レビュー

【タイヤレビュー】奥川浩彦のミニバンに「パイロット スポーツ 3」履いてみました(中編)

トレッドパターンをじっくり見て、静かさの秘密を再確認

 3月中旬に純正タイヤからミシュランの「Pilot Sport (パイロット スポーツ) 3」に履き替え約1カ月が経過した。鈴鹿2&4の取材などもあり走行距離は3000km。今回は1カ月ほど走ったパイロット スポーツ 3の印象をお届けしよう。

●前編
http://car.watch.impress.co.jp/docs/review/20130329_593372.html

 前回の記事で紹介したように、第三京浜 港北IC(インターチェンジ)脇にある「フジ・コーポレーション」の「横浜店 タイヤ&ホイール館 フジ」でパイロット スポーツ 3に履き替え、お店を出た瞬間に気付いたのはステアリング操作の軽さだった。そのまま第三京浜に乗り保土ヶ谷ICへ走行し、Uターンして川崎 百合ヶ丘の自宅に戻った。

 ほんのわずかの走行でステアリングの軽さの次に感じたのは走行時の静かさだ。履き替える前のタイヤがスタッドレスタイヤということを割り引いても、走行ノイズの低減は明らかだった。

 パイロット スポーツ 3発表時の記事を読むと、「ノイズ低減テクノロジー」によりトレッドパターンやブロック数を最適化。車両の遮音効果が効きにくい低周波のノイズを低減している、らしい。オーディオ好きな方はよく知っていると思うが、高音の遮音、吸音は比較的容易だが、低音のそれは難しい。高い周波数のノイズは遮音され車内に伝わりにくいが、低い周波数のノイズは車内に伝わりやすい。そのため、低い周波数のノイズを減らすトレッドパターンやブロック数にすることで、人の耳にノイズを聞こえにくくしているということだ。グラフを見ると遮音がしやすい高い周波数のノイズは増えているが、低い周波数のノイズを下げることで、従来品より静かなタイヤを実現している。

●ミシュラン、「Pilot Sport 3」 -Car Watch
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20100215_349234.html

パイロット スポーツ 3のトレッドパターン
パイロット スポーツ 3のノイズ特性

パイロット スポーツ 3の静かさの秘密を確認

 低い周波数のノイズを減らすトレッドパターンと聞いて、気になっていたことを確認したくなった。装着前のパイロット スポーツ 3の写真を見ると、回転方向のパターン間隔が広かったり狭かったりしている。最初は曲面を撮影しているので、目の錯覚かと思ったが、タイヤをジックリ眺めてみると、間違いなくパターン間隔が変化があることが分かった。

 気になって夜も寝られない、と言うほどではないが、もっと細かく観察してみたくなり、ステップワゴンからタイヤを外し、室内でジックリ見てみることにした。3000kmを走行したタイヤはそれなりに汚れているので、浴室で洗ってリビングに持ち込むという、人生初の体験となった。

 パイロット スポーツ 3のアウトサイドのパターンを測定してみた。215/50 R17の回転方向のパターン幅は約21mm、25mm、30mmの3種類。3種類のパターンは不規則に散りばめられている印象だ。おそらく、短いパターンは高い周波数、長いパターンは低い周波数になると思われ、一定の周波数のノイズを発生しない工夫がされているようだ。

外したタイヤを浴室で洗ってリビングに持ち込んだ。かなりの違和感
ブロックサイズは約21mm、25mm、30mmの3パターン
S=21mm、M=25mm、L=30mm。不規則に並べられている。アウト側、イン側は同じパターン

 3種のパターンが分散されている様子をグラフにしてみた。縦軸は回転方向のパターン幅で21mm、25mm、30mmの3種。横軸はタイヤ1回転分(70ブロック)となっている。タイヤが1回転するごとに繰り返しとなるが、左右のタイヤは逆回転となるし、前後のタイヤも回転の開始位置が異なるので、4つのタイヤからは常に異なるノイズが発生すると思われる。

縦軸がパターンの幅。横軸はタイヤ1回転分。不規則に変化していることが分かる

 イン側も少し回転方向の位置ズレはあるが同じ周期のパターンになっている。イン側から2つ目のリブは比較的似た周期にはなっているが微妙に異なっていて、このリブが発生するノイズは少し周波数が異なりそうだ。これらの工夫が「ノイズ低減テクノロジー」となり、トレッドパターンやブロック数を最適化したということなのだろう。

