新型「レンジローバー・ヴォーグ」プロダクトセミナーリポート |
2年に一度、偶数年にフランスの首都パリで華やかに開催をされる、通称「パリサロン」。今年も9月末に開幕したこのモーターショーの舞台で初めて一般公開された、全く新しい「レンジローバー」(日本名「レンジローバー・ヴォーグ」)の全貌が明らかにされるプロダクトセミナーが、そんなショーを目前としたタイミングで、本国イギリスで開かれた。
■デザイン変更が性能向上に寄与
ロンドン郊外の広大な王立公園の中に位置する、やはり王立のバレエスクールの建物で、密かに我々の目の前に姿を現した数えて4代目となる今度のモデルは、ひと目で「レンジローバー車だ」と誰もの目からも明確なトラディショナルなデザインの持ち主。
「1970年に誕生した“オリジナル”は最高の製品で、その基本デザインを踏襲する事には大きな意味がある」というのは、ランドローバーのデザイン・ディレクターであり、チーフ・クリエーティブ・オフィサーでもあるジェリー・マクガバン氏のコメントだ。
一見では、2001年にリリースされた従来型と見紛うほどにも思える新型のルックス。マクガバン氏は「イヴォーク」も手掛けているが、そんな両者は俄かには同一人物による作品とは思えないほどに趣が異なっているのが興味深い。
ジェリー・マクガバン氏 |
が、全長がちょうど5mという新型レンジローバーは、「ホイールベースを42mm延長すると同時に後席でのレッグルームを120mm近く増大させ、“前方側方をハッキリと視認するために高い位置の外側寄りに置かれたシートに座る”という伝統の「コマンド・ポジション」を踏襲の上で、Cd0.34というこれまでで最も低い空気抵抗係数を実現させる」など、これからの時代に相応しいパッケージング/デザインを採り入れているのもまた事実なのだ。
これまで、フロントフェンダー後端にレイアウトされていたサイド・ヴェント風の装飾が、今度はフロントドア前端に配されたのは、サイドビューから新型を見分けるための大きなポイントとなる。実は、今回この位置にこうした“デザインキュー”をレイアウトできたのは、エンジンルーム両サイドのアウター/インナーパネル間からエアを取り込むという新たな吸気デザインの採用で、サイドヴェントが「機能上は不要になったため」という。こうしたリファインは、実は渡河性能の向上にも役立っていて、その水深限界は従来型の200mm増しの900mmにも達するというから驚きだ。
そんな新型のインテリアは、水平ラインと垂直ラインが力強く交錯する事で、やはりまずは伝統的な雰囲気を醸し出している事が大きな特徴。各部の質感はまさに極上で、小さなパーツひとつにもその素材が徹底的に吟味された事を実感させるものだ。
いざ購入を検討段階となれば、「自分だけの仕様を作り出せる」というのもこのモデルならではの醍醐味となるはず。エクステリア・カラーは実に37色もが用意をされ、そこに2色のルーフカラーや17種のインテリア・カラー、3色のヘッドライニングなどを掛け合わせ、さらにフルサイズのスライディング・パノラミックルーフなども選択可能となれば、その仕様数は事実上”無限大”と言っても良いからだ。
■オールアルミボディーで軽量化
そんな新型では、そこに採用されたハードウェアの進化も著しい。
ボディーには、ランドローバーの製品としてはもとより、世界のオフローダー/SUVを見回しても初となる画期的なオールアルミ製モノコック構造を新採用。このボディーシェル部分のみでも従来型より実に39%=180kg超の軽量化を実現し、最も重いV型8気筒のツインターボ付きエンジン搭載仕様でも、その車両重量は2.4tを大きく下回る。
シリーズ全体では新たに設定された3リッターのV型6気筒ディーゼル・エンジン搭載モデルが同等の運動性能を誇った従来型のV型8気筒ディーゼル・エンジン仕様に比べて420kgものダイエットを実現させるなど、画期的な軽量化を果たした事が新しいレンジローバーの最大の見所でもあるのだ。
これも含め、これまで環境性能には疎いと思われていたレンジローバーが、一転して新型ではこの点に最大限の努力を行った事は注目に値する。
例えばパワーステアリングには、未使用時のロスをほぼゼロにまで減らす電動式を新採用。トランスミッションは従来の6速ATからガソリン・エンジン2種、ディーゼル・エンジン2種との全組み合わせで、効率向上のために低粘度のフルードを用い、停車中のロスを減らす「トランスミッション・アイドルコントロール」メカを採用するなどした最新の8速ATへと進化した。また、V6ディーゼル・エンジンはアイドリング・ストップメカを欧州市場向けに標準装備。回生充電システムは全エンジンに適用されている。
