特別企画
【特別企画】初心者マークのPC Watch編集部員がタイヤをミシュランに替えてみた(後編)
高速走行の安定性とスムーズなコーナーリングを体験
(2015/6/22 00:00)
こんにちは、この記事が掲載されるころには初心者マークが外れているPC Watchの劉です。前編では街乗りでのミシュラン「Pilot Sport 3(パイロット スポーツ スリー)」のファーストインプレッションをお届けしました。タイヤ交換から約1カ月が経とうとしていますが、その性能に大変満足しています。家族4人で乗ってみたときにはあまりに乗り心地がよいからなのか、運転している私を除く3人は、走り始めて20分足らずですっかり夢のなかでした(笑)。
さて、街乗りで至って快適なのはよく分かりましたが、高速道路での走行やカーブが多い峠道ではどうでしょう。早速テストしてみたいと思います。
とはいえ、筆者はまだ運転歴1年以下と経験が浅く、まだまだ不必要なステアリング操作やアクセルワークも多くてPilot Sport 3の特徴をしっかりと生かした走行はできません。そこで、初心者マークが外れる直前に運転技術の復習という意味を込めて、Car Watchでおなじみのモータージャーナリスト、岡本幸一郎氏に同行してもらい、高速道路や峠道での走行をアドバイスしてもらいました。
長距離でも疲れにくい高速走行
今回はカーブが多い栃木県日光市の「霧降高原」を目的地に設定し、東京から東北自動車道を使って向かうことにしました。以前にはRX-8と同じマツダの「RX-7」を3台も所有していたことがあるという岡本氏。年間100台以上のクルマに試乗するそうですが、筆者のご老体RX-8の走りも気に入ってくれました。「近年はRX-8のようなスポーツカーが減りましたねぇ……」。同じロータリーエンジン搭載車のオーナーとして、車内で話が盛り上がります。
それほど長い距離ではありませんが、岡本氏にも高速道路での運転をお願いしました。さすが長年運転していらっしゃるプロだけあって、巡航速度や進路の維持、車線変更などがとてもスムーズ。特に巡航速度の維持は、高速道路において渋滞を引き起こさない上で重要な要素ですので、初心者の筆者には上り坂の角度やスピードメーターのチェックが欠かせません。一方の岡本氏は、すでに速度感覚が身体に染みこんでおり、すんなり100km/hに達してその速度を維持しておりました。さすがです。
この運転中に岡本氏は、RX-8は高速走行時でのステアリングの遊びが極めて少なく、わずかなステアリング操作でも走行状況にダイレクトに反映されるのがポイントだと解説してくれました。これがほかのクルマだと遊びがやや大きいことが一般的であり、シビアなステアリング操作を求められないので運転していて疲れにくい半面、思ったとおりにステアリング操作できない原因にもなるそうです。よってRX-8で高速道路を走行するときは、数十m先のラインをイメージしながら優しくステアリング操作をすればよいとのアドバイス。なるほど、これで白線を踏みそうになることが少なくなり、左右のドアミラーで確認する回数も減りました。
ETCレーンを通過したあとの加速では、いつもに増してアクセルを踏み込んでみましたが、以前のタイヤと比較してロータリーエンジンのサウンドがより明瞭に聞こえるようになっています。これでスポーツカーを運転する楽しみが1つ増えましたね。ただ、やはりロータリーサウンドを聞きたいのなら、ステアリングやパネル類が多い運転席よりも、障害物が少ない助手席に座っている方がよりいっそうエンジン音を楽しめるという印象です。わが家では筆者しかMT車を運転できないので、残念ながら走行中のRX-8の助手席に座る機会はあまりないのですが……。
そして、やはりPilot Sport 3が持つ快適な乗り心地は高速道路でも素晴らしい。道路の継ぎ目や路面自体が少し傷んでいるような場所でも車内の振動や騒音が少なく、以前ほど路面の状態を気にしなくなりました。これなら長距離の運転でも疲労が軽そうです。
