レビュー

【タイヤレビュー】奥川浩彦のミニバンに「パイロット スポーツ 3」履いてみました(後編)

驚愕のウェット性能を持っていたパイロット スポーツ 3

 3月中旬にミシュランの「パイロット スポーツ 3」に履き替えて、およそ2カ月が経過した。前回は走行距離の大半が高速道路で、今一つ走り込んだ感じがしなかった。今回は首都高速環状線を走ったり、豪雨の日を狙って走行したので、ミニバン+パイロット スポーツ 3のコーナリング性能やウェット性能などをお伝えしたい。

ミニバン+オッサン+パイロット スポーツ 3(富士スピードウェイにて)

 筆者は1月に神奈川県川崎市の百合ヶ丘に引っ越してきた。川崎市に住むのはおよそ30年ぶりで、百合ヶ丘近辺の土地勘はない。このあたりは丘陵地帯で坂が多く道も曲がりくねっているのだが、道幅が狭い道路が多く、路線バスのリアタイヤが歩道をかすめてお尻を振ることがあるほどだ。

 できれば適度な道幅があって信号もなく気持ちよく走れるワインディングロードを走り込みたいと思い、深夜に乗ったタクシーの運転手さんにもたずねてみたが「ないね」の一言だった。

 そこで思いついたのが首都高速環状線だ。適度な速度、適度な道幅、信号もなくそこそこのワインディングロード。しょせんミニバン、そもそも運転するのはオッサンなので丁度いい選択。雨の中、深夜の首都高ドライブに出掛けることにした。

 1年ほど前、Mobileyeという衝突防止補助システム(http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/minigoods/20120907_557737.html)を取り付けるために、ステップワゴンで東京に来た。その際に首都高を走ったのだが、カーナビ頼りの走行でJCT(ジャンクション)の分岐を間違わないようにビクビクしながら走行した記憶がある。

 今回は出発前に路線図を把握、動画投稿サイトも見てカーナビなしで走れるようにしてから出発だ。首都高は2012年1月1日から距離別料金制を導入しているが、Car Watchの記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20111227_501757.html)によれば、周回走行をしても最短距離で料金が計算されるとのこと。深夜を過ぎたころに用賀から3号線に入り環状線外回りへ。かっ飛んでいるお兄さん達がいるかと思ったが、雨が降っていたせいかまわりを走る車は極めて普通、交通量も少なめ。流れに沿った速度で首都高を走った。

 江戸橋JCTの右カーブは、ウェット路面のせいか路面の継ぎ目でほんの少し挙動が乱れるが、ステアリングを修正するほどでもなく、そのままオンザレールで曲がっていく。霞ヶ関から三宅坂JCTへ向かう左カーブは目の錯覚かもしれないが逆バンク気味でアクセルを戻したくなるが、トンネル内でドライ路面ということもあり、そのままステアリングを切り込めば何ごともなく曲がっていく。ミニバン+オッサンの運転では、限界ははるか彼方にありそうな感じだ。

 首都高を走る内に遠い記憶が甦ってきた。学生時代、新車の慣らし運転もかねて首都高を走ったことがある。バリバリの初心者マーク。若かったこともあり少々恐かったことを憶えている。30年の時が過ぎ、車も運転もすっかりオッサン仕様になったが、実に楽しい。まさにFUN TO DRIVEだ。

 環状線を浜崎橋JCTから抜けて芝浦JCT、レインボーブリッジを通って有明JCTから横浜方面へ。すでに深夜1時を過ぎていたので走行する車はほとんどなく貸し切り状態。東京湾トンネルの下り坂で、30年前に渋滞の列に追突しそうになったことを思い出し、「人は経験を経て安全運転を覚えるんだよな」とつぶやく。

