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【連載】西川善司の「NISSAN GT-R」ライフ
第20回:GT-Rにドライブレコーダーを取り付ける【後編】COWON AC1の運用と活用
(2013/6/28 00:00)
前回(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130513_598775.html)、COWON製ドライブレコーダー「AC1」を、停車中も時限動作制御付きで動作できるように防犯カメラ的にも使えるようにDIY取付を行ったわけだが、今回はその活用編リポートをお届けする。
AC1専用の制御ソフト「PCビュアー」
COWON AC1は、操作ボタンと呼べるものは1つしかなく、そのボタンはユーザーが自発的に録画開始/停止を行うためのもので、動作設定を行う操作系は本体には搭載されていない。
基本的に、AC1本体はmicroSDカードに記録された設定ファイルの内容に基づいて動作する仕様となっており、この動作設定ファイルの書き換えはPC上で行う必要がある。もちろん、GUIベースで作業できる専用ソフトウェアが提供されているので、これを用いて設定することになる。ソフト名は「PCビューアー」となっているが、単なるAC1対応の録画再生ソフトではなく、AC1の動作設定モードの詳細設定も賄うAC1制御ソフトウェアとしての顔も持っているので、インストールすることを奨励する。
なお、このPCビューアーは動作設定ファイルの書き出しに対応する関係上、AC1のファームウェアと対(ペア)になっているので、ファームウェアをアップデートした場合はPCビューアーも同一世代のものにアップデートする必要がある。ファームウェアとPCビューアーは1年に数度行われているので、商品セットに付属するCDROMに収録されているものをインストールする前に、COWONサポートページ(http://www.cowonjapan.com/support/support_wide.php)をチェックしておきたい。
このPCビュアーについては、取扱説明書にも解説がなく、分かりにくい部分も多いため、筆者が実際に使って学んだ経験則的な情報をお伝えしておこう。
PCビュアーを起動しよう
最初の起動時に下のようなメッセージウィンドウが出現する。これは端的に言うと、「MPEG4-AVC(H.264)のコーデックをインストールせよ」という内容のものだ。左側の応対ボタンが日本語で、右側の方はハングル表記という、なんとも国際色豊かなデザインだが、ハングル表記の方は「何もしないで次に進む」操作に相当する。
結論から言うと、AC1の録画形式は標準的なH.264ビデオファイルなので、適当なH.264対応コーデックがインストールされていれば、別に新たにインストールする必要はない。手っ取り早く再生するには、フリーソフトのH.264対応メディアプレイヤー「GOMPlayer」(http://www.gomplayer.jp/)などを利用するとよい。もちろん、愛用のH.264対応メディアプレイヤーがあればそれを使ってもよし。
ただ、その場合、AC1が奨励するコーデック(ffdshow)をインストールするまで、この「インストールせよ」ウィンドウは出てしまう。
PCビュアを起動すると下のような画面が出現する。このウィンドウの右のペインには録画ファイルのAVIファイルが羅列され、ここから再生したいAVIファイルを選択することで再生画面がここの中央のメインウィンドウに表示される。下は再生制御パネルだ。
右のペインをよく観察すると、その上部に「駐車録画」「手動録画」「イベント録画」「常時録画」といったタブが並んでいることに気がつく。
「常時録画」を選択したときに表示されるAVIファイル群は、走行中にリアルタイム撮影されたものになる。いわゆるドライブレコーダー本来の機能によって生成されたものだ。「イベント録画」には、衝撃などをきっかけにその前後数十秒を記録した録画群が集められている。同様に「手動録画」を選択したときに表示されるものは、AC1本体に唯一備わっているボタンを押して録画されたビデオファイル群となる。
そして「駐車録画」には、駐停車中、撮影範囲内に動きを検知した場合、その前後、数十秒を記録した録画群が並ぶことになる。
