ブリヂストン、世界初となる天然ゴム資源の病害診断技術
「パラゴムノキ」のゲノム解読にも成功

2012年7月10日発表



天然ゴム資源「パラゴムノキ」の病害診断技術およびパラゴムノキのゲノム解読に成功したことを発表するブリヂストン 中央研究所長 森田浩一氏

 ブリヂストンは7月10日、天然ゴム資源「パラゴムノキ」の病害診断技術を確立するとともに、パラゴムノキのゲノム解読に成功したと発表。同日その説明会を開催し、ブリヂストン 中央研究所長 森田浩一氏が概要を説明した。

 天然ゴムは、タイヤのベルトコーティングゴム、チェーファー、ビードフィラーといった内部部材のほか、サイドウォール、トレッドにも活用されているもので、タイヤ製造に欠かせない原料。現在使われている天然ゴムはパラゴムノキ由来のものとなるが、同社では「ロシアタンポポ」「グアユール」由来の天然ゴム開発に着手するなど、パラゴムノキ由来に代わる新たな天然ゴム資源の発掘を積極的に行っている。

 その一方で、従来のパラゴムノキ自体の生産量を改善することも必要で、今回発表された病害診断技術の開発は「パラゴムノキを減らさない取り組み」、ゲノム解読の成功は「パラゴムノキを増やす取り組み」となる。

 パラゴムノキの約9割は東南アジア原産となるが、主要生産地域のインドネシアでは「根白腐病」と呼ばれる病害が拡大中で、その被害額は年間数100億円以上とされる。根白腐病は潜伏期間が長く発見が困難であることが特徴で、根に感染・腐敗させることで枯死に至らせる。これまで根白腐病に対する抜本的対策はなく、発症した場合は罹病部位の切除や、薬剤処理により対処するしかなかったと言う。

 また、従来の根白腐病の診断は、パラゴムノキが病気にかかることで変化する葉の色・ツヤの観察という目視に頼った方法しかなく、これでは観戦の初期症状を見逃しやすく、発見時に手遅れのケースが多いほか、判定を誤る可能性があった。また、葉の状態(色が変わる)から病気と判断した場合に根を掘り起こさなければならないため、重労働かつ時間がかかるという問題があった。

 そこで、2010年からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)研究協力事業の中で、インドネシアの技術評価応用庁 バイオテクノロジーセンター、ボゴール農業大学、そして日本の東京農業大学、東京農工大学、九州大学と連携し、パラゴムノキの病害診断・防除技術の開発を進め、「迅速・簡便・高精度」を特徴とする診断技術を開発した。

パラゴムノキの葉根白腐病の感染部位には写真のような菌糸束(左)や子実体(キノコ)が現れる
天然ゴムとタイヤの関係。タイヤには多くの天然ゴムが使われるパラゴムノキからタイヤ完成に至るまで天然ゴムの拡充・多様化に向けたブリヂストンの取り組み
パラゴムノキの病害概要。特に根白腐病はリスク大として喫緊の課題となる根白腐病の被害状況。インドネシアでは根白腐病が拡大中で、その被害額は年間数100億円以上とされている
NEDOやインドネシアの技術評価応用庁 バイオテクノロジーセンターなどと共同で病害診断技術を開発従来の病害診断方法と問題点

 今回確立した技術は、「リモートセンシング技術(衛星画像解析による診断)」「葉表面スペクトル・温度の測定による診断」「ラテックスの成分分析による診断」「DNAレベルでの病原菌の検出」の4つ。

 リモートセンシング技術で用いられる衛生画像(画像解像度:0.5m)は、「いくつかの機関から購入したもの」(森田氏)で、健全な木と感染した木で異なる波長を見ることができ、そこから感染しているか否かを判断できると言う。

 また、健全な木と感染した木で葉表面の波長および温度が異なることから、簡易スペクトルメーターと赤外線カメラを使った診断も行う。簡易スペクトルメーターを使ったところ、罹病木は近赤外領域の反射率が高いこと、また赤外線カメラを使ったところ、罹病木は葉の表面温度が約2度高いことが分かったと言う。これらの機器を使うことで、「ベテランのみならず、誰でも簡便に(根白腐病に感染しているか否かを)判断できる」(森田氏)。

 さらに健全な木か感染した木かを詳細に判断するため、パラゴムノキの樹皮を傷つけることでにじみ出る、乳白色の粘性のある液体「ラテックス」中のタンパク質の成分分析を行う。感染した木は「β-グルコシダーゼ」と呼ばれる酵素が健全木と比べ数十倍の量を含むそうで、「この成分分析方法をキット化すれば、人間の血液検査と同じように病気を簡単に判断できる」と森田氏は語った。

 以上の3技術は農園で分析するものとなるが、微量の土壌からDNAを抽出し、根白腐病の病原菌を検出する技術も開発した。これにより、「農薬などで土の中の根白腐病の病原菌を的確に減らせたかどうかを判断できる」(森田氏)とした。

 なお、病害診断技術は自社農園のみならず、インドネシア全土へ普及させていく構えで、農園での実用化は2014年以降としている。

今回確立した4つの技術リモートセンシング技術について葉表面スペクトル・温度の測定による診断について
ラテックスの成分分析による診断についてDNAレベルでの病原菌の検出について

 一方、ゲノムとは、生物が生きていく上で必要な遺伝情報が書き込まれた、言わば生物の「設計図」。今回、インドネシア技術評価応用庁 バイオテクノロジーセンター、産業技術総合研究所(AIST)、国立遺伝学研究所 大量遺伝情報研究室、イルミナと共同で、パラゴムノキの優良品種「PB260」のゲノム解読に成功した。

 解読したゲノム情報を活用することで、パラゴムノキを選抜する技術や、耐病性・環境ストレス耐性に優れた品種の開発など、さまざまな応用研究を加速させることができると言う。

 今回発表された技術開発により、天然ゴムの生産性向上に貢献するとともに、同社が2050年を見据え、非枯渇資源を使用してタイヤなどの製造を行う「100%サステナブルマテリアル化」の実現に向け、さらに前進した格好となる。

パラゴムノキの優良品種「PB260」のゲノム解読に成功ゲノム解読について。パラゴムノキのゲノムは約1.4Gbp(ゲノムを構成するDNAの長さの単位)で、これは人間と同程度の大きなサイズと言うゲノム情報を活用した今後の展開について
まとめ今後の開発スケジュール

(編集部:小林 隆)
2012年 7月 11日