NTTドコモ、日産ら、EVのネットワーク化を目指す実証実験
「スマート・ネットワーク プロジェクト」を横浜で開始

みなとみらい21地区のスマート・ネットワーク プロジェクト実証実験フィールド

2010年11月4日開催



実証実験フィールドのモデルハウスの車庫に置かれたリーフ

 11月4日、神奈川県横浜市のみなとみらい21地区54街区で「スマート・ネットワーク プロジェクト」実証実験フィールド開所式が行われた。

 スマート・ネットワーク プロジェクトとは、住宅やオフィスビル、電気自動車(EV)のエネルギーの情報をネットワーク化するために、通信規格の標準化を目指すもの。いわばスマート・グリッドの末端部分を支える基盤となるが、これらの要素がスムーズに通信することでエネルギーの配分を最適化し、CO2排出量の削減を目指す。

 スマート・ネットワーク プロジェクトは総務相の「ネットワーク統合制御システム標準化等推進事業」の1つであり、NTTドコモ、NEC、積水ハウス、バンダイナムコゲームスの4社が幹事を務め、EVベンダーである日産自動車も参加する。

住宅、EV、充電器をネットワーク化
 スマート・ネットワーク プロジェクトのシンボルとなるのが、みなとみらい線新高島駅近く(日産グローバル本社のはす向かい)に建てられたモデルハウス「観環居」(かんかんきょ)であり、開所式もここで開かれた。

 観環居は積水ハウスの環境配慮型住宅「グリーンファースト」に、NTTドコモのフェムトセル(小型携帯電話基地局)一体型ホームサーバーとネットワークを装備したもの。車庫には日産のEVリーフが置かれ、リーフの充電設備も備える。

 観環居では、スマートフォンや居間のTVで、太陽電池で発電した電力の振り分けをモニターしたり、コントロールすることができる。例えば、通常は家で使う電力のほかに、自動的にリーフの充電に電力を振り分け、残りを売電するが、「明日はリーフで遠出する」というようなときは、リーフへの電力の振り分けを増やすこともできる。またリーフの大容量バッテリーに蓄電しておき、太陽光発電が足りないときに住居の電力消費に使うといったことも可能。

実証実験フィールド入口の看板モデルハウス「観環居」。背後のビル(写真左)は日産グローバル本社観環居の模型
観環居入口観環居内部。木造2階建てで、和風の内装になっている。庭は生物を呼ぶビオトープ
太陽光で蓄熱する床素材をサンルームに使い、省エネを図っているホームサーバーを使った家歴システムにより家のメンテナンスが簡単になり、管理の難しい檜の風呂も実現できる台所のカウンターのセンサーとディスプレイで、食品のトレーサビリティ管理ができる
2階の屋根の窓は、採光、通風のためにスマートフォンで遠隔操作できる白い装置がフェムトセル一体型ホームサーバー。その横に並んでいるのが端末となるスマートフォンや携帯電話スマートフォンのカメラを向けた装置(写真ではTV)の消費電力などがAR表示される

 こうした電力の振り分けをスマートフォンで行う場合は、AR技術を用いたインターフェイスが用意されており、スマートフォンのカメラをリーフやエアコンに向けると、それらにどの程度の電力が割り当てられているかが表示され、タッチ操作で割り当てを変えることもできる。

 このほかみなとみらい21地区では、EVカーシェアリングサービスのモニター実験や、EV充電器をネットワーク化し、どこの充電器でもどんなEVでも充電できるようにしたり、どこの充電器が空いているかなどの情報を提供したりといった、EV活用のための実験が行われる。また、オフィスビルの電力消費を“見える化”し、EV充電器への電力供給に役立てる試みも行われる。

居間のTVで宅内とEVの電力を管理できる観環居の屋根の瓦一体型太陽光発電システムで発電した電力を、EVと売電に振り分けている様子
車庫のリーフリーフにスマートフォン(写真ではGalaxy Tab)を向けると、太陽光発電システムからリーフとエアコンに給電されているのがARで見える
観環居の脇にはEVの充電器が設置されており、EVカーシェアリングなどに役立てられる

目的は通信規格の標準化
 EV、環境配慮型住宅、フェムトセル一体型ホームサーバーといった技術は、すでにあってすぐにでも実現可能なものだ。スマート・ネットワーク プロジェクトで実証実験の対象になるのは、こうした数々の技術たちを結びつける通信の規格だ。

 各メーカーがばらばらに通信の規格を作り、乱立するようなことになれば、たとえばA社の住居ではB社のEVとしか通信できない、といった事態が起こり得る。こうしたことを防ぐために、通信規格の標準化が必要とされているのだ。

実証実験の目的は通信規格の標準化家はフェムトセル一体型ホームサーバーで管理EVと家の管理を連携させる
スマートフォンで家やEVのエネルギーの流れを管理できるスマートフォンのAR表示でエネルギーの流れを可視化する

 積水ハウスの阿部俊則社長は「住宅と通信技術の融合で、より便利でより快適な住まいを提供できるのではないか。住宅と通信技術とEVを融合することで、さらにいろいろな形で先進の技術が検証できるのではないか。密接な関係にあるこれらを大衆化するためにも、通信規格の標準化は大事」と開所式でスピーチ。

 また日産の篠原稔 常務執行役員は「日産はこれから大量のEVを世の中に送り出そうとしている。これは単に新しく魅力的なクルマを出すということにとどまらない、大変大きな社会的な意味を持っていると思っている。環境・エネルギー問題の観点から電動化は必至。同時に、動力源となる電気をいかにクリーンに作っていくか、すなわち再生可能エネルギーの利用拡大も重要。EVの蓄電機能が再生エネルギーの導入促進にも大きく貢献する」「EVというクリーンモビリティの普及、それを用いた再生可能エネルギーの普及、さらにはスマートコミュニティーというところまで視野に入れると、グローバルな視点で、さまざまな産業・省庁の垣根を越えた活動と、連携を進める必要がある。モビリティ、エネルギー、通信ネットワークが一体となって進めていく統合的なアプローチが重要」と、ネットワーク化とEV、低炭素社会実現が不可分であることを述べた。

 来賓の平岡秀夫 総務副大臣はこのプロジェクトの目的として、「ネットワークの標準化」とともに、「ICT(情報通信技術)を通じて環境負荷削減がどれだけできるか、多くの皆さんに見ていただかなければならない。見ることによって理解してもらうことが必要」ということをあげた。

 このため、7日から横浜で始まるAPEC(アジア太平洋経済協力)主要会議でこのプロジェクトをアピールするほか、15日からは完全予約制で観環居の一般公開も行う。見学はスマート・ネットワーク プロジェクトのWebサイトで申し込むが、Webサイトも15日に公開される。

EVの充電器をネットワーク化するカーシェアリング車両の情報をネットワークで共有する
オフィスビルの充電器の状況をネットワークで共有カーシェアリングサービス間の互換性も確保できる
積水ハウスの阿部社長日産の篠原常務執行役員EVは電力と通信のネットワーク上のモビリティ。篠原常務執行役員のプレゼンテーション
平岡秀夫 総務副大臣横浜市の林文子市長テープカットが行われた

(編集部:田中真一郎)
2010年 11月 4日