BASF、2~3年先の自動車産業のカラートレンド予測
テーマは、「Come Closer(もっと近くに)」

BASFで提案されているクルマ・バイク用カラー

2011年10月5日発表



 BASFコーティングスジャパンは10月5日、2~3年先のクルマ・バイクにおける世界のカラートレンド予測を発表、説明会を開催した。カラートレンド予測のテーマは、「Come Closer(もっと近くに)」で、社会的、経済的に困難な現状を脱し、前向きに進もうというメッセージを表現、同時に人と人、人と物の絆や、自然と共存する大切さを再認識するということもテーマのコンセプトになっていると言う。

 説明会で、同社の佐藤昭彦代表取締役は、まずBASFコーティングスジャパンについて紹介。BASFコーティングスジャパンは、世界的に化学製品などを扱うBASFの100%子会社で、自動車用塗料や工業用塗料、建築用塗料などを手がけるメーカー。塗料のカラーデザインに非常に重点を置いているという。

 自動車用塗料としては、日本、アメリカ、ヨーロッパに独自のカラーデザインセンターを持つ唯一の塗料メーカーでもあり、自動車メーカーが海外展開するときのサポートなども行っている。また、各地域で定期的にカラーショーを開催し、クルマやバイクメーカーにカラートレンドやデザイントレンドの提案なども行っている。同社では、通常は6月に予測を発表しているが、今年は3月の震災が影響し、10月開催となった。

 次いで、同社カラーデザインセンターのアジア・パシフィックチーフカラーデザイナーである松原千春氏がカラートレンドの予測を解説した。今回紹介されたのは、塗料メーカーである同社から自動車メーカーなどに2~3年後のカラーとして提案しているもの。BASFグループの中でトレンド予測を行い、それをもとにカラー開発を行うと言う。

佐藤昭彦代表取締役社長松原千春アジア・パシフィックチーフカラーデザイナー

 最近では、インターネットなどの普及により情報の交流が速くなり、エンドユーザーがグローバルでも同じ気持ちになっていることが多いと言う。そこで、同社としてもグローバル共通のトレンドはどうか、同時に地域別、国別トレンドに分けて考えているとのこと。

 その中でも今回の「Come Closer」というテーマはグローバル共通のテーマになっている。開発には時間がかかるため、今回のテーマは震災前に考えられたものだが、人とつながりや、物とのつながりが特に強調されており、今回のトレンドが重要なものだと再認識したと言う。

グローバル、および地域ごとの6つのコンセプト

 この「Come Closer」というテーマのもとに、3つのグローバルコンセプトと、北米、アジアパシフィック、ヨーロッパでそれぞれのコンセプト、計6つのコンセプトが考えられた。なお、グローバルとは主に先進国向けのトレンドになっている。また、グローバルで提案されたテーマに沿った色のほかに、地域ごとに売れる色が異なるため、グローバルでのテーマは同じでも、アジアやヨーロッパ、北米で異なる色が提案されている。



「精妙なるシンプルさ(COMPLEX SIMPILICITY)」。シンプルな自然を感じさせる色「集合体としての個人(COLLECTIVE INDIVIDUAL)」「直感的な論理(INTUITIVE LOGIC)」。未来的な色が提案されている

 「精妙なるシンプルさ(COMPLEX SIMPILICITY)」は、生活が複雑化する昨今だが、本当に大事なものはなにかと考えた場合には、健康や家族などシンプルなものだと言う。そこで、シンプルで分かりやすい考え方を現在のライフスタイルに取り入れていると言う。

 色としては、ナチュラルな色を現代風にアレンジしたものを提案している。アジアパシフィックでは自然にある色に人工的な色をプラスした色を提案。たとえば、白とシルバーを混ぜ、厚み感や有機的な色とし、人工的な白ではない自然にある色に近い白を開発した。また、世界的に自動車業界でブラウンが人気になっており、ブラウン系も提案されている。また、つや消しの色も世界的に流行しているほか、ヨーロッパではメタリックの入っていないソリッドカラーが見直されていると言う。北米には鮮やかなレッドが入っているが、これは原始的な生命力といった意味を持つとしている。

各テーマに沿った地域ごとの色提案アジアパシフィック向け。ナチュラルな色が多い。中央はつや消しカラー。ブラウン系が多いのも特徴
ヨーロッパ向けは白、グレー系を中心に微妙な色合いとなっている北米向け。オーソドックスな色に加え、鮮やかなレッドが入っている

 「集合体としての個人(COLLECTIVE INDIVIDUAL)」は、個人のアイデンティティはもちろん大事だが、それを尊重しつつ家族やコミュニティなどとのつながりなど、社会とバランスよくつながることをテーマとしている。個人の生い立ちや思い出などの歴史をほかの人と共有するなど、繊細なものを持ちながらまわりの人と繋がっていくことを表している。

 具体的には、アジアパシフィックではレトロなイメージや、微妙な感情を表現しており、グレー系だが紫色の色味がついて、光が当たるとグリーンが浮かぶような繊細な色などが提案されている。また、アジアパシフィックではホワイトパールが重要な色とされており、そうした色も含まれている。

 ヨーロッパでも、全体に暖かみのある色など、アジアパシフィックと似た傾向で、赤みや黄色みのあるブラウンが提案されている。北米になると、アジアやヨーロッパと異なるブルーグリーンの2色が提案されている。この2色は、ソリッドカラーで個人としてのアイデンティティとコミュニティとしての繋がりを表している。アメリカインディアンの種族としてのアイデンティティを表現しつつ、種族としてのコミュニティの結束力をイメージしていると言う。

