レビュー

【タイヤレビュー】BMW 320i(E90)に「POTENZA S001 RFT」を履かせてみた

 「ランフラットはすぐ捨てたよ」。ランフラットタイヤを装着したクルマを買ったことがあるモータージャーナリストの言葉だ。

 パンクなどのトラブルでタイヤ内の空気圧がゼロになっても、一定の走行が可能(具体的には空気圧ゼロでも、80km/h以下の速度で80kmの距離まで走行できる)なタイヤ。重労働で汚れや危険も伴う路上でのタイヤ交換をせずに、タイヤを交換できる場所(店や工場)まで移動できるし、スペアタイヤや修理キットが不要だから燃費や資源の有効利用の面でも有利。いわば“夢のタイヤ”のはずのランフラットタイヤだが、そうした側面があっても、「タイヤ」としては評価しない人も少なくなかった。

通常のタイヤ(左半分)とランフラットタイヤの違い。ランフラットタイヤは空気圧がゼロになっても、サイド補強ゴムでタイヤの変形を抑え、一定条件での走行を可能にする

 ランフラットタイヤは、内圧ゼロ時にはサイドウォールで車重を支えるので、必然的にサイドウォールが硬くなる。そのため、通常のタイヤと比較すると乗り心地が不利にならざるを得ない。この構造のおかげでタイヤの重量とバネ下重量が増え、乗り心地や燃費に不利になるし、価格も上がる。

 さらに、ランフラットタイヤを装着するクルマには、タイヤの空気圧を監視して、空気圧が下がったら警告する仕組み(タイヤ空気圧モニタリングシステム)を搭載する必要もあって、これもコストなどの面で普及の障壁となっているであろう。ランフラットタイヤはパンクしたことを体感しにくいので、パンクしたまま80km/h以上の速度を出してしまったり、80km以上を走行してしまう可能性があり、それを防ぐために、ドライバーに空気圧の異常を知らせるシステムを載せる必要があるのだ。

やっぱり不満なランフラットタイヤ

 実を言えば2008年式のBMW「320i」(E90、前期型)を買った当初の筆者も、冒頭のモータージャーナリストのように、非ランフラットタイヤへの履き替えを真剣に考えた。320iの前に乗っていたのはハイドロニューマチックサスペンションのシトロエン「エグザンティア」、たたでさえ乗り心地がまったく違ううえに、ランフラットのE90は誰が乗っても「硬い」と言う。

 しかし、裕福でもないのにプレミアム・インポートなどに手を出した無理が祟って、タイヤ交換まで予算がまわらなかったこと、ランフラット装着を前提にチューニングされたクルマに非ランフラットタイヤを履かせてどうなるのか不安だったことなどから、履き替えは結局断念した。

 やむを得ずという形ではあるが乗り続けてみると、E90ならではのシャープな(サルーンとしてはシャープ過ぎるとも言われる)ハンドリングにマッチしたタイヤであるように思えてきた。E90を買った理由の1つには、このハンドリングがある。

 そうは言っても、ランフラットタイヤへの不満は心の奥底でくすぶり続けていたのである。ハンドリングがシャープなのは結構だが、筆者が買ったのはスポーツカーではない。“スポーティーなファミリーサルーン”として320iを買ったのである。年老いた母を乗せることだってあるのに、この乗り心地はもうちょっとなんとかならないものか……。

熱を抑えて乗り心地を改善したS001 RFT

POTENZA S001 RFT

 そこに登場したのが、ブリヂストンのランフラットタイヤ「POTENZA S001 RFT」である。

 同社のランフラットタイヤは、1987年のポルシェ「959」用ライン装着タイヤに端を発し、2005年には改善されたモデルがBMW 3シリーズに採用されている。S001 RFTは、さらに改善が加えられたモデルだ。

 前述のとおり、ランフラットタイヤはパンクしてもサイドウォールのみである程度の走行を可能にするため、サイドウォールを補強している。が、この“頑丈”なサイドウォールは半面、乗り心地を悪化させる。であれば、サイドウォールの補強が“控えめ”で、かつパンク時にも車体を支えられるだけの強度(これを「ランフラット耐久性」と呼ぶ)があれば、「乗り心地のよいランフラットタイヤ」ができる、はずだ。

