ニュース

ホンダ、2013年のモータースポーツ体制を発表

「F1に復帰に向けては“勉強中”」と伊東社長

本社内のウエルカムプラザでで開催された2013年モータースポーツ体制発表会
2013年2月8日発表

 本田技研工業は2月8日、本社ビル内で記者会見を開催し、2013年に参戦するモータースポーツ活動体制の説明を行った。発表によれば、草の根の活動なども含めてグローバルに100を超えるシリーズに参戦ないしはサポートを行っていく予定で、4輪レースでは世界選手権であるWTCC(世界ツーリングカー選手権)、日本のトップカテゴリーであるSUPER GT、フォーミュラカーレースでは北米のインディカーシリーズ、および全日本選手権スーパーフォーミュラー(フォーミュラ・ニッポンから改名)にエンジン供給を行うなどが活動の中心になる。

 昨年の10月に鈴鹿サーキットで行われた日本ラウンド以降参戦を開始したWTCCは、昨年のティアゴ・モンテイロ選手に加えて、2009年のWTCCチャンピオンであるガブリエル・タルキーニ選手が加入し、2台体制でドライバー、マニファクチャラーの両タイトルを狙う。SUPER GTに関しては、昨年同様5台のHSV-010を走らせ、現行規定の最終年となる2013年のチャンピオンを狙うことになる。また、インディーカーシリーズに参戦中の佐藤琢磨選手は引き続き同シリーズを戦うほか、昨年に引き続きスーパーフォーミュラにもスポット参戦することが明らかにされた。

 また、ホンダの伊東社長は噂されているF1参戦については「前回の参戦時には結果が残せなかっただけに悔しいという気持ちは持ち続けている。ただ、現時点では学習中」と述べ、具体的にイエスともノーとも言わない答えに留まったが、少なくとも否定的な発言はなく、以前よりも可能性が高まっているのではないかという印象を報道陣に与えた。

「参戦するからには勝ちにこだわっていく」と伊東社長

 伊東社長は「ホンダにとってモータースポーツは欠くことのできないモノだ。ホンダはモータースポーツを使命と捉えており、それによりもたらされる楽しさなどを世界各地のお客様と共有していきたい」と述べ、これまでもそうだったように、2013年も各種のモータースポーツに積極的に取り組んでいくという姿勢をまず明確にした。

本田技研工業 代表取締役 社長執行役員 伊東孝紳氏
2013年のデトロイトモーターショーに出展されたNSXコンセプト、今後これをベースに2014年のSUPER GT/GT500車両が開発されていく
ドライバー、ライダー、監督、ホンダの関係者が集まっての記念撮影

 よく知られているように、ホンダはこれまでもF1世界選手権などを含めたグローバルなモータースポーツに積極的に参戦しており、かつ実際に多数の勝利を収めるなど成績を残してきた。そうした活動を通じて企業イメージの向上なども図ってきたこともあり、さまざまなカテゴリーのモータースポーツに積極的に取り組んできた歴史がある。伊東氏は今年もそうしたホンダの姿勢には何も変わりがないことを強調した。

 その後、Moto GPなどを含む2輪の活動について触れた後、4輪の活動について言及し、「昨年より参戦を開始したWTCCではデビューイヤーにもかかわらず3位表彰台を獲得した。今年はマシンの戦闘力をさらに向上させ、チャンピオンを目指す」と述べ、参戦2年目で本格参戦初年度となるWTCCでのチャンピオン獲得を目標にしていると宣言した。

 また、SUPER GTに関しては「今年はHSV-010の最終年度でもちろんタイトル獲得を目指すが、2014年にはNSXコンセプトをベースにしたレース車両を市販モデルに先駆けて投入していく予定で、その開発も進めて行く」と述べ、昨年のモータースポーツ体制発表会で発表したNSXコンセプト(次期NSXとなるコンセプト車)ベースのSUPER GT車両の2014年の投入について再度触れ、その開発の年としても重要な1年になると説明した。