 話はそれるが、一ツ橋JCTを過ぎたあたりに30年前は麻布自動車があり、ビルの3階くらいまで高級外車がミニカーのように並べられていて、夜の首都高から見るその景色が絶品だったことを思い出すが今はもう見あたらない。当時知り合いが麻布に住んでいて、車で迎えに行くときの待ち合わせは麻布自動車の前だった。早めに着いてショールームの1階をブラブラしていると「どうぞ」とお店の方がポルシェのシートに座らせてくれた。20歳の学生だった筆者はドキドキしながらシートに収まった記憶がある。

 大黒PA(パーキング)で一休み。再び首都高に乗り、都心環状線外回りに入り谷町JCTから3号線を経由して川崎の自宅に戻ると時計は2時半を回っていた。走行距離は170km。繰り返しとなるがまさにFUN TO DRIVE、パイロット スポーツ 3を履いたお陰で素晴らしい時間を過ごすことができた。

プライマシー 3も満足保証キャンペーンに加わる

 パイロットスポーツ3の連載を執筆しているため、Car Watchの編集長から「ミシュランタイヤの発表会に参加してみませんか」と誘われ、首都高速環状線ドライブの数日後、新コンフォート低燃費タイヤ「Primacy 3(プライマシー スリー)」の発表会に参加した(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130424_597174.html)。

 編集部の方が参加されていたので、筆者自身は記事を書くわけでもなく見学に近いイメージ。何か連載のネタになることはないかと期待して顔を出した。プライマシー 3の詳細は関連記事を参照していただきたい。

 会見で挨拶に立ったベルナール・デルマス社長が流ちょうとは言えないものの、すべて日本語で挨拶したことにビックリ。SUPER GTで2年連続チャンピオンを獲得したことを喜んでいたのが印象的だった。会見後、デルマス氏が日本人スタッフに日本語で話しかけているのに2度ビックリした。

 このプライマシー 3はパイロット スポーツ 3と同じく満足保証プログラムの対象となっている。連載の前編で紹介したように、満足保証キャンペーン対象のミシュランタイヤを4本セットで購入後、購入から60日間以内であれば、製品に満足できなかった場合に返金を保証するものだ。

 技術的な説明で参考になったのはチャンファーデザイン。プライマシー 3は回転方向のブロックの角を面取りすることで、ブレーキング時の接地面の最適化を行っている。ブロックの角が立っていると、負荷が掛かった際にその角に圧力が集中してしまうが、面取りをすることで接地面の圧力を分散することができるらしい。

 前回の記事でパイロット スポーツ 3のリブのアウト側にRがついていることを紹介した。このRはコーナーリングの際に負荷の掛かるアウト側のタイヤのアウトサイドとなり、チャンファーデザインと同様にコーナーリングの時の接地面の最適化に役立っていると思われる。

プライマシー 3では、面取りにより接地面の最適化を行う
こちらは、パイロット スポーツ 3。アウト側のRによりコーナーリング時の接地面を最適化
プライマシー 3もパイロット スポーツ 3と同様、回転方向のブロック幅が変化している

 前回の記事でリビングにタイヤを持ち込んで観察した筆者は、ついつい新しいタイヤも観察したくなり会見後にプライマシー 3をジックリ見た。プライマシー 3もパイロットスポーツ 3と同様に回転方向のブロックパターンの幅に変化が持たせてある。これにより走行ノイズの周波数を分散させている。

 パイロット スポーツ 3はスポーツタイヤをややコンフォート方向に味つけしたタイヤ。一方、新発売のプライマシー 3はコンセプトが「Active Comfort(アクティブコンフォート)」となっているようにコンフォートタイヤを、より走りが楽しめるように味つけしたタイヤ。そう、2つのタイヤは少し似た特性のタイヤだと思われる。

 筆者の想像では、燃費性能はプライマシー 3の方が上。スポーツ性能はやはりパイロット スポーツ 3の方が上。詳しくは後述するが発表会の数日後に行った豪雨の中の走行ではパイロット スポーツ 3は驚愕のウェット性能を見せたので、ウェット性能もパイロット スポーツ 3のほうが上だと思われる。いずれも筆者が元々履いていた2分山の純正タイヤよりは遙かに高性能だと想像できる。

