エヴァンゲリオンレーシング、SUPER GT第5戦鈴鹿は15位
エキゾーストパイプが割れ、表彰台を逃す


 8月19日、2012 AUTOBACS SUPER GT第5戦「41st International Pokka 1000km」の決勝レースが鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催された。今回はCar Watchの読者に人気の高い、エヴァンゲリオンレーシングの各セッションの詳細をお届けする。

 全8戦で行われるSUPER GTシリーズはこのレースから後半戦に突入する。戦いの舞台は鈴鹿サーキット。レース距離はシリーズ最長の1000km、173周の長丁場だ。伝統の夏のPokka1000kmは、リーマンショック以降1000kmが700kmに短縮され、昨年は震災の影響も重なり500kmに短縮されていたが、今年は4年ぶりにレース距離が1000kmに復活。6時間のサバイバルバトルが帰ってきた。コーナリング性能と燃費性能に優れた2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電には今シーズン最も優勝のチャンスがあるレースだ。

 エヴァンゲリオンレーシングは第4戦を終えてドライバーズポイントがトップと14点差の6位。FIA-GT勢有利の中、現在の戦力を考えると大健闘のシーズンとなっている。しかし、期待されたSUGOでノーポイントに終わり、この鈴鹿の1000kmで上位ポイントが稼げないとシリーズチャンピオンが遠のく重要な1戦だ。

サードドライバーの濱口選手

 シリーズ最長1000kmのレースはほかのレースよりポイントが多く獲得できる。優勝すると通常は20ポイントだがこのレースは25ポイントと5ポイントの加算。2位は3ポイント加算、3位から5位は2ポイント加算、6位から10位は1ポイントが加算となっている。得意なコースに加え燃費性能が生かせるロングディスタンス、さらにポイント加算と2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電にとって今シーズンの明暗をかけた1戦となった。

 1000kmという距離は通常レースの3倍以上。しかも真夏の炎天下ということで高橋選手、加藤選手の体力消耗などを考え、今回は第3ドライバーとして濱口弘選手を起用した。濱口選手は2010年に紫電のドライバーとしてフル参戦。第5戦のSUGOで優勝している。


8月18日 練習走行、予選

練習走行にのぞむ2号車

 土曜午前は練習走行。いつもどおり加藤選手によるタイヤテスト、セッティングの合わせ込みを行い、高橋選手、濱口選手がそれを元に走り込み、予選のタイムアタックの練習などを消化。加藤選手は2分4秒267までラップタイムを上げるが、西コースの路面が改修されたこともあり、各車のタイムも2分3~4秒台。特に66号車 triple a Vantage GT3は2分2秒台を別格の速さを見せた。

 高橋選手は2分6秒711と自己ベスト。濱口選手も2分5秒458と走り込むほどにラップタイムを短縮、予選ではさらなるタイムアップが期待できそうだ。

 午後から行われた予選はノックアウト方式。予選Q1の上位16台が予選Q2に進出。予選Q2の上位10台が予選Q3に進出しスターティンググリッドを争う方式だ。予選の各セッションを同じドライバーが連続して出走することはできない。エヴァンゲリオンレーシングはQ1を濱口選手、Q2を加藤選手、Q3を高橋選手の順番で予選にのぞんだ。

 Q1担当の濱口選手はクリアラップをとるため少し遅れてコースイン。2周目のタイムアタックで2分5秒502とこの時点で8番手タイム。そのままタイムアタックを続け2分5秒115とタイム更新するが、他車のタイムも上がり12番手に後退。その後も他車のタイム更新は続き15番手まで後退するがここでQ1は終了、上位16台に入ったのでQ2進出が決まった。

予選を走る2号車

 Q2は加藤選手が担当。最初のタイムアタックで2分4秒281と5番手タイム。1周クールダウンの後再アタックに入った。既に他車のタイムアップで順位は10番手に後退。加藤選手は各セクターで自己ベストタイムを出し2分3秒655にタイムアップ。再び5番手に浮上しQ3進出を決めた。