 伊東氏は「むろん、どのシリーズでも競争は大変だが、ホンダとしては体制を強化し、勝ちにこだわっていきたい」と決意を表明して挨拶を締めくくった。

強力なライバル達と競り合ってチャンピオンを目指すシビックWTCCは3台体制

 ホンダが参戦するカテゴリーの中で、グローバル向けのシリーズで最も力を入れているのが、WTCCだ。WTCCは、ヨーロッパ、北米・南米、中国、日本といった世界各地のサーキットを転戦して行われるツーリングカー(スポーツカーなどではなく、一般的な市販車を改造した車)を利用したレース。特別なレーシングカーを利用するF1(フォーミュラカー)やWEC(世界耐久選手権、プロトタイプカー)とは異なり、WTCCでは実際に街中を走っている市販車(年間で2500台以上生産されている量産車)を改造してレース車両としているため、ファンにとっては非常に身近に感じられるレースとなっている。

WTCC参戦体制チームドライバー
Honda Racing Team JAS(ワークス)ティアゴ・モンテイロ選手/ガブリエル・タルキーニ選手
Zengo Motorsport(プライベート)ノルベルト・ミケルズ選手

 ホンダがWTCCに参戦するにあたり用意している車両はシビックWTCCと呼ばれているが、ベースとなっているのは、ホンダがヨーロッパで販売している5ドアのシビック(日本では販売されていない、5ドア・ハッチバックのモデルとなる)。昨年の10月に鈴鹿サーキットで行われたWTCC日本ラウンドでデビューし、最終戦のマカオラウンドでは第1レースで3位表彰台を獲得するなどの結果を出している。2013年は本格参戦の1年目ということになるが、昨年のチャンピオンだったシボレーワークスが撤退を発表したことで、メーカーのワークスチームはホンダだけになっており、本格参戦1年目からチャンピオン争いをすることが期待されている。

WTCCに参戦するシビックWTCC
シビックWTCCに搭載されるエンジンHR-412E
ティアゴ・モンテイロ選手
ガブリエル・タルキーニ選手

 WTCCにはワークスチームとなるHonda Racing Team JASに2台と、プライベートチームに1台の3台体制で参戦する。Honda Racing Team JASのドライバーは、昨年ホンダに初表彰台をもたらしたティアゴ・モンテイロ選手と、2009年のWTCCチャンピオンであるガブリエル・タルキーニ選手の2人で、いずれも経験豊富なベテラン選手で、初年度からチャンピオン争いすることを十分期待できる。

 プライベートチームは、昨年までBMWで走っていたノルベルト・ミケルズ選手のZengo Motorsport(ゼングーモータースポーツ)。ミケルズ選手は、ハンガリー出身でWTCCのプライベーター向けのクラスであるヨコハマトロフィーを獲得した実力の持ち主で、こちらも結果が期待できそうだ。

 記者会見後の質疑に応じた本田技術研究所 シビックWTCC開発担当主任研究員 堀内大資氏は「最初はFIAが決めたGREと呼ばれる汎用のレーシングエンジンを開発するプロジェクトとして始まったが、昨年の1月に10月の鈴鹿に出ろと言われてWTCCプロジェクトはスタートした。それから突貫工事で取り組んできてなんとか鈴鹿に間に合わせることができた。その後、クルマが壊れるたびにそこを直してという状況だったが、開発は急カーブで進むようになり、なんとかトップチームに食いつくレベルになり、マカオでは3位表彰台を獲得することができた。今年は、その開発カーブを維持しながら、トップチームに追いついて追い越していきたい」と抱負を述べた。

 堀内氏によれば、すでにスペインのバレンシアで最初のテストを終えており、2回目のテストはスペインのアラゴンで臨む予定。「昨年はほとんどプロトタイプのような状態で、直し直し戦っている状態だった。今年のクルマに関してはそうした信頼性の問題は一掃すべく開発してきて、きちんと走れるようになっていると思う。2人のドライバーの能力もモチベーションも高いので、それに答えられる車を用意していきたい」とことで、順調に開発が進んでいる様子をうかがわせた。

 なお、すでに述べたとおり、昨年のチャンピオンであるシボレーはワークス体制での参加を取りやめているため、記者団からは「楽々優勝できる状況ではないのか?」という質問が出た。堀内氏は「確かにシボレーはワークス体制ではないが、昨年までシボレーのワークスチームを走らせていたRMLは引き続き参戦する。RMLは、チーム内でシャシーもエンジンも開発できるコンストラクターであり、その実力は侮りがたい」と述べ、ワークス体制ではないものの、RMLは強力な競争相手であり、激しい競争になるだろうと予想した。

童夢はミシュランタイヤに変更し、伊沢/小暮の強力コンビのチーム・クニミツがエースへ?

