ホンダ、エンジン開発に元F1チームも関わった新型軽ワゴン「N BOX」 「もう1度、客室(キャビン)から設計をはじめました」 |
本田技研工業は、軽自動車の新モデル「N BOX(エヌ ボックス)」の市販モデルを12月16日に発売する。ベーシックグレードの「N BOX」とカスタムモデル「N BOX カスタム」をラインアップし、前者は1,240,000円~1,460,000円、後者は1,440,000円~1,780,000円。
■N BOX
モデル | エンジン | 変速機 | 駆動方式 | 価格 |
G | 直列3気筒DOHC 0.66リッター | CVT | 2WD(FF) | 1,240,000円 |
G・L パッケージ | 1,340,000円 | |||
G | 4WD | 1,360,000円 | ||
G・L パッケージ | 1,460,000円 |
■N BOX カスタム
モデル | エンジン | 変速機 | 駆動方式 | 価格 |
G | 直列3気筒DOHC 0.66リッター | CVT | 2WD(FF) | 1,440,000円 |
G・L パッケージ | 1,550,000円 | |||
G・ターボパッケージ | 直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ | 1,660,000円 | ||
G | 直列3気筒DOHC 0.66リッター | 4WD | 1,560,000円 | |
G・L パッケージ | 1,670,000円 | |||
G・ターボパッケージ | 直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ | 1,780,000円 |
ホンダは軽自動車で4輪車事業に参入し、これまでに数多くのモデルを市場投入してきたが、近年ではハイブリッドカーやミニバンなどの影に埋もれ気味になっており、ホンダの軽自動車のシェアは9%台にまで落ち込んでいると言う。その一方で社会情勢の不安定化などを受け、自動車市場における軽自動車の割合が増加傾向にあることから、失地回復に向けて軽自動車事業全般の大幅刷新が求められるようになった。
今回デビューしたN BOXは、こうした背景から登場した同社の新世代軽自動車“Honda Nシリーズ”の第1弾モデルで、新規開発した「Nシリーズ共通プラットフォーム」によって構成されている。
Nシリーズ共通プラットフォームの開発キーワードは「もう1度、客室(キャビン)から設計をはじめました」というもの。これは、ホンダにとって初めての量産軽乗用車となった「N360」の新聞広告で使われた「先ず客室(キャビン)から設計をはじめました」というキャッチフレーズを受け継ぎ、N360が実現した“軽自動車の常識を覆すほどの価値を持つクルマ”をふたたび造り出そうという意気込みを表している。
また、軽自動車事業の刷新に先駆けて行われたマーケティング調査では、軽ラインアップがライバルに比べ手薄であることが指摘された。そこでNシリーズの第1弾商品では、軽自動車市場の約3割を占める人気カテゴリーながら、ホンダ車でラインアップのない「スーパーハイトワゴン(同社では全高1700mmを超える乗用タイプと定義)」にN BOXが投入されることになった。スズキのパレット、ダイハツのタントなどと勝負するモデルとなる。ちなみに、第2弾には「行動の幅を大きく広げる新モデル」を予定していると言う。
内外装の質感を高めたN BOX カスタム |
■新採用の「ミニマムエンジンルーム」が広さを実現
革新を目指したプラットフォームを支える技術的なコアは、初代フィットから採用されておなじみとなっているホンダ独自の「センタータンクレイアウト」と、新たに発想された「ミニマムエンジンルーム」の2点となる。
このミニマムエンジンルームは、エンジンルームのスペースを従来比で70mm前方に圧縮し、その分を室内長として活用する新技術。70mmという数値はFFレイアウトではほぼ限界に近いと言う。
広がった室内長は空間のゆとりに加え、前席、後席ともポジションの前進を実現した。従来の軽自動車では、後席の前後スライドによって乗員空間とラゲッジスペースの広さの使い分けが一般的だったが、N BOXではクラストップになる1150mmのタンデムディスタンスと同時に、ラゲッジスペースでは18Lポリタンクやベビーカーなどの積載スペースを両立する。後席は前後スライドの必要がなくなったことで、座面のチップアップとダイブダウン格納を採用した。センタータンクレイアウトが生み出す低いフロアとの組み合わせで、これまでにない多彩な使い勝手を実現している。
