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トレッドとコンパウンドで想像以上に性能が異なるスタッドレスタイヤを体験

ヨコハマタイヤの「冬タイヤ・ジャーナリストミーティング」

ヨコハマタイヤの冬用タイヤテストコースで開催された「冬タイヤ・ジャーナリストミーティング」。さまざまなタイヤの比較試乗を行った

 ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)が主催し、今シーズンで14回目を迎えた「冬タイヤ・ジャーナリストミーティング」が2月19日~20日の2日間にわたり、旭川にある冬用タイヤテストコース「T MARY(ティーマリー、TAKASU MOTORING AND RESERCHING YARD)」にて開催された。

 すでに2014年10月に発表ずみだが、横浜ゴムはT MARYの代わりとなる冬用タイヤテストコースの用地として、旭川競馬場跡地を取得した。1989年に建設されたT MARYは約20万平方メートルという敷地内に、ハンドリング路や氷盤試験路、圧雪試験路を設けていて、開所時からスタッドレスタイヤ開発の前線基地として使われてきた。新たに取得した旭川競馬場跡地は約86万平方メートルで、T MARYの約4倍の面積となり、計画段階だが冬季以外にも使用することも検討している。テストコースの規模が大きくなるメリットは多く、ハンドリング路などではより高速域のテストができるようになるという。

1989年に開所した「T MARY」。26年に渡り横浜ゴムのスタッドレスタイヤ開発地として使用されてきた。来シーズンからは、約4倍の広さとなる旭川競馬場跡地に新たなテストコースが設けられる
1つ目のプログラムとなったのは、「サマータイヤのパターンでも走れるか?」。コンパウンドは万能型スタッドレスタイヤ iG50と同様のものを使用し、パターンは、NEOVAパターンとスリックパターンを特別に製造・用意して比較した

 このT MARY最後の年に訪れられたことは幸運だった。初めて訪れたT MARYは広大なエリアに感じるが、多くのテスト路を設けると、それほど大きいと感じることはなく、夏タイヤのテストコースに比べるとかなり小さい。よくこの規模で開発を行っていたなという感覚のほうが強く、改めて横浜ゴムの開発力の高さを知ることにもなった。

最後のT MARYで、パターン違いのタイヤを体感

 今シーズンで最後となるT MARYのジャーナリストミーティングで設けられたプログラムは、「サマータイヤのパターンでどこまで走れるのか?」「カテゴリー違いのタイヤでどこまで走れるのか?」「万能型iceGUARD 5(アイスガード ファイブ)iG50と氷上特化型iceGUARD Evolution(アイスガード エボリューション)iG01の違いを体感する」という3つの項目となっていた。

 筆者が振り分けられたチームは、今回のメインイベントといえる「サマータイヤのパターンでどこまで走れるのか?」からスタートした。用意されたタイヤは3種類で、すべてコンパウンドは同一となる。トレッドパターンの違いで、走行にどのような影響を及ぼすのかを感じ取るプログラムで、パターンはスタッドレスの市販モデル「iceGUARD 5(アイスガード ファイブ)」(製品名:アイスガードiG50、以下、iG50パターン)とハイグリップラジアルタイヤで圧倒的な支持率を誇る「ADVAN NEOVA(アドバン ネオバ) AD08R」(以下、NEOVAパターン)、そしてレーシングモデルの「スリックタイヤ」(以下、パターンはないが便宜上スリックパターン)。

基準のタイヤとしてiG50と比較する。サイズはNEOVAパターンに合せて215/45 R17を装着する
圧雪路には不向きなはずのスリックパターンだが、想像以上のグリップを発揮。トレッド幅は195となっていた
NEOVAパターンのタイヤ。圧雪や氷上をまったく想定していないパターンだが、こちらもスリックパターンと同様によい感触

 まずは40km/hでのパイロンスラロームと、50km/hからの制動で3種類のタイヤ試乗を行った。朝一番の走行だったのでコースは引き締まった圧雪でコンディションは良好。iG50パターンは、加速や制動性能は他の2モデルよりも優れていた。

 制動距離はiG50パターンが20m、NEOVAパターンが22m、スリックパターンが26mなので、縦方向のグリップは市販製品のiG50パターンに分があった。だがスラロームは、NEOVAパターンやスリックパターンもかなり手応えがいい。ブロックがiG50パターンより少ないので、ステアリングを操作したときのレスポンスに優れているのは当然かもしれないが、操舵してからの横滑りも少ない。iG50パターンは、スラロームを行うと操舵をした瞬間やアクセルを踏んだ瞬間にVSCが作動してしまう。だが、NEOVAパターンはグリップが出ていてVSCが作動するタイミングが遅くなる。スリックパターンも同じような傾向となっていた。

