インディジャパン300マイル、明日からツインリンクもてぎで開催!!
インディって何? その見どころは?


ツインリンクもてぎのスーパースピードウェイ(オーバルコース)を使って開催される「ブリヂストン インディジャパン300マイル」

 9月17日~19日(17日はフレンドシップデー、18日は予選日、19日は決勝日)の3日間に渡り、米国のインディカー・シリーズ(Indy Car Series)の第16戦となる「ブリヂストン インディジャパン300マイル」が栃木県茂木町のツインリンクもてぎのスーパースピードウェイ(オーバルコース)において開催される。

 日本で唯一のオーバルコースを持つツインリンクもてぎだが、実際にオーバルコースが利用されるのはこのインディジャパンのみと言ってもよく、オーバルコースを利用したホイールツーホイール(ホイールとホイールをぶつけあわんばかりの距離)でのレースを堪能したいのであれば、何はともあれもてぎへGOだ。

 本記事ではそうしたインディカー・シリーズの歴史、魅力などについてお伝えしていきたい。インディジャパンへ出かけようと考えているのであれば、ぜひ参考にしていただきたい(本文中敬称略)。

米国のオープンホイールフォーミュラで最高の格式を誇る
 インディカー・シリーズとは、オープンホイールフォーミュラカーのシリーズとしては米国で最高峰の格式を誇る選手権だ。欧州で発達したシリーズがF1世界選手権だとすれば、米国で発展したのがインディカー・シリーズであり、米国の国内選手権でありながらも日本に遠征するなど国際シリーズの格式として見られることが多い。ちなみに、インディカー・シリーズは、ほかにもIRL(Indy Racing League)で呼ばれることもあるが、IRLは運営会社の名前で、シリーズ全体の名称としてはインディカー・シリーズが採用されている。日本で言えばSUPER GTに相当するのがインディカー・シリーズで、GTA(GTアソシエーション)に相当するのがIRLということになる。

 インディカーという言葉の起源は、シリーズ最大のレースであるインディ500マイルレースから来ている。インディ500マイルレースを走る車という意味で“インディカー”と呼ばれているのだ。インディ500マイルレースは、世界3大レースの1つ(ほかの2つはF1のモナコGPとル・マン24時間レース)に数えられるビッグレースで、米国インディアナ州インディアナポリスモータースピードウェイ(2007年までF1アメリカGPが開催されていたサーキット)で、例年5月の最終週に決勝レースが行われる(ちなみに、毎年モナコGPと同じ日に開催されるので、レースファンは眠れない日曜日の夜になる……)。

 インディカー・シリーズが開始されたのは1996年と、今から13年前になる。当時米国では後のチャンプカー・シリーズとなる選手権が行われており、インディ500もそのうちの1レースになっていた。しかし、インディ500の位置づけなどを巡りチャンプカー・シリーズの主催者とインディアナポリスモータースピードウェイ(IMS)のオーナー企業とで軋轢が発生し、IMS側がチャンプカー側と決別して始めたのがインディカー・シリーズなのだ。

 その後、しばらくはスタードライバーや強豪チームがチャンプカー側に残ったこともあり、IRL側は低空飛行を強いられていたのだが、2002年にペンスキーやチップガナッシといった強豪チームがIRLへ移籍するとすると、インディ500マイルという最大のレースを抱えているというメリットもあり位置づけは逆転し、インディカー・シリーズは急速に発展しだした。そして遂に昨年にはチャンプカー・シリーズは事実上破綻し、チャンプカー・シリーズはインディカー・シリーズに統合されることになり、名実ともにインディカー・シリーズは米国のオープンホイールフォーミュラで最高の格式を誇るシリーズとなった。

ハイスピードで抜きつ抜かれつが可能なオーバルコース
 インディカー・シリーズの特徴は、ロードコースやストリートコースだけのF1やフォーミュラ・ニッポンなどとは異なり、オーバル(楕円)コースでもレースが行われるところだろう。ちなみに、今年のインディカー・シリーズでは17戦のうち10戦までがオーバルコースで開催されており、インディカー・シリーズの魅力=オーバルコースといっても過言ではない。

 オーバルコースは、2つの直線をコーナーで結んだだけの楕円で構成されたサーキットで、ちょうど競馬のコースのようなものだと思えばよい。競馬のコースと異なるのはもちろん舗装されていることと、高速で車が周回するために角度(バンク角)がつけられていることだ。米国ではこうしたオーバルコースが多数あり、その代表例がインディ500マイルが行われるインディアポリスモータースピードウェイだ。米国以外でもオーバルコースを持つサーキットはあるが、多くはツインリンクもてぎのようにロードコースとオーバルコースが併設されている例が多い。

