日産、軽井沢八月祭で燃料電池車「エクストレイル FCV」の同乗体験会
ヴァイオリニスト・川井郁子さんも電気自動車を体験

軽井沢八月祭の来場者向けに用意されたエクストレイル FCV。残念ながら試乗会は18日のみの開催

2009年8月18日開催



 日産自動車は8月18日、長野県北佐久郡軽井沢町にある軽井沢大賀ホールにおいて、燃料電池車「エクストレイル FCV(Fuel Cell Vehicle)」の同乗走行会を「軽井沢八月祭」の一環として実施した。軽井沢八月祭は、2007年から始まった音楽と芸術のお祭りで、軽井沢町や御代田町にある美術館、ホテル、教会、レストランといったさまざまな施設でミニコンサートや演奏会を実施するというもの。

 今回行われた体験会は、軽井沢八月祭の来場者に向けたもので、試乗車はエクストレイル FCVが使われたのだが、先代キューブをベースにした電気自動車「EV-01」の実験車両も展示されていた。EV-01は当日にコンサートを開催したヴァイオリニストで作曲家の川井郁子さんの送迎用として用意されたもの。その川井さんと同社の企画・先行技術開発本部 テクノロジーマーケティング室 室長 土井三浩氏によるトークセッションも実施されたので、その模様をお伝えするとともに、記者のエクストレイル FCVの同乗体験を紹介する。

会場の軽井沢大賀ホール「エコカー試乗会」の看板も出店もあり賑やかだった
川井さんの送迎用として用意されたEV-01テレビでも大活躍の川井郁子さん川井さんとトークセッションを行った日産自動車 企画・先行技術開発本部 テクノロジーマーケティング室 室長 土井三浩氏
立ち話程度だったが2人のトークセッションが行われた

 川井さんは、軽井沢駅から大賀ホールまで助手席から電気自動車を楽しんだ。およそ500m程度の短い区間ではあるが、電気自動車の快適さと静かさに驚いたようだ。プライベートでも車の中で音楽を聞く機会が多いそうで、電気自動車の静粛性について「窓を開けて走っていても騒音を気にすることなく、リビングにいるような感覚で音楽を楽しめます。自然と一体になれてすごく気持ちいいですね」と語っていた。

 また、土井氏は電気自動車の出力特性について「電気自動車と言うと、よくゴルフカートなどを連想される方が多くて、遅いという概念を持たれているのですが、電気自動車の加速フィールは実はかなり速いんです」と紹介。川井さんの同乗体験ではアクセルを過度に踏まれることはなかったようだが、静粛性とは裏腹に優れた加速性を持っていることは意外だったようだ。

 土井氏は充電方法についても触れ、「ガソリン車は当然燃料が少なくなったらガソリンスタンドに行かなければならないのですが、夜寝る前に家庭用コンセントを使って充電しておけば、次の日に満タンになっています」との解説に対し、川井さんは「実はセルフのガソリンスタンドでガソリンを入れたことがないので、電気自動車なら家にいながらにして簡単にできるところが魅力ですよね」と述べ、来年発表予定の量産電気自動車「リーフ」の発表を心待ちにしていると締めくくった。

 土井氏は、このあと取材陣に対して日産が開発した電気自動車の紹介も行った。土井氏によると「電気自動車は排気ガスを出さないし、モーターで走るためエンジン音が室内に入ってくることもなく静粛性が高い。しかも加速力は抜群によい。3リッターエンジンと同等くらいに考えて頂ければよろしいかと思います。このEV-01はテスト車両で、電気自動車としてはまだ市場に投入はされていませんが、リーフを楽しみにしていてください」と語った。

 また、開発中における苦労話にも触れ、「電気自動車は電池がすべて。日産としては1992年から電池の開発を進めており、その当時はリチウムイオンバッテリーは車用として使い物にならないものだったが、将来を見越して開発してきてよかった。苦労した点と言えば、やはり開発に時間がかかったこと」と語っていたが、「ガソリンエンジンが開発されて、100年とちょっと。この電気自動車によって次の100年が始まる。発表のギリギリまで開発を進めて少しでもよいものにしたいと考えているので、ぜひ来年発表されるリーフを楽しみにしていてほしい」と、自信を覗かせていた。

川井さんを乗せて走るEV-01川井さんの笑顔からも電気自動車の好感度が伝わる多くの報道陣に囲まれながらEV-01のインプレッションを語る川井さん

 この後すぐに来場者に向けてエクストレイル FCVの同乗体験会が実施されたのだが、これに先立ち記者も同乗体験会に参加させて頂いた。

 エクストレイル FCVは、高圧水素式燃料電池車で、日産では1996年からFCV技術開発に着手している。2002年にはエクストレイル FCVの2002年モデルで日本国内の公道で走行試験を開始し、これに改良を重ねた2005年モデルを2005年12月に発表した。この2005年モデルのサイズは4485×1770×1745mm(全長×全幅×全高)で、車両重量は1790kg。モーターの最高出力は90kW、最大トルク280Nmで、電気を発生させるスタック(自社開発)の最高出力は90kW。最高速度は150km/hで、航続距離は370km以上を誇る。今回はこの2005年モデルに同乗した。

エクストレイル FCVの外観
カバーに覆われているがエンジン部にはインバーターを搭載し、さらにその下には減速機一体型同軸モーターが備わるライトはディスチャージヘッドランプではなくハロゲンタイプ燃料電池車と分かる「FCV」のステッカーは、サイドとリアに貼られる
メーター類はセンターダッシュボードに集中。カーナビモニターの位置にはFCV車両情報の表示モニターがある(カーナビ画面も見られる)FCV車両情報の表示モニター。アクセルオンで燃料電池やバッテリーからモーターに電力が伝達され、アクセルオフにすると電気が戻る仕組みトランクフロアの下部にはコンパクトリチウムイオンバッテリーを搭載する。従来の円筒形ニッケル水素電池と比べて、2倍の電力を供給できる小型のラミネート構造を採用したと言う
一見すると普通のシートにみえるが、実はガソリン車よりも座面が高くなっている。これはフロア下に燃料電池と高圧水素容器を備えるため、スペースを確保しなければならないため
大賀ホール付近の道で同乗体験

 エクストレイル FCVはエンジン位置にインバーター、その下に減速機一体型同軸モーターを配するのだが、燃料電池をフロントシート下部に、高圧水素容器をリアシート下部にそれぞれレイアウトするため、各シートはガソリン車と比較してかなり高めにセットされる。そのため、若干乗り降りがしづらく感じる。今回は運転することはできなかったため、助手席での同乗走行という形だったのだが、モーターが駆動する「ミーン」という音が耳に入る程度で、非常に静かでかつスムーズに走ってくれる。アクセルを踏んだらレスポンスよく加速していくフィーリングは、ガソリン車に決してひけを取らないものだった。水素燃料の価格はガソリンに比べて高いということと、インフラ整備の問題が挙げられるのだろうが、ぜひ市販化に向けて更なる研究・開発を行って頂きたいものである。

 次の来場者が待っているため10分弱程度の体験だったが、普段乗ることができない車なだけに、非常に貴重な体験をさせて頂いた。

(編集部:小林隆/Photo:中野英幸)
2009年 8月 20日