 Q3担当は高橋選手。Q3まで生き残ったチームのプロドライバーを相手にジェントルマンドライバーの高橋選手が上位に食い込むのは難しい。まずは自己ベスト更新を目指す。高橋選手は各セクターで自己ベストを出し2分5秒509と午前中のタイムを上回る自己ベスト。順位は10位に留まったが決勝では充分に戦えるタイムとなった。

 予選終了後に予選トップタイムを出した66号車 triple a Vantage GT3が燃料タンク容量の車両規定違反がありタイム抹消となり最後尾へ。2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電は繰り上がりで9番手ポジションからスタートすることとなった。


ピットウォーク、キッズウォーク、グリッドウォーク
 前戦のSUGOは鈴鹿8耐と重なったためレースクイーンは2人だけ参加となったが、今回は5人が勢揃いした。今回はピットが初音ミクチームと隣同士となり、人気チームが並んだためピット前にはファンが殺到、パニック状態となった。

 ピットウォーク中、カウルの上に置かれていたのはラジコンの2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電。ファンが自作した世界に1台のラジコン紫電とあって、その精巧な作りに関係者は驚いていた。

5人のレースクイーンが勢揃いした
ピットウォークはファンが殺到しパニック状態となったスタート直前のグリッドファンが作ったラジコン紫電がカウルの上に飾られた

8月19日 フリー走行、決勝
 日曜朝のフリー走行は未明に降った雨でウエット路面。レインタイヤによる走行でタイムは参考にならないため、ピットワークシミュレーションに重点を置いた。

 1000km、173周の決勝レースだが、GT300クラスは160~161周でゴールとなる。2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電がガソリン満タンで走れる距離は36~37周。計算上は36周×4スティント+17周=161周となる。4ピットイン、5スティントをどの様に割り振るかがポイントだ。FIA-GT勢はおそらく5ピットイン、6スティント。紫電にはピット1回分70~80秒のアドバンテージがあることになる。各チームの戦略が異なるので、最後のピットインが終わらないと見かけ上の順位と実際の順位に差がある可能性がある。このチーム間の駆け引きも1000kmレースの見どころだ。

スタートドライバーを務めた高橋選手

 2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電のスターティングドライバーは開幕戦岡山以来の高橋選手。最初の16周を高橋選手が担当、第2スティント以降は36~37周でつないでいく作戦だ。第2スティントを担当する加藤選手は、トップグループから離れた位置となるのでマイペースで後方から追い上げることができる。以降、濱口選手、高橋選手、そして最後が加藤選手となる。

 定刻の12時30分にフォーメーション開始。スタート直後のストレートで4号車 GSR ProjectMirai BMWに抜かれオープニングラップで1つ後退し10位。続く2周目に入ったストレートで31号車 apr HASEPRO PRIUS GTに抜かれ西ストレート11号車 GAINER DIXCEL R8 LMS、130R立ち上がりで52号車 GREEN TEC & LEON SLSに抜かれ13位。


スタートシーン。4号車がアウトから並びかける(Photo:Burner Images)1周目のS字、4号車に抜かれ10位に後退31号車に抜かれ、52号車、11号車が迫ってきた

 3周目には、最後尾から怒濤の勢いで追い上げてきた66号車 triple a Vantage GT3にデグナー手前で抜かれ14位まで後退した。しかし、ラップタイムが2分09~10秒台に安定。2分8秒台で飛ばすトップグループからは、僅かずつ離されるものの14位で予定の16周を終えピットイン、全チーム中、最初のルーティンピットである。タイヤ4本交換、燃料フルチャージ、ドライバーは加藤選手に交代、45秒のピットストップでコースに復帰した。