 続いて、同じ3つのタイヤを氷盤路と呼ばれる氷上コースで走らせてみた。もっとも発進性に優れていたのはスリックパターンだった。想像するには、もっとも滑りそうなスリックパターンだが、氷と接地している面積は3つのタイヤでもっとも広い。もし、氷上が溶けていて水が覆っている状態ならば、スリップしてしまいスリックパターンはスタートできなかったかもしれない。だが、水が明らかに浮いていない状態ならばコンパウンドのみで対応でき、溝があるものよりもスリックパターンの方がグリップするということになる。

氷盤路を走行中

「サマータイヤのパターンでどこまで走れるのか?」というテーマだったが、スリックパターンも用意されたことで、コンパウンドの重要性を改めて知ることになった。

スタッドレスタイヤ、ウインタータイヤ、オールシーズンタイヤを乗り比べ

日米欧で装着率の高いスタッドレスタイヤ、オールシーズンタイヤ、ウインタータイヤの比較

 2つ目のプログラムは、「スタッドレスタイヤ」「ウインタータイヤ」「オールシーズンタイヤ」の比較になる。前述のプログラムは、この試乗のために用意されたスペシャルなタイヤだったが、今回はすべて市販品となる。

スタッドレスタイヤは「iG50」
ウインタータイヤは「W drive V905」。特徴的なトレッドパターンで、しっかりと雪を捕らえるようになっている
オールシーズンタイヤは、「AVID Ascend」。トレッドパターンはサマータイヤと似ている。そのためドライ性能は優れている

 国内ではサマータイヤとスタッドレスタイヤを履き替える人が多いと思うが、欧州ではウインタータイヤ、北米ではオールシーズンタイヤを選ぶ傾向にある。大陸によって気温や降雪量が異なるためで、冬用タイヤに求められる特性も変わってくるからだ。

比較試乗車はクラウンで、タイヤサイズは215/60 R16となっている

 ウインタータイヤは、雪やウエットでの性能を重視しつつ高速走行も可能となっているモデル。オールシーズンタイヤは、全天候型で雪や摩耗に強い特性を持たせている。

 圧雪路を走らせてみると、どちらも縦方向でのトラクションと制動性に不安感を感じることは少ない。だた、コーナリング時には応答性やコントロール性が曖昧で、ハッとすることもあった。総合的には、オールシーズンタイヤの方が、加速性やコーナリング性でも劣っているのだが、圧雪路を走れないということはない。対するスタッドレスタイヤは、縦横方向どちらのグリップも勝っていて、速度を上げなければ不安感を感じることもない。

 氷上コースでの印象も同様で、スタッドレスタイヤの性能が圧倒する。スタッドレス特有のコンパウンドやエッジ効果を得られるサイプによる影響が高いことが分かる。ウインタータイヤとオールシーズンタイヤも発進しないことはないが、ホイールスピンしながら走って行く印象だった。

北海道限定商品と万能タイプを乗り比べ

最後のプログラムは、氷上性能に特化した「iG01」と「iG50」の比較試乗

 最後に行ったプログラムが、氷上性能に特化した北海道限定で販売されている「iceGUARD Evolition iG01」と「iG50」の比較試乗。

「iG01」は、吸水性の高いゴムとブロックの変更、サイプの増加などによりアイスバーンなどでの性能を向上するために開発されたモデルになる。昨シーズンに195/65 R15のワンサイズから販売を始め、今シーズンは3サイズにラインアップを増やしている。

iG01は溝面積も大きく、トレッド面で氷を捕らえる
iG50の氷上性能も低くはないが、専用で開発を行なっているiG01には届かない部分もある。だが、ウエット性能や耐摩耗性には優れている

 圧雪路のハンドリングコースを走らせると、制動性、コーナリング性ともにiG01の高さが目立った。コースコンディションは、路面に積もっていた雪が払われ、下の氷盤がところどころ出ていたこともあったためだが、それにしても圧雪路でのグリップ感の差は大きかった。氷上コースでの性能ももちろん優れていて、アクセルを踏んだ最初の一転がり目からしっかりと氷を掴む感覚がある。制動力も同様で、ブレーキを掛けると多少のスリップはあるがしっかりと止まろうとする。アイスバーンやブラックアイスといった氷上での制動力が必要となるときには、大きな武器となり、安心感も高いのがiG01の特徴になる。

圧雪路のハンドリングコースと氷上コースで比較した

 3つのプログラムともに基準タイヤとなったiG50との差がはっきりと分かるもので、タイヤのキャラクターや方向性があり、求める性能も異なってくる。ユーザーの求める特性に合わせてしっかりとしたタイヤを生み出していることが理解でき、貴重な体験ができたことに感謝したい。

休憩時間にはアトラクションとして、全日本ラリーチャンピオンの奴田原文雄選手と全日本ジムカーナチャンピオンの柴田優作選手がそれぞれのマシンを用いて、同乗走行を実施してくれた。スタッドレスタイヤでの走行だったが、驚くほどのマシンコントロールを見せていた

(真鍋裕行)