レビュー

【タイヤレビュー】ウェット性能を高めたミシュランのプレミアムコンフォートタイヤ「プライマシー 4」の実力を体感

「プライマシー 3」から約5年を経ての進化

ミシュランのプレミアムコンフォートタイヤ「プライマシー 4」にテストコースで試乗してきました

 ミシュランのプレミアムコンフォートタイヤ「Primacy 3(プライマシー スリー)」が約5年ぶりに「Primacy 4(プライマシー フォー」に進化した。プライマシー 3は安定した全方位性能を待つことが特徴で、世界の自動車メーカーに採用実績があるほか、リプレイス用としても信頼性が高い。

 しかし、プライマシー 3が発表されてから5年の時が経過して、タイヤを取り巻く環境も大きく変化した。1つには自動ブレーキの普及、もう1つはハイブリッドカーなどの大きな普及で重量の増加に対応すること、静粛性への期待、燃費などのタイヤへの要求が大きくなっていることが考えられる。さらに近年の天候の不順でウェット性能への関心も高まっている。

ミシュランのプレミアムコンフォートタイヤ「プライマシー 4」。ミシュランらしくすっきりしたパターンデザイン

 プライマシー 4は、そんな期待に応えて登場したミシュランの自信作だ。使われた技術はパターンの変更、プロファイル、コンパウンドなど全てにわたり、一見、ミシュランらしいオーソドックスなストレートグルーブを基調としたデザインに大きな変更はないが、内容はガラリと変わった。

 左右非対称パターンは溝の切り方などの違いで微妙にバランスが異なっている。プライマシー 3から継承されているが、プライマシー 4ではサイドウォールに「OUTSIDE」の表示が大きくなって分かりやすくなっている。また、デザインもブラッシュアップされて、「MICHELIN」の文字やビバンダムが光の反射でハッキリ浮き出るような工夫がされているほか(18インチ以上はさらにメリハリが効く)、「Primacy」に彫文字も使うのなどプレミアムタイヤに相応しい表現方法が取られている。

ホイールに取り付けるとまた形状が少し変わってしまうが、プロファイルはラウンドショルダータイプ。周方向の接地形状を伸ばしつつ接地面積を拡大。周方向の接地形状を伸ばすことで、水を切り裂きやすくし、雨天時の性能向上を図っている
しっかりした縦溝と、流れるような細い横溝が印象的。パターンは左右非対称で、左がイン側、右がアウト側
高級感のあるサイドウォールロゴ
中央溝にはミシュランの文字が。機能的な意味はないとのこと
スリップサインはミシュランマン(海外ではビバンダム)が教えてくれる。摩耗時にも消えることのない場所なので分かりやすい
プライマシー 4は世界的に販売を展開するタイヤのため、さまざまな情報がタイヤ側面に記載されている
こちらにはタイヤの内部構造など。上のマークはTotal Performanceマークで、全方面に優れていることを示す
プライマシー 4のUTQGによるウェットグリップの記載。TREADWEARは摩耗のしにくさ、TRACTIONはウェットグリップ性能を示す
こちらはプライマシー 3。TREADWEARとTRACTIONの値を見ると、TRACTIONは4と同様だが、摩耗耐性は低いことになる。もちろんこれらの値はサイズによって異なることもあるので参考までに

 プライマシー 4の訴求点の1つにウェットグリップも長く効くという項目があるが、これは溝の形状に工夫がされている。排水に大きな効果があるストレートグルーブを、これまでのV字型からU字型に変えて水が流れる容積を増やした。特に摩耗してからの溝容積がV字形より大幅に確保されるので、排水量は当然大きくなる。

 ただし、このままではブロック剛性は落ちてしまう傾向にあるので、素材の改良やブロックのサイズ、形状変更で保持している。

 また、構造ではプライマシー 3に比較してフィラーが高くなり、サイドのフレックスゾーンも高い位置にある。予想以上にしなやかな作り方にミシュランらしさを感じた。

 ミシュランのコンパウンド技術は独特のものがあり、その完成度の高さには定評がある。プライマシー 4では具体的にはシリカの量を多くして、カップリング剤の新規開発でシリカと混ざりやすくしており、ウェット性能、転がり抵抗の低減などを図っている。実はシリカの量を増やすのはほかのタイヤメーカーでもよく使われる鉄板技術だが、その先にあるノウハウについては詳しい情報は得られなかった。しかし、ミシュランのミキシング技術は定評があり、カップリング剤と共にミシュランを支えるものだと思われる。

