ブリヂストンの市販ランフラットタイヤ「POTENZA S001 RFT」説明&試乗会【後編】 岡本幸一郎氏による試乗インプレッション |
ブリヂストンが7月1日に発売するランフラットタイヤ「POTENZA S001 RFT(ポテンザ エスゼロゼロワン アールエフティー)」。前編の説明会編では、この新世代ランフラットタイヤに投入された技術要素などを紹介したが、後編では同社のテストコース「ブリヂストンプルービンググランド」(栃木県那須塩原市)で行われた試乗会の模様を、モータージャーナリストの岡本幸一郎氏によるインプレッションとともにお届けする。
■コーナリング途中でパンクしてもスピンをしない
ランフラットタイヤが一般にも知られ始めてからそれなりに時間が経過し、当初のものに比べるとよくなってきたとはいうものの、依然としてランフラットタイヤ=乗り心地が硬いというイメージが強いのは否めない。
ランフラットタイヤがもたらす最大のメリットは、前編で紹介されているとおり、パンクした際にも一定の距離を走行できるという安全性にある。しかし、硬い乗り心地や一般のタイヤと比べると高めの価格といった弱点を克服するのはそう簡単ではなく、普及の妨げにもなっていた。
今回ブリヂストンから市販用ランフラットタイヤ「POTENZA S001 RFT」が初めて発売され、同社テストコースで試乗会が行われる運びとなったわけだが、こうした催しが実施されるという時点で、乗り心地に関して相当に自信があるのだろうという予想はしていたものの、その仕上がりはこれほどまでにランフラットタイヤに関する技術が進んでいることを知らしめるに十分なインパクトがあった。
新世代ランフラットタイヤ「POTENZA S001 RFT」。写真のタイヤサイズは195/55 RF16で、クーリングフィンはデザインタイプA | ||
225/45 RF17のクーリングフィンは、デザインタイプB |
試乗時はあいにくの小雨の中で行われたが、雨だからこそ分かることがあるはずと、気を取り直してテストコースへ。最初は総合路において「サドンエアロスデモ」の見学から始まった。
このデモは、ホイールに設けた3個所のバルブにより約6秒間で空気圧を抜くことが可能な特殊な器具を装着したBMW 1シリーズを使用した。このクルマで、パイロンを立てたコーナーに約100km/hで進入。コーナリング中に急激にタイヤの空気圧を低下させ、ランフラットタイヤ装着車と非装着車でどのような挙動の違いが出るのかを確認する。
コーナリング途中でパンク状態を作り出す装置を取り付けたBMW 1シリーズ | ホイールの3個所に設けたバルブから一気に空気を抜く |
ランフラットタイヤ装着車は、概ねラインを外すこともなく問題なくコースをクリアするが、非ランフラットタイヤ(POTENZA RE-11)装着車ではコーナリング途中でいとも簡単にスピンしてしまう。この日はウェット路面だったこともあり、なおさらだろう。ちなみにDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)はOFFの状態だったが、これをONにしたとしても、これほど激しい挙動にはならないものの、最終的にスピンすることに変わりはないそうだ。
●非ランフラットタイヤ装着車(POTENZA RE-11)
空気が抜けると姿勢が崩れ、一気にスピン状態に移行する |
●ランフラットタイヤ装着車(POTENZA S001 RFT)
S001 RFT装着車はパンク状態となってもスピンすることなくコーナリングを終えた。進入速度はどちらも約100km/h |
走行後の両車を近くで見ると、ランフラットタイヤ装着車は見た目に大きな変化はなく、リム外れも起こしていないのに対し、非装着車は写真のとおり。空気圧が抜けたタイヤはサイドウォールがつぶれ、タイヤのビードがホイールから外れてしまっている。
これが現実の路上で起こったら、大変な事態につながるかもしれない。むろんバーストとパンクは別物で、パンクはそのほとんどがスローパンクチャーであり、実際にこれほど短時間に空気が抜けきってしまうことはないのだが、過酷なシチュエーションでも、走行性能が担保されているというのは心強い限りである。
パンク状態となった非ランフラットタイヤ。サイドウォールが完全につぶれている | ランフラットタイヤのS001 RFT装着車。空気圧が低く見える程度のたわみ。サイドウォールが強化されているため、テスト終了後も問題なくスタート地点に戻ってきた |