驚愕のウェット性能を持っていたパイロット スポーツ 3

 パイロット スポーツ 3の満足保証プログラムの保証書等が送られてきたので紹介しておこう。満足保証プログラムの申し込みを行うと1~2週間で保証書と返品アンケートが送られてくる。保証書には保証番号、保証期限、補償金額などが記入されている。返品アンケートは、返品の際に元々履いていたタイヤ(筆者の場合純正タイヤ)、買い替えたタイヤ、車両情報、使用状況などを記載することになっている。そして、筆者自身がどうしたかというと返品することはなかった。その最大の理由は、驚くべきウェット性能だ。

送られてきた満足保証プログラムの保証書
返品アンケートは返品するときに記入してタイヤと一緒に送る

 発表会の数日後、筆者は天気予報を昼過ぎから何度もチェックしていた。深夜を過ぎたころの降水量は7mm。その前後も4mmでかなりの豪雨が予想されていた。実際の降水量はその地域に均一に降るわけでもないし、天気予報の示す1時間の間も一定の降水量ではない。あくまでその地域、その時間の平均的な降雨量だと思われる。

 経験的には3mmくらいになると少し強めでレースの開催は危ぶまれ、5mmを超えるとセッションは中止となることが多い。7mmとなれば局地的、瞬間的には乗用車でも危険を感じるほどの豪雨になりそうだ。夕方の予報では降水量が4mmに下がったが、夜になると予報は23時台が4mm、0時台が7mm、1時台が4mm。ウェット性能を試すには絶好の豪雨がやってきた。

 この日は第三京浜の都筑IC(インターチェンジ)から保土ヶ谷ICを経由し首都高神奈川1号横羽線(K1)を東京方面に向かった。

 23時過ぎに自宅を出て都筑ICへ。結果としては百合ヶ丘から都筑ICまでの一般道が最も激しい雨に見舞われた。走り出すとすぐに豪雨となり道路を水の流れが横切るほどで、前を走るトラックの跳ね上げた水しぶきが中央分離帯を越えて対向車線に届いていた。交差する道路の轍に溜まった水を横切るときもバシャって水が跳ね上がる。

 通常、これくらいの雨になるとタイヤが水たまりに入る際にステアリングに水の抵抗を感じるのだが、パイロット スポーツ 3は何ごともなく水溜まりを通り抜けていく。正直「嘘だろ!?」と思い、前を走る車が深い水溜まりを通過すると、わざと同じラインを通るのだがまったくステアリングに抵抗を感じることはなかった。

 30年以上運転していて、初めての感覚に驚くばかり。豪雨の中走り出してすぐ、パイロット スポーツ 3はうたい文句どおりの驚愕のウェット性能を見せてくれた。

 豪雨が続く中、予定どおり都筑ICから第三京浜、首都高速横羽線と走行するが、高速道路とあって本線に深い水溜まりはなくミニバン+オッサンの運転+驚愕のウェット性能で何ごともなく過ぎていく。JCTへの進入でブレーキングをしてもいたって普通。首都高速環状線に向かい内回りを3/4周して3号線から東名川崎ICまで走り帰宅した。

 走り終わった後も、深い水溜まりを何ごともなく通過していくパイロット スポーツ 3のウェット性能は信じがたかったが、それは数日後に富士スピードウェイで確信に変わった。

レース用のタイヤ技術は市販タイヤに数多くフィードバック

 SUPER GTの第2戦が4月28日、29日に富士スピードウェイで開催された。初日、練習走行と予選の間に日本ミシュランタイヤでSUPER GT参戦を統括する小田島広明氏にお話しをうかがうことができた。

 実はこの連載の前編で筆者は「レース用のタイヤと市販のタイヤが関係するのかと聞かれれば、直接的な関係は薄いと思うが」と書いたが、Car Watch編集部の計らいで、その辺りを実際にレース部門を統括する小田島氏に話しを聞くことになったのだ。

