「VWの12番目のブランドになったわけではない」
スズキ、フォルクスワーゲンが提携で共同会見

2009年12月9日



スズキの鈴木修会長(左)とVWのマルティン・ヴィンターコルン会長

 既報のとおり、スズキとフォルクスワーゲンAG(VW)は12月9日、包括提携に合意した。同日17時、スズキの鈴木修 会長兼社長と、VWのマルティン・ヴィンターコルン会長が、都内で共同記者会見を開催した。

 スズキは「率直に申し上げて遅れを取っている」(鈴木会長)というハイブリッド、電気自動車、ディーゼル、軽量化などの環境技術でVWの支援を仰ぐ。とくに既存のガソリンエンジンについては「自動車業界もスズキも、もうすこし燃費改善の努力すべきことだったのではないか」(鈴木会長)という反省のもと、開発を進める構え。

 一方VWは、調達などコストメリットによる相乗効果を狙うほか、スズキが大きなシェアを持つインド、東南アジアでの成長に期待する。

 資本面では、VWはスズキの株式の19.9%(約2224億円)を取得し、筆頭株主になり、スズキは最大約1000億円程度(約2.5%)のVW株を取得する。スズキはまず500憶円分の株式を取得するが、これはVWの浮動株が品薄なためとしている。

出資比率20%にこだわり
 会見は大部分の質問に鈴木会長が答え、ヴィンターコルン会長は「鈴木さんのおっしゃるとおり」と追認する展開がほとんど。飛行機の時間に間に合わせるためヴィンターコルン会長が予定通りに退席した後も、鈴木会長は1人で報道陣の質問に答えた。以下、注記がなければカッコ内はすべて鈴木会長の発言だ。

 VWの出資比率が19.9%になったのは、20%を超えるとVWの連結決算対象となり、VWの経営成績に組み込まれるため。また、先に提携していたGMも、19.9%の株式を所有しており、それが放出されたという理由もある。

 19.9%という比率についてVWとは「1時間も議論しなかった」というが、「お互いに相手の経営によって赤字になったり黒字になったりするという、持ちつ持たれつのやり方はもうダメ。経験上、20%程度なら持ちつ持たれつにはならない。出資比率についていろいろ議論はあるが、“自主独立”や従業員にヤル気を起こしてもらうには、まあこのへんが一番いいのではないか」と、鈴木会長はこの数字にこだわりを持っているようだ。「これは私の経営の経験上そう思ったということなので、“お前がそう思うならしょうがない”とご理解いただくしかない。人様にとかく言われたくない、“俺の経営哲学”とご理解いただきたい」。

 VWが出資比率を上げ、スズキを完全子会社化するのでは、という観測については「そういう状況になると言うのは、スズキの経営が悪化して、赤字でにっちもさっちも行かなくなったとき。そのときはVWも要らんと言うかもしれない。経営者としては、利益を上げる健全な経営をしていくのが基本。指導いただくことは指導していただく、協力できることは協力する。しかし、スズキの1万5000人の全従業員は、自主独立でやっていく意気に燃えている」と語り、スズキの独立を守る考えを通した。

 ちなみに鈴木会長が考える経営者の年齢は「50年前と違って、経営者の年齢は7がけで考えるのが正しいと思う。私は今81なので、56歳だ」とのことだ。だから、この提携の未来についても「まだ20年くらいは私はいるので、お互い見届けてほしい」とのことだ。

 また、スズキもVW株を持つことについては、「19.9%といえば2000億円。これだけのものをお持ちいただくということなので、小なりといえども半分くらいは持たせていただくのが社会の常識ではないかと考えた」「ただ一方的に(スズキ株を)持っていただくだけでなしに、私どもも持つことで従業員に気概を持ってもらいたい」と語る。環境技術面で遅れをとったとはいえ、「私どもの持ち味は、小さなクルマをなるべく低コストで作っていくこと」という自信も覗かせる。

 「スズキはVWの12番目のブランドになったのではない。我々はVWとイコールパートナーとしてやっていくということだ。またうちの社員は、ドイツから経営者を迎えなければならないほどヘボばかりではない。すばらしい後継者がいっぱいいる」という自負が、VW株の保有に表れているようだ。

部品共通化でシナジー効果を
 提携の効果については「具体的な数字を申し上げるデータがないが、同じようなサイズ、同じようなエンジンのクルマを同じように作っている、共通のものがいっぱいある相手。だから、我々の経験から部品共通化などでおおよそどの程度のシナジー効果があるかがおおよそわかる。それは非常に大きなものだと信じているので、提携した」と言う。