 この矛盾した命題を解くためにブリヂストンは、熱に注目した。タイヤを支えるサイドウォールは歪むのだが、これが増大すると熱が発生する。この熱がタイヤを破壊し、サイドウォールで車体を支えられなくなってしまう。

 そこで、この熱を抑えるためにS001 RFTでは2つの対策が採られた。1つは、サイドウォールの補強ゴムに、熱を抑える「ナノプロ・テック」という技術を採用したこと。補強ゴムの熱は、中のカーボン同士が擦れることで発生するので、カーボンを分散して配置することで擦れないようにし、熱を抑えた。ナノプロ・テックにより、発熱量は従来のサイド補強ゴムの約半分になったと言う。

 もう1つは、タイヤ側面の表面に「クーリングフィン」を設けたこと。側面のフィン状の突起で、より温度の低い空気をサイドウォールに導き、タイヤを冷却するのだ。このクイーリングフィンは、同じS001 RFTでも、サイズによってその形状を変え、最大の冷却効果を目指しているという凝ったものだ。

クーリングフィンの形状は、タイヤサイズによって2種類を使い分ける
クーリングフィンの効果をサーモビジョンで見る。明らかにクーリングフィン付きのほうが温度が低い

 これらにより、薄いサイドウォールでも熱に破壊されず、車体を支えられるようになった。サイドウォールの硬さを表す数字として「縦バネ指数」というのがあるのだが、POTENZAシリーズのランフラットタイヤの従来モデル「RE050A RFT」の縦バネ指数が「128」であったのに対し、S001 RFTは「106」と、劇的に“柔らかく”なっている。ちなみにこの指数は、非ランフラットの「POTENZA S001」を「100」としたもので、つまり、RE050A RFTよりもぐっと非ランフラットのS001に近づいた、というか、ほぼ同じレベルの柔らかさになったのだ。

 さらに、サイドウォールが薄くなったことで、重量も300g軽くなった。非ランフラットよりは重いとは言え、バネ下重量は改善されたのだ。

 ここでいきなり非ランフラットのS001が登場したが、トレッドパターンはS001もS001 RFTも共通であり、タイヤラベリングも転がり抵抗係数C、ウェットグリップ性能bで同じである。POTENZAシリーズのフラッグシップモデルのパフォーマンスをランフラットでも享受しようという、欲張りなタイヤなのだ。

POTENZA S001 RFTの構造
非RFTのS001と遜色のない柔らかさを実現した
トレッドパターンは非RFTのS001と同じ

新世代RFTはタイヤ交換作業にもメリット

タイヤ館 パドック246

 さてこの新世代ランフラット技術、2009年には発表されていて、当初は「ライン装着向け」となっていたのだが、2011年になってリプレイスタイヤとして市販された。

 「S001 RFTなら乗り心地が改善されるのではないか……」と当然期待する一方で、疑り深い筆者は「サスペンションがS001 RFTを考慮して設計されていなければ、効果が感じられないのではないか」とつい考えてしまい、なかなか手を出せないでいた。

 しかしS001 RFTには、非ランフラット装着車にもリプレイスできるよう、後付けのタイヤ空気圧モニタリングシステムと推奨アルミホイールまで用意されると言う。それだけ、この新世代ランフラット技術に自信があるということだ。そこで、遅まきながらE90のタイヤをS001 RFTに換えてみることにした。

 交換はおなじみの「タイヤ館 パドック246」で行った。同店のアクセスしやすさ、技術力の高さは弊誌でも何度も触れられてきたが、さらにこのパドック246の入口には「RFT ランフラットタイヤ取扱店」という堂々たる看板が掲げられているのである。この看板には「十分な知識と訓練を積んだプロのスタッフが、専用の機材を使ってランフラットタイヤの交換を安全・適性に実施いたします」とある。

 一口にタイヤの交換と言うが、ホイールからタイヤを外して交換する作業で毎年事故が起きて、負傷者も出ているというくらい、危険が伴う。サイドウォールが硬く、ホイールへの着脱がしにくいランフラットタイヤはなおさら、交換には技術やノウハウを要する。加えて、タイヤ交換に使用する機材(タイヤチェンジャー)も、ランフラットタイヤに対応している必要がある。