 せっかくリビングまでタイヤを持ち込んだので、ジックリ観察してみた。イン側から2つ目のリブは回転方向にブリッジでつながれている。これにより隣り合うブロックのヨレを抑制し、縦方向の剛性を高め、ハンドリングや高速安定性を向上させているらしい。さらに細かなところまで見ると、隣のリブはインサイドの肩は角が立っているが、アウトサイドの肩は少しRが付いている。その理由や効果は分からないが、それなりの訳があるのだろう。この辺りは機会があれば調べてみたい。

回転方向にブリッジでつながれ、ハンドリングや高速安定性を向上させている
イン側のブロックエッジは角が立っているが、アウトサイドのエッジは少しRが付いている

インチアップしても乗り心地は変わらず

 ステアリングの軽さ、静粛性の次に感じたのは乗り心地だ。今回、純正タイヤの205/65 R15に対し、ホイールをインチアップして215/50 R17のタイヤを装着している。タイヤ自体、特にサイドウォールはサスペンションの効果を持っているので、偏平率が変わることで乗り心地がわるくなることを覚悟していた。

 「そう言えば乗り心地はほとんど変わらないなあ」と気付いたのはしばらく走行してからだった。タイヤ部分(サイドウォール)の高さは約25mmも低くなっているが、特にゴツゴツした感じもなく心配は無用だった。

 1カ月で3000kmを走行したので、新しいタイヤでさぞ走り込んだと思われるかもしれないが、実際にはそうでもない。鈴鹿2&4の取材(川崎~鈴鹿)に加え、川崎~名古屋、川崎~大阪をそれぞれ1往復していて、3000kmの内、2300kmは高速道路を走行している。しかも2月にオートクルーズコントローラーを搭載したので、高速でアクセル操作をしたのはほんのわずか。距離の割には走り込んだという印象は薄い。

 高速道路での直進安定性は問題なし。走行ノイズが減少したので高速クルーズは快適だ。特に新東名は路面がよいので気持ちよく走ることができる。鈴鹿、名古屋、大阪を往復した中で、大阪からの戻りが雨だったが、小雨程度の雨だったので、ウェット性能の向上を実感するほどではなかった。ちなみに4月6日の、いわゆる爆弾低気圧の日は岡山国際サーキットでSUPER GTの開幕戦を取材していた。この取材は新幹線+レンタカーだったので、パイロット スポーツ 3のウェット性能を試すことはできなかった。

 ちなみに岡山で行われたSUPER GTの開幕戦は、豪雨の予選ではGT300クラスもGT500クラスもミシュランタイヤがポールポジションを獲得し、今年もウェット性能の高さを見せつけたが、ドライコンディションで行われた決勝はGT300クラスが5位、GT500クラスは終盤まで独走したが3位となっている。

GT300クラスで予選1位、決勝5位となった61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT
GT500クラスで予選1位、決勝3位となった23号車 MOTUL AUTECH GT-R
新東名のキロポスト表示

 筆者は時々高速道路の距離表示でクルマの距離メーターをチェックしている。タイヤが新しくなったしインチアップもしたので、新東名で路肩にある「100」「110」と書かれたキロポスト表示を利用して、30km、40km、50km走行時のトリップメーターをチェックしてみた。30km走行時のメーター距離は29.6km。40kmで39.4km、50kmで49.3kmとなった。比率としては98.6%くらいだ。1.4%ほど差があるが、少しタイヤが摩耗して外形が小さくなるとピッタリになりそうだ。理論上はメーター読み100km/hで走行時に実測101.4km/hで走行することになる。日本の自動車の速度メーターは一般的に+方向の誤差が与えられているので、ステップワゴンの場合、メーター読み103km/hで実際の速度が100km/hとなる計算だ。

 高速走行が中心だが、以前装着していた純正タイヤに比べ燃費は少しだけわるくなった。ただし、これには少し事情がある。元々の純正タイヤは、規定の空気圧よりやや高めにしていた。これは、空気圧を高めにして、タイヤの転がり抵抗を低下させ、燃費を稼ぎたいという魂胆があったからだ。パイロット スポーツ 3にしてからは、記事を書く都合上、常に規定の空気圧にしているので正確な比較とはならないだろう。