 日本のトップカテゴリーであるSUPER GTに関しては昨年同様の5台体制で参戦する。2013年は現行の車両規定の最終年度にあたっており、2014年からはドイツのDTMと共通化した車両規定のもとに新しい車両が導入される予定だ。

 すでにホンダでは2014年のSUPER GT向けの車両として、次期NSXとなる「NSXコンセプト」をベース車両とすることを決定している。DTMとSUPER GTが一本化に合意した2014年の車両規定では、エンジンはフロントに搭載されるとなっているが、NSXコンセプトベースの車両はGTAの承認により「特認車両」としての参戦が許可される。

 本田技術研究所 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦氏は「昨年もチャンピオン奪還を目指したが果たせなかった。今年は現行規定の最終年であり、有終の美を飾るべく車両にもさらなる改良を加えた。具体的にはエキゾーストをリアからサイドに変え、エンジン効率を上げられるようにした。またそれに合わせて昨年まではサイドにあったラジエターもフロントに持ってきた。このようにクルマに大きな改良を加えるだけでなく、体制も変更し、ドライバーやタイヤ銘柄の変更も行った」と述べ、強力な開発体制、新体制を敷くことで、チャンピオン奪回を果たす。

 実際、ドライバーを含めた、各チームの体制は大きく変わった。

SUPER GT/GT500参戦体制

2013年型HSV-010 GT。ちょうどドアのゼッケンの下あたりにサイドから出ているエキゾーストを確認することができる
8号車 オートバックス・レーシング・チーム・アグリ(ブリヂストン) ラルフ・ファーマン選手/松浦孝亮選手
17号車 ケーヒン・リアル・レーシング(ブリヂストン) 塚越広大選手/金石年弘選手
18号車 ウイダー モデューロ 童夢レーシング(ミシュラン) 山本尚貴選手/フレデリック・マコヴィッキィ選手
32号車 エプソン・ナカジマ・レーシング(ダンロップ) 道上龍選手/中嶋大祐選手
100号車 チーム・クニミツ(ブリヂストン) 伊沢拓也選手/小暮卓史選手
チームドライバー
8号車 オートバックス・レーシング・チーム・アグリ(ブリヂストン)ラルフ・ファーマン選手/松浦孝亮選手
17号車 ケーヒン・リアル・レーシング(ブリヂストン)塚越広大選手/金石年弘選手
18号車 ウイダー モデューロ 童夢レーシング(ミシュラン)山本尚貴選手/フレデリック・マコヴィッキィ選手
32号車 エプソン・ナカジマ・レーシング(ダンロップ)道上龍選手/中嶋大祐選手
100号車 チーム・クニミツ(ブリヂストン)伊沢拓也選手/小暮卓史選手

 最も大きな変化は、ホンダワークスカーとされている童夢のタイヤがブリヂストンからミシュランへと変更されたことだ。また、同じくホンダのエースドライバーとされている小暮卓史選手がこれまで8年間在籍してきた童夢からチーム・クニミツへと移籍したことだろう。これにより、逆にチーム・クニミツにだった山本尚貴選手が童夢へと移籍し、新たに新外国人のフレデリック・マコヴィッキィ選手とコンビを組むことになった。

 こうした組み合わせになった狙いの1つは、ホンダのエースである小暮選手と、その小暮選手に次ぐポジションにいると考えられる伊沢選手を組ませることでより強力なコンビを結成させ、100号車でチャンピオンを目指すということだろう。なお、チーム・クニミツもマシンのメンテナンスはホンダのセミ・ワークスと言ってよいM-TECが行っているので、ドライバーコンビから考えても実質的なホンダのエースカー的な存在になりそうだ。

 その小暮選手が抜けた童夢は、小暮選手と入れ替わりでチーム・クニミツから移籍してくる山本尚貴選手と、新外国人選手のフレデリック・マコヴィッキィ選手の組み合わせになる。フランス人のマコヴィッキィ選手は日本ではまったく無名の存在だが、昨年のFIA GT1選手権ではシリーズ2位になるなどの実力の持ち主で、その腕を買われて童夢のドライバーに抜擢された。ただ、正直その実力は未知数で、日本のサーキットを走った経験などもないだろうから、必然的に山本選手がナンバーワンとしてチームを引っ張っていくことになるだろう。

