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「ワンダーフェスティバル 2013[夏]」リポート(ガルパン編)

「ガールズ&パンツァー」がもたらした戦車道効果

夏と冬に開催される造形物の祭典「ワンダーフェスティバル」
2013年7月28日開催

 「ワンダーフェスティバル 2013[夏]」(通称:ワンフェス)リポートの第2弾は、特殊車両の展示や模型について取りあげる。要するに戦車である。今回、ワンフェス会場内には、2輌の1/1スケール戦闘車輌が出展された。

 ワンフェスにおいて、1/1スケールモデルが展示されるのは珍しいことではない。スケールモデルではないが、2012年には水道橋重工による搭乗可能なロボット「KURATAS」が出展され、実際に稼働デモを披露した。また水道橋重工の中心人物である倉田光吾郎氏の手により、同じように1/1のスコープドッグが展示されたこともある。1/1スケールモデルはモデラーの夢でもあり、造形物の祭典であるワンフェスはその展示やデモンストレーションに相応しい舞台とも言えるだろう。

 今回、企業ディーラーが集まる1~3ホールのプロモーションスペースに展示された1/1スケールモデルだが、まず「ヴィーゼル2 空挺戦闘車」がある。これはドイツ陸軍が現在も制式採用している空挺部隊向けの小型装軌車両だ。出展者は「プラモデルを1/1で作る会」。

プラモデルを1/1で作る会が出展した「ヴィーゼル2 空挺戦闘車」

 プラモデルをはじめとしたいわゆるスケールモデルの場合は、実車を採寸してそれを縮小しミニチュアへと作り上げるわけだが、こちらはまったく逆の手法で1/35スケールのプラモデルを採寸して拡大した図面を製作して1/1モデルを作り上げる。素材はもちろん金属製で、1500ccのディーゼルターボエンジンを積んでいるため自走も可能とのこと。会場内での走行デモは行われていないものの、超信地旋回も行えるという。武装は地対空ミサイルを四連装。発射装置はプロポによるラジコン操作で稼働する(言うまでもなく実弾を発射するわけではない)。搭載するFIM-92スティンガーミサイルの模型も展示された。

 キャッチフレーズは「週末は重工業」。これまでも2010年と2011年にジオン軍、連邦軍(いずれもガンダム)の車輌をそれぞれ製作しており、ヴィーゼル2 空挺戦闘車はプラモデルを1/1で作る会として三作品目にあたるとのこと。ちなみに左側面はドイツ軍のマークが付いているが、右側面はさりげなく黒森峰女学園の校章だった点も見逃せない。

製作の原型となるヴィーゼル2 空挺戦闘車の1/35スケールモデル
武装は地対空ミサイルの4連装発射機。オツェロット(Ozelot)仕様とのこと
FIM-92スティンガーミサイル(の模型)
ヴィーゼル2 空挺戦闘車の前面。乗員は2名で実際に乗れるらしい
左側面にはさりげなく黒森峰女学園の校章が貼られている
製作過程がボードで詳しく紹介されていた

 カマドが展示していたのは「九五式軽戦車 ハ号」。帝国陸軍の軽戦車として1930年代に開発、制式採用された。太平洋戦争における日本軍の主力戦車の1台である。展示されているのは当時の車輌ではなく、米国HBOが制作したTVドラマシリーズ「ザ・パシフィック」の撮影に使用されたプロップ(小道具)で、オーストラリアのコレクターから購入したとのこと。小道具なので内装は異なるものの、フォード製V8エンジンを搭載して自走も可能だとしている。履帯は実車から型取りして製作された。ちなみに、ガールズ&パンツァーに登場する「八九式中戦車 甲型」は初めての国産量産型戦車で、九五式はその次の世代として設計、開発されている。

1/1スケールの「九五式軽戦車 ハ号」。TVドラマシリーズの撮影用小道具として製作されたものを購入して国内に持ち込んだ

 今回の出展にあたり、細部のディテールアップと全塗装を実施したという。同車輌はNPO法人「防衛技術博物館を創る会」の広報活動に利用される。同NPO法人は、海外から旧日本軍、および米軍供与車輌の日本への里帰りを目指し、過去の重工業製品を保存、展示するための取り組みを行うとしている。

今回の展示にあたり、ディティールアップと全塗装を施したという
当時の模型などのコレクションも展示された
「九五式軽戦車 ハ号」の紹介。2013年3月に日本上陸。撮影用のために省略された部分は新規に製作してディテールをアップ。迷彩塗装も当時の資料をもとに、より正確に塗り直したという

 言うまでもなく、プロモーション展示のスペースでこうした戦車がクローズアップされているのは昨年来のガールズ&パンツァーの大ブレイクが背景にある。元々、模型やホビーとミリタリーの相性はよく、昭和のプラモデルと言ったらスーパーカー、ウオーターラインシリーズ、そしてミリタリーミニチュアといった具合だ。ワンフェスにおいて時代と流行は移り変わってもいわゆる細く長い形で企業ディーラーも個人ディーラーも出展を続けていた。

