「コレオス」に繋がるルノーSUVの系譜
実はSUVも得意だったルノー


ルノーの最新SUV「コレオス」

世界初のSUV?
 スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル、いわゆる「SUV」は、現代の自動車業界に於いても最も人気の高いジャンルの1つとして確たる地位を築いている。それでは、その「元祖」に当たるモデルは何か?となると諸説が分かれるところだが、SUVを快適な乗用車としても使用できるクロスカントリー車と定義づけると、一般的には1970年にデビューしたイギリスの「レンジローバー」が開祖として知られている。あるいは1965年にアメリカで誕生したフォード「ブロンコ」の名前を挙げる向きもあるかもしれない。そして我々日本人にとっては、1972年に発売されたスバル「レオーネ・エステートバン4WD」も忘れることのできない、エポック・メイキング的なモデルと言えよう。

 ところが、ヨーロッパを中心とする地域の自動車愛好家や研究者の間では、近年になって上記の定説を覆すようなモデルの存在がクローズアップされてきている。実はフランスのルノーが、現代のSUVの源流となるような乗用4WD車を、ブロンコやレンジローバーよりさらに15年以上も古い1952年から1957年頃まで生産していたという歴史的事実があったのだ。

 このモデルは、ルノー「コロラル」(COLORALE)と言い、1950年にデビューした中型貨物/乗用ワゴンだ。第2次大戦の直前からルノーが生産していたベーシックカー「ジュヴァカトル」を大型化したようなモノコックボディーに、2.4リッターの4気筒サイドバルブエンジンを搭載する実用車である。コロラルには商用バンの「サバン」、タクシー用の「タクシー」などに加えて、乗用エステートワゴンとして「プレーリー」というバージョンが主軸となっていたが、特にプレーリーとサバン両仕様には、1952年からはパートタイム式4WDシステムがオプションで用意されることになったのである。

 ルノーは第1次世界大戦中に、近代戦車の礎として知られるFT17型軽戦車を製作して以来、軍用車メーカーとしても確固たる実績を挙げてきた。当然ながらオフロード車や全輪駆動車については充分な経験を持ち、それがこのコロラルでも生かされることになったものと思われる。

 しかし、ここで思い出されるのが、アメリカのシンボル的存在である「ジープ」の名前。たしかに北米のウィリスが1946年からジープのワゴンモデルを発売しており、それは1953年以降カイザーに引き継がれていたのだが、ジープ・ワゴンはもともと軍用小型機動車であるジープに、箱型のワゴンボディーを組み合わせたもの。つまり、「乗用車をベースとした4WD車」というSUVの定義には若干そぐわないとも考えられる。したがって、コロラル・プレーリー4WDを現代的SUVの開祖、ないしは遠い祖先と見ることには、やはり何らの誤りは無いと思われるのだ。

 そしてその想いと元祖の誇りは、現代のルノーのスタッフ間でも共有されているかもしれない。筆者には2008年にデビューしたルノー最新のSUV、「コレオス」のスペル「KOLEOS」が、「COLORALE」に通じるものがあるように感じられるのだ。これは、あくまで筆者の想像の域を出ないのだが、ルノーのスタッフの間でもコロラル4WDに対するオマージュの念があり、それをルノー最新の自信作であるコレオスに込めたとも考えられる。半世紀以上の時を経た2つのモデルには、ルノーのエンブレムを掲げていること以外の関係は一見薄いとも思われるが、自動車史のダイナミズムに惹かれる筆者は、そんなロマンチシズムを感じずにはいられないのである。

ロデオ4

マルチパーパスな「ロデオ」
 コロラル・シリーズの後継車「フレガート・ドメン」が誕生し、1957年にコロラル・プレーリー4WD仕様の生産が終わって以来、10余年に亘ってルノー製4WD市販車の歴史は、しばし途絶えてしまうことになる。

 しかし、1970年にデビューした「ロデオ」が、一旦は失われた系譜を継承することになった。ロデオは、シトロエン「2CV」をベースとしたライバル「メアリ」の成り立ちと同じく、ルノー「4」(キャトル)のコンポーネンツを流用し、その上にフルオープンのFRPボディーを組み合わせたマルチパーパス・ビークルだった。そして、駆動方式は標準では4と同じ前輪駆動とされたが、ほどなくパートタイム式の4WD版が追加されることになるのだ。

 1970年にまず4をベースとするベーシック版「ロデオ4」が登場し、その4年後の1974年には上級の「6」をベースとした「ロデオ6」が加わった。エンジンはいずれも直列4気筒OHV。排気量はロデオ4が850cc、ロデオ6では1300ccとされた。

