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自工会、GPGPUを使った車両開発の効率化について発表

「NVIDIA Manufacturing Day 2013」

スズキ デジタル技術部CAE推進課 砂山良彦氏
2013年1月17日発表

 自工会(日本自動車工業会)は1月17日、NVIDIA主催のイベント「NVIDIA Manufacturing Day 2013」において、車両開発におけるGPGPUの有効性についての発表を行なった。

 GPGPUとは、グラフィックスカードなどに搭載されているGPUを画像処理以外の目的に利用する技術で、発表会ではNVIDIAの最新GPUアーキテクチャである「Kepler」をCAE(Computer Aided Engineering)に導入し、ベンチマークテストを実施した例などが示された。

 自工会の電子情報委員会では、従来より自動車業界における電子情報全体の業界共通課題を取り扱ってきた。その中で、2012年度のスーパーコンピュータ性能ランキングトップ10のうち、2台がGPGPU、1台がXeon-Phiのコプロセッサを採用して演算能力を向上させている点に注目。実際の解析モデルを使ってCAEソフトによる計算の高速化とコストパフォーマンスや実用性向上の調査を実施することになったという。

GPGPU調査の背景
スズキにおけるCAEサーバーの歴史
過去のシステムとの比較

 会場では自工会 電子情報委員会を代表して、スズキ デジタル技術部CAE推進課の砂山良彦氏が発表を行なった。

 自工会の調査ではGPGPUの導入については2011年度では9社中1社が導入済み、2社が2~3年以内の導入を検討しているということだったが、2012年度には4社がすでに導入し、さらに4社が数年以内に導入する計画があるという。

 車両開発におけるCAEの現状は、低燃費化への技術開発の加速、ユーザーが求める品質と低コストの両立、開発機関短縮、開発費用削減など、こうした課題を解決するためにCAEは無くてはならないシステムとなっている。これをいかに高速化できるかが自動車産業界のテーマの1つであるが、1社単独では限られた条件下でしか評価できず、なかなか難しい。そこで自工会が業界横断的に検証を実施したという。

 公開されたベンチマークは、ソフトウェアに構造解析ソフトである「Abaqus 6.12-2」、GPGPUとしてNVIDIA Tesla K20、CPUとしてIntel Xeon E5-2667(2.9GHz)を使用。そのほかの仕様は、64GBメモリ、Linux RHEL 6.2を採用したシステムとなっている。

 まず最初のテストである非線形静解析#1では単気筒エンジンを解析モデルとしたもので、自由度数は4.2Mdof。このテストでは1CPUで処理を行なったものに対して、1CPU+1GPGPUを採用したシステムでは73%の処理速度向上が見られた。これは4CPUを使用したテストと同じ結果であり、GPGPUによる処理能力の効率化が有効であることの証明だという。ただ、闇雲にGPGPUを増やせばよいというものではなく、4CPU+1GPGPUのシステムと、4CPU+2GPGPUのシステムではそれほど差が広がらないという結果も出ている。

 また、自由度数が多いものほどGPGPUが効果的であり、反対に少ない場合はGPGPUの効果も下がる。その例として非線形静解析#2のベンチマークテスト結果が示された。これは非線形静解析#1と同様の単気筒エンジンを解析モデルとしたものだが、自由度を0.7Mdofに減らしたもの。このテスト結果では1CPUのシステムに対して、1CPU+1GPGPUのシステムによる効率化が33%にとどまっており、#1のテスト時の73%に対して低い数字となっている。逆に、先のテストでは1CPU+1GPGPUのシステムと同等の能力になっていた4CPUのシステムは、このテストでは66%の効率化を実現しており、安定したパフォーマンスを発揮していることが分かる。このあたりは使い分けを考えながらシステムを構築していく必要があるという。

Abaqus 6.12-2による非線形静解析#1
Abaqus 6.12-2による非線形静解析#2
ParticleWorksを使ったギヤオイル攪拌解析

 流体解析ソフトParticleWorksではさらに大きな効果が見られた。使用されたシステムはGPGPUにNVIDIA Tesla C2070、CPUがIntel Core i7 3.47GHz。ギヤオイルの攪拌解析で、ミッションギヤ単体を解析モデルとした。このテストでは8CPUのシステムに対して8CPU+1GPGPUのシステムが84%もの高速化を実現している。

 コストに関しては、砂山氏が具体的な数字は出せないとしながらも、スズキにおける実例を示した。これによると、従来は単純にシステム数を増やすことで処理能力を稼いでいたたという。このためソフトウェアのライセンス数もシステムの数だけ増やす結果になっていた。GPGPUの採用によってハードウェア自体のコストは僅かに増加したが、CPUのみの構成に比べてシステムの並列数が減った結果、ソフトウェアのライセンス数も減ることになり、結果としてトータルコストを下げることになったという。

 砂山氏は、GPGPUの採用よってCAEソフトウェア利用の効率化と総合的な費用削減効果もあるとし、今後もさらにGPGPUの実効性能が向上することに期待しているという。

(清宮信志)