また、前席と同時にセンターピラーも前進したことで、リアの両側スライドドアはフリードの630mmを上回る640mmというワイドな開口幅を獲得しており、荷物の載せ下ろしや子供を抱えたままで乗り降りする、といったシーンで大きく貢献する。
開口部が広くなればボディー剛性で難しい面も出てくるが、スライドドアをワイド化した分はリアハッチでの工夫で補っていると言い、リア開口部の下側をアーチ状にしつつ斜めにデザインすることで剛性を確保。ボディー剛性とユーティリティを両立させるため、アーチの角度は入念に計算しているそうだ。
ボディー全体でも軽量・高効率を徹底追求し、製造工程からの見直しを実施した。これまではルーフやサイドパネルを1工程でボルト結合してガセットプレートなどで補強していたが、インナーフレームによる骨格形成のあとにアウターパネルを貼りつける2工程に分割。
これによって主要フレームがボルト結合からスポット溶接に変わり強度を上げられるほか、ボルトやガセットなどが省けるため軽量化も実現している。さらに板厚や張力の異なる鋼板を効率よくつなぎ合わせたテーラードブランク材で構成されたサイドパネル、要求強度を従来より薄い板厚で達成する超高強度スティフナーなどを用いており、従来技術で製造した場合と比較して10%軽量化されているという。
自然吸気の直列3気筒DOHC「S07A」型エンジンは最高出力43kW(58PS)/7,300rpm、最大トルク65Nm(6.6kgm)/3,500rpmを発生 |
■エンジン開発にはF1での経験も活用
衝突安全性能では、ミニマムエンジンルームによって短くなったエンジンルームの全長をカバーするため、これまで前方からの衝撃エネルギーを4経路のロードパスで吸収していたところを7経路に増やした「新荷重分散構造」を採用するほか、エンジン側でも吸収するアイデアが用いられた。
全面刷新で新設計されたN BOXのエンジンでは、衝突時にコンプレッサーやオルタネーターの固定アームが曲がったり、インテークマニホールドやウォーターポンプのプーリーといった樹脂パーツが割れたりすることでエネルギーを吸収する。衝突後のエンジン全長は、最大で78mmまで短くなるよう設計されていると言う。
ホンダでは、通常のケースでエンジンの開発内容にシャシー側からの要求が盛り込まれることはないというが、今回は全面刷新ということでシャシー開発の開始が時間のかかるエンジンと同じタイミングで始まったことから、前後にコンパクトなエンジンルームでも納まるエンジンが開発されることになった。さらに衝撃吸収能力を備えるエンジンが生まれた経緯について、パワートレーンの開発担当者から「開発チームに元F1チームに参加していた経験者が多いことも無関係ではないだろう」とのコメントが出ていた。
たしかにN BOXの開発陣には、LPL(開発責任者)の浅木泰昭 主任研究員をはじめ、ホンダF1第2期参戦に携わったメンバーが多く名を連ねている。F1マシンでは積極的な軽量化のため、エンジンユニットもシャシー構造に組み込まれており、今回のN BOX開発でもシャシーとエンジンをセットで考える方向性が自然に進んでいったと言う。もちろん、レース専用車両と市販の軽自動車を並べて考えるわけにはいかないだろうが、ライバルメーカーにはない強みであり、ホンダらしさを感じるエピソードと言える。
新開発された「S07A」型エンジンは直列3気筒DOHCで、同じ名前でターボと自然吸気を設定する。Nシリーズは高出力エンジンの搭載でも話題を集めたN360を意識しているだけに、S07A型エンジンにはF1マシンやV6エンジンで培った先進技術を投入。吸気側のVTC(連続可変バルブタイミング・コントロール機構)やロングインテークマニホールド、ハイドロリック・ラッシュアジャスター、低張力ピストンリング&ピストンパターンコーティング、スイングアーム式ロッカーアームなどの採用によって、軽量&コンパクトでありながら扱いやすく高出力な特性を獲得し、とくに自然吸気エンジンは最高出力43kW(58PS)/7,300rpm、最大トルク65Nm(6.6kgm)/3,500rpmと、これまでにない高出力化を実現している。