66号車が背後に迫る48号車、43号車、21号車を抑え14位をキープ

 コースインすると既に最後尾からトップまで登りつめた66号車 triple a Vantage GT3が1コーナーへ飛び込んでいく。この時点で周回遅れとなるが、他のトップチームより3秒も速い2分5秒台で周回を重ねる66号車 triple a Vantage GT3とは勝負にならないが、2位グループの前でコースに復帰できた。

 トップからは周回遅れだが2位からはマイナス120秒ほど。順位は22位とほぼ最後尾まで落ちたが作戦は順調に進んでいる。ここから加藤選手のパッシングショーが始まった。

 2位グループの2分7~8秒台のラップタイムに対し、2分6秒台でラップを重ねる加藤選手。見えない敵にジワリジワリと接近していく。20周目に21位、22周目に20位、25周目から毎周順位を上げ28周目には15位まで浮上した。

 30周を前後して上位陣のピットインが行われた。トップの66号車 triple a Vantage GT3は27周目にピットイン。5ピット6スティント作戦は間違いないだろう。66号車 triple a Vantage GT3のピットインで見かけ上のトップに立った0号車 GSR 初音ミク BMWは34周目までピットに入らず燃費走行を続けたが、35周目にガス欠でストップ。上位陣の1台がいなくなった。

 加藤選手の快進撃は続き31周目から再び毎周順位を上げ36周目には7位、37周目には5位に浮上し3号車 S Road NDDP GT-Rと4位争いをするポジションまで上がってきた。ここまで快調に順位を上げてきた加藤選手だが、3号車 S Road NDDP GT-Rを抜くことができず、ラップタイムも2分6秒台から2分8秒台に落ち3号車 S Road NDDP GT-Rの後方に閉じ込められてしまった。

加藤選手は後方からパッシングショーを展開した3号車を抜くことができずバトルは続いた

 最後にまでピットインを引き延ばした43号車 ARTA Garaiyaが42周目まで引っ張り、唯一3ピット4スティント作戦を実行してきた。ペースをやや落とし燃費走行で中段のポジションをキープ、最後には上位を脅かす存在になりそうだ。

 50周を終え順位は依然5位。再びトップとなった66号車 triple a Vantage GT3との差は76秒に減少。そろそろ2回目のピットイン。予定は53周目だが1周引っ張り54周目にピットに入った。こうした周回数の調整は、メーターに表示される燃料消費を10周毎にドライバーからの報告を貰い、それらのデーターから周回数を増減させたり、タイムの落ち込み等からタイヤの消耗度を推測、さらにドライバーの体力消耗も加味され調整される。

 3スティント目はサードドライバー濱口選手。ピット作業はやや給油時間が長くなり60秒のピットストップでコースに戻った濱口選手の順位は8位。ところがコースインする直前にヘアピンで52号車 GREEN TEC & LEON SLSクラッシュしセーフティーカーが出ることとなった。

 セーフティーカーの導入で直前のピットインで広がった上位陣との差は一気になくなった。8位に後退した順位もセーフティーカー導入中にピットインするマシンがあったため4位でレース再開となった。レース再開後の61周目のタイム差はトップから7秒、2位から5秒、3位から2秒と俄然有利なポジションを確保した。

濱口選手に交代し、ピットアウトセーフティーカー導入中はピットインせず順位をアップ

 濱口選手は2分9秒台でラップを重ねるが、セーフティーカー導入中にピットインを行った3号車 S Road NDDP GT-Rが後方から2分5~6秒台のハイペースで追い上げてきた。濱口選手が周回遅れの処理に手間取ったところをつかれ64周目に3号車 S Road NDDP GT-Rに抜かれ5位に後退した。

 濱口選手のラップタイムは2分7~8秒台にアップした。他車のピットインで3位まで浮上したが、85周目にマシンは違うが昨年、一昨年の優勝チームである61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTにパスされ4位に後退した。