一方で、そうは言っても世界のオフローダー/SUVの頂点に立つモデルに相応しい、圧倒的な動力性能もまた新型の売り物の1つとされている。最高510PSを発する5リッターのメカニカル・スーバーチャージャー付きV8エンジン搭載仕様は、0-100km/h加速を実に5.4秒で駆け抜けるという。これは新型ポルシェ「ボクスター」のMT仕様の5.8秒を確実に凌ぐデータだけに、見かけによらぬ(?)その俊足ぶりには驚くばかりだ。
■伝統のオフロード性能も向上
セミナーの途中では、静粛性の比較車両としてメルセデス・ベンツ「Sクラス」やレクサス「LS」の名前も飛び出すなど、オンロードでの快適性については特に並々ならぬ努力が払われた事が伺えた。しかし同時に、「大幅に軽くなった上に快適性が向上したとなると、あの比類なきオフロード性能がダウンしてしまったのではないか?」と心配になる人も居るかも知れない。
そんな我々の疑念を見透かしたように、新型がこうした項目でも従来型以上のポテンシャルの持ち主である事が強調された。
まず、様々な地形に対応をするためのジオメトリーが、「最低地上高は17mm増しの303mmで、アプローチ・アングルとディパーチャー・アングルもさらに改善」との事。また、フロントにダブルウィッシュボーン、リアにマルチリンク式を採用した主にアルミ材で構成される完全新設計のサスペンションは、フロントが260mm、リアが310mmと、クラス最長のホイールストロークを実現させたという。
サスペンションや駆動系など、様々な機能を一括で設定できるランドローバー自慢の「テレイン・レスポンス」も進化し、「オンロード」や「グラベル」など各種のテレイン・プログラムが自動的に選択されるオート・モードの採用と共に、ローレンジや最低地上高の選択タイミングをアドバイスする機能も新設定。
そんなボディー/シャシーが、ベベルギアを用いた50:50の前後配分を基本とするセンターデフを採用しつつ、そのロック機構とトルク配分を電子制御する「フルタイム・インテリジェント4WDシステム」と組み合わされた結果、そこで発揮されるオフロード性能が比類なく高いものである事は容易に想像が付く。
アルミ・モノコックボディーになったとは言っても「溝に落ちるような過酷な衝撃」や、「悪路走行時のサスペンション・コンポーネンツの損傷」などにも配慮された設計になっているというから、レンジローバーならではのタフネスぶりは従来型以上に仕上げられていると受け取ってよいはずだ。
かくしてそんな新型レンジローバーは、あらゆるシーンでの王者としての風格を携えた上で間もなく発進する事になる。イヴォークほどのの見た目上でのインパクトは無いものの、「そこは中身で勝負!」というのがこのモデルであるはず。
堂々たるフラッグシップ・モデルとして開発されたそんなモデルに乗れる日が、自信に満ちたこのセミナーの内容を耳にして、いよいよ待ち遠しくなって来た!
3.0 V6 ディーゼル | 4.4 V8 ディーゼル | 5.0 V8 ガソリン | 5.0 SC V8 ガソリン | |
全長×全幅×全高[mm] | 4999×1983×1835 | |||
ホイールベース[mm] | 2922 | |||
アプローチアングル (オフロードモード時)[度] | 26(34.7) | |||
デパーチャーアングル (オフロードモード時)[度] | 24.6(29.6) | |||
ランプブレークアングル (オフロードモード時)[度] | 20.1(28.3) | |||
渡河水深[mm] | 900 | |||
重量[kg] | 2160 | 2360 | 2200 | 2330 |
エンジン | V型6気筒DOHC 3リッターツインターボ | V型8気筒DOHC 4.4リッターツインターボ | V型8気筒DOHC 5リッター | V型8気筒DOHC 5リッター スーパーチャージャー |
ボア×ストローク[mm] | 84×90 | 84×98.5 | 92.5×93 | 92.5×93 |
最高出力[kW(PS)/rpm] | 190(258)4000 | 250(339)/3500 | 276(375)/6500 | 375(510)/6000-6500 |
最大トルク[Nm/rpm] | 600/2000 | 700/1750-3000 | 510/3500 | 625/2500-5500 |
トランスミッション | 8速AT | |||
駆動方式 | 4WD | |||
前/後サスペンション | マルチリンク | |||
前/後ブレーキ | ベンチレーテッドディスク |
(河村康彦)
2012年 10月 15日