さらにこのエンジンに組み合わせるミッションも新開発の軽自動車専用CVTで、平行軸式の1次減速機構を備えて伝達効率を高め、エンジンとの協調制御による高効率化、自然吸気エンジンの全車でアイドリングストップ機能を採用することなどにより、自然吸気エンジンで24.5km/L、ターボ車で21.0km/Lという10・15モード燃費を実現している。
N BOX カスタムのインテリア |
■ホンダの“ミニバン価値”を軽自動車で実現
N BOXの内外装や装備品では、スーパーハイトワゴン市場で要求の多い、ミニバンなどからのダウンサイズ乗り替えの需要に応えるため、高い質感や機能性を重視していると言う。そのためラインアップではベースモデルに加え、存在感を高めたN BOXカスタムを設定する。N BOXカスタムは、クロームメッキなどの専用加飾やブルーのイルミネーションなどによって上級ミニバンのような世界観を表現している。エクステリアデザインでは強さと安心感を基調としており、広いキャビンをアピールする「ロングルーフ」、安心感を高める「重厚ボディー」、下半身をしっかり見せる「がっちりロアボディ-」、安定性を感じさせる「張り出し四隅フェンダー」といったキーワードで形作られている。
しかし、スーパーハイトワゴンに属する高い車高を持つN BOXでは、ロアボディーを重視してドアウインドーが高くなってしまうと車両周辺の視認性が低下してしまう。この問題を解消するため、これまでステップワゴンやフリードに採用されたミラー技術を集めてさらに進化させた「ピタ駐ミラー」を投入する。ステップワゴンのサイドビューサポートミラー、フリードの後方視覚支援ミラーを受け継ぎ、さらにサイドビューサポートミラーの上には助手席側の路面を映すアンダーミラーを追加。ドアミラーも下部を広角化した広角ドアミラーとなっており、高いアイポイントと合わせて運転をサポートする。
運転をサポートする装備として、軽自動車として初めてVSA(車両挙動安定化制御システム)とヒルスタート・アシストシステムを全車に標準装備。ヒルスタート・アシストシステムはアイドリングストップのON/OFFに関わらずブレーキが作動する制御となっており、クリープ時の力が弱い軽自動車でも不意に後退する怖さを解消してくれる。
このほかに車内でこだわった装備は、手触り感や座り心地を高めた「大型上級シート」。表皮にはなめらかなトリコット起毛を使い、その下にラミネート加工のスポンジを敷いて柔らかい手触りを演出した。クッションパッドはウレタンの発泡倍率を分け、身体に近い部分では発泡倍率を高めてソフトさを出し、底に近い部分では発泡倍率を抑えてコシを強めている。これにより、体重が軽い女性が座ってもしなやかに身体を包み込む一方で、体格のよい男性が座っても底づきすることなくしっかり支えてくれるシートとなっている。
装備品ではほかにもキーレスエントリーを全車に標準装備し、広々とした車内には各所に収納スペースを用意するなど、数々のヒットミニバンを生み出してきたホンダらしい使い勝手へのこだわりを感じさせるモデルに仕上がっている。
ベーシックモデルのN BOX |
モデル | N BOX(FF) | N BOX カスタム(ターボ/4WD) |
全長×全幅×全高[mm] | 3,395×1,475×1,770 | 3,395×1,475×1,800 |
ホイールベース[mm] | 2,520 | |
前/後トレッド[mm] | 1,315/1,315 | 1,290/1,295 |
重量[kg] | 930 | 1,030 |
エンジン | 直列3気筒DOHC 0.66リッター | 直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ |
最高出力[kW(PS)/rpm] | 43(58)/7,300 | 47(64)/6,000 |
最大トルク[Nm(kgm)/rpm] | 65(6.6)/3,500 | 104(10.6)2,600 |
トランスミッション | CVT | |
10・15モード燃費[km/L] | 24.5 | 18.8 |
JC08モード燃費[km/L] | 22.2 | 18.2 |
燃料 | 無鉛レギュラー | |
前/後サスペンション | マクファーソン/車軸 | マクファーソン/ド・ディオン |
前/後ブレーキ | 油圧式ディスク/油圧式リーディング・トレーリング | |
タイヤ | 145/80 R13 | 165/55 R15 |
(佐久間 秀/Photo:堤晋一)
2011年 11月 30日