若手3選手がSUPER GT開幕戦「SUZUKA GT300km」の抱負を語る
HSV-010GTはやはり三味線を弾いていた!?

SUZUKA GT300kmのプロモーションで来社した3選手。後列左から、安田裕信選手、伊沢拓也選手、平手晃平選手

2010年3月20日、21日開催



 トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業の3メーカーがワークスとして参加する自動車レース「SUPER GT」は、1994年に全日本GT選手権として始まったときから数えて今年で17年目のシーズンを迎える。

 例年激しいデッドヒートで盛り上がるSUPER GTだが、モータースポーツファンならずとも、3月20日、21日に三重県鈴鹿市にある鈴鹿サーキットで開催される開幕戦「2010 AUTOBACS SUPER GT Round1 SUZUKA GT300km」は絶対に見逃せない1戦だ。いつもそういう話があるじゃないかという声が聞こえてきそうだが、今回のレースに限っては間違いなく見逃せない1戦になるだけの理由がある。

 SUPER GTと言えば、GT500、GT300クラスともに例年激しい競争が展開されるというのが通例だが、2010年シーズンはさらにそれが加速しそうな展開が予想されている。というのも、今年は上位クラスのGT500から“特認”と呼ばれるレギュレーションに合致しない車が存在しなくなるからだ。

 2009年シーズンに導入された新規定では、エンジンのミッドシップ搭載の禁止や、排気量についても3.4リッターでV型8気筒レイアウトに限るなどと規定されていたのだが、規定を完全にクリアしていたのはトヨタのLEXUS SC430のみとなっていた。これに対して日産のGT-Rは車体は09年規定を満たしていたもののエンジンは3.4リッターV8ではなく、ホンダはそもそもエンジンがミッドシップ搭載のNSX-GTだった。このため、日産、ホンダに対してはウエイトハンデという「特別性能調整」により、規定を満たしているLEXUS SC430との性能差が調整され、09年規定を唯一満たしたトヨタが不利にならないような配慮がされていた。

 しかし、今年は日産とホンダもこの09年新規定を満たす車を用意してきた。日産はエンジンを3.4リッターV8に変更し、ホンダもNSX-GTを昨年末で引退させ、新しい車となるHSV-010 GTを導入した。この新しいHSV-010 GTではNSX-GTとは異なり駆動方式はFR、かつエンジンも3.4リッターV8に。なお、このHSV-010 GTはベースとなる車が市販されず、SUPER GT専用車となる。そのため、HSV-010 GTを見るためには実際にSUPER GTのレースに行くしかない。

 このSUPER GTの開幕戦にあわせて、各社の次世代のエースと言ってよい若手ドライバー3人が、プロモーションのためCar Watch編集部を訪問してくれたので、開幕戦に向けた抱負についてうかがった。

左からホンダ「HSV-010 GT」、日産「GT-R」、トヨタ「LEXUS SC430」。1月19日に行われたSUPER GTのテスト走行時の写真。開幕前のため、カラーリングなどは変更される

3人それぞれの新シーズンへ向けた抱負
 編集部を訪問してくれた3人のドライバーは、トヨタ陣営からLEXUS TEAM SARDの平手晃平選手、日産陣営からKONDO RACINGの安田裕信選手、ホンダ陣営からTEAM KUNIMITSUの伊沢拓也選手。

LEXUS TEAM SARDの平手晃平選手。3人の中で唯一、マシン、体制とも昨年と同様になる

 昨年とほぼ同じ体制を維持しているのがLEXUS TEAM SARDでLEXUS SC430を走らせる平手選手だ。平手選手は、トヨタの若手ドライバー育成プログラム(TDP)出身のドライバーで、2005年~2006年にはユーロF3、2007年にはGP2、2008年からはフォーミュラ・ニッポンで戦ってきた経歴の持ち主。SUPER GTにおいては、一昨年にはGT300で、昨年からはGT500に参戦しているほか、フォーミュラ・ニッポンでもすでに勝利を挙げている実力派だ。平手選手は「チームにも十分馴染んでおり、落ち着いて仕事ができる。ただ継続というだけでなく、昨年の最終戦から非常に経験のあるエンジニアが新たに加わり、チーム全体の戦力は上がっている。開幕戦は予選からガンガン行きたい」と豊富を語ってくれた。


KONDO RACINGの安田裕信。チームが代わり、マシンも新エンジンのGT-Rとなった

 安田選手は日産の若手ドライバー育成プログラム(NDDP)出身で、2008年にはGT300でチャンピオンを獲得し、2009年にGT500にステップアップした経歴を持つ。特に昨年走ったハセミモータースポーツでは、第4戦セパンにおいて初優勝を飾っており、日産の若手の中でもっとも期待されているドライバーだ。今年は、近藤真彦監督率いるKONDO RACINGへ移籍し、新しい3.4リッターV8エンジンのGT-Rとヨコハマタイヤの組み合わせで戦うことになる。安田選手は「今年はチームも、タイヤメーカーも変わり新たなチャレンジになる年。チームにもすでに慣れ、新しいチームメイトから学べることをきちんと学んで次のステップを目指していきたい」と豊富を語ってくれた。