新旧ランフラットタイヤの乗り比べには、3台のBMW525iを使用した |
■新旧ランフラットタイヤを乗り比べ
外周路と特殊路では、ランフラットタイヤの従来モデルである「POTENZA RE050 RFT」と、新発売の「POTENZA S001 RFT」、そして非ランフラットタイヤの「POTENZA S001」を装着した3台のBMW525iを乗り比べた。
まずはRE050 RFT装着車からドライブを開始。RE050 RFT装着車は全体的にコツコツ感があり、ハーシュネスもきつく、ロードノイズの音量も大きめであるなど、自分のイメージどおりのランフラットタイヤの乗り味だった。
そして、次にS001 RFT装着車に乗り換えたところ、走り出した瞬間から違いは明白だった。S001 RFT装着車では、最初にランフラットタイヤだと聞かされなければ、一般タイヤだと思って乗っていたほどである。乗り心地がよく、ノイズもRE050 RFTと比べるとはるかに小さい。路面の凹凸を越えた際に、最初のひとたわみがあるので、不快な硬さを感じないのだ。
凹凸路面を再現した特殊路通過時の車体の振幅が小さいため、頭部~目線の揺れも小さくて済むことも体感できる。これにより不意に視線が乱れることも抑えられるので、現実的なシチュエーションにおける安全走行に寄与する部分だろう。
比較試乗の最後は、非ランフラットタイヤのS001装着車に乗り換えて走行。つまりランフラット、非ランフラットという構造の違いはあるものの、同じトレッドパターンを持つタイヤの比較となる。S001 RFT装着車の試乗後、すぐにS001装着車を乗り比べたのだが、違いを感じることができた。
RE050 RFT装着車を周回路で試乗中 | RE050 RFT装着車を試乗後、S001 RFT装着車へ乗り換える | S001 RFT装着車を試乗中 |
RE050 RFTのトレッドパターン。ウェットグリップに定評のあったRE050と同様のもの | S001 RFTのトレッドパターン。RE050の進化形であるS001と同様のパターンを採用している |
S001装着車のほうが、いわば前者から内圧を5~10%ほど低くしたイメージで、さらに当たりがソフト。これに比べると、やはり先に乗ったS001 RFTは若干乗り心地に硬さを感じた。しかしながら、S001 RFTのほうがタイヤのケース剛性が高いためか、コーナリングパワーも高くなっている印象で、ステアリングレスポンスが向上しているように感じられる。
これはステアリングを中立から切り始めた、ごく初期のフィーリングの違いに表れており、逆にいうと、非ランフラットタイヤのほうが、しっとりしなやかに接地している印象。一概にどちらがよいかというものではなく、好みの問題で、S001 RFTのしっかりとした手応え感のほうを好むユーザーも少なくないのではないかと思われた。ノイズなどの快適性はS001同士では、ごく近いレベルにあることを念を押してお伝えしたい。
■乗り心地の硬さという弱点を克服
この試乗会では、あえてパンク状態としたS001 RFT装着車の試乗も行われた。用意された車両は、FFのCR-ZとMINI、FRのレクサスGSで、あらかじめ駆動輪となるタイヤのサイドウォールにドリルで穴を開ける。穴は左側の駆動輪のみに開けられ、左側通行の日本で起こりやすいパンク状態を再現し、幅が狭くタイトなコーナーの続くコースを上限40km/hを目安に走行するというものだ。
CR-ZやMINIでは、駆動輪が前輪となり、タイヤとドライバーの距離が近いせいもあってか、また雨の水が影響してか、ゴムがよじれるような音が聞こえたが、この程度の走行であれば、十分にこなすことができる。一方駆動輪が後輪となるGSでは、遮音性がよいこともあってかそのような音は聞こえず、改めてTPMS(タイヤ空気圧警告装置)の装着は必須と思ったしだいだ。
一連の試乗はすべて小雨の降る中で行われたものだが、雨が幸いしてウェット路面でも十分なグリップ性能が確保されていることを確認できた。ランフラットタイヤがもたらすメリット繰り返すまでもないが、その最大の弱点であった乗り心地の改善という難題をクリアしたS001 RFTの市販化は、将来のランフラットの普及に向けての大きな一歩といえるだろう。
残る課題としては、現状でそれなりに割高になっている価格がもう少し安価になること、そして多くの人がランフラットタイヤのメリットを享受できるよう4サイズだけでなく、できるだけ早期にサイズラインアップの拡充に期待したいところである。
(岡本幸一郎)
2011年 6月 22日