アジアパシフィック向け。ややレトロな色が並ぶヨーロッパ向けは、アジアパシフィック向けと似た傾向北米向けでは、鮮やかなターコイズに似たブルーグリーンが入っているのが特徴

 「直感的な論理(INTUITIVE LOGIC)」は未来を感じさせるテーマ。ただし未来といっても技術が前面に出てくるのではなく、感覚的、直感的に訴えかけてくるようなもの。または、そういったものを作るための最新の技術で、いままでの固定観念にとらわれることなく柔軟なものの見方や考え方で物作りに取り組んでいけば、ユーザーが求めているものに合致するというコンセプト。

 色としては、ただ人工的なだけでなく、感覚に訴える色。未来感を訴える色としてグレー系が多く含まれるが、どの色も有機的な印象を持たせている。アジアパシフィックでは、グレー系でもいろいろあり、定番の色域のグレー系でもオーガニックな印象をいれて、メカニカルな印象を控えめにしていると言う。また、ブラックはフレーク状のガラスを入れてきらきら感を出している。

 欧州では、つや消しのブルーグリーンなど、有彩色のつや消しカラーを提案。また、ピンク系の色は日本では目新しい色ではないが、欧州のメーカーには新しい色域という。アジアでは「キッチュなローズ」という名前だが、欧州では「アトマイズドレッド」(原子化された赤)という科学を連想させる名前となっている。北米では、鮮やかなレッドが2色あるのが特徴だ。これは未来へ向けた情熱や期待感などのエネルギーを、レッドの強さで表現していると言う。

アジアパシフィックではグレー、シルバー系が多いのが特徴ヨーロッパ向けでは、つや消しのブルーグリーンが印象的強いレッド系が提案されている北米向けカラー

 地域ごとのテーマとしては、北米が「確信のない信奉者(UNSURE BELIEVERS)」で、倫理的なものをテーマとしていると言う。北米から倫理観が大きなテーマとして出てきたことには、松原氏個人としても驚いたと言い、リーマンショック以降、アメリカの信頼が落ちたと国民が感じており、信頼の回復や倫理観をきちんと持って復権したいという“見直し”が注目されているとする。

 色としては、光り物が入っていないネイビーで、20年前に欧州車にあったようなソリッドなダークブルーが提案されている。自動車のカラーとしては、歴史的に定番の色なので保守的な現代に戻るような印象にしていると言う。

 アジアのテーマである「魅惑的な期待」(GLAMOROUS EXPECTATIONS)は、日本よりは中国やインドなどの新興国がターゲット。中国やインドには現在勢いがあり、国民も将来に期待し、生活が豊かになっているのを楽しんでいる気分がある。しかし、一方で若い人でも自分のしっかりした価値観や、コストパフォーマンスを気にしており、中国で経済的な成長が緩やかになっているような2面性がコンセプトになっている。アジアパシフィックの中でも、日本はもっと現実的なところに目を向け、思慮深くなって、色の傾向も違うと言う。

 色としては、現在70%程度は白、黒、シルバー、グレーとなっており、インドなどでも暗い色が多いので、今後もう少し明るい色の登場が予測されている。なお、ブラックは光が当たるとゴールドに光るが、光り方を抑え、知性的な輝きを目指したと言う。

 ヨーロッパのテーマは、「デリケートな探求(DELICATE PURSUIT)」で、移民や移住がテーマ。島国の日本ではなじみがないが、ヨーロッパは地続きなので移民や移住がいつでも身近なトピックとしてある。移民や移住による新しい文化が生まれるよい面がある一方、犯罪や宗教の違いによる摩擦などもあり、そういったデリケートな点がテーマとなっている。色としては、エキゾチックで歴史を感じるシルバーやブラウン系のカラーが提案されている。

北米向けカラー。ヨーロッパ車で見られたようなオーソドックスなネイビーが提案される新興国向けイメージを強めたアジアパシフィック向けでは、明るい色が数多く提案されるヨーロッパ向けには、歴史のある重厚な色合いとなっている

 同社ではバイクの色も提案を行っている。本来130色ほどを開発しているが、サンプルはその中から抜粋されたものとなっている。背景としてのコンセプトはクルマと同じだが、クルマは不特定多数のエンドユーザーが対象だが、バイクはユーザーが限られてくるので、クルマのトレンドをミックスしてバイク向けに提案していると言う。なお、バイク用カラーについてはアジアパシフィックの拠点をメインに開発されている。

 バイクの大きな特徴として、先進国の大型バイクではつや消しが人気で、展示されていたサンプルでも3列9色がつや消しになっている。特にパールのつや消しが注目されており、新興国にはない先進国だけの特徴になっていると言う。また、つや消しでもさらさらしたものから、ざらざらしたものまで種類があり、パール系ホワイトや、ゴールドの入った複雑なカラーも提案されている。

 なお、世界的なトレンドとしてバイクの定番色は白黒グレーシルバーのほかにレースで使われるような鮮やかな色があるが、最近ではそうした色の幅が広がっており、ブラウン系などの色も人気になっている。オリーブ系などシックで落ち着いた重厚感のある色も提案されている。

 また、新興国のタイなどではフレーク状ガラスをミックスした粒子感の強いきらきらした色に人気があると言う。日本では見ないマゼンタ系の色も、タイなどでは男性がおしゃれな色と選ぶ傾向が強く、そういった色が提案されている。また、メタリック系の入っていない色も見直されており、新興国の小型車でキャラクターカラーとして受け入れられていると言う。

バイクでも人気の高いつや消しカラーが増えている。右側3列はつや消しカラー人気が高くなってきたブラウンやオリーブ系(左3列)や、新興国で人気のある明るめな色(右2列)

(平 雅彦)
2011年 10月 6日