 提携で手がけることは「ハイブリッド、電気自動車、ガソリンエンジンの改善、軽量化、ディーゼルといった環境技術、それからアジア、南米、ブラジル、ペルー、チリ、アフリカといった市場のことなど、グローバルにどこでも協力しあっていく。双方が気がついたことから始めるということでいいのではないか」「やることはいっぱいある。わたしどもも、こういうことをやりたい、こういうことを優先して欲しいというお願いをしているし、VWからもこういうことをやりたいと注文をいただいている」「今日、調印させていただいたので、さっそく明日から、何をやるか決めていく。のんびりはしていられない。メリットのあるものからやっていく」と言うように、広範囲にわたる。

 しかし、もっとも提携効果があるのは「部品共通化」と見る。「自動車は大量生産・大量販売がもっともメリットが出る。その中では部品の共通化が非常に重要。最近は各メーカーとも自社のクルマについては比較的、部品の共通化を進めているが、自社だけでなく他社のクルマとも部品を共通化することで、ベンダーさんが大量に部品を生産できるというメリットが出てくる」。

 しかし、異なる企業の異なるモデルが部品を共通化するには、障壁もある。「地域や時代によって品質を変えなければならない問題もある。欧州ではサンルーフを開けてエアコンをかけない時代があったが、今はルーフを開けるのが20%で、エアコンをかけるのが80%だ。そうかと思うとインドのタタのクルマように、エアコンなしで販売される地域もある」。

 しかし、こうした点についても「お互いが協力してマーケット・リサーチをすればうまく共通化できるだろう」「成長経済では、技術者同士が会うと、ぞれぞれ自分の部品がいいと言えた。しかし今はそういうわがままを言っている時代ではない。(VWの生産台数にスズキのそれが加わって)世界最大と言うが、数が多ければいいということではない。部品は、量の多い少ないとは関係なく、品質とコスト、生産性で客観的に決まっていく」「GMとはクルマが競合しなかったが、VWとは競合するクルマがある。環境技術の開発では、似たようなクルマがあるのでやりやすいだろう。市場における調整をどうするかという問題はあるが、逆に部品の共通化はしやすい。500万台だろうが1000万台だろうが、まったく違ったモデルなら部品は共通化できないが、似たクルマなら部品の共通化がしやすい」と楽観的だ。

 なお、VWとのクルマの共同開発の可能性については「国内では販売を考えてはいない。これまで申し上げたことも、基本は海外戦略。海外では(共同開発車が)ありうる」としている。

競争と協調
 スズキはVW以前にもGMと提携していたし、日産、マツダ、フィアット、オペルにOEM供給も行っている。これについては「日産やマツダは国内用の軽自動車なので問題ないと思う。フィアットやオペルは、相手先にも家庭の事情があるので、十分話し合いをしなければならない」という姿勢。

 また、「GMと開発してきた1モーター1クラッチのハイブリッド技術は9割がた進んでいるので、そのまま続けていく」と言う。

 さらに、VWが期待するインドの子会社マルチ・スズキについても「今の時点で、インドに限らず、各地域でのパートナーに個別に話をする必要はないと考えている。VWから“インドでこうしたい”という申し入れがあったときに、どうするかということ。今慌てる必要はない、これからの問題だ。今の地球上に、1社で市場を独占している国はない。常に競争相手がいるので、競争しながら協調していく。そのへんの技術には十分経験があるので、うまくやっていく自信を持っている」と、当面は現在の体制を維持する。

 インド市場には、VWとVW傘下のブランドであるシュコダも進出している。「インドではスズキがトップシェアなので、VWは競争相手になるんじゃないかというお話だと思うが、やっぱり競争しないと仕事というのはよくならない。半面で競争し、半面で協調する。部品の共通化では協調し、ビジネスでは競争する。これを世界中でやっていきたい」と言う。

 協調の具体的なプロセスとしては、お互いの社内にお互いの事務所を設けるといった方法が採られる。「違った会社が提携するには、お互いの会社が経営をオープンにすること、日本流に言うと経営を“ガラス張り”にして、外から全部見えるようにするのが一番重要なことだ。隠し事をやってはいけない」「たとえばわたしどもは状況報告会というのを月1回やっているが、そこに駐在しているVWの方に来ていただけば、ガラス張りにできる。形式的にミーティングをするのではなく、日常の仕事の中で話をするのが重要だ」「“株式をどれだけ持ったから経営がどう”というような法律論でなく、両社が常に経営をオープンにして、皆さんに理解していただくのが一番重要。そういう点で、問題は信頼関係だ。トップもスタッフも、お互いを信頼するということ」という姿勢で提携に臨む。

(編集部:田中真一郎)
2009年 12月 10日