 ステアリング操作が軽くなり、走行ノイズも減って、スイスイと走る印象なので、燃費もよくなりそうな錯覚を起こしていたが、205/60 R16から215/50 R17へのインチアップによる接地面積増加などもあり、燃費値が若干の低下なら許容範囲だろう。

 余談だが、ステップワゴン(RG1)を購入したとき、CVT非搭載ということもあって、比較したセレナ、ノア/ヴォクシーの中で、1番燃費(当時は10・15モード燃費)がわるかったのがステップワゴンだった。カタログスペックもユーザーの燃費登録サイトのデータでも他の2車種とは差があった。

 当時はガソリン代が180円/Lくらいに高騰していて、近い将来は200円越えかと思われていた。燃費の差はかなり気になったが、比較した3車種の中で、アクセル、ブレーキ、ステアリングのフィーリング、いわゆるハンドリングが最もよかったのはステップワゴンだった。結果として将来のガソリン代を購入時の値引きでカバーして欲しいという要求にディーラーが応えてくれたのでステップワゴンを購入することとなった。なので、燃費に関しては、購入時にその分を差し引いてもらっているので仕方がないと思っている。

岡本幸一郎さんにプレッシャーをかけられる

 パイロット スポーツ 3に履き替えた直後に、Car Watchで各車のインプレッションを寄稿されている岡本幸一郎さんと食事をする機会があった。上記の話しをしたら「ステップワゴン(RG1)は歴代のステップワゴンの中で最もハンドリングがよい」とのことで、重心位置の関係など詳しく解説していただいた。最後に「タイヤの記事はクルマの記事より難しいですよ」とプレッシャーをかけられた。

 この1カ月は高速道路の走行が中心だったが、高速以外でもたまに「オォッ」と感じることがあったので報告しておこう。それは交差点を右折するときだ。大きめの交差点で信号に右折の矢印が出る。そこそこの速度を維持したまま右折車線を通過し、交差点内に入ったあたりで強めのブレーキング。

 このブレーキング時の安定性の高さはかなりの好感触。実際にそんなことはあり得ないのだが、ブレーキングでフロントが沈み込んだときに、リアも沈み込んで重心が下がった、あるいは車高全体が下がったような錯覚を起こすほどだ。

 タイヤがロックしたりABSが作動するほどのブレーキングではないが、ブレることなく安定して減速できるのは実に気持ちがよい。きっとワインディングロードを走ると、走ること自体が楽しく感じられそうで、まさに「FUN TO DRIVE, AGAIN」となりそうだ。4月末にはSUPER GT第3戦が富士スピードウェイで開催されるし、ゴールデンウィークもあるので、次回は高速道路以外の走行感もお届けしたい。

 最後に日常の変化をお伝えしよう。パイロット スポーツ 3+アルミホイールに履き替え、外したスタッドレスタイヤは川崎の事務所兼住居に置く場所がなかったので名古屋の自宅まで運んだ。マンションのベランダへ運ぶ作業を大学生の息子に手伝ってもらったのだが、免許を取ったばかりの息子はさっそくスマホで撮影していた。

 筆者はと言うと、最初の10日くらいは駐車場のステップワゴンに近付くと真っ先にタイヤ&ホイールに目が行く。時にはクルマを降りて離れる途中に振り返って見てしまうほどだ。やはりインチアップしたタイヤ&ホイールはカッコイイ。加えて、大きな駐車場を歩いていると、他人のクルマのホイールを見て、「アルミ、鉄、アルミ、鉄、鉄、鉄、アルミ……」とチェックをしたりして、自分自身の器の小ささを痛感した。

 器の小ささはこれだけではない。1車線の道路で、前方の車両が右折待ちで停止しているときに、せっかちな筆者は停止車両と左側の歩道の間をすり抜けることが多い。ときとしてギリギリの隙間を抜けることになるが、今までは平気で抜けていたのにタイヤ&ホイールを替えてから、「タイヤウォールが擦るかな?アルミホイールをガリッと傷付けたら嫌だな」と思うようになり躊躇することが増えた。我ながら「チイセ~」と呆れるほどだ。

 さすがに1カ月も経つと他人のホイールをチェックすることはなくなったが、今回のパイロット スポーツ 3&アルミホイールは予想外に嬉しい買い物だったと感じている。

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。