日下部保雄の悠悠閑閑

隣の国の手ごわいやつ

ヒョンデ・インスター。何となく愛嬌のあるフロントマスク。丸目の中にLEDヘッドライトがうまくまとめられている

 日本でのヒョンデ最新のバッテリEV「インスター」。ヒョンデのR&Dは横浜に大きな拠点があり、日本をはじめ海外のヒョンデ車の適合も行ない、日本仕様のインスターにも活かされている。

 デザイン力の高さはヒョンデの強みでもある。インスターのボクシーなデザインは機能的でシンプル。インテリアもデザイン性と質感で心地いい空間になっている。

室内はヒョンデらしいシンプルデザイン。ウインカーを出すと右メーター、左メーターに後方の映像が映し出されるのは先輩ヒョンデと同様

 ボディサイズは3830×1610×1615mm(全長×全幅×全高)で、軽自動車以上小型車以下の絶妙なサイズ。室内は大人4人が足をのばして座れる。特に後席は前後に80mmずつ計160mm移動し、リクライニングもできるためにかなり広い。

後席はシート座面も長いが足下が広く、前後160mm動かせる。この状態は中間の位置。それでも足を組める
トランクは広くて容積十分。50:50でシートバックが前倒する。ちなみにリアシートはリクライニングします

 バッテリは42kWhと49kWh。実際には49kWh仕様がデフォルト。航続距離はWLTCモードで458km(49kWh)。航続距離の長さは1400kg(Lounge)に抑えられた重量の効果も高い。

 試乗したのは最上級モデルのLoungeで消費税込み357万5000円。ほぼフル装備のVoyageに加えてシートベンチレーションや電動スライドサンルーフ、17インチタイヤなどを備えている。

 安全装備も小型車に求められる装備はほぼすべて装着され、日本仕様でペダル踏み間違い防止機能が含まれる。

 装着タイヤはKUMHO ECSTA HS52 EVで205/45R17 88Vを履く。十字形デザインのちょっと懐かしいホイールと組み合わされる。

十字形ホイールはIMPULホイールを連想させる。知ってます? 韓国クムホタイヤとのマッチングもよかったです

 加速力はBEVらしく力強く市街地ではアクセルペダルの開度は小さい。さらに85kW/147Nmのモーターは高速でも息の長い加速をする。

 静粛性ではフロントウィンドウとサイドガラスの厚さを増し、ボクシーなデザインにもかかわらず風切り音はよく抑えられている。ロードノイズはそれなりにあるがクロスメンバーの補強と床下のバッテリでの遮音でスモールカーとしては感心するほど静かだ。

 日本仕様はEPSの操舵力を軽く設定し、市街地での取りまわしはもちろん、高速の直進性でも自然な保舵感で好印象だった。

 さらにサスペンションではバネ、スタビライザー、ショックアブソーバー、ブッシュも専用チューニングされ、乗り心地では韓国試乗で感じた荒れた路面での付き上げが大幅に緩和されていた。段差通過ではリアの上下動が大きめだが丁寧にチューニングされた印象でこちらも好感が持てる。

 ハンドリングもコンパクトらしいフットワークのよさがあるがキビキビ感よりも安定性を重視した設定だ。背の高いコンパクトカーだけにロールが大きく感じるがスタビリティは意外と高い。タイヤともよくマッチしている。

 市街地では着座位置が高く直前視界がよい点と、日本の軽が先鞭をつけたヘッドクリアランスの大きさで開放感がある。

 ADAS系ではACC使用時に首都高速のような車線幅の狭いレーンでも車線中央を維持しコーナーでも追従性が高い。

 EVならではの回生ブレーキは最大0.2Gで停止まで制御する。ドライブモードはSPORT、ECO、SNOWが選択できSPORTは日本仕様ではマイルドに設定されている。

 とにかく突出した感覚がなく普通に使えて飽きが来ないのがインスター。ヒョンデらしいインターフェースも明るい室内によく合っている。コンパクトカーらしい楽しさとBセグメント以上の心地よさを併せ持った手ごわい相手がやってきた。カップホルダーが少ないのがちょっと残念だけど。

不思議な2孔のパネルはドアにもあり、オプション品と変えられる。このパネルはテーブルとカップホルダーのオプション品と交換できる
では、試乗に行ってきまーす
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。