ニュース
会田肇の「バンコク・インターナショナルモーターショー2013」見て歩き
(2013/9/19 00:00)
ASEANではもっとも古い歴史を持つモーターショー
世界ナンバーワンの市場に成長した中国もここへ来て伸びが鈍化してきている。そんな中、次なる市場として目されているのがASEANだ。その中心でもあるタイは非関税エリアであるASEANの完成車輸出基地としても急成長を遂げている。その効果もあって、ASEAN各国ではモーターショーの開催が目白押しだ。そんな中、3月に行われた「バンコク・インターナショナルモーターショー」は今年で34回目を数える老舗中の老舗。その模様を圧倒的シェアを誇る日本車を中心に現地取材した。
「バンコク・インターナショナルモーターショー」が開催されたのはバンコク郊外にある「IMPACT Arena(インパクトアリーナ)」という施設。悪名高きバンコク市内の渋滞を避けてBTSスカイトレインで最終駅「モーチット」まで向かうものの、実はそこから会場は10km近く離れている。案内ではバスが30分に1本あるとはいうものの、その乗り場が皆目見当がつかない。仕方ないのでタクシーに乗って向かおうとした。ところが、タクシーの運転手に行き先を告げてもまったく要領を得ない。ほどなく、英語で告げても理解してもらえないことに気付き、iPhoneのGoogle マップで行き先を説明してようやくわかってもらえた次第。
ショー会場はとにかく人も建物も豪華絢爛
さて、何とか現地に到着して会場に入ってみて驚いた。その建物が他にはない豪華な造りだったのだ。会場に足を踏み入れると、フロアはピッカピカの大理石。プレス登録が行われる会場では多彩なメニューを用意するなど、まるでホテルで立食パーティが開かれているのか、そう勘違いしてしまいそうになる。さらに出展社受付には「ミス○○」のたすきを掛けた女性が勢揃いし、各出展メーカーの代表者に花のバッジを付けていた。
受付会場の隣で開催されたオープニングセレモニーの会場もこれまた豪華。天井からは大型のシャンデリアがいくつもぶら下がり、天井や壁も豪華な装飾を施す徹底ぶり。王族関係者をはじめ、各自動車メーカーの代表者が勢揃いし、まさに人も建物も豪華尽くし。今まで数多くのモーターショーを訪れたが、会場でここまでの豪華さを感じたことは一度もない。タイが国を挙げてショーにかける意気込みを感じるのに充分なイベントのスタートだったと言える。
それとこのモーターショーでは他と大きく異なる点がある。それはショーそのものが巨大な展示即売会になっていることだ。そのため、各ブースの奥には必ず商談コーナーが設けられている。ここで、各社のクルマを比較しながら最適な1台を選ぼうというわけだ。しかも、ショー会場ではローンの低金利策など有利な販売条件を付け、店頭よりも有利に購入できるのだという。バンコクモーターショーは14日間にわたって開催され、約190万人が訪れると予想されているが、他人よりも先に最新の車がお得に買える!これが集客の大きな要素になっているようだ。
【TOYOTA】もっとも注目されたデビューは、トヨタ「VIOS」
前置きが長くなったが、中国では押され気味の日本車も、ここタイでは圧倒的な存在感を見せていた。その中でもっとも話題を呼んでいた新型車といえばトヨタ「VIOS(ヴィオス)」だ。
もともと「VIOS」は、初代ヴィッツをベースに2002年にエントリーセダンとしてデビューしたが、その造りの良さと値頃感が受けて大ヒット。その後2007年に2代目が登場し、今回の登場で3代目となる。この3代目もプラットフォームをヴィッツとしており、内装を見ると同じプラットフォームを採用する日本のカローラにも似た雰囲気を感じさせる。
ただ、トヨタがこのVIOSにかける意気込みは凄まじい。実は、会場へ向かう途中、駅周辺で何やらチラシを配っている人が大勢いた。見るとそれはタブロイド判で刷られたVIOSのチラシ。主要駅で配られ、電車にもその広告を見ることができたし、まさにトヨタのこのクルマにかける力の入れようが窺えると言ってイイだろう。