先ほど、愛用しているメディアプレイヤーでも、ビデオファイル群は再生できると述べたが、その場合はWindowsのエクスプローラなどを使ってmicroSDカード内をブラウズし、直接AVIファイル群を選択して再生することになると思うが、「常時録画」「イベント録画」「手動録画」「駐車録画」は、SDカード上の「COWON_BLACKBOX」というフォルダ階層下にある「REALTIME RECORDING」「EVENT RECORDING」「MANAUL RECORDING」「MOTION RECORDING」に収められている。
なお、対応は、
REALTIME RECORDING=常時録画
EVENT RECORDING=イベント録画
MANAUL RECORDING=手動録画
MOTION RECORDING=駐車録画
となっている。
PCビューアーのブラウジング機能は低く、右ペインには録画ファイルのファイルネームを羅列するだけ。各日付は表示されるが時刻はそのファイル名から類推するしかない。せめて各ビデオファイルのサムネイルは出して欲しかった。そもそも専用ソフトとして提供されているビュアーソフトなのに、フリーソフトのH.264コーデックを別途インストールしなければならないという設計もどうかと思う。専用ソフトならば単体で動作できるように設計すべきだろう。
AC1の動作モードを設定する
AC1の動作モード設定は、このPCビュアー上部の「設定」ボタンを押して開くウィンドウにて行う。
この画面がPCビュアーのもっとも重要な機能だと思うのだが、取扱説明書には説明の記載がないので、この部分も解説しておこう。
「デバイス時刻設定」は、AC1の内蔵時計に時刻を設定するもの。高確率で工場出荷状態のAC1の内蔵時計は現実の時刻とはずれてしまっているため、ここで設定する必要がある。設定の仕方がとても特殊なので仕組みと手順を記しておこう。
まず、時刻設定をする際には「掛かっている鍵」アイコンをクリックして「外れた鍵」の状態にする。続いて、左側の日時設定欄で希望時刻を設定するのだが、ここで設定するのは現在時刻ではなく、「microSDカードをAC1に差し戻して電源をオンにする予定時刻」を設定する。これは、microSDカードを挿入して起動したときに初めて、設定した日時がAC1に書き込まれる仕組みだからだ。
ちなみに「掛かっている鍵」アイコンの状態では、この時刻上書き動作は行われない。時刻設定をしたいときにだけ「外れた鍵」アイコン状態にすればいいのだ。ここは少々クセの強いAC1の取っつきにくい部分である。
「音声録音」は、録画の際にAC1本体内蔵のマイクを使って音声も記録する設定を行うものだ。ちなみに、AC1の本体内蔵マイクは車外の音声記録用のため、進行方向に向いて設置されている。車内の会話も記録できないことはないが、車外の音に比べて音量的にはかなり小さくなる。
「効果音」は起動/終了時や録画モードが切り替わったときなどにチャイム音を鳴らすかどうかの設定。「音声メッセージ出力」は、一部の効果音を男性の肉声で出力するかどうかの設定だ。オン時にはAC1動作中に「録画を開始します」「メモリカードが挿入されていません」のような音声メッセージが再生されるようになる。
「画角」は撮影画角を「狭い」「広い」から二択設定するオプションだ。どちらを選択しても撮影解像度は1280×720ピクセルの720pとなる。AC1の撮影レンズは固定式で光学ズーム機能はないので、単純に撮像素子で捉えた映像の記録範囲を指定するものになる。具体的には「狭い」は若干デジタルズームされたような画質になり、「広い」はスペック通りの対角150度の画角での記録が行われる。多くのユーザーが「広い」を選択しそうだが、「狭い」も後述する助手席視点カメラ用途では使い勝手がよい。詳細は後述する。
「録画品質」は上中下の3段階設定。AC1商品セットには8GBのmicroSDカードが付属するが、最上画質の「上」で運用する場合は少々容量的に不安だ。AC1は、対応するmicroSDの最大容量は32GBまで。ハイビジョン録画をすることになるのでメモリグレードは高速書き込みに対応するCLASS10が奨励される。最近は32GB/CLASS10のものでも2000~2500円前後で買えるので、なるべく容量の大きいものを用意しておきたい。
「自動駐車切換」は駐停車状態の時にセキュリティカメラ(防犯カメラ)として作動させるかどうかを選択するもの。「自動駐車の切替感度」は、車両が走行中か停止しているかの判断をするための感度設定になる。判断基準となるのはAC1内蔵の加速度センサーだ。通常は感度設定はデフォルトの中央値で問題なし。
「イベント録画」は、衝撃感知時の前後数十秒間を録画するかどうかの設定。こちらもAC1内蔵の加速度センサーを判断基準としている。