 プロファイルでは展開幅が広くなっているが、ラウンドショルダーとしている。接地形状はより丸に近づいているが接地面積は広がっている。

 繰り返しになるが、ウェット制動はプライマシー 4の大きなセールスポイントだ。ウェット制動性能を示すラベリング制度では「a」を獲得している。ちなみにサイズは当面24サイズから計画されているが、このうち5サイズで転がり抵抗が「AA」、ウェット制動が「a」にグレーディングされる。

 試乗は栃木にあるGKNのテストコースで行なわれた。まず、簡単な走行上のブリーフィングを受けて、「クラウン ハイブリッド」でウェットブレーキをトライする。水幕は0.8mmにコントロールされており、路面μは0.3以上ありそうだ。

 タイヤサイズは215/55 R17で初速度60km/hから10km/hに至るまでの距離を計測する。新品と残溝2mm(スリップサインが出るギリギリ)の摩耗品でどれだけ制動距離が異なるかのなかなか興味あるテストだ。

新品のプライマシー 4(左)と残溝2mmのプライマシー 4(右)。溝がしっかり残っているのが分かる
摩耗時のパターンフェイスの変化
プライマシー 4の溝形状。U字形状とすることで、摩耗時の溝面積低下を防いでいる

 結果は、新品から摩耗品に交換すると約1mほど伸びてしまい、制動姿勢も若干不安定になったが、意外と停止できたという印象だ。しかし、実際にはもう少し水深が深くなると、たちまちハイドロプレーニングを起こすことになるだろうと感じられた。

 続いてウェットハンドリングコースでテストする。路面μはウェットとはいえ比較的高めだ。水幕はさらに薄く、コンパウンドの効果が大きい。試験車は同じくクラウン ハイブリッドでタイヤサイズも共通だ。

 テクニカルなコースレイアウトで、回り込むコーナーや鋭角的なコースを含み、しかもコース幅は狭いので、タイヤの性格が出やすい。

 ここで感じられたのは、コーナリングフォースが高く、しかもリアのグリップが優れているので、タイヤに無理な負荷をかけても姿勢は非常に安定していることだ。クラウン ハイブリッドの性格によく合っている。コーナリングパワーの立ち上がりはもう少し上がっていてもよいと感じられたが、少しレスポンスが鈍い方が扱いやすく、楽に運転できる。

 コーナリング時にハンドルを切り増した場面でも、フロントタイヤはよく踏ん張り、グリップ限界に達するとハンチングのような現象を起こすものの、突然すっぽ抜けるような感触はなく安心感が高い。長いコーナーでもライントレース性は優れているのも好印象だ。強い横Gが入っても腰がシッカリしており、素直なドライブフィールを持っている。

 同じクルマでドライの周回コースを走る。荒れた路面の乗り心地とパターンやロードノイズのチェックである。

 低速で荒れた路面を走る。ミシュランらしい腰のある強さがあり、トレッド面で反発するような微小な動きはあるが、決して嫌な感覚ではなくダンピングの効いた乗り心地は爽快だ。

 静粛性では中速でわずかにかにピークの音がある以外、パターンノイズはよくカットされており、80km/hを超えるとロードノイズよりも風切り音が目立つようになる。プレミアムコンフォートタイヤの名に恥じない静粛性だ。

 折角の周回コースなので緩いレーンチェンジも試してみるが、こちらもウェット路面と同様でリアの収束性がよく安定性が高い。ちょっと鈍めの応答性もクラウンなどのプレミアムカーにぴったりで、長距離ドライブも疲労感なく安心してできそうだ。

 このセクションを終わって、再びウェット路面での高速ブレーキングを行なう。新品と残溝2mmの摩耗状態で行なう。ただし、今回はフォルクスワーゲン「ゴルフ」で、タイヤサイズは205/55 R16。初速度は80km/hからになる。路面の水深は0.8mmに保たれている。

 今回の試乗でプライマシー 4が訴求したいポイント、雨に長く効くというところは痛いほどテストできた。また、ミシュランらしい腰の強さとダンピングのよさ、それらのベースに加え、プレミアムタイヤとしての乗り心地や静粛性の向上点などもなかなか得難い体験ができ、楽しい試乗だった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学