2012年の「ル・マン24時間レース」が開幕
トヨタとアウディのハイブリッド対決、日産「デルタウィング」にも注目

今年のル・マン24時間レースの車検は、町の中心にあるセントラル広場で行われた

2012年6月16日、17日開催(決勝レース)



 1923年に第1回が開催されて以来、80回目の節目を迎える今年のル・マン24時間レースが、いよいよ6月10日(現地時間)に開幕した。

 昨年までとは違い、仏ルマン市のセントラル広場で行われた車検は場所が狭く、天候も不安定だったため観客は少ないものかと思われたが、2日間を通して大勢の観客が詰め掛けてそれぞれのチームに声援を送っていた。

 昨年は2台のマシンをアクシデントで失いながらも、プジョーワークスを打ち破りアウディが優勝した。今年はこの2ワークスにトヨタがハイブリットマシン「TS030 HYBRID」での参戦を表明し、三つどもえの戦いになるかと思われたが、1月にプジョーが突然ル・マンからの撤退を表明し、またもやワークス勢は2チームのみになった。しかし、アウディは初のディーゼルハイブリットマシンをエントリーさせると発表し、にわかにハイブリット対決の様相を見せてきた。

昨年アウディの優勝に大きく貢献したアンドレ・ロッテラーの人気はさすがに高い。今年はゼッケン1の「アウディR18 e-tron クワトロ」(アウディスポーツ・チーム・ヨースト/LMP1)で出場する
ゼッケン2のアウディR18 e-tron クワトロ(アウディスポーツ・チーム・ヨースト/LMP1)ゼッケン3のアウディR18 ウルトラ(アウディスポーツ・チーム・ヨースト/LMP1)ゼッケン4のアウディR18 ウルトラ(アウディスポーツ・ノースアメリカ/LMP1)

 市販車レベルで圧倒的優位に立っているトヨタはそのシステムを踏襲し、フィードバックを考えたシステムとなっているのに対し、アウディのシステムは市販車には到底採用されないようなフライホイールタイプのシステムを前輪に採用し、駆動方式は4WDとしている。

 これはF1のKERS(エネルギー回生システム)と同じようなシステムだ。エントリー名のクワトロは4WDを意味し、アウディの宣伝戦略にも大きく貢献している。昨年までル・マンでは4WDは禁止だったが、ハイブリットマシンの参加を促す意味で参加可能となった。

 システムを考えると4輪での回生が当然効率がよく、そのまま4輪を駆動するほうが有利であるが、ル・マン24時間レースを運営するACO(フランス西部自動車クラブ)はこのシステムを認めず、モーターでの駆動は前後どちらかしか駆動させることはできない。さらにモーターでの前輪の駆動は120km/h以上とされた。

 しかし、もともとディーゼルエンジンの巨大なトルクを後輪に与えるというのは、マシンとしてもバランスがわるくなると考えていたアウディにとって、今回の4WDレギュレーションはかなり優位に働くと見ているようだ。

 一方、トヨタは元のエンジンがガソリンではあるが、新たに設計し直したV型8気筒3.4リッター自然吸気エンジンに後輪駆動のモーターを備え、コーナーの立ち上がりからモーターでの駆動が可能。しかしパワー的にディーゼルエンジンには敵うことなく、いかにハイブリットシステムを効率よく使うかが鍵といえる。

現地での人気が抜群だったトヨタ・レーシングの「トヨタTS030 ハイブリッド」(LMP1)ペスカローロのニューマシン「ペスカローロ03 ジャッド」(LMP1)

 アウディは、昨年型のディーゼルマシン2台と、このマシンをハイブリット化したマシン2台をエントリーし、必勝体制を敷いている。願わくばハイブリットマシンにおける最初の優勝マシンとして名を刻もうというのがアウディの考えであろう。

 一方のトヨタとしてはハイブリットの老舗としては負けられないところだが、トヨタがル・マンを離れたのは1999年のこと。BMWと死闘を演じ、優勝目前まで行ったトヨタはそれが叶わず、翌年からF1へとレース方針を変更した。

 レース用ハイブリットシステムの開発はかなり前から続けられていたものの、F1での勝利を夢見たトヨタはそちらに全精力を使い果たしたが、勝つことができずに諸般の事情でF1からも撤退を余儀なくされた。トヨタとしては、ハイブリット市販車メーカーの第一人者として、プライドをかけた1戦になるはずだ。

童夢JUDOはオペレーションをペスカローロレーシングに任せレースを戦う。クラスはLMP1

 そのほかLMP1クラスを見てみると、昨年ガソリンクラスでトップに入ったレベリオンレーシングが今年も同じマシンを2台エントリー。昨年の東日本大震災を理由に、エントリーを取り消したホンダも今年は2台のニューマシンをエントリーしている。また、童夢もジャッドエンジンでエントリー、こちらはオペレーションをペスカローロレーシングに任せるという、今までにない形での参戦だ。

 エントリーが一番多いLMP2クラスは、昨年優勝した日産製エンジン搭載車が多く、実に20台中13台を占める、このクラスは日本のSUPER GTで言うところのGT300的な要素が多く、数多くのエントリーを集めている。また、LMGTクラスは今年もPROとAMに分かれ、まさにSUPER GT的な戦いとなっている。老舗プライベートチームの名を借りたフェラーリ、ポルシェのワークスチームがエントリーし、これに堂々とワークスを名乗るコルベットとアストンマーチンが熱い戦いを見せる。

井原慶子がファーストドライバーを務めるガルフ・レーシング・ミドルイーストの「ローラB12/80クーペ・ニッサン」(LMP2)
今年も参加の中野信二はブーツェン・ジニオン・レーシングの「オレカ03・ニッサン」(LMP2)のドライバーを務める
黒澤治樹はJOTAの「ザイテックZ11SN・ニッサン」(LMP2)で出場ステイタス・グランプリのローラ・ジャット(LMP2)コルベットレーシングは2台のニューマシン「シボレー・コルベットC6-ZR」(LM-GTEプロ)を準備した

 そしてル・マンでスタートが許される55台のマシンに加え、今年は56台目のマシンが参加を認められた。賞典外ながら出走を認められたマシンは、イギリスのハイクロフトレーシングが走らせる高効率レーシングカー「Nissanデルタウィング」。エンジンは、日産のコンパクトSUV「ジューク」の直列4気筒 DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンをベースとしており、出力は300PS程度になる模様だ。

 このマシンは、ル・マンの未来を模索する意味で参加を認められたものだが、何かしらの技術を市販車にフィードバックさせたいという、新しい試みとも言える。このマシンがどのような結果を残すかによっては、モータースポーツの世界に大きな変化が起こるかもしれない。

本山哲は特別参加のNissanデルタウィングのドライバーを務めるフロントタイヤの切れ角が少ないためか、移動用の車輪に乗せていたNissanデルタウィング

(Photo:中野英幸)
2012年 6月 12日