 コーナーが2つしかなくてあとは直線では、なんだかつまらないと思ってしまうかもしれないが、実際にレースを見てみるとそんなことはない。ストレートとコーナーだけをつないだ単純なレイアウトであるため、逆に速度の落ちるところがないので、ロードコースではあり得ないような超高速バトルを見ることができる。さらにオーバーテイクもロードコースに比べれば比較的容易になり、レース中に多数のオーバーテイクを見ることができる。

 ただし、オーバルコースならではの問題もあり、雨が降ると基本的には走ることができない。いくらレインタイヤを履いたとしてもオーバルコースを雨の中走るのは危険だからだ。このため、雨が降った場合には、レースは中止され翌日に順延されることになる(今回のインディジャパンも9月20日が予備日として用意されている)。ちなみに、予選が雨で中止になった場合には、それまでのポイントラインキングに応じてグリッドが決められるルールとなっている。

シャシー/エンジン/タイヤはワンメイク。終盤のルール変更で格差が減少しより接戦に
 インディカー・シリーズの装備は、基本的にはすべてがワンメイクだ。シャシーはイタリアのダララ、エンジンはホンダ、タイヤはファイアストン(ブリヂストンの子会社、米国向けのブランド)となっており、基本的にはどのチームも同じパッケージを利用している。

 以前はエンジンの選択肢としてトヨタやシボレー(GM)などもあったのだが、現在はホンダのワンメイクとなっている。なお、ホンダが提供しているのは3.5リッターのV8自然吸気エンジン「HI9R」で、燃料にはガソリンではなくエタノールが利用されている。

 このように、車の性能を基本的に決定するシャシー、エンジン、タイヤのすべてがワンメイクになっているため、各チームの差はないのかと言えば、そうではない。実際今年のレースを見てみると、1つの例外を除き、優勝しているのはトップ2チームの車のみとなっている。なぜ、そうした差がつくのかと言えば、ワンメイクといえども車の改造はある程度までは可能なので、資金力や開発力のある上位チームが有利で、実際シーズンはそうした形で進んできた。

 しかし、シーズン後半になり第12戦ケンタッキーから新しい空力ルールや、エンジンにフォーミュラ・ニッポンのオーバーテイクボタンに相当する“プッシュトゥパス”と呼ばれるエンジンの出力を一時的に向上させるボタンの追加などにより、追い抜きがこれまでよりも容易になったほか、各チームの戦力差が相対的につまったことで、より面白いレースが展開されるようになっている。

 実際、インディジャパンの前戦となるシカゴランドのレースでは上位5、6台がわずか1秒差の中でゴールするなど接戦が実現されており、同じような接戦がツインリンクもてぎでも再現される可能性は高いといえる。

ペンスキー、チップガナッシ、AGRの3強が優勝候補、チャンピオン争いの行方は?
 今回ツインリンクもてぎで行われるインディジャパンは、インディカー・シリーズの第16戦。今年のインディカー・シリーズは全17戦で行われるため、終盤戦に相当する。となると、チャンピオン争いの行方が気になるところだろう。インディカー・シリーズのポイント制度はユニークで、下記の表のようになっている。

順位などポイント
1位50
2位40
3位35
4位32
5位30
6位28
7位26
8位24
9位22
10位20
11位19
12位18
13位17
14位16
15位15
16位14
17位13
18位~24位12
25位~33位10
ポールポジション1
最多ラップリーダー2

 面白いのは、ノーポイントというのがないことだ。優勝は50点だが、18位~24位の人も12ポイント、25位~33位の人も10ポイントをもらうことができるのだ。もちろんリタイヤしてもポイントはもらえるため、何よりも決勝に出ることが重要となる。なお、ポールポジションにも1ポイント、最多ラップリーダー(トップで周回した周がもっとも多いこと)にも2ポイントが与えられるので、ポールポジションを獲得することと、できるだけ多くトップで周回することもチャンピオン争いでは重要である。

 15戦終了時のポイントランキングは下記のようになっている。

順位ドライバー名ポイント
1ライアン・ブリスコー550
2ダリオ・フランキッティ525
3スコット・ディクソン517
4エリオ・カストロネベス383
5ダニカ・パトリック353
6マルコ・アンドレッティ342
7トニー・カナーン335
8グラハム・レイホール331
9ダン・ウェルドン318
10ジャスティン・ウィルソン316
11武藤英紀309
12エド・カーペンター286
13ラファエル・マトス274
14ライアン・ハンターレイ269
15ロバート・ドーンボス257
ピットインシーンもインディカー・シリーズの見どころの1つ

 現在シリーズをリードしているのが、チーム・ペンスキーのライアン・ブリスコー。オーストリア人のブリスコーは、以前はトヨタの秘蔵っ子としてTDP(Toyota young Driver Program)の一員で、2003年にユーロF3の初代チャンピオンになったほか、トヨタF1のテストドライバーなどをつとめていた逸材だ。インディカー・シリーズには2005年から参戦を開始しており、昨年からペンスキーに抜擢され、前戦のシカゴでも優勝を遂げるなどして現在ポイントリーダーとなっている。

