日下部保雄の悠悠閑閑
KOITOの自動車用照明
2025年4月21日 00:00
小糸製作所と言えばわれわれの世代では純正品のシールドビームで知られ、日産ワークスラリーチームのひときわ明るいランプは憧れだった。OEMに供給するのがKOITOの役割。市販されることがない謎に包まれた光だったのだ。
1915年創業のグローバル企業となった今、2024年度の売上高9502億の巨大企業に成長している。そのKOITOに最新ヘッドライトの機能とこれからのADASには欠かせなくなりそうなLiDARのAJAJ向け勉強会を開いてもらった。小糸の事業の94.3%は自動車用照明器具で、残りの数%も鉄道や航空関連事業が占めており、ADAS系は全くと言ってよいほど事業内容に入っていない。LiDAR技術への参入はLiDARとライトは親和性が高く、光学、放熱、点消灯制御がLiDARにも応用が利くとされている。LiDARで学んだことはまた別の機会に。
KOITOのヘッドライトは長く続いたシールドビームからハロゲン、HIDと引き継がれ、現在は世界で初めて自動車用として実用化したLEDの時代に入った。自由度が大きく省資源で照度が高いLEDはインテリジェントライトを飛躍的に進化させ、明るい光を細かく分けて遠近左右に届けることで安全な交通環境を作れるようになっている。暗い夜道で突然人影や自転車が現れゾッとしたことはないだろうか。最新のヘッドライトはこのような状況を排除して安全に貢献している。
またまた古い話で恐縮だが、ラリーを始めたころのライトは暗くて「闇夜の提灯」だった。ラリー車もFRが基本でそれほどパワーがなかったし軽かったから何とかなったが、その代わりMARCHALやCIBIE、CARELLOといったハロゲンの補助ランプが全盛で、それはそれは工芸品のように美しく夢のように明るかった。ただし消費電力が大きくなり、当然のようにオルタネーターも発電力の大きなものに交換された。つまりなけなしのパワーが削がれてしまったのだ。
さらに補助ランプは道交法で2灯までに限られていたので、人によってスポットとワイドレンジ、ドライビングライトを使い分けていた。自分が行きついたのはドライビングランプを左右に振ってコーナリングライトにする方法だった。狭くて2~3速が主な国内ラリーではこの方法が自分には合っていた。しかし海外ラリーは3速以上で5速まで入る高速コースばかりで遠くまで届く光が必需品だった。
今のLEDヘッドライトなら当時のほぼ全ての要求をカバーできる。スポットライトからコーナリングライトまで満遍なく光を当てる性能は驚くばかりだ。またLEDとADASカメラを組み合わせるインテリジェントライト、KOITOではAdaptive Driving Beam(ADB)と呼んでいる技術の進化は目覚ましい。前方車両を検知して遮光すると同時に、暗いところはハイビームで路肩を照らすことも可能になった。価格が高いこともあり上級車しか装着がないが、普及すれば夜の事故はかなり減るだろう。そしてさらに見えないところに光を当てる技術の進化が続き、次世代では1万6000個のLEDとレンズ技術を組み合わせてさらに細かく配光できるようにして照射範囲を広げるという。
法的な規格ではヨーロッパ規格のUN規則に準じて交通量が比較的多い高速道路、そして幻惑防止機能が重視されるために光度は21万5000カンデラ/個以下。一方、北米などは直線が多く郊外では交通量もそれほど多くないのでFMVSS規格を採用しているが、全体的に技術的な規制がゆるい。光度も7万5000カンデラ/個以下となっている。ヘッドライトでも国柄が現れている。
こんな問題もある。LEDは省電力で発熱量が少ないため降雪地帯ではヘッドライトやテールライトに雪が張り付き、十分な光量が得られなくなるという弱点もある。その対策としてヘッドライトカバーに熱線を配する対策が考えられている。寒冷地仕様に装着されれば雪でも照射範囲が広がり、乱反射光を防げるようになるかもしれない。特にテールライトの融雪は急務で、ストップランプが雪で覆われるのはちょっとヒヤヒヤする。
もう1つユニークなのはウインカーと連動して路面に流れるように矢印を表示する技術だ。歩行者にも認識しやすく近いうちに実用化されそうだ。
以前、光をテーマにした新車の発表があったほど光の世界は魅力に満ちている。





