NVIDIA、CESでTegra 2搭載のテスラモーターズ「モデルS」を展示
GeForce GPU搭載車やAndroid搭載カーナビの展示も

Tegra 2を搭載するテスラモーターズの「モデルS」



 米国の半導体メーカーNVIDIAは、米国ラスベガスで1月6日~9日(現地時間)に開催されているInternational CESにおいて、同社が自動車向けの半導体として販売しているTegra 2、GeForceを搭載したソリューションの展示を行った。

 この中でNVIDIAは、同社が新たに提携を発表したテスラモーターズのスポーツカー「モデルS」、イクリプスブランドでカーナビ製品などを展開する富士通テンのAndroid搭載カーナビなどの製品を展示し注目を集めた。

Tegra 2をひっさげて市場に参入したNVIDIA、今年にはアウディから搭載製品が発売

 NVIDIAは、これまではPC向けのGPUメーカーとして知られてきたが、数年前よりスーパーコンピューター向けの演算チップ(余談だがそのチップのブランドは“Tesla”である)ビジネスに参入し、世界のスーパーコンピューターのランキングであるTOP5でTeslaを搭載した製品が上位を占めるなど、最近ではスーパーコンピューターチップのメーカーとしても知られている。

 そしてNVIDIAが新しい収益の柱としているのが、ARMベースのアプリケーションプロセッサに、NVIDIAのGPUを統合したSoC(System On a Chip、1つのチップに複数の機能を搭載したチップのこと)であるTegra(テグラ)だ。Tegraの最新版であるTegra 2は、デュアルコアのARMプロセッサー、NVIDIAのGPUであるGeForceなどが1チップになっており、他のARMプロセッサに比べて高い処理能力を持っているのが大きな特徴となっている。Tegra 2は、携帯電話やタブレットデバイスのプロセッサとしても注目されており、International CESではTegra 2を搭載したスマートフォンがLGやモトローラなどから発表されている。

 NVIDIAはその評価が高いTegra 2を自動車向けのチップとしても展開しており、自動車メーカーへの採用を働きかけている。昨年はアウディとの提携を発表し、今年には実際に搭載した製品が発売される予定になっている。

 NVIDIAのブースではNVIDIAのGeForceを採用したアウディ「A8」が展示されており、間もなくメーカーオプションとして選択することが可能になると言う。デモでは、Google Earthが3Dで表示され、その描画にNVIDIAのGeForceが利用されていた。

デモカーとして展示されたアウディのA8センターコンソール用意されているIVI(In-Vehicle Infotainment)システム。グラフィックスの描画にはNVIDIAのGeForceが採用されている。画面はタッチ式ではなく、左下のタッチパッドを利用して操作するビデオ再生も可能
Google Earthの3D表示画面メインメニュー自車のモニタリング表示

17インチの大型液晶をセンターコンソールに搭載したテスラモーターズのスポーツカー
 会場の外に設置された臨時テントでは、電気自動車メーカーとして知られるテスラモーターズのスポーツカーが展示されていた。すでにNVIDIAはテスラモーターズとの提携を発表しており、テスラモーターズが今年に投入を計画している4ドアのスポーツカー「モデルS」のIVIシステムのプロセッサーとしてTegra 2を搭載することを明らかにしている。

 モデルSには2つのディスプレイが用意されており、1つはセンターコンソールに備え付けられた、車載のIVIとしてはおそらく世界最大の17インチのタッチパネル液晶。もう1つはメーターパネル部に設置されている12.3インチの液晶ディスプレイだ。

 センターコンソールに備え付けられている17インチのディスプレイには、展示車では地図が表示されており、その大きさは正直衝撃を受けるほどだ。車内に入ることはできないようになっており、外から見る限りではGoogle Mapとおぼしき地図の航空写真が表示され、実際に操作できそうな画面になっていた。筆者が見たのは昼と夜の2回だが、夜にではきちんとバックライトがついており、少なくともモックアップという訳ではなさそうだ。