 また、ARTAの松浦孝亮選手、ナカジマの中嶋大祐選手はGT500デビューとなる。松浦選手は、インディカー・シリーズにも参戦しており、昨年まではARTAのGT300をドライブしていたが、その時のドライビングが認められてGT500への抜擢となった。ルーキーと呼ぶには十分すぎるキャリアを持っている松浦選手だが、シリーズとしては初のGT500参戦となる(スポット参戦の経験はある)。中嶋大祐選手は、ナカジマの中嶋悟監督の次男で、今やトヨタ陣営のエースとなった中嶋一貴選手の弟にあたる。昨年GT300にCR-Zでデビューしたが、今年はGT500へのステップアップを果たすことになった。

SUPER GT/GT300参戦体制

2013年型CR-Z GT
後列左から中山友貴選手、小林崇志選手。前列左から2番目が武藤英紀選手と高木真一選手、右端がホンダ技術研究所 GT300プロジェクトリーダー 平沼英勇氏
チームドライバー
16号車 チーム無限(ブリヂストン)武藤英紀選手/中山友貴選手
55号車 オートバックス・レーシング・チーム・アグリ(ブリヂストン)高木真一選手/小林崇志選手

 GT300に関しては昨年より参戦を開始したハイブリッドレーシングカー「CR-Z GT」による参戦が継続される。昨年はチーム無限1台だったが、今年からは昨年までGaraiyaを走らせていたARTAが加わり2台体制となった。

 ホンダ技術研究所 GT300プロジェクトリーダー 平沼英勇氏は記者会見後の懇談会で「昨年の段階では熱問題と、何よりも速さが足りないという問題を抱えていた。その中で、アシストの度合いによっては、FIA-GT3勢との差は小さくなく、今シーズンがどうなるかはそれらとの差次第だろう。各チームには努力いただいているので、それ次第では戦えると思う」と述べ、昨年抱えていた問題を解消すべく努力しており、それが解消され、FIA-GT3勢との性能調整が妥当なレベルになれば戦えるだろうとした。

佐藤琢磨選手はインディカーシリーズに継続参戦

 フォーミュラカーレースに関しては、昨年に引き続きアメリカのインディーカー・シリーズとフォーミュラ・ニッポン改めスーパーフォーミュラという日米のトップカテゴリーへエンジン供給する。

 インディカー・シリーズでは昨年から車両規定、エンジン規定を一新し、新しい車両(DW12)とマルチメイクのエンジン規定を導入し、2011年までのホンダ・ワンメイクから大きな変化を実現している。昨年ホンダは、チャンピオンこそ逃したものの、シリーズ最大のイベントとなるインディ500ではダリオ・フランキッティ選手が優勝するなどしており、シリーズのタイトルとインディ500の優勝が同価値どころか後者の方が価値が高いとされていることを思えば、それなりの結果は残したと言える。

 今年もインディカー・シリーズへのエンジン供給は続けられ、チップ・ガナッシ・レーシング、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング、A・J・フォイト・レーシングなど7チーム・11台にエンジンを供給する。唯一の日本人ドライバー佐藤琢磨選手は、昨年在籍したレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングからA・J・フォイト・レーシングへ移籍して4年目のシーズンをスタートする。佐藤琢磨選手は、昨年のインディ500で最終ラップまでダリオ・フランキッティ選手とトップを争い、フランキッティ選手に押し出される形でクラッシュしてレースを終えた。あと1歩で日本人初のインディ500ウィナーになっていたかもしれないという大活躍を見せた佐藤琢磨選手は、米国のファンにも高い評価を受けた。それを買われてのA・J・フォイト・レーシングへ移籍で、悲願の日本人初のインディカーウィナーを目指すことになる。

 記者会見後の懇談会に登場した佐藤選手は「昨年レイホールへ移籍する前に、別の可能性としてチェックしていたのがA・J・フォイト・レーシングだった。昨年走ったレイホールではストリートやスーパースピードウェイのオーバルではよい結果を出せていたが、ロードコースやショートオーバルでは苦労していた。これに対してA・J・フォイト・レーシングは、飛び抜けて速かった訳ではなかったが、どのコースでも平均的に速かった。このため、今年のレイホールでの経験を持ち込んで、チームと一緒に速い車を作っていきたい」と述べた。すでにチームとミーティングを始めており、よりよい体制や車を作り上げるべく努力をしている段階だと言う。なお、今後2月19日、3月12日~13日に予定されている合同テストなどに参加する予定でスケジュールが組まれており、そこで車を作り込んでいくことになる。