 いずれのモデルも、スタンダードではドアさえ持たないフルオープンなのだが、ロデオ6ではボディーと同じFRP製のハードトップをオプションで装着することができた。このハードトップにより、ロデオ6は貨物用バン、さらには少々プリミティブではあるが乗用車としても使用が可能なモデルとなったのだ。現代のSUVというジャンルの定義を厳密に追求すれば、ロデオの4WD版は外れてしまうかもしれないが、ルノーの歴史を語るには欠かせないモデルとして、ここでは特に記しておきたいのである。

 1981年になると、ロデオはルノーの傑作として知られる初代「5」(サンク)をベースとした「ロデオ5」にモデルチェンジされる。ロデオ5は先代ロデオ4/6ゆずりのFRPにポリウレタンも加えた画期的なボディー構造に加え、極めて斬新なスタイルを持つことから、現在でも高い評価を受けるマルチパーパス・ビークル。そして、こちらにもパートタイム4WDがオプションで選択できた。しかしロデオ5は、1986年をもって生産を終了。こののちしばらくの間、ルノー製の4WD乗用車は1989年デビューの「21クアドラ」など、オンロードでの使用に限定したモデルのみとなるのである。

モダーンSUVへの参入
 ルノー自身が先鞭をつけたかもしれないSUVは、前世紀末から今世紀にかけて大きなムーブメントとなった。そしてルノー自身も、現代的SUVのジャンルへの参入を果たすことになる。

 ルノーのSUV復帰作となったのが、2000年に誕生した「セニックRX4」。このモデルは、初代「メガーヌ」をベースとするコンパクトミニバン「セニック」をベースに、オーストリアのシュタイア・プフ(現在のマグナ・シュタイア)と共同開発したビスカスカップリング式フルタイム4WDシステムを与えたコンパクトSUV。前輪には通常のLSDに代えて、電子制御式トラクションコントロールシステムを採用。また4WD化に伴い、マクファーソンストラット式フロントサスペンションも強化されていた。そしてリアサスペンションも、トーションビーム式の半独立からトレーリングアーム独立に変更。タイヤサイズも195/60 R15から215/65 R16に大径化したことも合わせて、SUVとしては充分な185mmの最低地上高を確保した。

 もちろん外観でも前後大型バンパー、16インチの大径ホイール、大型ドアミラー、リヤゲートに背負ったスペアタイア、前後バンパーと一体化したデザインの極太サイドガードモールなどで、フランス車らしいエスプリ感とワイルドなオフローダースタイルを完全両立。加えて、ウィンタースポーツギアの名門サロモンとのコラボレーションで限定バージョンも展開するなど、SUVという21世紀的カテゴリーの中にあって、その個性を遺憾なく発揮することになったのだ。

セニックRX4
コレオス・コンセプト

 そして、現代におけるルノー製SUVの方向性をさらに決定的なものとしたのが、2008年ジュネーヴ・ショーにてワールドプレミアが行われた「コレオス」である。このコンテンポラリーな魅力溢れるSUVは、正式デビューから遡ること2年前、2006年のパリ・サロンにて発表された「コレオス・コンセプト」をほぼそのままのかたちで市販したもの。デザインコンシャスな現代のルノーらしく、実にクリーンかつスタイリッシュなボディースタイリングを身上とする。

 ルノー・コレオスは、わが国の日産自動車との共同開発で、日産デュアリス(キャッシュカイ)と基本コンポーネンツの一部を共用しているが、車両サイズ、車格感、フレンチタッチなデザイン、エクステリアカラーをはじめ、ルノー独自のこだわりのコンフィギュレーションが施され、生粋のルノー車に仕上がっている。

 ルノーがコロラル・プレーリー以来長年に亘って築き上げてきた4WD乗用車の経験と、フランス車ならではのエスプリ溢れるセンスを生かしたコレオスは、まさしくフランス車。そして、まぎれもなくルノーのDNAを引き継いだSUVなのである。



 ルノーSUVの技術を受け継いだコレオスは、2009年5月に日本に導入され、この9月には一部改良を受け、さらに洗練の度合いを増した。とくに乗り心地は、悪路でもルノー車ならではの快適さを実現しているという。

 Car Watchではその実力を体感すべく、フィールドにコレオスを連れ出す予定だ。その模様は10月22日に掲載する。

【2010年10月13日15時改訂】コレオスについての記述を補足しました。

(武田公実)
2010年 10月 14日