トヨタが会場としたスペースは、隣のレクサスと合わせると今回の出展メーカーの中で最大規模。エントリーカーの「YARIS(ヤリス)」からASEAN市場で人気のミニバン「AVANZA(アバンザ)」、ミッドサイズセダン「CAMRY(カムリ)」など乗用車系のほか、商用車の「HIACE(ハイエース)」やピックアップ「HiLux Vigo(ハイラックスヴィーゴ)」なども出展されていた。また、日本から完成車として「86」も持ち込まれていたが、関税が課せられることで900万円近くの“超高級スポーツカー”になっていたのには驚いてしまった。
【LEXUS】「LS600hL」が4000万円超! 輸入車関税の驚き
実は、その隣のレクサスで展示されていた車種はすべて完成車での輸入。つまり、関税がたっぷりかけられる車種ばかりで、フラグシップの「LS600hL」に至っては4000万円を超える!!! その意味でレクサスは世界でも類を見ない“超”高級車ブランドとなっていたのだ。その中で注目されたのは、ショー開催時点で日本で未発売だった「IS300h」のデビューだ。価格は1000万円近くする計算になるという。説明員によれば、このクラスを購入する層は着実に増えているそうで、ISの発売によってレクサス全体の販売台数のかさ上げに貢献すると思うと話していた。
【NISSAN】懐かしい「PULSAR」復活! HVコンセプトも登場
日産でワールドプレミアとなったのは、コンパクトカーの「PULSAR(パルサー)」だ。日本では懐かしい車名だが、オセアニアでは日本で後継車となったブルーバードシルフィをこの車名で継続販売していた。2006年に一旦はティーダに代わられていたが、2013年にタイ日産で「B17系」シルフィが生産されることを機に「PULSAR」が派生車種として復活したというわけだ。内装はシンプルながらしっかりした感じが伝わり、シートもたっぷりとしていてコンパクトカーという印象はない。ただ、欧州車に比べるとカーゴスペースはあまり広くはなかった。
またフロントグリルのデザインを一新した「MARCH(マーチ)」も初披露された。やや厳つい印象を受けるが、このデザインのマーチは間もなく日本でも導入される予定だ。そのほか、コンパクトセダン「ALMERA(アルメーラ)」、Cセグメントセダン「SYLPHY(シルフィ)」、ミッドサイズセダン「TEANA(ティアナ)」までをラインアップ。ピックアップやSUVも展示されていた。
一方、日産でアジア初のお披露目となったのが「Ellure Concept(エリュール・コンセプト)」。スーパーチャージャー付き直列4気筒2.5リッターエンジンと最高出力25kWのモーターを搭載したハイブリッドカーで、1モーター2クラッチ方式を採用する。デザインは武士の裃(かみしも)をモチーフとしたフロントグリルと、鳥居をモチーフとしたリヤエンドなど、日本の伝統美をモダンにアレンジしたデザインとなっている。
【HONDA】贅を極めた演出でデビューした「アコード」
ホンダの目玉は何といってもアジア初お披露目となった「ACCORD(アコード)」だ。アコードはすでにトヨタ・カムリと肩を並べるミッドサイズセダンで、これも日本よりも先行してのデビューとなった。ホンダは2012年よりタイ国内で乗用車シェアでトップの座を確保しており、その勢いをこのアコードでも活かそうというわけだ。
それだけに発表の場は豪華絢爛といった雰囲気がふさわしい。そのステージは、天井から大型のシャンデリアがぶら下がり、バルコニーを模した階段もある。アコードを横に笑顔を見せる女性も豪華なドレスを身に纏う。この雰囲気には「アコードってこんなイメージのクルマだっけ?」と思っちゃったりするが、タイ国内では400万~500万円を超える高級車。それを購入する富裕層を意識するとこのような演出になるのかもしれない。
また、ホンダはコンパクトカーも多くラインアップする。目を引いたのが「BRIO(ブリオ)」で、2011年にタイやインド向けにハッチバックモデルがまず発売され、フロント左右のエアバッグ付きで140万円強を実現。その後12年には4ドアセダン「BRIO AMAZE(ブリオ・アメイズ)」を発売している。いずれもタイ国内での生産となる。そのほか、ハイブリッド車としてタイ生産の「CIVIC HYBRID(シビックハイブリッド)」や「JAZZ HYBRID(ジャズハイブリッド)」、日本からの完成車輸入となる「CR-Z」も出展していた。
【MITSUBISHI】ワールドプレミア「G4」、HEVのコンセプト「GR-HEV」に注目!
