エヌビディア、デザインとシミュレーションを一体化する「Maximusテクノロジ」
3Dグラフィックスと物理シミュレーションを1台のワークステーションで

「Maximusテクノロジ」

2011年11月14日発表



 エヌビディア コーポレーションは11月14日、同社の3Dグラフィックスアクセラレータ「Quadro(クアドロ)」と、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)向けGPU「Tesla(テスラ)」を、1台のワークステーションで実行可能な「Maximusテクノロジ」を発表した。

QuadroとTeslaを一体化して使えるようになるMaximusテクノロジ

 これまで、QuadroはOpen GLによる3Dグラフィックス処理を高速化するため3Dグラフィックスワークステーションに搭載され、デザイン業務などに使われきた。また、Teslaは東京工業大学のスーパーコンピューター「TSUBAME(ツバメ)」に代表されるような大規模並列計算を行うHPC用途に用いられてきた。「Maximusテクノロジ」により、別々のワークステーションで行ってきた作業を1台のワークステーションで行えることになり、作業の高速化と作業効率の向上が図れると言う。

NVIDIA Tesla Quadro事業部 マーケティングマネージャーの林憲一氏

 Maximusテクノロジに関する説明を行ったのは、NVIDIA Tesla Quadro事業部 マーケティングマネージャーの林憲一氏。林氏は、自動車メーカーの開発工程を例に取り、Maximusテクノロジのメリットを語った。

 現在、自動車のデザインはデザイナーが3Dデザインソフトを使用して行われている。この分野でQuadroは多数使用されており、デザイン作業の高速化に寄与している。デザインを行ったら、そのデザインを評価するレビュー工程に移行するが、その際に環境光シミュレーションが行われる。実際の街中に置いたら自動車がどのように見えるかということを、レイトレーシング(光線追跡)技法を使い環境光シミュレーション画像を作り出す必要がある。

 この環境光シミュレーションを高速化するのが、Teslaを搭載したワークステーション。CUDAによる並列計算を高速化することで、リアリティのある環境光シミュレーション画像を作り上げている。

 Maximusテクノロジを搭載したワークステーションを使えば、デザイン→シミュレーションという行程を一体化でき、デザインをすると並行して環境光シミュレーションが行え、レビュー用の画像を生成できるようになる。

 また、部品設計などにおいてもMaximusテクノロジは作業の効率化を図れる。部品設計においては、部品をCAD/CAMで設計し、その部品もしくはある程度の部品を組み合わせたモジュールにおいて強度計算などのシミュレーションが行われている。この部品設計とシミュレーションを一体化できるほか、シミュレーション計算をCPUからGPGPUであるTeslaに置き換えることでの高速化も図れる。

製造分野におけるメリット現実環境におけるデザインが求められている物理法則や素材特性にもとづいた空力シュミレーション
自動車の設計工程。赤い×印のついたところがボトルネックになっている一般的なワークステーションは、CPUと3Dグラフィックスアクセラレータ(Open GL GPU)の組み合わせMaximusテクノロジでは、システム実行用のCPU、デザイン用のGPU、シミュレート用のGPUで構成される
レビュー用のデザイン出力が短時間でできるようになるMaximusテクノロジの構成図。ソフトウェアの対応も進んでいる代表的なMaximusテクノロジ搭載ワークステーションの構成
デザイン分野におけるタイムラインの変化一般的なワークステーションMaximusテクノロジ搭載ワークステーション。レンダリング時間が短縮されているのが分かる
部品設計におけるタイムラインの変化構造シミュレーション時間を短縮できるとともに、同時実行も可能になっているのが分かる

 同社による計測では、これまでの12コアのCPUを使った一般的なワークステーションと比べ、6コアのCPUとQuadro、Teslaを使ったMaximusワークステーションでは、構造解析ソフト「ANSYS」を使った場合で1.5倍速く、ANSYSと3D CADソフト「Solid Works」を併用した場合で1.9倍速くなる。

 これらのワークステーション向けソフトウェアでは、CPUコア数に対する課金が行われているため、12コアのCPUを持つ一般的なワークステーションと、6コアのCPUとQuadro、Teslaを使ったMaximusワークステーションでは、ANSYSのランニングコストが3割ほど安価になり、速度的なメリットのほか価格的なメリットもあると言う。

ANSYSとSolid Worksでのパフォーマンス差Maximusワークステーションの価格的なメリット

 Maximusテクノロジの実態は、3DグラフィックスAPIであるOpen GLと、並列計算用のCUDAを、QuadroとTeslaに適宜振り分けるユニファイドドライバーであるのだが、デザインソフトが対応することで、デザインとシミュレーションを一体化して作業できる。このMaximusテクノロジへの対応を表明しているのは、アドビ、アンシス、オートデスク、ダッソー・システムズ、マトラボ、PTC。説明会では、オードデスクの「3Ds MAX 2012」、ダッソー・システムズの「CATIA V6」を使用したデモが行われ、ほぼリアルタイムに描画を行っていた。

3Ds MAX 2012によるデモ。色の変更、視点の変更などリアルタイムに処理結果が反映されていた
CATIA V6による環境光の反映処理。これもほぼリアルタイムな処理が可能となっていた

 Maximusテクノロジは、エンターテイメント分野にもメリットがあり、大規模な計算を行うビデオ編集を高速化できる。Adobe Premiere Proを使い、1080/60のHDVを7レイヤー27エフェクトで作業した場合、CPUのみではリアルタイム表示が1fpspに達しなかったのに対し、CPU+Quadro Q2000では15fpsの表示が、Maximusワークステーションでは30fpsの表示ができる。つまり、仕上がり状態をストレスなく確認できるということになる。このMaximusテクノロジを搭載するワークステーションは、HP、デル、レノボ、富士通の4社から発売される。

エンターテイメント分野におけるMaximusテクノロジ多数のソフトウェア企業が対応を表明Adobe Premiere Proによるベンチマーク結果
Maximusワークステーションの発売メーカー代表的な仕様会場に展示されていたMaximusワークステーション。デモもこのMaximusワークステーションを使って行われた

NVIDIA Manufacturing Day 2011の概要

 実際に設計やシミュレーション、ビデオ編集などの作業を行う際には、ある処理を加えた場合の待ち時間がネックになってくることが多い。また、7レイヤーのHDVをリアルタイムで編集する能力は、数年前のワークステーションでは持ち得なかった。同社では、このMaximusテクノロジを知ってもらうためのイベント「NVIDIA Manufacturing Day 2011」を12月9日に東京・品川で開催する。参加費は無料ながら、定員は300人となっており、興味のある方はイベント申し込みサイト(http://www.nv-jp-event.jp/mfg-day2011/)から、早めに申し込んでおくのがよいだろう。イベント概要は下記のとおり。

NVIDIA Manufacturing Day 2011
主催:エヌビディア ジャパン
協賛:株式会社エルザジャパン、デル株式会社、日本SGI株式会社、日本ヒューレット・パッカード株式会社
特別協賛:G-DEP、HPCテック
日時:2011年12月9日(金)9時~19時30分(受付開始8時30分)
会場:品川インターシティーホール(東京都品川区)
参加登録:無料(サイトからの事前登録制)
定員:300名
Webサイト:http://www.nv-jp-event.jp/mfg-day2011/

(編集部:谷川 潔)
2011年 11月 15日