カーブで不必要な減速が少なくなった
岡本氏からアドバイスを受けたりロータリーエンジン搭載車談義に花を咲かせたりしながら東北道を走り抜け、あっという間に目的地の霧降高原に到着しました。この日の都心はかなり暑かったようですが、霧降高原は高原というだけあってとても涼しく爽やかです。ただ、日差しと紫外線は強いので、少し車外にいただけでもすぐに日焼けしてしまいます。
さて、いよいよ筆者が苦手な緩やかなカーブです。こういったカーブが続く峠道の場合、先の見通しがよいカーブでも筆者は不必要にアクセルを離したり、ブレーキを踏んだりしてしまいます。制限速度は30~40km/hと決して速くありませんが、「このクルマでこの速度だと、曲がれるかな? 曲がれないかな?」と不安になってしまい、必要以上に速度を落としてしまいます。おかげで後続車にすぐに追いつかれてしまい、RX-8の後方に長蛇の列ができたりすることも……。
ここでもまず岡本氏にお手本を見せていただきました。駐車場にクルマを止めて運転を交代。そこから少しきつい坂を駆け上がります。実は筆者は上り坂も苦手で、箱根に行った際はノロノロ運転になったりエンストを繰り返したりしていましたが、岡本氏は道路の状況に合わせたクイックなシフト操作とアクセルワークで、RX-8らしい非常に軽快な走りを見せてくれました。そしてカーブでも不必要に減速したりせず、速度を維持したままオン・ザ・レールで進んで行きます。
その後、運転を筆者に交代して同じ道を走ってみると……うわ~、やっぱりこんなにカーブがあるのは怖い! 箱根に行ったのは半年ぐらい前だったので、そのときからはシフト操作が幾分改善されましたが、カーブになるといくら見とおしがよくても直線と同じ速度のままでは少し恐怖感を覚え、ハンドリングが乱れてブレーキを踏んでしまいます。
見かねた岡本氏が「運転は常に先の先を見るようにしましょう。数十m先を見て、自分が数秒後にそこにいるイメージを思い浮かべながらステアリングを操作するんです。カーブの場合はカーブが消えて見えなくなっているところをポイントにして、そこの先を見ようとするイメージでステアリングを切る。そうすれば、必然的に必要のないアクセル操作やブレーキワークが減りますよ」とアドバイスしてくれました。
岡本氏の教えを実践してみると、すぐに運転内容が変わりました。先の先を見ることにより、遠近法で視点における道路の移動量が相対的に減り、スピード感が減少。これまではクルマの速度が低下しがちだったカーブでも、アクセルを踏み込んでいける心の余裕が生まれてきます。
よく考えてみれば、これは免許を取るときの教習で使った教科書にも載っているような内容でした。免許を手に入れてからの運転ではあまり意識していなかったことですが、あらためて意識してみるとこんなにも運転が変わるんですね。これなら、期日が来たら正々堂々と初心者マークを外せます(笑)。
さてPilot Sport 3の実力ですが、「柔らかさがあるからなのか、以前の硬いタイヤよりわずかに車体のロール(傾き)が増えたかな?」という印象。岡本氏も「以前のタイヤは乗ったことがないけど、前のタイヤが硬いのであれば、Pilot Sport 3に替えてロールは増えることになると思う」とのコメントでした。
しかしながら、個人的にはわずかにロールした方が「これぐらいの遠心力が車体にかかっていますよ~」というイメージを把握しやすくなり、「このカーブではもうちょっとアクセルを踏める」と自信が湧いてきます。しなやかにロールしながら、それでも粘り腰を見せる雰囲気は竹を連想させるもので、スムーズにクルマが曲がるようになりました。岡本氏のアドバイスも受けられて、今日でドライビングテクニックがかなり向上した気がします(笑)。
気にしなかったけど、タイヤには工夫がいっぱい!
