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会田肇の「2013 CES」見て歩き
クルマ関連のトピックをお届け
(2013/2/12 00:00)
年初にアメリカのラスベガスで開催されている「International CES(Consumer Electronics Show)」。家電をはじめとしたAV・IT関連機器の一大トレードショーで、2013年は1月8日~11日の会期で開催された。すでにPC Watch、AV Watchでは多数の記事をお届けしているが、Car Watchでは最近このCESで増えてきているクルマ関連の展示内容を、会田肇氏のリポートでお届けする。
自動車メーカーの出展が増えつつあるCES
CESのは、アメリカ家電協会(CEA)が1967年以降より開催してきた家電ショーで、基本的には業界関係者が訪れるトレードショー的色彩が強いが、その年の家電品の行方を占うショーとしてメディアからの注目度も高い。それだけに、今年1月に開催された2013 CESでは国内外170カ国3500社を超える企業が参加。開催4日間で15万人を超える来場者が訪れる世界最大級の家電見本市となった。
そのCESがここ数年、姿を大きく変えつつある。昨年から、それまでアメリカで開催されていたカメラショー「PMA」が共同開催となったことが1つ。それともう1つ、自動車関連メーカーが相次いで出展し始めていることがある。PHV(プラグインハイブリッド車)やEV(電気自動車)の登場によって、自動車は今やエレクトロニクス技術抜きで成り立たなくなっている。それだけに自動車メーカーだけでなく、電機、IT業界までも自動車関連技術を出展。広大なCES会場の方々で車両の展示が見受けられ、さながら「モーターショー?」と見まがう一角も出現するまでになった。今やCESは、家電からIT、カメラ、自動車に至る広範な分野を対象とする巨大なイベントへと成長したことは間違いない。
トヨタの自動運転システム「LEXUS INTEGRATED SAFETY」
CESのクルマ関連でもっとも注目度が高かったのは自動運転システムだ。すでにGoogleが公道実験を開始し、GMやフォード、アウディもそれに続く。そんな中、2013 CESで研究開発中の“ロボットカー”を初公開し、大きな注目を浴びたのがトヨタだ。そのクルマは「LEXUS INTEGRATED SAFETY」を搭載したプロトタイプのLS。トヨタがレクサスブランドでCESに出展するのは初めてのことで、会場では実験の様子がビデオで放映され、プロトタイプに搭載された機器類を間近で見ることができた。
フロントには150m先の歩行者などのオブジェクトを感知できるステレオ型ハイビジョンカメラを取り付け、ルーフには車両の向きや角度を検出するGPSアンテナ、周囲70mまで存在を検出できる360度レーザートラッキング技術も組み合わせる。まるで、地図データを取り込むロケーターのような仕様だが、すでにミシガン州の許可を得て公道実験を開始していることも発表。トヨタはこのクルマで日々データを取りながら安全に自律走行ができる車両の開発に取り組んでいるというわけだ。
実はこの展示に先立ってトヨタはレクサスとしてプレスカンファレンスを開催している。その中でトヨタグループ副社長兼レクサス部門のゼネラルマネージャーのマーク・テンプリン氏は、まず昨年の米国内交通事故死者数が3万2000人に上ったことを挙げ、「クルマが自律して動作することは交通事故による死傷者をなくするための重要な第一歩」と出展の意義を述べた。
また、テンプリン氏は、「このクルマはあくまでプロトタイプであって、市販の予定はまったく予想できる段階にはない。最終的には安全に自律走行できることが目標だが、システムはあくまでドライバーが主。このシステムはそれをアシストする副操縦士のような立場」とも述べた。つまり、いくらシステムが高度化してもドライバーがそれに頼りすぎてはいけないということだ。プレスカンファレンスでテンプリン氏はGoogleが目指す“自動運転システム”の実現に懐疑的な一面も見せるなど、今後、自動車メーカーとベンチャーとの間でハード・ソフト両面で熾烈な開発競争がスタートしそうである。
アウディの自動運転システム
昨年に引き続いてCESに出展したアウディが披露した“自動運転システム”は2つ。1つは駐車場までの自動操縦システム(Auto Self Parking System)で、もう1つは渋滞時に役立つ自動運転システム(Piloted driving assists in traffic jams)だ。どちらも“夢物語”に終わらせるのではなく、より実用化に近いレベルで開発を行っていることに特徴がある。