TEAM KUNIMITSUの伊沢拓也選手。新マシンHSV-010 GTで戦う

 伊沢選手は、ホンダの若手ドライバー育成プログラム(HFDP)出身で、2008年~2009年にはARTAでNSX-GTを走らせ、昨年は2勝を挙げ選手権2位に輝いた実績の持ち主。2008年からはフォーミュラ・ニッポンにも参戦しており、デビュー戦でいきなりの予選2位獲得は、関係者の度肝を抜いた。今年は、ARTAからTEAM KUNIMITSUへ移籍し、かつチームメイトは新人の山本尚貴選手となるので、伊沢選手がNo.1ドライバーとしてチームを引っ張る存在になる。伊沢選手は「チームが変わって、今年からはチームを引っ張っていかなくてはならない立場になった。チームは非常に明るくてもう十分なじめている。昨年はランキング2位だったので、今年はチャンピオンを目指してがんばっていきたい」と豊富を語ってくれた。


果たしてホンダのHSV-010 GTはテストで三味線を弾いているのか?
 ファンとしては、エンジンが新しくなった日産のGT-Rと、車とエンジンの両方が変わったホンダのHSV-010 GTがどの程度の戦闘力を持つのかが気になるところだろう。その点に関して、各選手に聞いてみたところ、昨年と同様LEXUS SC430で戦う平手選手は「確かにレース専用に作られているHSVがどの程度の戦闘力を持つのかは気になる。しかし、我々としてはまずは自分たちの車をきちんと仕上げることに集中している。特に今は空力関係の開発に力を入れている」と述べ、来月に行われる公式テストでの課題を説明してくれた。

にこやかに受け答えをしてくれた3選手

 これに対して新エンジンを搭載したGT-Rで戦う安田選手は「非常にフィーリングがよい。トルクもあって乗りやすいという印象」とエンジンに関しては好印象のようだ。ただ、現時点ではまだ開発中の段階ということで細かなトラブルもあり、そのあたりを課題として挙げていた。

 最後にHSV-010 GTで戦う伊沢選手は「(NSX-GTの)MRから(HSV-010 GT)のFRになったといっても特に違和感はない。エンジンのほうもドライバビリティに優れている印象で非常に乗りやすい」と述べ、HSV-010 GTには好印象を持っているようだ。

 なお、シーズンオフのテストでは新開発のHSV-010 GTが他車と比べてそれほど速いタイムを結果として残していないため、わざとゆっくり走るなどの“三味線を弾いている”のではないかという疑惑を持たれているが、「どのくらい三味線を弾いているのですか?」と伊沢選手に聞いてみたところ、伊沢選手は思わず「三味線は少ししか弾いていない」と答えてくれた。

 すかさずトヨタ陣営の平手選手、日産陣営の安田選手から「やっぱり三味線弾いているんだ!」と突っ込まれると、「三味線は絶対に弾いていない(汗)」(伊沢選手)と答えを訂正する一幕もあり、すでに駆け引きは始まっているようだった。

 果たして、ホンダのHSV-010 GTの実力はどのようなものなのか? その答えは3月20日に行われるSUZUKA GT300kmの予選と、21日に行われる決勝ではっきりすることになる。


SUPER GTのイメージガール「G☆RACE(グレース)」も編集部を訪ねてくれた。今シーズンのG☆RACEのメンバーは8人。写真は服部愛さん(左)と、中村アンさん

SUZUKA GT300kmでは家族連れで楽しめる各種イベントも併催
 SUZUKA GT300kmでは、そうしたレースそのものの魅力もさることながら、各種のイベントも見所の1つだ。3月20日の予選終了後には、家族連れのみが参加できるGTキッズウォークが行われるほか、フリー走行前には公式車検の見学会、GPスクエアでキッズエンジョイスペースが開設されるなど、家族連れでも十分に楽しめるイベントが計画されている。

 さらに、予選終了後には、「2010 SUPER GT開幕前夕祭」が計画されている。現時点で詳細は決まっていないが、トークショーなどが予定されているとのことなので、GTファンであれば十分楽しめるイベントになるだろう。

 チケットは鈴鹿サーキットのWebサイトのほか、鈴鹿サーキットの電話通販、各種プレイガイドなどで購入が可能だ。詳しくは鈴鹿サーキットのWebサイトをご参照いただきたい。テレビ観戦の場合は、CSやCATVなどで視聴可能なJ-SPORTSで生中継される予定になっており、詳しくはスカパー!などのCS放送局や地元のケーブルテレビ局などに問い合わせていただきたい。


(笠原一輝)
2010年 2月 22日