 F1やWRCといった世界的なレースを含め、1つのメーカーのタイヤでレースが争われるワンメイクタイヤ制が主流となるなか、SUPER GTは多くのタイヤメーカーが参戦し凌ぎを削っている。ミシュランでは、日本のSUPER GTで蓄積された技術が、ル・マン24時間など世界的なレースのタイヤ開発に生かされていることを、レース好きの方なら知っているだろう。

 小田島氏によると、レース用のタイヤも市販タイヤも基本的な開発部門は同じとのこと。レース用タイヤの開発では、レースごとに数々のトライをし、多くの技術を蓄積する。タイヤの構造、材質、コンパウンド、ウェットタイヤのパターン、燃費性能など多岐にわたる技術を蓄積し、その中から市販タイヤを開発するときに生かせる最新の技術を盛り込んでいるとのことで、レース用のタイヤ技術は市販タイヤに数多くフィードバックされているらしい。

小田島氏(左)と筆者。富士スピードウェイにて

 このインタビューの中、小田島氏自身もプライベートでパイロット スポーツ 3を履いているとのことだったので、数日前に筆者が体験した豪雨の中での信じがたかった出来事に関して聞くと「普通は深い水溜まりに入るときにステアリングを強く握って身構えますけど、パイロット スポーツ 3ならスーッと走れますよね」とあっさり答えてくれた。豪雨の体験から数日間は、筆者の勘違いではないかとさえ思っていたがパイロット スポーツ 3のウェット性能の高さはこのとき確信に変わった。

 逆に思ったことは、最初からこのタイヤを履いた人は深い水溜まりを何ごともなく走れるのが当たり前と勘違いするかもしれない。その人が車を買い替えて純正タイヤで豪雨に直面すると、勘違いが危険につながらないかと心配になった。

 この連載を読んで「僕もパイロット スポーツ 3を履いている」という方がいた。日本レース写真家協会(JRPA)に所属し、Car Watchでも記事を書かれている高橋学氏だ(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120907_558128.html)。高橋氏にパイロット スポーツ 3の感想を聞くと、「以前履いていたパイロット プライマシーもよいタイヤだったが、パイロット スポーツ 3はそれ以上。近年ではお気に入りのタイヤ」とのことだった。

 富士スピードウェイのレース終了後、帰宅する際につきものなのは渋滞だ。昨年までは名古屋に戻っていたが、今年から帰宅先は川崎。お勧めのルートをメディアセンターで何人かに聞いてみたが意見はバラバラ。大人しく高速の渋滞に並ぶのも手だが、せっかくなので峠道を走る選択をした。

 選んだルートは御殿場線の足柄駅付近から足柄峠越え。足柄街道に合流するまでの狭い峠道は、セダンの後ろに筆者のステップワゴン、その後ろもセダンとなり前のセダンのペースに合わせて走行。足柄街道に合流して道幅も広がり流れも速くなったが、峠を越えて下り始めると前の車列に追い付き数珠つなぎとなってしまった。

 ワインディングロードを楽しめたのはわずかな時間だったが、ドライ路面+ミニバン+オッサン+パイロット スポーツ 3の組合せでは何も起こることはなく街まで降りてきた。東名高速は混んでいたので小田原厚木道路に抜けあっさり帰宅。その後は天候が荒れた日もなく最終回の原稿を書いている。

 原稿を書き終えた後に首都高の東京~横浜を走る予定があるが天気予報は晴れ。静かなタイヤでクルージングになるだろう。パイロット スポーツ 3は普段は静かで乗り心地のよいタイヤとして、ワインディングロードや豪雨の中ではミニバンには充分すぎる高性能を発揮するタイヤだ。特にウェット性能の高さは驚くほどで、できれば遭遇したくないが、もしもの時にその価値を感じそうだ。

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。