ダンロップ、エナセーブのフラッグシップモデル「エナセーブ PREMIUM」説明&試乗会(後編) 製品名にふさわしい進化を達成 |
「エナセーブ」シリーズは、2010年、2011年と2年連続で低燃費タイヤ販売本数ナンバーワンになっているという(全国タイヤ量販店上位2社調べ)、低燃費タイヤの代表的ブランドだ。
筆者は、低燃費タイヤというのは、つくづく難しい製品だなと思う。まず価格がどうしても高くなりがちなので、価格を重視するユーザーからはなかなか最初から目を向けてもらえない。
一方、性能面では、走るために要するエネルギーが小さくてすむので、燃費向上は期待できる半面、ウエットグリップや乗り心地の低下、ノイズの増加などトレードオフの関係にある性能を維持もしくは向上させなければならないところも難しい。
あるいは商品性の難しさもある。エコに関心のあるユーザーにとっては魅力的かもしれないが、走りにこだわるユーザーにとっては、たとえ性能的には十分なレベルであっても、「低燃費タイヤ」というだけで、むしろ選んでもらえない傾向にあるという理不尽も耳にする……。
一方で、タイヤメーカーの開発者は、将来的にはあらゆる乗用タイヤが低燃費タイヤの要素を何らかの形で持ち合わせたものになると、口をそろえて述べている。そして現在は、その過程にあり、新しい製品が出るたびに大なり小なり興味深い進化を遂げている。
そんな中、エナセーブシリーズで初めて、転がり抵抗性能で最高レベルの「AAA」(一部「AA」)を達成した「エナセーブ PREMIUM(プレミアム)」が新たに登場。さっそく試すことができた。「EC201」「EC202」と進化してきたエナセーブの最新モデルに、「プレミアム」という特別な製品名が与えられたことになる。この特別な製品名の付いたタイヤについてお届けしていく。
多くのラインナップサイズで転がり抵抗係数「AAA」を達成したエナセーブPREMIUM | トレッドパターン |
技術的なことは前編でお伝えしているとおり。2012年9月までに14インチ~17インチの15サイズが登場するというのは、ラインアップとしてはやや少なめという気もする。しかしながら、低燃費タイヤを作るのが難しいとされる、コンパクトクラスの対応サイズを充実させているのが特徴だ。
プリウスをはじめ、EVなどでの試乗を行った |
性能を示すレーダーチャートによると、エナセーブ プレミアムは、既存のEC202に対して、ドライブレーキ、ウエットブレーキ、ライフについては同等を維持し、燃費性能とともにハンドリング性能が向上している。また、ボディーサイズのわりに車両重量が重くなりがちな電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)にもしっかり対応する性能を確保していると言う。
今回試乗した車種は、車両重量1t程度というBセグメントのコンパクトカー「デミオ」と、EVの「リーフ」、そしてHVであり、ベストセラーカーとなっている「プリウス」の3車種。プリウスについてはEC202との比較も行うことができた。
この日は好天に恵まれたためウエット性能は分からないが、クローズドコースではなく、高速道路や一般道をごく普通~ときおりちょっと攻め気味に走行するという、いたって現実的なシチュエーションにおいても、プレミアムの進化をそれなりに感じ取ることができた。
一番気になるのは、やはりプレミアムとEC202の違いだ。プリウスでは、まずEC202でフィーリングを確認し、直後にプレミアムを履いた車両で同じルートを走行した。
両者では、転がり抵抗で「AAA」(プレミアム)と「A」(EC202)という違いがあるのだが、どちらも転がり抵抗の小ささを感じさせる。ただし、スペックのとおり、やはりプレミアムのほうが、よりその感覚において上回るという印象。それは停止状態から走り出す際の感覚や、コースティング(惰行)する際の微妙な軽さ、そして高速道路を低速走行する際の差として感じられる。
プレミアムでは、センター部からショルダー部に向かっての剛性を高めることで、直進時と旋回時の安定性能の両立を図ったほか、荷重時に均一にたわむよう、ショルダーからサイドウォールにかけて大きな円を描くプロファイルを採用し、操縦安定性能を追求したという。この点に関しては、実際、ドライバビリティにも向上した部分がいくつか見受けられた。乗り心地について、EC202では当たりの硬さが少々気になるのだが、プレミアムでは上記の構造の変更が効いてか、いく分しなやかになっていた。
ステアリング操作に対する反応も、やや突っ張ったような印象の残るEC202に対し、プレミアムではソリッドな中に微妙ないなしがあり、より素直に感じられる。高速巡航時の直進性はいずれも十分に高く、EC202もそれほど気になるわけではないが、より外乱の影響を受けにくいのはプレミアムのほうだ。
絶対的なグリップ力については、普段ハイパフォーマンス系タイヤに慣れている筆者にとってはなおさらだが、両者ともややスキール音の鳴り出しが早く、もう少し粘りがほしいように思えるのは同様ながら、少し前の低燃費タイヤに見られたような頼りなさはなく、一般的な走行においては、まったく問題ないと言える。
次いでデミオも、アクセルを開けたときのクルマが前に進む感覚がイメージよりも軽快で、閉じたときにはエンジンブレーキの効きが小さいように感じられたのは、やはりプレミアムの転がり抵抗が小さいからだろう。広場で約50km/h出たところでNレンジにするという方法を試してみると、このあたりで止まるだろうと予想したところをはるかに超えて前まで進んだ。やはり「AAA」は伊達ではないことを痛感させられた。
音について、ややドラミングが出ているようにも感じられたのだが、それは車体との相性の問題かもしれない。
リーフはEVだから音は静かなので、よりタイヤの音を感じやすい環境となるのだが、静粛性はまったく問題なし。フットワーク面で、OEM装着の低燃費タイヤでは部分的に剛性を落として乗り心地を確保している印象があったのだが、EVであるリーフは車体のサイズのわりに車両重量が大きいせいか、ときおり腰砕けになる印象もあったところが、プレミアムを履いたリーフにその感覚はなく、よりコシのある印象となっていたのも好ましい。
こうしてエナセーブ プレミアムを装着する車両に試乗して感じたのは、転がり抵抗を小さくすれば、そのほかさまざまな性能が下がるというのは、もはやすでに過去の話になってしまったのかもしれないということだ。そのくらい、進化の内容は、確かに「プレミアム」と呼ぶに相応しいものだったと思う。EC202の発売からわずか2年ながら、技術の進化というのは本当にたいしたものだ。
ライバルメーカーも低燃費タイヤの開発に注力する中で、その代表格であるエナセーブの最新モデルは、「AAA」達成タイヤとしての新しい指標を打ち立てたといえるだろう。
(岡本幸一郎)
2012年 4月 23日