ホビージャパンのブースに展示されたスクラッチの「模型少年の日々」(山田卓司氏製作)。昭和40年代はおおむねこんな感じでした

 そこに登場したのがガールズ&パンツァーである。美少女アニメと見せかけつつ、こだわりのミリタリー描写を随所に表現して、元々素養のある美少女ファンの隠れミリタリーを一気にかっさらっていった。原作なしのオリジナル脚本ということで、タイアップの商品企画はやや動きが鈍く、ファンのニーズが先行。早々にガルパン版としてプラモデル化を果たしたプラッツの商品は飛ぶように売れたほか、各校の校章をあしらったデカールや専用塗料なども相次いで発売。大手のタミヤ模型もM3リー中戦車をこの6月に再販するなど(あっと言う間に売り切れたが)文字どおり特需とも言える状態だ。家電量販店のホビーコーナーに戦車専用の棚ができ上がることなど、1年前は想像できなかった。もちろんアニメ自体には放映前からかなり期待していたのだが、好きな奴がニヤニヤ見てマイナーに盛り上がると思っていたところ、あっと言う間にメジャーになってしまったのである。

 当日版権の日程的な仕組みから、2月に開催されたワンフェス[冬]に間に合った個人ディーラーは決して多くはないが、今回は多数の個人ディーラーがガールズ&パンツァー関連の当日版権を取得して、キャラクターフィギュアや戦車のディテールアップパーツなどの販売を行っている。時間の都合で個人ディーラーのすべては追い切れないので、今回のリポートは企業ブースおよびプロモーション展示が中心となっている。

 イタリア軍戦車を擁するアンツィオ高校との二回戦を描くOVAの発売や完全新作の劇場版も2014年に公開予定となっており、ブームはまだまだ続きそうだ。興味を持たれた方は、是非次回の冬のワンフェス(2014年2月9日開催予定)へ足を運んでいただきたい。ちなみに、空のストパン(ストライクウィッチーズ)、陸のガルパン(ガールズ&パンツァー)ときて、次に艦これ(艦隊これくしょん)に繋がるかどうかも期待がかかる。

GSIクレオズ ホビー部のブースに展示された1942年式アメリカ軍ウィリスMB。ガールズ&パンツァー公式痛車で、車検を通してナンバーも取得済み。自走が可能
痛車仕様の1/20スケールモデルは、ファインモールドから発売。価格は4725円。「戦車道規約に則り」の部分は、劇中の戦車道試合規則では参加できる車輌が1945年8月15日までに設計が完了し試作に着手していた車輌と、同時期にそれらに搭載される予定だった部材に限られるため

 以下は電撃ホビーマガジンのブースに展示されていたガールズ&パンツァーに登場する1/35スケールプラスチックモデルの製作例。メーカーはいずれもプラッツ/サイバーホビー。

「IV号戦車 D型改(H型仕様) -あんこうチーム ver.-」。主役であるあんこうチームの決勝戦出場時。長砲身になり、側面と砲塔にシュルツェンが付いた。塗装色も変わっている
「IV号戦車 D型 -あんこうチーム ver.-」。これが初期バージョン。前述の決勝前に、長砲身に改造したF2型仕様の製品もある。大戦中もこうした改良が繰り返されたが、そうしたエッセンスを劇中にも取り込んでいる
「III号突撃砲F型-カバさんチームver.-」。劇中の初期は朱にサンドイエローという派手な塗装だったが、終盤にはこうした塗装に塗り替えられた
「ポルシェティーガー -レオポンさんチームver.-」、制式採用されなかった試作のティーガーI。劇中で運用するのは自動車部で、キャラクター名はナカジマ、スズキ、ホシノ、ツチヤと、日本の名ドライバーが元ネタになっている
「VIII号戦車 マウス -黒森峰女学園ver.-」。劇中11話以降に登場した世界最大規模の重戦車。登場時はTwitterに「マウスって何?」の疑問が乱れ飛ぶとともに、Wikipediaの参照数が跳ね上がる事態となった
「ティーガーI -黒森峰女学園ver.-」。VI号戦車の通称。ドイツの著名な戦車長ミハエル・ヴィットマンの搭乗車輌としても知られる。劇中では黒森峰女学園のフラッグ車として登場する
プラッツ/エフトイズの1/35フィギュア。プラスチックモデルのラインアップが一通り整って、新作は乗員。あんこうチーム、かめさんチーム(生徒会チーム)、プラウダ高校チームのほか、黒森峰女学園の西住まほ、副隊長のエリカ、レオポンさんチーム(自動車部チーム)などが企画中の模様
プラッツが出展した「IV号戦車 D型改(H型仕様) -あんこうチーム ver.-」のグレードアップパーツ
会場で先行販売されたプラッツ/エフトイズの1/144スケール三式中戦車とヤークトティーガー。いずれもガールズ&パンツァーに登場するバージョン
グッドスマイルカンパニーブースに参考出展されたあんこうチームのFigma。Figmaはノンスケールだが、実質的に1/12で作成されており、周辺アクセサリも1/12が規準
タカラトミーアーツのブースに展示された茨城交通の「ガールズ&パンツァー応援ラッピングバス」。1/150スケールで8月に発売予定
ムービックブースで販売されているデフォルメキャラクターの「カラコレ」。ガールズ&パンツァーは、あっと言う間に完売してしまっていた。他のと差を考えると、これは特需であって市場全体の底上げにはまだ到達していない
海洋堂の製作による「ワールドタンクデフォルメ」。2002年に食玩として登場したワールドタンクミュージアムが、プルバックで走行するデフォルメカーになってカプセルトイに帰ってきた

(矢作 晃)