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日産、複雑な形状に対応する1.2GPa級の超高張力鋼板を開発
「インフィニティ Q50」で世界初採用、2017年以降に使用比率を25%まで拡大
(2013/3/13 00:15)
日産自動車は3月12日、1.2GPa(ギガパスカル)級の超高張力鋼板(超ハイテン材)を開発したと発表。同日にグローバル本社ギャラリーで超ハイテン材の説明会を開催し、車体技術開発部の鈴木伸典氏が解説を行った。
今回発表した1.2GPa級の超ハイテン材は、新日鐵住金、神戸製鋼所と共同開発したもので、車体のフレームに使われることを目的に研究が進められてきた。
一般的に引っ張り強度が高く、張力が高いほど延びない材質の超ハイテン材は、複雑な形状にすることが難しいとされてきたが、今回の1.2GPa級の超ハイテン材は材料技術、成形技術、接合技術の進歩によって車体への適用を実現したと言う。1.2GPa級の超ハイテン材は今年北米で発売予定の「インフィニティ Q50」で採用しており、同社は今後、超ハイテン材の使用比率を25%まで拡大(2013年での使用比率は9%)する計画を立てている。
鈴木氏によると、そもそもハイテン化によるメリットは3つあると言い、1つは部材の強度を確保できることから板厚の薄型化(=軽量化)が可能になること。もう1つは板厚の薄型化によって材料の使用量が減りコスト削減ができること。そしてもう1つは、従来のハイテン材は張力が高くなるほどだんだん延びなくなる材質だったところ、高延性化によって複雑な形状にも成形可能になった(適用部位が拡大する)こと。
こうしたメリットを享受するべく、3点の技術革新に成功した。それが上記で述べた材料技術、成形技術、接合技術となる。
1つ目の材料技術の革新では、「通常スチールの強度を上げていく際は、マルテンサイトという結晶をギュッと寄せ集めて作られるが、これだと(スチールが)延びないのでなかなか部品に加工できない。そこで今回、残留オーステナイトと呼ばれる材質を混ぜた」(鈴木氏)。これにより、プレスをして加工をした後でしっかりと固まるという特性にすることが可能になり、高延性化を実現した。
2つ目の成形技術では、「プレスする際、材料が元に戻ろうとする力(スプリングバック)が生じる。1.2GPaともなると、相当のスプリングバックが起こるため、それをどう押さえ込むか、またどの程度戻る(力が発生する)のかを予測しながら型を作ることに成功した」と述べるとともに、「型自体にも何千tという力が入って1.2GPaの超ハイテン材を成形するので、その型自体のゆがみも考慮した型設計を実現した」と、成形技術の革新について説明する。
そして3つ目の接合技術では、「細かい数値はお見せすることはできないが、材料の強度を上げるにはカーボン量を増やすのが一般的だが、あるところからスポット溶接の強度が下がってしまう」(鈴木氏)。これはスポット溶接をした際の溶け方に原因があるためとしており、「加圧力、電流量、どの程度の時間電流を流すか。こういったところを何百回と繰り返しテストした」ことでスポット溶接のノウハウを得ることができたと、鈴木氏は1.2GPa級の超ハイテン材の実現に向けた技術説明を行った。
なお同社では、今回の1.2GPa級を含む超ハイテン材の使用比率を、2013年の9%から2017年以降に25%まで拡大するとしており、構造の合理化を含め15%の車体の軽量化を行うと発表している。
またインフィニティ Q50では、側面衝突時の強度を高めるためウィンドーまわりのフレームに1.2GPa級の超ハイテン材を使用しているが、今後はフロアまわりにも採用を拡大していきたいとしている。