さて、快適性だけでなく、ハンドリング性能も優れたPilot Sport 3ですが、この素晴らしい性能はどこから来るのでしょうか。霧降高原の大笹牧場で休憩をはさみつつ、岡本氏に詳しく解説していただきました。
まずはタイヤの“柔らかさ”というか乗り心地ですが、これは主にタイヤの素材となるコンパウンドの成分配合と、側面にあるサイドウォールのしなやかさなどで決まるそうです。Pilot Sport 3は乗り心地とハンドリング性能、ウェット性能など、走行に関する総合的なバランスを追求しているのですが、なるほど、タイヤ1つにもさまざまなところに工夫されているんですねぇ。
コーナリング性能はタイヤの接地面の形状が重要で、タイヤ中央の山の位置や高さ、そしてサイドウォールと接地面が交わるショルダーの形状によって決まるそうです。これはメーカーの考え方や時代背景、前出の素材(コンパウンド)によってさまざまな方向性があり、必ずしも「この形状だから素晴らしい性能が出る」というわけではないとのこと。このあたりは工業規格などで決まっているのだと思っていましたので、またまた意外でした。
そしてロードノイズに一番影響が出るのは、トレッドパターンの溝(グルーブ)だそうです。単純にタイヤのグリップ力や静粛性を追求するのであれば、溝はないことに越したことはありません。競技用のスリックタイヤが代表的ですが、一般のクルマは雨が降っているときも走ります。溝がないタイヤだとハイドロプレーニング現象が発生し、車体が水の上に浮いた状態になってしまいます。これは非常に危険ですので、タイヤには排水性を高めるために溝が設定されているのです。
しかし、溝を作るとロードノイズなどの騒音が増えることは容易に想像付きます。そこで各メーカーは、溝の形状や組み合わせなどの最適化に苦心しているようです。実際にPilot Sport 3のトレッドパターンにある横向きの溝をよく見ると、なんと間隔が異なっているではありませんか! ホームページで見た「静音化のためのトレッドパターンやブロック数の最適化技術」というのは、このランダムな間隔のことだったんですねぇ。これが低周波ノイズの発生を低減していて、車内の静粛性に繋がっていると岡本氏が解説してくれました。
タイヤの構造や特徴などは、これまでクルマに乗っていてもまったく気にしたことがありませんでした。PC的に言えば、冷却ファンの素材や形状が、風量や騒音に影響すると言ったところでしょうか? ミシュランさんがここまで工夫されているとは……、改めてさまざまな技術に驚きました。
これから迎える梅雨の外出にも安心
前後編の2回に分けてPilot Sport 3のインプレッションをお届けしてきましたが、製品の説明どおり、乗り心地のよさと静粛性の高さによる快適性、ハンドリング性能やグリップ力などのいずれを取っても素晴らしいタイヤであると体感できました。岡本氏も「全てのバランスを考慮しながら性能も妥協しない、RX-8のようなスポーツカーの普段使いにはとてもよいタイヤ」と評価してくれました。
また、今回初めてプロの走りを体感しましたが、RX-8とPirot Sport 3の性能をしっかりと引き出せている印象でさすがでした。今後は初心者マークが取れたあとも、岡本氏のアドバイスを心に刻み、クルマとタイヤの性能が発揮できるよう、安全に心がけながら運転していきたいと思います。
実はPilot Sport 3はこれらの特徴だけでなく、ウェット性能、つまり雨が降っているときのグリップ性能にも優れています。ミシュランのホームページを見ると、Pilot Sprots 3はショルダーの形状を最適化し、路面とタイヤのあいだに水が残らないよう横方向に向かって排水する「アンチ・サーフ・システム」構造を採用しています。
これを事前に知っていたので、今回はウェット性能も体験して感想をお届けしたいと思っていたのですが、筆者が「晴れ男」なせいで、残念ながら(?)まったく雨に恵まれませんでした。しかし、これだけ高い総合性能で満足させてくれたタイヤですから、雨が降ったときの性能にも期待できそうです。
今回の撮影場所となった霧降高原ですが、夏休みごろにもう1回、家族で観光しに訪れてみようと計画しています。もちろん、Pilot Sport 3を履いたRX-8で行く予定で、当然のように妻は行楽日和になることを期待していますが、妻の希望とは裏腹に、雨にならないかと筆者は内心願っていたりするのです。