「フォルクスワーゲンの力を借りないほうが、スズキのためになる」
スズキ、フォルクスワーゲンとの提携解消で会見

左から原山副社長、鈴木会長、鈴木副社長

2011年9月12日



 スズキは12日、独フォルクスワーゲンとの提携を解消すると発表。都内で記者会見を開いた。なお解消についての詳細は関連記事を参照されたい。

技術を求めての提携が
 会見には同社の鈴木修 会長兼社長、原山保人 副社長/事業開発本部長、鈴木俊宏 副社長/経営企画室長が出席。まず鈴木会長がフォルクスワーゲンとの提携と解消に至る経緯を説明した。

 これによると2009年12月にフォルクスワーゲンと提携したのは、環境車を中心とするクルマの開発を「加速するため」。スズキ自身も開発を進めていたが、フォルクスワーゲンの技術を得て、より一層の加速を期待したからと言う。

 これに対しフォルクスワーゲンから「スズキが望むような協力関係を構築する上で、一定の資本関係が必要」と求められたため、「スズキとしては財政的な問題はほとんどなかったが」(鈴木会長)、フォルクスワーゲンが19.89%のスズキ株を持ち、スズキが1.5%程のフォルクスワーゲン株を持つ資本関係を結んだ。

 19.89%という数字になったのは、フォルクスワーゲンの連結決算に組み込まれないようにするため。鈴木会長はこれを「連結の対象となることは、一方の企業の業績が一方に影響を及ぼすということ。自主独立で迷惑をかけないということで、連結を避けると申し上げていた」と説明した。

 しかし提携後は協議が進まず、19.89%程度の出資比率では「スズキが期待した技術移転の効果が得られないことが明らかになった」。

 さらに、フォルクスワーゲンは2011年3月の決算報告でスズキを「財務的経営方針上重大な影響を与えうる会社」と表現し、自主独立を重んじるスズキの一層の不信を招いた。

 鈴木会長は「今回はわずか1年9カ月で終わったが、早く終わってよかったと思う。深入りして、お互いの経営哲学や認識が違ったということになるより、早く分かってよかったと、わたしは思っている」と述べた。

スズキの発展に足かせになる
 19.89%の出資比率ではフォルクスワーゲンの技術を得られないことについて、原山副社長は「フォルクスワーゲングループ内の、技術情報へのアクセス等のルールがある。我々の求めているものを得るために、19.89%の比率で十分技術の情報にアクセスし活用できると合意に至ったので提携したが、残念ながら結果として、こうしたマイナーな出資比率では、情報へのアクセスと活用その他には著しく制限があった。我々が責任を持って環境車を開発して市場へ供給していくことは、ほぼできないだろうという現実に直面した。そうしたことについて、トップレベルを含め改善を求めたが、結果としてそれぞれ協力していく現場においては実現しなかった」と、フォルクスワーゲン内のルールが理由だったとしている。

 さらに、「株を提供するのと引き換えに、得るはずだったものが得られないということは、かなり早い段階で明らかになったが、スズキとしては提携した以上、パートナーとしてさらなる協力の緒を見つけようと努力した。しかし結果として、単に我々が得ようとしていたような技術面のメリットが得られないというだけでなく、情報交換をしただけで、お互いに機密保持協定を結んだ間でありながら、スズキのさまざまな行動に制約をかけるということが、合意を超えて起りかねないことが生じ始めた。このまま進むと利益が得られないだけでなく、スズキの発展に足かせになると判断した」と説明。

 「今年のかなり早い段階から、フォルクスワーゲンとのさまざまな困難な調整に時間を費やし、時間を棒に振ったという気持ちもある。むしろフォルクスワーゲンの力を借りずに独自に開発したほうが、はるかにスズキのためになるということで、本年当初より社内における環境車開発等は加速している。こういう言い方をすると誤解をまねくかもしれないが、フォルクスワーゲンとのさまざまな困難な調整の時間を費やすことがなくなったぶんだけ、むしろスズキの環境車開発は昨今加速していると自負している」と述べた。

 鈴木会長はインドで1.3リッターのディーゼルエンジン生産が、今年は30万台に上るという推測を明らかにし「ディーゼルの生産技術や性能アップの技術はだいぶ身についてきた。ガソリンは他社も小さい車でだいぶ話題を呼んでいるが、うちもそろそろやっていけるのではないかと考えている。あとはハイブリッドやEVをどのようにやっていくかだが、亀の歩みかもしれないが、ほどほどにやっていけるだろいうという自信を持っている」と、自前の環境車開発に自信を見せた。

スズキから契約違反と指摘したいことが多々ある
 スズキの発表に先立つ9月11日(独時間)、フォルクスワーゲンは、スズキがフィアットからディーゼルエンジンを調達することが、提携の契約違反であると発表した。

 これについてはフォルクスワーゲンの1.6リッターディーゼルエンジンが採用できない理由があり、これについて2011年1月に、フォルクスワーゲンのヴィンターコルン会長に話をしていたと言う。「わたしどもから技術的な問題があると申し上げた。前方排気と後方排気の問題、ロードクリアランスが低すぎる問題があった。技術的な問題もあるので、ディーゼルはほかで調達すると、ヴィンターコルン会長に申し上げた。ヴィンターコルン会長は、それなら文書で連絡してくれと言ったので、文書で連絡した」。

 また、フォルクスワーゲンの技術を導入したクルマはOEM供給できなくなるという問題もあった。「(スズキの生産台数の)10%はOEMで売り上げているという実績があるので、これをやられるとOEMができなくなり、大きな影響があるのでやめるとを決心した」。

 原山副社長は「スズキが必要としているものをフォルクスワーゲンが供給できないという事実を含め、契約違反という指摘はまったく間違っていると思っている。実はこれ以外にも、今年になって別の件でスズキが契約違反だと指摘してきている。これも我々からすれば全く根拠が無いと反論している」と主張。

 「契約したとき、技術的な移転が得られるなど、契約の中に規定されていた。我々からすれば、我々のほうから契約違反と指摘したいことが多々ある。しかしながら、我々が互いに独立したイコールパートナーとして提携した以上、独立国同士で他の国に対して“お前は条約違反だ”というような言葉を使うのは宣戦布告のようなやりとりなので、我々はパートナーとして今日まで、契約違反という言葉をフォルクスワーゲンについては使ってこなかった。私たちは友好に提携していく以上、もともと根拠のない契約違反という言葉にも反発があるが、同じパートナーに対して契約違反という最後通告のようなことをしながら、友好に協議を進めることはできないと何度も言ってきたが、それについての反応はなかった」。

 鈴木会長は「解決済みの問題と理解していたが、なぜこれが今頃になって包括契約違反だと言われるのか、実際に聞いてみたい。不思議に思っている。非常に心外」と述べた。

(編集部:田中真一郎)
2011年 9月 13日