 佐藤琢磨選手は、昨年フォーミュラ・ニッポンの終盤の2戦にスポット参戦したが、今年も同じようにチーム・無限からの参戦を果たすことも併せて発表された。現時点で決まっているのは開幕戦(4月13日~14日、鈴鹿サーキット)だけで、そのほかは未定。終盤戦に関しても参加する予定があると言う。なお、チーム・無限は昨年フル参戦した山本尚貴選手と2台体制で、佐藤選手がインディカー・シリーズで不在にしている間は、一昨年フォーミュラ・ニッポンに参戦していた小林崇志選手が乗ることになる。

佐藤琢磨選手
FN09/ホンダHR12E
スーパーフォーミュラ参戦ドライバーと、本田技術研究所 フォーミュラ・ニッポン プロジェクトリーダーの坂井典次氏(中央)

スーパーフォーミュラ参戦体制

チームドライバー
HPリアル・レーシング10号車 塚越広大選手、11号車 中山友貴選手
チーム無限15号車 佐藤琢磨選手/小林崇志選手、16号車 山本尚貴選手
ナカジマ・レーシング31号車 中嶋大祐選手、32号車 小暮卓史選手
ドコモ・チーム・ダンディライアン40号車 伊沢拓也選手、41号車 武藤英紀選手

 「昨年チャンピオン一歩手前までいった塚越選手がなぜダンディライアンからリアルへ移籍なのか?」という質問に対し、本田技術研究所 フォーミュラ・ニッポン プロジェクトリーダーの坂井典次氏は「ホンダとしてはこのカテゴリーには人材育成の意味も持たせている。昨年トップチームでホンダのトップだった塚越君がそのノウハウを持って別のチームに行くことで、新しいチームをトップチームにして欲しいという思いがある。そうやってドライバーをシャッフルすることで、ホンダ全体としてレベルが上がってほしいと考えている」と述べ、ホンダ陣営の中で最もよい成績(昨年のフォーミュラ・ニッポンでドライバーズランキングで2位)だった塚越選手だからこそ移籍してもらったのだと説明した。

F1参戦の噂に関しては“勉強中”と、明確な否定をせず

 2014年からF1のエンジンが新規定になることにあわせて、ヨーロッパではホンダがF1にエンジン供給で復帰するのではないかということが噂になっていることに対する質問が出た。2014年のF1では、1.6リッターV6ターボエンジンの新規定が導入される。それにあわせて、ERS(エネルギー回生システム、現在のKERSに熱回生の新機能を追加したユニット)のシステムも導入されることが明らかにされており、ハイブリッドをウリにする日本のメーカーにとっても興味深い規定になっているのだ。

 また、現在メルセデスのワークス待遇を受けているマクラーレンが、2014年からはメルセデスのカスタマー待遇になることと、ホンダの復帰を結びつける噂も根強い。言うまでもなく、マクラーレンとホンダの組み合わせは、1988年シーズンの16戦15勝の圧倒的なシーズンを含めて、1988年~1991年の4シーズンもドライバー/コンストラクターズタイトルを独占するなど大成功を収めた。そのこともあり、「マクラーレン・ホンダ復活か?」との憶測記事がモータースポーツ関連の雑誌に掲載されはじめている。

 「2014年のF1復帰は?」との質問に対して、伊東社長は「前回のF1参戦ではいい成績を残せなかったこもあり、悔しいという気持ちは持ち続けている。ホンダは常に1番を目指して夢をもってやっていきたいと思っているし、以前に比べればホンダの置かれている環境も改善された。ただ、F1のレギュレーションも変わりつつあり、今は一生懸命勉強している」と述べ、否定するわけでもなく、肯定するわけでもないという回答を行った。

 伊東社長の「勉強している」という言葉が、実際に研究しているのか、それとも情報収集しているだけなのかは、明らかではない。F1撤退時のように「環境が許されない」という答えではなかったことは、ファンにとっては何かを期待してもよい状況に変わってきているのではないだろうか。

(笠原一輝)