 パドック246の技術力や作業の丁寧さは、弊誌でも何度も触れてきたが、ランフラットタイヤでも信頼できる、ということだろうか、この看板は。などと思いながら320iをスタッフの手に委ねてみると、さっそくてきぱきとした作業が始まった。

 作業自体は通常のタイヤ交換を同じように見えるのだが、細かい違いはいろいろとあるようだ。前述のタイヤ空気圧モニタリングシステムはその代表格で、交換しても正しく動作するよう配慮しなければならない。

 面白いことに、S001 RFTはサイドウォールが柔らかくなったおかげで、従来のランフラットタイヤよりも交換作業がしやすくなったと言う。新世代技術のメリットはこんなところにもあったのだ。

S001 RFTに交換する前のタイヤは、ライン装着されてきたブリヂストンの「TURANZA(トランザ) ER300 RFT」。サイズは205/55 R16
パドック246のドックに320iを入れると、てきぱきと作業が始まった
タイヤチェンジャーでホイールからER300 RFTを外す
用意されたS001 RFT
タイヤチェンジャーでホイールにタイヤをはめる
バランス調整
空気を入れるのは専用のケージの中で。タイヤが爆発する可能性もあるため。きっちりと安全が配慮されている
S001 RFTのクーリングフィン。205/55 R16はラインアップの中では小径で、クーリングフィンの形状はタイプAとなる
S001 RFTを装着したホイールを取り付ける
タイヤを交換したら、320iのタイヤ空気圧警告システム(RPA)をリセットする
細かいことだが、バルブを一番下にしたときにホイール中央のエンブレムが正しい向きになるよう、取り付けられている。メーカーが用意する試乗車でもエンブレムがズレていることが多いのだが、パドック246はこういうところにも気を使ってくれるのだ
これは、パンクしても、空気圧モニタリングシステムの警告を無視して80km以上走り続けてしまったランフラットタイヤ。トレッド全周にひびが入り、ついにまともに走行できなくなって入庫してきたとのこと。便利なランフラットタイヤだけに、使い方には注意したい

おだやかになった?

 S001 RFTに交換なった愛車で、ソロソロと国道246号に乗り出す。最初に感じられたのはロードノイズが小さくなったことだ。一方で、ランフラットタイヤ特有のサイドウォールの硬さ、タイヤがあまりたわまない感じはちゃんとある。

 その日はとりあえず家に帰り、後日、首都高速道路に乗ってみた。すると、路面の継ぎ目を乗り越えて“着地”したときの衝撃が柔らかくなったように感じられた。以前は継ぎ目を乗り越えるとタイヤが“ドタン”と落ちるような感じがしていたのが、もっと軽く(“ふんわり”とまでは行かないものの)着地するように感じられた。タイヤ自体の重量が軽くなったことも効いてるのだろうか。

 一方で、コーナーリング時のシャープさや爽快なステアリングフィールは失われていない。BMWらしい、オン・ザ・レールのハンドリングをちゃんと楽しめる。これは箱根のワインディングでもそうであった。

 では普段の街乗りで乗り心地が変わったか、というと、実は明確に実感できるほどではない。やはりランフラットタイヤ、普通のタイヤよりも硬い感じがするのは否めない。しかし以前は不快に感じた場面、例えば前述のような路面の継ぎ目とか踏切、荒れた路面などでは違うタイヤになったと感じられる。

 ちょっとびっくりしたのは、同乗した友人が「運転、おだやかになった?」と言ったことだ。運転のしかたを変えたりはしてないのだが、ロードノイズが減ったことや、段差の衝撃が減ったことが、そんな感想に結びついたのかもしれない。

 この後、S001 RFTが標準で装着された新型320i(F30)に乗る機会があったのだが、こちらはサスペンションのセッティングもより進化したと見えて、ランフラットらしさをほぼ感じさせない足まわりになっている。

 このへんはいかんともしがたいところだが、E90に装着しても前述の友人のような感想が出てくるほどの変化があるというわけだ。

 そんなわけで、新世代ランフラットタイヤS001 RFTは、旧世代の車両に着けても十分にその効果があると考える次第だ。

編集部:田中真一郎