 濱口選手は37周をラップし91周目にピットインし高橋選手に交代。ピットに戻った濱口選手は熱中症でフラリと倒れ医務室に運ばれたが大事にはいたらなかった。

 高橋選手が4位でコースに戻るとこの時点でトップの61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTからは115秒遅れ。2位の66号車 triple a Vantage GT3から100秒、3位の3号車 S Road NDDP GT-Rから35秒遅れとなった。逆に5位の21号車 ZENT Audi R8 LMSとは2秒しか差がない。レースは残り70周もあり、ピット回数も違うのでまだまだ先は読めない。

 93周目にトップの61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTがストップ、同じ周に21号車 ZENT Audi R8 LMSに抜かれ順位は4位のまま。高橋選手の後方は70秒差と大きく離れた位置に88号車 マネパ ランボルギーニ GT3。88号車 マネパ ランボルギーニ GT3のラップタイムは2分6~7秒台なのに対し高橋選手のラップタイムは2分12秒台とペースが上がらず後方との差が気になる。

濱口選手、高橋選手は着実な走りを続け加藤選手につないだ

 98周目あたりから高橋選手のラップが改善され、加藤選手の最終スティントまでポジションはキープできそうな展開となった。88号車 マネパ ランボルギーニ GT3が10秒後方まで近付いてきたが117周目に88号車 マネパ ランボルギーニ GT3がピットイン、残りが40周以上あるのでもう1回ピットインが必要な88号車 マネパ ランボルギーニ GT3はライバルではなくなった。

 2位の3号車 S Road NDDP GT-Rと3位の21号車 ZENT Audi R8 LMSは122周目にピットイン。この2台も終盤にもう1回のピットインが必要だ。そして高橋選手も126周目に最後のピットイン、加藤選手が残り35周の最終スティントに向かった。

 ピットアウトすると順位は5位だが95秒差で2位の3号車 S Road NDDP GT-R、64秒差で3位の21号車 ZENT Audi R8 LMS、26秒差で4位の88号車 マネパ ランボルギーニ GT3はもう1度ピットインが必要なため、見かけ上の差ほど離れてはいない。加藤選手がハイペースで周回を続ければ、終盤には3号車 S Road NDDP GT-Rと2位争いに持ち込めそうだ。

 驚異的なタイムでラップを重ねた66号車 triple a Vantage GT3には独走を許したが、ほぼ予定通りに作戦を進め表彰台獲得は目前と思われた。

 ところがそんなチームの期待を打ち砕く無線が加藤選手から飛び込んできた。「エンジンがおかしい。パワーが無い」スロー走行のままピットに戻りそのまま頭からピットへ。エンジンカウルが外されエンジン担当の戸田レーシングのエンジニアがデーターを読み取る。メカニックはエンジンルームを覗き込み、何かパーツの破損等が無いか目視点検を行う。僅か数十秒、数分で表彰台圏内、入賞圏内から落ちてゆく。

 程なく原因が見つかった。エキゾーストパイプが割れパワーダウンしたようだ。急遽修理に取りかかり、約30分掛かって修理完了。すでに10周以上の周回遅れとなったが再び加藤選手がコースイン。パワーダウンの原因がこれで間違いなかったか。他にも複合的なトラブルは無いか。それらの確認はやはりサーキットを走らせるのが一番だ。

長いピットインで大きく遅れたが最後は加藤選手が元気な走りを見せた

 レースは最終版に2度目のセーフティーカーが導入され、3号車 S Road NDDP GT-Rはペナルティを受けるなどしたので、トラブルなく走り続けていれば間違いなく2位表彰台が獲得できたはずだ。

 エキゾーストパイプは今年新規で製作したもので、これまでの実績からすれば壊れる距離ではないはずだった。運がなかったと言えばそれまでだが、2位表彰台を逃がし、15位となったのは痛かった。ドライバーズポイントは8位へ後退。トップに立った66号車 triple a Vantage GT3との差は22ポイント。計算上は逆転可能だが残り3戦では厳しい状況となった。

(奥川浩彦/Photo:奥川浩彦/報道専用レースフォトデータベース Burner Images)
2012年 9月 6日