「ビデオ出力オートオフ」は、撮影映像をビデオ出力端子に出力する際の時限設定だが、後方カメラが付属するモデル「AD1」用の設定でAC1では無視されるようだ。
「ストレージ容量の割り当て」は、microSDカードの全容量をどの目的の録画用に割り当てるかを「%」設定で指定するもの。デフォルトでは「常時録画」用に60%、「イベント録画」用に20%、「手動録画」用に10%、「駐車録画」用に10%が割り当てられている。通常は設定を変更する必要はない。
「駐車場モード加速度センサーの感度」は、前出の「自動駐車の切換感度」とイメージが重複するが、こちらは「駐停車中にどのくらいの衝撃を受けたらイベント録画を行うか」の設定に相当する。
「加速度センサーの感度」は加速度センサーそのものの根本的な感度設定を行うもの。例えば、衝撃を受けた時に録画を残す動作は、「駐車場モード加速度センサーの感度」×「加速度センサーの感度」で決定されることになる。
実際にAC1をドライブレコーダーとして活用してみる
実際に、筆者のGT-Rに設置した状態での映像を見ていただこう。
参考までに、「画角=狭い」と「画角=広い」の両方の映像を示す。画質は「上」。なお、本稿で示した録画ファイルはすべて画質設定は「上」としている。
前回紹介したように、助手席側のそれもAピラーよりに設置したにもかかわらず、角度調整を行ったことで、ほとんど違和感なく撮れていることが分かって貰えるのではないだろうか。
前述したように光学的な画角制御ではないため、「狭い」の方は解像度が若干甘く見える。一方、「広い」の方が見た目の解像感はよい。しかし、「狭い」は「広い」の映像を切り出して拡大しているだけなので、「狭い」も「広い」も撮影解像度自体(もっといえば映像情報量)は変わらない。
筆者の設置ケースでは、助手席よりに設置した関係で、「画角=広い」では左側にAピラーの内装が映り込んでしまうことになった。その意味ではもう少し、中央よりに設置してもよかったかも知れない。
ドライブレコーダーの性能談義でよく話題に上がる「LED信号機」についてだが、AC1の場合、明滅状態の録画にはなる。しかし、筆者が検証した範囲では2フレーム連続して消えることはなく、一部のドライブレコーダーで起こる完全消失期間は確認されなかったので、実用上は問題ないはずだ。
30Hzの録画周波数(フレームレート)は、予想通り一般道では必要十分だと感じたものの、高速道路ではやや力不足という印象。また、一般道であっても、例えば対向車との接触事故などでは相対速度的に100km/hを超えることになるため、60Hz撮影でないとナンバープレート等の正確な撮影は厳しいだろう。といっても、60Hz撮影に対応したドライブレコーダーは現状、ほとんど存在しないのだが。
夜間はどのように撮影されるのか、気になる人も多いと思う。
下は夜間の高速道路を走行したときの録画で、トンネル内からトンネル外へ抜ける情景が撮影されている。トンネル内もトンネル外も明かりが照らされている範囲の視認性はよい。しかし、間接光でうっすらと浮かび上がるような暗い情景の視認性はあまりよろしくない。
一方、夕暮れ時の撮影能力はなかなか優秀だ。下の録画は2月期の18時の映像で、漆黒とはいかないまでもほとんどの車がヘッドライトを点灯し始める頃合いの様子だが、実際の視界よりもかなり明るく撮れる。
おそらくAC1の撮像素子自体は、暗い情景の撮影能力も高い。しかし、映像エンジンが、高輝度領域と漆黒領域が混在した映像フレームがやってきたときに対処しきれないのだと思われる。
下は太陽に向かって走行するような逆光状態の録画だ。太陽自体は撮影範囲外にあるが、かなり強い日差しがこちらに向かって降り注いでいる。空の輝きやアスファルトの照り返しが強いため、日陰となったトラックのナンバープレートはほとんど見えなくなってしまっている。肉眼では普通に見えるのに、だ。これは、前述した筆者の推論が正しいことを物語っている。
ショッピングモールのような大型の駐車場は、事故の起きやすい場所の1つだ。無数の交差点が高密度に集約したような場所なので、速度域は低くても事故の遭遇率はそれなりに高い。ということで、駐車場での録画も示しておこう。
「よどんだ明るさ」程度の環境下でも明るい映像で記録してくれるのは夕暮れ時と同じ。なかなか優秀だ。しかし、自車のヘッドライトからの直接光があたった個所やその周囲は白く飛んでしまうのが見て取れる。
明暗差が激しい情景の撮影への適応能力の向上……これがAC1の抱える課題だと筆者は考える。もっとも、この特性はAC1に限ったことではなく、ほとんどのドライブレコーダーが潜在的に抱えている課題でもあるのだが。
AC1の防犯カメラとしての実力は?