 メーターパネル部の12.3インチ液晶ディスプレイには、電子メーターが3Dグラフィックスで表示されていた。NVIDIAのTegra 2は、センターコンソールのIVIだけでなく、こうしたメータークラスター向けのソリューションも用意している。UI Composerと呼ばれるソフトウェア開発キット(SDK)を利用することで、メータークラスターのユーザーインターフェイスのデザインにかかる時間を大幅に短縮できるのだ(詳細は関連記事参照)。

 なお、NVIDIAのTegra 2は、1つのチップで、IVIとメータークラスターの両方を同時に表示する性能を持ってはいるが、今回のテスラモーターズのモデルSにおいて1つのTegra 2で両方を制御しているのか、それとも2つ搭載されているのかに関しては明らかにされなかった。

テスラモーターズのモデルS展示車には充電ケーブルが差されていた
車外後方から撮影。中央に見えるのがセンターコンソール部助手席側から撮影。17インチ液晶はこんなにも大きい運転席側から撮影。視認性はかなりよさそうだが、視線は落とさないといけないような気はする
メーターパネル部も液晶ディスプレイになっており、アナログメーターが描画されているBMWの550iも展示されていた、Tegra 2を搭載したIVIが採用されている

富士通テンがTegra 2を採用したAndroid搭載カーナビを展示
 イクリプスブランドのカーナビを展開する富士通テンは、OS(基本ソフトウェア)にタブレットデバイスやスマートフォンで話題のAndroidを採用したカーナビを展示した。

 現在日本のカーナビメーカーは、IVIというよりはナビゲーションに特化したカーナビシステムを展開している。IVIではインターネットに接続してTwitterやmixiなどのSNSを利用したり、ニコニコ動画などのFlashコンテンツを車の中で楽しんだりといったコンピューティング機能が要求されており、カーナビからIVIへの脱皮がここ数年のうちに行われるということだ。

 各メーカーとも、次の新しい一手を探しており、次世代のアーキテクチャーを慎重に検討しているところだ。今回CESの会場には富士通テンの関係者が来ていなかったため、同社がどのような戦略を持ってTegra 2+AndroidのIVIシステムを開発しているかは明らかになっていないが、おそらくそうしたIVIへの転換を図る上でのチョイスの1つとしてこのシステムを選んだということではないだろうか。

 展示されていたのは2台のシステムで、いずれもTegra 2が搭載されていた。1つはAndroid 2.1が搭載されており、もう1つはAndroid 2.2が搭載されていた。

 Android 2.1が搭載しているシステムでは、ゼンリンの「いつもNAVI」がアプリケーションとしてインストールされており、それを利用して普通のカーナビとして利用できる様子がデモされていた。もう1つのAndroid 2.2のほうは、Tegra 2のFlashアクセラレーション(ハードウェアでFlashを処理する機能、Flashの表示性能が大きく向上する)が効いている様子がデモされており、Flashを利用している動画投稿サイト「YouTube」に接続してビデオ再生が可能になっている様子がデモされていた。

 今のところユーザーインターフェイスはAndroid標準のものを利用しているなど初期段階であり、本格的な開発はこれからと思われるが、車のセンターコンソールでAndroidが動作し、WebブラウザーやFlashコンテンツなどが再生される様子は、自動車にもコンピューティング機能が付加される未来を垣間見せてくれた。

Android 2.1を搭載した富士通テンのIVIシステムの試作機。プロセッサーはNVIDIAのTegra 2Android 2.1を搭載した試作機では、ゼンリンの「いつもNAVI」が動作していた
試作機のUI画面。現時点ではAndroid標準のものが採用されていたAndroid 2.2を搭載した試作機ではFlashアクセラレーションが効いているため、YouTubeの動画を楽々と再生できていた

(笠原一輝)
2011年 1月 11日