駐車場までの自動操縦システム(Auto Self Parking System)は、建物の入口や駐車場内に設置されたレーザーセンサーがクルマを認識し、駐車場のコンピュータにある地図データによって車両を誘導していくというもの。車両側には12個の超音波センサーと4つのカメラを装備され、これらの情報を相互通信することで指定位置へ誘導する仕組みとなっている。このシステムは、駐車場内に管理外の車両や人が立ち入れなくするなど完全管理ができるインフラ整備が必要だが、アウディによれば、このシステムでは車両側のわずかな改良で済むので、インフラさえしっかり用意できれば10年以内には発売へとこぎつけられるという。殊にホテルやレストランなどでバレーパーキングが普及しているアメリカでの関心は高く、インフラの整備にコストはかかるものの普及への自信をうかがわせた。
渋滞時に役立つ自動運転システム(Piloted driving assists in traffic jams)は、渋滞時のドライバーの負担軽減に役立つ。動作範囲は0~60km/hで、渋滞時にはボタンを押すだけで自動運転モードに入ることができる。動作時はストップ&ゴーはもちろん、ステアリング操作も自動で行い、渋滞時にドライバーが運転操作をする必要はまったくなくなる。車両には2つのレーザーセンサーと8個の超音波センサーを搭載し、歩行者や他の車両、ガードレールなどを把握。渋滞が解消して速度域が上がれば自動運転モードは自動的に解除される。このシステムはすでにネバダ州で公道実験の認証を取得済みだという。
フォードはSYNCアプリ開発を開放し「フォードデベロッパプログラム」を立ち上げ
2013CESでは他にも興味深いものが多数出品された。その中で新たな挑戦を始めたのが米フォードだ。同社の車載システム「SYNC」向けのアプリの開発を一般開放し、車載機とスマートフォンをつなぐソフトウェアの作成支援をする「フォードデベロッパプログラム」を立ち上げたのである。
開発するために必要な情報やツールを参加者に提供することで、自由なアプリ開発が行えるようになり、従来の枠にとらわれないアプリの登場が期待される。これまで車載器向けアプリはメーカーが依頼したソフトウェアベンダーが開発してきたが、これだとどうしても枠にはまったアプリしか生まれてこない。こんな状況を何とか打破するには、アプリを公開してより多くのソフトウェア開発者の参加を呼びかけていくことが必要と判断。プログラムはスタートした。
まず米国内からスタートし、順次、欧州~アジアへと広げていくという。今後は車速や舵角センサーとの連携が可能になる車載LAN「CAN」に接続可能となる予定で、その際は車両情報をベースとしたより本格的なアプリの開発が可能になる。
パナソニックはEVコンセプトモデルを展示
自動車関連技術に積極的だったのがパナソニックだ。同社の都賀一宏社長は、2013 CES開催に先だって行われたキーノートスピーチで講演し、新世代の車載充電器やリチウムイオン蓄電池等を搭載したEVコンセプトモデルや、eコックピットを展示し、車のエコ&スマート化に貢献する取組みを紹介した。
EVコンセプトモデルに搭載したのは、EV向けの充電システムの他、DC-DCコンバータ、ジャンクションボックス、駆動系インバータをタワー型に一体化したモジュールボックス。このシステムでは、配線が目立たず、軽量化にもメリットがある。さらにヒートマネジメントシステムを一体運用できるようになるため、充電器などで発生した熱をヒートポンプとして上手に利用して冬場の暖房用エアコンなどにも利用できる。また、一体運用は部品の共用化にもつながり、熱管理の最適化も進められると同時にシステム全体のコンパクト化に大きく貢献できるという。
eコックピットは、さらにIT化が進む未来のテレマティクスとして提案したもの。メインとなるメータパネルは基本はフル液晶ディスプレイを採用するが、メーターの針だけはアナログというハイブリッド型を採用。液晶ディスプレイならではの多機能性と、アナログならではの見やすさと親しみやすさを具体化した。とくに液晶ディスプレイは、ドライバーの好みに応じてデザインを選べ、状況に応じた最適表示に臨機応変に対応可能。スマートフォンを組み合わせた個人認証にも対応し、乗り込むだけで最適な表示に切り替えられる。また、コンソール中央では液晶タッチパネルによるフルコントロールを実現し、AV機器だけでなく、車両の様々なコントロールを1個所で操作できるように使い勝手を構築しているという。
DelphiはOBD2接続可能なデバイスを展示
