横浜ゴム、低燃費タイヤ「ブルーアース・エース」「ジオランダーSUV」説明試乗会【後編】
環境性能にもドライバビリティにも優れ、かつM+S性能もそこそこ期待できるタイヤ


 前編では低燃費タイヤ「ブルーアース・エース」「ジオランダーSUV」に投入された技術を、中編では日下部保雄氏によるブルーアース・エースの試乗記を紹介したが、この後編では岡本幸一郎氏によるジオランダーSUVの試乗記をお届けする。


「GEOLANDAR(ジオランダー)」というと、OEM装着タイヤとしてもよく見かける、SUV用タイヤを代表する横浜ゴムのメジャーブランド。その新商品として発売された「ジオランダーSUV」は、最近のトレンドである低燃費タイヤの要素を採り入れたSUV用タイヤで、ジオランダーの既存のいずれかの銘柄の後継ではなく、よりオンロード性能や快適性などのドライバビリティを重視した新しい位置づけのモデルとなる。

 近年では、従来のオフロード性能を考慮した大型のクロスカントリータイプよりも、小~中型でオンロード走行を主体とした都市型のクロスオーバータイプの人気が高まっているというSUV市場の動向と、それによるタイヤのニーズの変化に照準を合わせたものだ。「優れた低燃費性能を有しながら安全性能、快適性能を追求し、かつ様々な路面を走破するSUV用タイヤならではのユーティリティ性能も目指した」とうたわれている。

 試乗は、既存のジオランダーブランドでもっとも高いオンロード性能を有する「ジオランダーH/T-S」と、新商品のジオランダーSUVを装着した2台のRAV4が用意されていた。

 タイヤサイズはどちらも225/65 R17。ちなみにRAV4の走行距離はいずれも7万km程度で、確認したところタイヤの製造年月も近く、まったく同じコースを走行するという、恵まれた条件下で比較することができた。

 車両に乗り込む前にトレッドパターンを見比べると、まず見た目からして印象がまったく違う。SUV用タイヤらしいゴツさを感じさせるジオランダーH/T-Sに対し、ごく普通の乗用車用タイヤと変わらない顔を持つジオランダーSUVは、ジオランダーの一員とは思えないほどだ。

クロスオーバーSUVをターゲットに開発されたジオランダーSUV。SUV用タイヤとしてはおとなしく見えるトレッドパターンだが、エッジ成分の高さと新コンパウンドでスノー性能は高いものとなっている

 乗り比べると、その差は歴然としていた。最初にジオランダーH/T-S装着車に乗り、直後にジオランダーSUV装着車に乗ったのだが、走り出した瞬間からすぐに違いが感じられる。路面の荒れた部分が多く、乗り心地に不利と評される西湘バイパスを走ってみて、さらに違いを実感した。

 まず、ジオランダーH/T-Sは全体的にグリップ感が希薄だが、ジオランダーSUVはしっとりとした接地感があり、ステアリング中立付近の据わり感や、ステアリング切り始めの反応も異なる。また、どちらもそれなりに硬さを感じるのだが、硬さの質が違うという印象。ジオランダーH/T-Sは、タイヤそのものが硬く、ちょっとしたギャップを越えてもゴツゴツ感がそのまま伝わってくるし、細かい跳ねが続いて縦にも横にも揺れ続けている。

 これに対しジオランダーSUVでは、しなやかさがある中に、SUVの高荷重を支えるためのコシのある硬さという感覚で、入力のカドは上手く丸められているし、ダンピングも効いていて収束は速い。同じジオランダーブランドながら、ずいぶんタイプの違うタイヤという印象だ。

 音に関する印象もだいぶ差があった。試乗した西湘バイパスの路面は音にもシビアなのだが、全体的にジオランダーSUVのほうが静か。とくに、試乗ルートの一部に新しく舗装されたばかりの部分があったのだが、そこを走った際のパターンノイズのレベルがまったく違った。とくに40~60km/h程度の、タウンスピード+αで走行した際の違いが大きく感じられた。

 ロードノイズについては、路面と車両とのマッチングの相性もあるので、評価が難しいところだが、こちらもジオランダーSUVのほうが全体的に抑えられていることは感じられた。

 走行約7万kmの試乗車両は、いずれもそれなりにヘタリが見られたのだが、だからこそ、タイヤの違いによって乗り味が大きく違ってくることをより体感することができた。

 そして、低燃費タイヤとしての側面である、転がり抵抗が小さく滑走するような感覚も、ジオランダーSUVにはある。今回は燃費を直接比較することはできなかったが、ジオランダーSUVのほうが上回ることは確実だろうという転がり感があった。

 ただし、ジオランダーSUVに対し、ジオランダーH/T-Sは目指したところが異なるタイヤなので、この比較で感じられた部分ではすべてにおいてジオランダーSUVが上回ったものの、だからと言ってジオランダーH/T-Sが「劣る」という表現は適切ではないと思う。あくまでオンロード性能においての話であって、後述する悪路走破性能と併せて、目的に合わせて選ぶべきだろう。

 そのほか、ジオランダーSUVを装着した車両の単体での試乗として、ボルボXC60(235/55 R19)やフォルクスワーゲン ティグアン(235/55 R17)もドライブすることができた。印象的だったのは、ジオランダーSUVとティグアンのマッチングのよさだ。車両自体の特性が大きく影響するロードノイズについても、ティグアンはより静かで、ドライバビリティ面でも何ら気になる部分がなく、マッチングは極めて良好だった。

 今回の試乗ではオンロード性能のみを体感したが、それ以外の性能についてはどうなのだろう。開発者によると、ウエット性能については、ジオランダーとして初めてオレンジオイルを採用したことが効いて、ジオランダーH/T-Sに比べて、6%向上しているとのこと。

 また、雪上性能については、見た目からするとジオランダーH/T-Sにおよばないように思うところだが、むしろよくなっているとのこと。これにはサイプを多用したことや、低温時でも柔軟性の損なわれない、温度依存性の小さいマイクロシリカを採用したことが効いており、凍結していなければ意外と走れるという。

 ただし、マッド性能は、ランド(接地面)を多く取ったジオランダーSUVよりも、オフロード性能も重視したジオランダーH/T-Sのほうが上回るとのこと。そのあたりは銘柄によるキャラクターの差別化が上手くなされているということだ。

 SUVの認識が変わってきたことに合わせて、タイヤに求められる性能も変わってきた。環境性能にもドライバビリティにも優れ、かつM+S(マッド+スノー)性能についてもそこそこ期待できるという、極めて多能なタイヤであるジオランダーSUVは、オンロード色のますます強まる近年のSUVに非常に即したタイヤといえるだろう。SUV用タイヤとして、こうした選択肢が加わったことを大いに歓迎したいと思う。

(岡本幸一郎)
2012年 3月 28日