コンプリーカー販売などブランドの強化、拡大へと踏み出すNISMO
「本物のレーシングブランドのグローバル化を図る」と宮谷社長


ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル 取締役社長 宮谷正一氏

 日産自動車のモータスポーツ活動を担っているのが、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル、NISMO(ニスモ)だ。NISMOは、1984年に設立され、これまでレース・ラリー車両の設計製作、レース・ラリー用パーツの開発・販売などを行ってきた。そのNISMOが、今後変わっていこうとしている。

 11月29日に、日産は「ニスモの高性能車戦略を発表」と題したニュースリリースを発表し、NISMOがモータースポーツ活動で得たチューニングおよび高性能化ノウハウを日産の市販車に適応していくと言う。

 NISMOの宮谷正一社長は、12月4日に富士スピードウェイで開催された「ニスモフェスティバル」において、報道陣向けに具体的な将来戦略についての説明会を行った。

 宮谷社長によると、このタイミングでの発表となったのは、今シーズンのNISMOの成績がよかったことがあると言う。NISMOは今年、SUPER GT500クラスで、S Road MOLAチームのGT-Rが2008年以来となるチャンピオンを獲得。ドライバー選手権も同チームのロニー・クインタレッリ選手/柳田真孝選手が獲得し、NISMOチームを含めると8戦中、GT-Rが5勝を挙げた。

 また、F1、WRC(世界ラリー選手権)、WTCC(世界ツーリングカー選手権)と並ぶ、FIA GT1選手権でもGT-Rを駆るミハエル・クルム選手、ルーカス・ルアー選手がチャンピオンを獲得した。世界選手権で日本メーカーがチャンピオンを獲得するのは、ロードレース部門では初(ラリー部門では、新井敏弘選手がインプレッサでチャンピオンとなっている)になる。

 そのほか今年はNISMO関連のトピックとして、EV(電気自動車)「リーフ」のモータースポーツバージョン「日産 リーフ NISMO RC」を製作したことが挙げられる。これは、リーフのインバーターやバッテリーなどのパワートレーンをそのままに、ボディーのカーボン化などにより約600kg軽量化。ミッドシップレイアウトを採用し、大幅な運動性能の向上を図っている。このリーフ NISMO RCは、8台製作され、日本、欧州、米国、中国においてプロモーションなどに使用されている。

NISMOをグローバルブランドに
 宮谷社長は、NISMOをグローバルブランドに育て上げると言う。現在、日産はル・マン24時間レースやル・マンシリーズなどの耐久レースの1カテゴリーであるLMP2クラスにエンジンを供給。ル・マンでは、LMP2クラスで1-2フィニッシュを飾るなど、好成績を収めている。

 エンジン供給のみであるため、レーシングマシンのボディーに現在は“Powered by NISSAN”のロゴが入っているが、2012年はこのロゴを“Powered by NISSAN/NISMO”に変更し、NISMOブランドの浸透を図っていく。そのほか、引き続き世界選手権である、FIA GT1に参戦し、FIA GT3クラスへ「NISSAN GT-R NISMO GT3」を提供。このGT-R NISMO GT3は、SUPER GTのGT300クラス、スーパー耐久のST-Xクラスにも提供され、参戦するチームがあれば技術支援を行っていく。SUPER GTなど国内レースへの参戦はこれまでどおり継続し、GT500のチャンピオン連覇が目標となる。

本物のレーシングブランドが作るコンプリートカー
 NISMOは、これら世界的なレーシング活動を背景に、ブランドを活かしたコンプリートカー製作へと踏み出す予定だ。その第1歩となるのが、東京モーターショーで展示された「ジュークニスモコンセプト」。詳細なスペックなどは明らかにされていないが、直列4気筒 DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンのチューニングもされており、外観だけでなく、パフォーマンス面にもNISMOのレーシングノウハウを注ぎ込んでいくようだ。

ジュークニスモコンセプト

 日産のコンプリートカーブランドと言うと、オーテックジャパンがすぐに思い浮かぶが、宮谷社長はオーテックとの違いを「NISMOは本物のレーシングブランド」と宇言う。オーテックにもハイパフォーマンスバージョンがあるが、NISMOのそれは、よりチューニングの進んだ車両になるのかも知れない。また、宮谷社長の口からは何度も「NISMOのグローバル展開」という言葉が出ており、BMWのM、メルセデス・ベンツのAMGに匹敵するようなブランドに育て上げたいとの意欲がにじんでいた。

 ただ、MやAMGと違うのは、コンプリートカーの顔見せとして、ジュークという比較的低価格な車両をベース車に選んだこと。これについては、「ジュークはエッジ層(先端的なユーザー)にもウケているクルマ。このクルマがベースであれば価格的にも購入しやすいものになる」と言い、MやAMGとは異なるプライスゾーンのユーザーをターゲットにしているようだ。

 また、従来はサーキット走行向けを中心としていたパーツ販売も方向性の転換を図り、より幅広いユーザーを対象としたパフォーマンスパーツ、アクセサリーの開発・販売を行っていく。

 これら業務の拡張を図るため、東京都品川区南大井にある本社を、神奈川県横浜市鶴見区に移転。2013年1月より新社屋での営業を開始する。この新社屋では、敷地面積が広くなるためファン向けのイベントを、従来以上に開催していき、現在のニスモの拠点名を継承したスペシャリスト・ストア「大森ファクトリー」で、ユーザーが性能向上部品やニスモコレクションアイテムを購入することができるようになる。また、残念ながら移転作業があるため、2012年のニスモフェスティバルは休止することも発表された。

 NISMOからコンプリートカーが発売される時期は未定だが、宮谷社長の言う「本物のレーシングブランドが作るコンプリートカー」の登場を楽しみに待ちたい。

(編集部:谷川 潔)
2011年 12月 14日