前回、苦労して時限機能付き常時供給電源を搭載したのは、AC1を駐停車中に防犯カメラとして活用するためだった。実際、ショッピングモールで駐車したときにイベント録画されたのものの1つを示そう。
これは、自車の前に近づく動体を検知して録画されたもの。実際には1分程度の常時録画を行い続け、動体を検出すると、その前後30秒をビデオファイルとして残す、という動作になっている。
明暗差が激しいので階調表現はかなり粗めになってしまっているが、人相や衣服の特徴は分かるレベルでは記録されている。
ちなみにAC1の駐車場録画モードでは、動体を検知するとAC1側面の赤LEDがリング状に点滅するギミックが仕込まれているので、近づく者に「録画していますよ」というアピールもなされるので、いたずら防止の抑止力としてはそれなりに効果はあると思われる。
AC1を助手席視点カメラとして活用
筆者はAC1を助手席側に設置し、そのビデオ出力をGT-Rの運転席に組み付けられている液晶モニターであるマルチファンクションディスプレイ(MFD)へと接続した。これにより、コンソールパネルの[AUX]ボタンを押せば、いつでもMFDにAC1の撮影映像をリアルタイム表示させられる。この接続手法や配線手法については前回を参照して欲しいが、あえて助手席に設置したのは、運転席からは見えない左側車線の様子を探るためだった。
実際に、高速道路を走行中、大型の観光バスの後ろに付いてしまった状況下を収めたものがこちらだ。運転席側からはまったく左側車線の様子が見えなかったのだが、AC1の映像を見てもらうと分かるように、このように手に取るように左側車線の奥行きの状況が見て取れる。
ただ、MFDへの接続はアナログのコンポジットビデオ信号になるので、解像感はだいぶ低下する。また、アナログ接続のため、車内の音声再生に連動する感じで画面にうっすらとノイズも入るようだ。撮影したAVIファイルにはこのノイズはないことから、AC-MFD間のアナログ接続でノイズを拾っているものと思われる。
一応筆者は、気休め的にノイズ低減のためにフェライトコアを挟み込んだが、気になる人はブースターなどをかますとよいかもしれない。それにしても、そろそろメーカー純正の車載機器にもデジタル接続のHDMIを採用して欲しいものである。
それと、この助手席視点カメラの使い勝手を重視する場合は「画角=狭い」の方が都合がよいということにも気がついた。「画角=広い」だと、MFDに映したときに遠景がかなり小さくなってしまい、見にくくなるのだ。画角の「広い」「狭い」の選択は「ドライブレコーダー重視か」「助手席視点カメラ重視か」で決めることになるかも知れない。
終わりに~運用時の注意点
最後に、AC1を導入して3カ月が経過した現在までに気がついた細かな注意点を述べておきたい。
今回のようにAC1を常時供給電源を組み合わせて運用すると、たとえエンジンを切ってもずっと動作を続けることになる。なので、microSDカードを抜き取る際には、電源ケーブルをAC1本体から抜き取って、完全に動作を静止させてから行う必要がある。これをやらないとmicroSDカード書き込み中にmicroSDカードを抜き取ることになり、高確率でファイルシステムを破損させてしまう。筆者も、数度これをうっかりやってしまった。
もちろん、ファイルシステムが破損しても、microSDカード自体はフォーマットし直せば再度利用できるようになるが、大事な録画ファイルを失うばかりか、PCビューアーで設定したAC1の動作モード設定も初期化されてしまう。注意されたし。しかし、いちいち電源ケーブルを外すのも面倒なのも事実で、強制電源オフボタンは欲しかった気がする。
それともう1つ。窓ガラスが汚れていると録画映像の画質が落ちて、逆光時は汚れに太陽光が拡散してしまいほとんど何が写っているか分からなくなるという点。ドライブレコーダーの撮影対象物は窓ガラスの向こう側の情景なので、出発発進前にはさっと窓ガラスを拭くことを心がけたい。もちろん、これはAC1固有の問題ではなく、ドライブレコーダーを運用する際の基本留意点なのだが。
西川善司
テクニカルジャーナリスト。元電機メーカー系ソフトウェアエンジニア。最近ではグラフィックスプロセッサやゲームグラフィックス、映像機器などに関連した記事を執筆。スポーツクーペ好きで運転免許取得後、ドアが3枚以上の車を所有したことがない。以前の愛車は10年間乗った最終6型RX-7(GF-FD3S)。AV Watchでは「西川善司の大画面☆マニア」、GAME Watchでは「西川善司の3Dゲームファンのためのグラフィック講座」を連載中。ブログはこちら(http://www.z-z-z.jp/BLOG/)。