者会見を実施。日本航空宇宙工業会 国際航空宇宙展事務局 宮修一氏は、今回の国際航空宇宙展は成功との見方を示した。

 今回、横浜から名古屋に会場を移して心配したのは、来場者数が下回るのではということ。ところがふたを開けてみれば、毎日5000人以上の来場者数があり、トレードデー終了前日時点で前回以上の数字を得られていると言う(最終的には、2会場合計入場登録者数16万2884人となり、目標の9万3000人を大きく上回った)。

 また、トレードショーであるため企業の商談につながることが大切だが、今回は事前に企業の希望を聞いて、適切な企業とつなぐビジネスマッチングを実施。これが好評で、すぐに企業同士が商談に入ることができたと言う。「目標は5000件だったが、2日間で3497件の商談が得られたのはかなりの成果だと思う」と語った。

 国際航空宇宙展での問題点は、飛行場で展示会を行えるのが理想だが、日本では空港のなかに、大きい展示面積を有した展示会場がないこと。海外では、当たり前のように実現している、飛行展示を伴うトレードショーの形が日本ではインフラの問題で成立していない。名古屋でも、結局2会場に分散する形となっており、その点が残念ではあるとしたものの、MRJ、ボーイング787関連の製造企業が多数存在する、「名古屋でやった強みはあったのではないか」とのことだ。

 次回開催は通常であるならば4年後となるが、2013年には日本のもの作りの期待を担うMRJが初飛行する予定。「MRJの初飛行にあわせて開催間隔を短くする予定はあるのか」という質問には、「国際航空宇宙展は1企業のために開いているのではない」(宮氏)と答えつつも、MRJは実に多くの企業がかかわる航空機製造だけに、「会期が終わってから次回の開催については検討していくことになる」と答えた。

 最終的な入場者数である16万人という数字は、大成功と言えるものであり、MRJの初飛行が来年行われる予定であることを考えると、次回も名古屋開催になるのではないだろうか。時期については、MRJの初飛行時期を考えつつとなるだろう。ちなみに、ホンダのビジネスジェット機ホンダジェットは初飛行を米国ですでに行っており、MRJとの共演が実現するのを望みたいところだ。

(編集部:谷川 潔/Photo:清宮信志)
2012年 10月 29日