ショー展示でとくに力が入っていると実感させたのが三菱自動車だ。ワールドプレミアとなるコンパクトセダン「Concept G4」と、ジュネーブショーで先行発表されたピックアップのHEV「Concept GR-HEV」をこのショーで公開したのだ。
「Concept G4」は、フロントドアの形状を見比べれば分かるように、これは「MIRAGE」の4ドアセダンバージョンのコンセプトモデルであることは明白。トヨタ「VIOS」でも明らかなように、タイではこのクラスの伸びがもっとも期待されるカテゴリー。とくにタイではハッチバックよりもセダンの方が好まれる傾向が強いようで、三菱自動車としても販売が好調なミラージュに続いて導入を急ぐものと見られる。
「Concept GR-HEV」は、5450mmという全長を活かした、いかにもピックアップトラックらしい伸びやかなスタイルが印象的なピックアップだ。現行の「TRITON(トライトン)」の後継車と目されるコンセプトカーで、フロントセクションのボリューム感たっぷりのデザインは十分に先進的! サイドビューのデザインも従来のピックアップの領域をはるかに超えた美しささえ感じさせる。エンジンは2.5リッターエンジンに高性能モーターの組み合わせ。FRベースの1モーター式ディーゼルハイブリッドになる見込みだという。発売時期等の詳細は一切未定だが、ピックアップでレースまで行われているタイだけに注目度は抜群に高かった。
【MAZDA/SUZUKI/ISUZU】注目度抜群だったいすゞのコスプレ・パフォーマンス
マツダが用意したのは日本で発売済みの「CX-5」。まだ価格が未定のコンセプトモデルとして発表されたが、CX-5は2013年にマレーシアでの生産が決定済みで、それによってASEAN内での非関税輸入が可能になる。その意味でCX-5は期待のSUVでもあるのだ。マツダでそれ以上に目に止まったのがピックアップの「BT-50」だ。マツダならではの曲線を活かしたダイナミックなプロポーションは市街地を走っていても抜群の存在感。思わず「カックイイ~」と叫んでしまったほどだ。2011年の発売以来、販売実績もうなぎ登りで、タイ国内で生産するBT-50は今もなおフル生産が続いているという。
インドで高いシェアを持つスズキは、インドネシアから輸入する「ERTIGA(エルティーガ)」をタイ国内で初めて披露した。2012年からの「SWIFT(スイフト)」の生産からタイ生産を本格化させたスズキだが、セダン志向の強いタイ国内市場でミニバンはまだどれだけ売れるかは未知数。そこで、同じASEANであるインドネシアから輸入してラインアップの拡充を図ることにしたというわけだ。エンジンは1.4リッターのコンパクトカークラスながら3列シートを持ち、それでいて価格はコンパクトカーとそれほど変わらない。経済発展が続くタイ市場で次の需要に後れを取らないための先手を打ったものと言える。
思わず“秋葉原パフォーマンス”か、と思わせる派手な演出を行ったのがいすゞだ。プレスカンファレンスのステージには大型の「X」のロゴマーク。その手前には、タイでとくに人気が著しいピックアップ「D-MAX」を展示。その横でDJが音楽を送出すると、それに合わせてアニメ関連のコスプレに身を纏ったダンサー達が歌ったり踊ったり。この時ばかりはタイにいることすら忘れてしまうほどだった。いすゞのブース内では同じくアニメのキャラクターが描いた“痛車”を一番目立つところに展示。コスプレに身を纏ったダンサー達との記念写真では会場内でもっとも盛り上がっていたのではないかと思う。
【欧米&韓国車】ASEAN生産で市場拡大を狙う欧州の高級車ブランド
バンコク市内を走っているのはピックアップからタクシーも含め、大半が日本車。その中に混じってメルセデス・ベンツやBMW、ボルボといった欧州車をよく見かける。関税の高いタイでこんな車を買える人がそんなに多いのか、そう思ったら違った。実はこれらの多くはタイで生産されたものなのだ。つまり、関税なしで欧州の高級ブランドが手に入れられるってわけだ。
なかでもそれを裏付ける例がメルセデス・ベンツだ。実はメルセデス・ベンツはタイ国内で「Cクラス」「Eクラス」「Mクラス」などを生産している。逆に「Aクラス」「Bクラス」は輸入車。そのため、関税のかかる「Bクラス」は、関税のかからない「Cクラス」よりも販売価格が高いという逆転現象が起きている。これはBMWやフォード、シボレーなどでも同じことが言え、逆にASEAN地域での生産が遅れているフォルクスワーゲンは高価な販売価格が災いしてシェアはあまり高くないようだ。もはや東南アジアで販拡をするには関税のかからないASEAN地域内で生産することは必須となっているのだ。
そんな中、プレスカンファレンスで気を吐いていたのが、フェイスリフトしたメルセデス・ベンツの新型「Eクラス」ディーゼルハイブリッドだ。同社にとってタイは重要な市場と位置付けられており、それは現地生産化にいち早く踏み切っていることからも窺い知れる。それだけにこの「Eクラス」も左側通行の国で最初の発表となった。2143ccの4気筒ディーゼルターボにモーターを組み合わせ、高出力ながら23.81~24.39km/Lの燃費を実現。価格も「E300 BlueTEC HYBRID Exective」で399万バーツ(約1282万円)と思ったほど高くない。これも現地生産の効果は発揮された結果だ。
とはいえ、輸入だけに頼る欧州&韓国勢の出展意欲も旺盛だ。出展していたのは、高級スポーツカーであるランボルギーニやポルシェ、ロータスのほか、ロールスロイスやベントレーなど高級車ブランドも勢揃い。ほかにもジャガー&ランドローバー、ボルボやプジョー&シトロエンが、韓国勢ではヒュンダイと起亜自動車、サンヨン(双竜)自動車。ヒュンダイは注目度の高いスポーツクーペ「Veloster(ベロスター)」をプレスカンファレンスで発表し、派手なパフォーマンスとともに存在感をアピールしていた。