乗ってみました新型「キャンター」
乗用車感覚で運転できるデュアルクラッチAT「DUONIC」


東京ビッグサイト周辺の道路を使って行われた新型「キャンター」試乗会

 11月11日、三菱ふそうトラック・バスの「キャンター」がフルモデルチェンジし発売された。発表会の模様は既報のとおりだが、その発表会とあわせて、簡単な試乗会も行われた。試乗会場となったのは、発表会の行われた東京ビッグサイト周辺の道路。約20分程度の試乗ではあったものの、新型キャンターの最大のウリとも言える6速デュアルクラッチAT「DUONIC(デュオニック)」の実力の一端は感じられたので、ここにその印象を記しておく。

 その前に免許制度のおさらいを。2007年6月2日に施行された道路交通法の改正により、中型免許が新設された。従来は、普通以上は大型となっていた部分が、新制度では、普通(最大積載量3t未満、車両総重量5t未満、乗車定員11人未満)、中型(最大積載量6.5t未満、車両総重量11t未満、乗車定員30人未満)、大型と3つに区分けされた。

 また、法律施行前の普通免許を持っている人は、施行前と同様に「最大積載量5t未満、車両総重量8t未満、乗車定員11人未満」の車両を運転でき、免許書き換え時には、中型免許取得者となり、「中型車は中型車(8t)に限る」との限定条件が付く。記者の免許も、普通から中型に移行した、限定条件付きの免許となっている。

 新型キャンターは、商用車のためさまざまなバリエーションを展開しており、施行前の普通免許(限定条件付き中型免許)保持者であれば基本的にすべての車形を運転でき、施行後の普通免許保持者であれば、車両総重量5tまでの車種を運転できる。ただ、架装状態によっては免許の制限を超える場合もあるため、注意が必要だ。キャンターのカタログには、施行後の普通免許に対応する車種について、「新普通免許対応車」の項目があり、参考にするとよいだろう。

試乗したのはキャンターの中でもコンパクトな標準荷台長車

シフトショックをほとんど感じないDUONIC
 試乗会では、標準荷台長車(3120mm)からロング荷台長車(4350mm)までさまざまなキャンターが用意されていた。記者が試乗車に選んだのは積載量2tの標準荷台長車。小型トラックに乗るのは、学生時代のアルバイト以来なので、全長が短めのものを選択した。

 新型キャンターには新開発の4P10型 直列4気筒 3.0リッター インタークーラーターボディーゼルエンジンが搭載され、出力により4バリエ-ションが存在する。試乗したのは、出力が3番目となる最高出力96kW(130PS)/3500rpm、最大トルク300Nm(30.6kgm)/1300rpmのT2スペック。これに、6速デュアルクラッチAT DUONICが組み合わされていた。


4P10型 3.0リッター インタークーラーターボディーゼルエンジン4種類のパワーバリエーションが存在する。いずれもトルク特性はフラットなもの

 ギアを入れるには、シフトレバーをP(パーキング)からN(ニュートラル)に下げ、その後左に動かしてD(ドライブ)に入れる。この状態でトラックでの発進に通常使われる2速に入り、走ることが可能になる。サイドブレーキを解除し、Dに入れると、キャンターはユルユルと進み始めた。DUONICではクリープ現象が再現されており、通常のトルコン式AT車と同様の感覚でスタートできる。

シフトレバー。停車時はPの位置。使い勝手は通常のトルコン式ATと変わらない発進時は一旦Nに入れ、左に動かすことでDに入るシフトパターン図。Dから一旦左に動かすことで、ATモードとMTモードを切り替えることができる
アクセルとブレーキの2ペダル式。ブレーキペダルは、一般的なAT車のように大型化されていない6速デュアルクラッチATのDUONICユニット変速時のパワーフロー。湿式のインナークラッチが奇数速を受け持ち、アウタークラッチが偶数速を担当する。2つのクラッチを使うことで、変速時間の短縮と、変速ショックの低減を図る

 アクセルを踏み込んでいくと、2速から3速、4速と変速され、スムーズに車速が上がっていく。2つの湿式クラッチを切り替えながら変速していく方式のため、変速ショックをほとんど感じない。トルクコンバーターを用いていないため、出力のダイレクト感もある。シフトアップが行われるとエンジン音が変化するため、それと気がつく程度。高いギアではエンジン音の変化も小さく、変速ショックはまったく気にならない。

 一方シフトダウンの際は、オートブリッピングが行われることもあって、明確に分かる。とはいえ、前につんのめるような感覚ではなく、ゆるやかに車速が下がっていく。なによりうれしいのは、ダイレクトにギアがつながっているため、トルコン式ATと異なり空走感がないこと。エンジンブレーキが効いているのが分かり、運転する際の安心感につながる。

 また、通常は2速発進を行うが、傾斜センサーを持っているため、上り坂では自動的に1速発進に切り替わる。ゆるやかな上り坂でも1速発進に切り替わり、クリープ動作と相まって不安のない発進を行うことができた。

メーターパネル中央上部には、「Ivis(アイヴィス)」と呼ばれるマルチインフォメーションパネルを装備。Ivis右上には現在のギア位置が表示されるIvisの表示。右の1は1速ギアであることを、その上のDはATモードであることを示す

 DUONICでは、MTモードも持っており、シフトレバーをDポジションからさらに左に一旦倒すことでMTモードに切り替わる。ATモードに戻す際は、同様の操作を行えばよいだけ。トグルスイッチ状の動作となる。このMTモードでは、シフトレバーを上に一旦倒せばシフトアップ、下に一旦倒せばシフトダウンが行われる。MTモードでも走ってみたが、ATモードのできがよく、状況に応じて使えばよい程度だろう。

 シフトスケジュールは通常モードと、ECOモードの2種類があり、ECOモードでは積極的にシフトアップを行っていくことで、燃費を稼ぐ。シフトレバーの右上にあるECOモードスイッチを押せばよく、走行中に変更することもできる。ECOモードでは、さすがに加速の力強さはなくなるが、通常モードとの違いがハッキリと分かるものになっていた。三菱ふそうのスタッフによると、空荷の際など積極的に使うことで、燃費が明らかに異なってくると言う。

 ガソリンエンジンと比べ高い熱効率(高圧縮比)を持つディーゼルエンジンは、特有の振動が発生する。さすがに最新の乗用ディーゼルと比べると、それなりの振動をステアリングホイールまわりで感じられる。とはいえ、自分がアルバイトで使用していた十数年前の小型トラックと比べると、はるかに小さく、東京ビッグサイトの周辺を少し試乗した程度では、不快と言うほどのものではなかった。

 商用トラックでは、乗用車と異なり、コストや燃費の優位性もあってMT車の販売がほとんど。新型キャンターでも、もちろんMT車が用意されているが、三菱ふそうのスタッフによるとデュアルクラッチAT車の販売比率を9割に引き上げたいと言う。ほんの短時間、しかも低速域での試乗ではあったが、自動変速やクリープ走行などAT車と同様の使い勝手と、MT車同様のエンジンブレーキを持つ新型キャンターは、商用ユーザーにも受け入れられていくのではと感じたしだいだ。

 三菱ふそうでは、このDUONICを搭載する新型キャンターの試乗車を全国で400台用意する。新制度施行前の普通免許であれば、問題なく試乗できるだろうが、新制度施行後の普通免許の場合、運転可能なものであるか各ディーラーに問い合わせてみてほしい。

(編集部:谷川 潔)
2010年 11月 12日