自動車の走行履歴や状態をスマートフォンやタブレットでチェックできる車載用デバイスを開発したのが自動車パーツメーカーである米Delphiだ。このデバイスは、手の中に収まるほどのコンパクトなサイズで、内部には米Verizon Wireless社の携帯回線を利用するCDMA方式通信モジュールやGPSモジュールを内蔵する。
位置情報に基づく走行経路の記録を行ったり、車両が盗まれた時は車両追跡も可能。緊急通報としても利用できるという。接続には車両情報を得るために汎用性の高い「OBD2」と呼ばれるインターフェイスを採用。対応するOSは「Android 2.2」以降と「iOS 5.0」以降。車両を選ばずに取り付けられるのが魅力だ。
アウディは新テレマティクスシステムをA3に搭載
自動運転で注目を浴びたアウディは、高速通信サービス「LTE」に対応したテレマティクスシステムをA3に2013年半ばにも搭載すると発表した。通信用チップセットには、スマートフォンにも採用されたばかりの米Qualcomm製の「MDM9215」をいち早く採用。最大で毎秒100M/bpsもの高速通信が可能となり、地図画面や様々なドライブ情報をはじめ多くの情報がよりスムーズに閲覧できるようになる。公表されたプロトタイプでは無線LANのアクセスポイント機能を兼ねており、車内でスマートフォンなど8つの携帯端末をインターネットにつなぐことも可能となっていた。
さらに気象条件に左右されず高い視認性を確保するレーザーダイオードを光源にするテールランプや、エネルギー効率が高く数千分の1mmの薄さで配光分布を均一化した有機EL(OELD)ライト、LCDディスプレイに代わるアクティブマトリックス有機発光ダイオード(AMOLED)ディスプレイの試作機も公開した。
NVIDIAは、テスラ モデルSを展示
CG処理や演算処理の高速化を主な目的とするGPUメーカーとして知られるNVIDIAもクルマのIT化にとくに力を入れている。同社ブースで一番目立ったのはブース入口に置かれた高級EV テスラ「モデル S」だ。コンソールに収まっている巨大な17型モニターの中枢部を司っているのがNVIDIAのGPUというわけだ。モニターは1画面全体で表示したり、上下2画面に切り替えることもでき、操作はピンチイン/アウトも可能なスマートフォン感覚のタッチ操作に対応する。車両のコントロールも可能で、サンルーフの開閉やドアロックのON/OFF、トランクの開閉にも対応する。ドライバーが着座しているかどうかもセンサーで認識し、着座していないときにはモニターが自動的にOFFされる機構も採用している。
また、昨年、同社は2013年からモバイル・プロセッサー「Tegra3」をアウディ全車に搭載することを発表したが、会場ではアウディを実車展示した他、プロセッサそのものを見せるコーナーも用意した。このプロセッサーは4つのCPUコアとGPUのほか、音声、動画、静止画のそれぞれに専用プロセッサを組み合わせて搭載したもの。テレマティクスシステムやデジタル式メーターパネルのビジュアル系の処理に活用され、よりスムーズで美しい表示が実現可能になったという。
HUDの展示なども
少ない視線移動で様々な情報を視認できるヘッドアップディスプレイ(HUD)。日本では、パイオニアが昨年、カーナビと組み合わせて使うカラーレーザー方式のHUDを登場させて話題を呼んだが、2013CESでもこれに続く多くの技術が公開された。
カーナビに力を入れるJVCは、反射型の液晶表示素子とプロジェクター光学系を用いたLCOS(Liquid Crystal On Silicon)方式モデルと、映像信号で変調したレーザービームを鏡でラスタースキャンさせるMEMS(Micro Electro Mechanical System)方式のモデルの2タイプを出展。LCOS方式は同社のプロジェクター技術を応用したもので、すぐに量産化が可能なことから先行して開発を進めてきた。
米テキサス・インスツルメンツが開発したのは、プロジェクターなどで培ってきたDLPテクノロジーを活かしたもの。この技術は色彩、コントラスト、明瞭度、輝度の面で優れた特性を持つ高解像度画像が特徴で、独自のマイクロミラー構造によって運転中でも明瞭で高輝度な表示を実現している。また、液晶表示とは異なり、サングラスをかけた状態でも視認することができるメリットもある。
急速に進むスマートフォンのハイスペック化に伴って、通信機能を備えた車載デバイスもますます高度化し、また多様化してきている。その際に重要となるのは、その情報をどうやってスムーズにドライバーへ伝えられるか。HUDの進化はこの役割を果たすのに欠かせない存在となっていくのは確実。車両にマウントする技術も含め、今後の発展が期待されるところだ。