 このブリスコーとチャンピオンを争っているのがターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングのダリオ・フランキッティとスコット・ディクソンだ。いずれも過去にインディカー・シリーズチャンピオンを獲得しており、実績も実力も十分な2人だ。

 チップ・ガナッシチームは、過去何度もチャンピオンをとっている強豪チームで、2人ともチャンピオンの可能性を残しているだけに、インディジャパンでも本気で勝ちを狙ってくるだろう。

 チャンピオン争いをしている3人以外で要注目は、ブリスコーのチームメイトになるチーム・ペンスキーのエリオ・カストロネベス。カストロネベスは今年のインディ500マイルの優勝者でもあり、これまで3度もインディ500マイルに勝っている実力者。今年は脱税の容疑をかけられて収監されていた(結局は無罪となった)ため、開幕2戦を欠場しチャンピオン争いからは脱落しているが、それでも優勝候補の1人であることは疑いない。チップ・ガナッシ2台の前に出てチームメイトのブリスコーの援護射撃をしたいところだ。

 このほかの注目のドライバーはアンドレッティ・グリーン・レーシング(AGR)の4台。F1、インディ500の両方で王者になったマリオ・アンドレッティの息子で、自身もチャンプカーでチャンピオンとなったマイケル・アンドレッティがチームオーナーを務めるAGRは、実はツインリンクもてぎでのインディジャパンでもっとも勝っているチームだ。

 2007年に優勝したのが、トニー・カナーン、そして昨年優勝したのが女性ドライバーとして初めて優勝したダニカ・パトリック。同じく昨年のインディカー・シリーズで初優勝を遂げたのが、マイケルの息子となるマルコ・アンドレッティ。AGRは今年こそまだ優勝はないものの、ペンスキー/チップ・ガナッシの2強に次ぐ存在であることは間違いなく、今年もAGRのドライバーも優勝候補の一角にいることは間違いないだろう。

インディーカー・シリーズに参戦中の武藤英紀。先日は母校で優勝宣言を行うなど、地元開催だけに気合いが入っているようだ

日本人はレギュラーの武藤英紀、スポット参戦の松浦孝亮とロジャー安川の3人が出走
 そしてAGRの4人目のドライバーが日本の武藤英紀だ。武藤英紀はホンダが若手ドライバー育成のために行っていたシリーズ“フォーミュラドリーム”の2003年度のチャンピオンで、2006年にはフォーミュラ・ニッポンにもデビューするなど着実にキャリアを積み重ねてきたドライバーだ。米国に渡った2007年に下位カテゴリーのインディ・プロ・シリーズで2位になり、昨年インディカー・シリーズにAGRからデビューしシリーズ10位でみごとルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得する活躍を見せた。今年も引き続きAGRで力走を続けており、第7戦アイオワでは3位表彰台を獲得する活躍を続けている。インディジャパン2年目となる今年は、悲願の初優勝を狙っている。

 今年のインディカー・シリーズにレギュラーで出走する日本人ドライバーは武藤英紀だけだが、今回のインディジャパンでは2人のドライバーがスポット参戦する。それが松浦孝亮とロジャー安川だ。

 松浦孝亮は2004年~2007年までインディカー・シリーズにフル参戦しており、今回のインディジャパンへのスポット参戦はそれ以来のこととなる。松浦が乗るのはコンクエスト・レーシングで、チームはカナダのトロントで行われたレースでは一時トップを走るなど実力を秘めており、活躍が期待される。

 ロジャー安川は、2003年と2005年にインディカー・シリーズにフル参戦しており、例年このインディ・ジャパンとインディ500マイルにスポット参戦しているドライバーだ。今回はドレイヤー&レインボールド・レーシングからの出走となるが、今年チームは新人のマイク・コンウェイを擁してよいところを走っており、こちらも力走に期待が持てるだろう。

ペンスキーとチップ・ガナッシのチャンピオン争いも気になるが、AGRにも期待
 気になるレース展開だが、すでに述べたように、ペンスキー、チップ・ガナッシの2強/4台に、ツインリンクもてぎを得意とするAGRの4台が絡んでいくというのが大方の予想だろう。ただ、ペンスキーのブリスコーとチップ・ガナッシの2台はチャンピオンシップもかかっているため、無理はできない。そうなると、AGRの4台がそれをひっかき回して……という展開も考えられるだろう。

 いずれにせよ、オーバルコースの超ハイスピードバトルを日本で堪能できるのは、事実上このインディジャパンのみだ。そうした意味で、本場アメリカのオーバルレースを堪能したいのであれば、是非ツインリンクもてぎに行ってみてはいかがだろうか。

(笠原一輝)
2009年 9月 16日