ニュース

【鈴鹿8耐応援企画】ケビン・シュワンツ選手インタビュー

21年ぶりの鈴鹿8耐参戦

 鈴鹿サーキットの夏の風物詩とも言えるのがバイクレース「“コカ・コーラ ゼロ”鈴鹿8時間耐久ロードレース(以降、鈴鹿8耐)」だ。今年は、7月25日~28日のスケジュールで開催され、併催される鈴鹿4耐の決勝は27日9時に、鈴鹿8耐の決勝は28日11時30分に開始となる。

 この鈴鹿8耐で話題となっているのが、ロードレース世界選手権(現在の名称はMotoGP)の王者に輝いたこともあるケニー・ロバーツ氏が特別ゲストとして来場することと、同じくかつての王者であるケビン・シュワンツ選手がエントリーしていること。ロバーツ氏の来場だけでも大きな話題と言えるが、シュワンツ選手は、実際に鈴鹿8耐に参戦してしまうのだ。鈴鹿8耐への参戦は実に21年ぶりになる。

●“コカ・コーラ ゼロ”鈴鹿8時間耐久ロードレース
http://www.suzukacircuit.jp/8tai/

 ケビン・シュワンツ選手の年齢はすでに49歳。しかしながら、去る7月3日、4日に行われた合同テストでは好タイムを記録し、健在ぶりを見せつけた。独特のライディングスタイルやアグレッシブな走法で、日本でもファンの多い同選手にインタビューする機会に恵まれたので、その様子をお伝えしたい。

 なお、鈴鹿で走行するかたわら、東京で多数の取材を立て続けにこなすという多忙な中であったため、いくつかの基本的な内容は他のメディアと共通の質問として書面でやりとりしたものとなる。あらかじめご了承いただきたい。


鈴鹿8耐に参戦するケビン・シュワンツ選手

鈴鹿は思い入れもある、大好きなコース

──鈴鹿8耐に参戦するきっかけは何だったのか、教えていただけますか。
シュワンツ選手:昨年、鈴鹿サーキットの50周年記念イベント、ファン感謝デーに招待されたときに、本当に久しぶりに鈴鹿に来て、昔の記憶が蘇ってきた。私がレースで成功するきっかけとなったヨシムラの吉村さんや、一緒にチームを組んで鈴鹿8耐に参戦(1986年 3位入賞)した辻本さんに会って、いろいろ話を聞いているうちに「また走りたい」と思ってどんどん本気になっていったんだ。昨年は準備期間もなくて結局参戦できなかったけど、1年がかりでここまできた。

──レースに向けて、どのようなトレーニングをされてきましたか。
シュワンツ選手:トレーニングは自分のライフワークとして引退してからも絶えず行ってきた。だから今回の鈴鹿8耐参戦に向けても少しメニューを増やしたくらいで、そんなにハードなことをしているわけではない。今はコアトレーニングを中心に行っていてインナーマッスルを鍛えている。

 今、私が住んでいるテキサス州オースティンは気温が38~43度くらいで、湿度も高いから鈴鹿8耐が開催される日本にとても似ている。だから、あえてこの時間に合わせてトレーニングをするようにしている。

──久しぶりにレーシングマシンで鈴鹿サーキットを走行した感触はいかがでしたか。
シュワンツ選手:とても楽しむことができた。鈴鹿は大好きなコース。昔走った頃から2つのシケイン以外は何も変わっていなくて本当に懐かしい気分になった。しかも、鈴鹿は私が初めて世界グランプリで優勝したコース。合計で4度も優勝することができたし、とても思い入れがある。

 ただ、鈴鹿8耐ではついに一度も勝つことができなかった。8耐は個人プレーでは勝てない。チームプレーが非常に重要だ。勝てると思った年もあったが、ガス欠やトラブルでチャンスを逃してきた。今回こういった機会があってとてもうれしい。

ファン感謝デーでヨシムラ・スズキ GSX-R1000を駆るケビン・シュワンツ氏

──7月3日と4日のテスト走行を終えて、勝つチャンスはどれくらいありそうに感じましたか。
シュワンツ選手:1日はドライで、1日はウェットの中でテストすることになり、両方のコンディションを体験することができたわけだけれど、勝つチャンスは大いにあると感じた。合同テストは(7月9日と10日の)あと2日あるから、ドライコンディションでのスピードをもう少し上げる方法を見つけて、チームとしてももう少しドライコンディションにおける意見を一致させる必要がある。でも勝つチャンスは十分にあると思う。

──28日の本戦がウェットコンディションになったとしても自信はありますか?
シュワンツ選手:ドライだと、28ラップくらい走ってピットストップし、ライダー交代する。ウェットだと、ピットストップが増えるだけでなく、他にもクリティカルな要素が多くなって可能性はさまざまに広がるだろう。ただ、我々はどのチームよりもウェットでのスピードはある。次のテスト以降もできる限りのことはやるし、ウェットではできていることなのだから、ドライでもリーダーボードにタイムが表示されないなんてことはないはずだ。

 当然ながらレースに勝つことが目的だけれど、8時間あるうちの6~7時間の時に、勝てる可能性のあるポジションにいることが目先の目標になるだろう。

──チームのレースマシンであるGSX-R1000のフィーリングはいかがだったでしょうか。
シュワンツ選手:レースではこういう大きなバイクに乗ったことがなく、これまではもっと軽いマシンでレースをしていたから、150kg以上あるGSX-R1000はフィジカル的にやや難しく感じた。ブレーキングやターンでの向き変えがまだちょっとだけ難しいから、身体を慣らさないといけない。レース時の天候も影響してくるとは思うけれど。

──ケビン・シュワンツ選手は、他のライダーとは違って“正シフト※”で走行されています。鈴鹿8耐では途中でライダー交代が何度も行われるわけですが、交代の際に混乱が起きないようどういった対策をされているのでしょうか。また、独特のライディングスタイルも特徴ですから、マシンセッティングにも影響があるのでは?

※ロードレースでは蹴り上げて1速に入れ、そこから踏み込んでシフトアップする“逆シフト”としている選手が多いが、シュワンツ選手は市販車と同様に踏み込んで1速に入れ、蹴り上げてシフトアップする“正シフト”で走行している。

シュワンツ選手:とてもシンプルな仕組みで、(バイクの横にあるシフトペダルの)ピンを外して後ろへずらして取り付けるだけで正シフトと逆シフトを入れ替えることができるようになっている。

 ただ、ピットストップ時にサスペンションなどのセッティング調整をしている時間はないから、マシンセッティングは1つの共通セッティングだ。もし私が速く走れなかったとしたら、そのマシンセッティングが自分には合っていなかったから、という言い訳にしようかと思っている(笑)。

──最近ではバイクにさまざまな電子制御が搭載されてきています。こういったデバイスはレースを面白くする方向に働くのでしょうか。
シュワンツ選手:電子制御はバイクを操る際の選択肢を与えてくれるものだと思う。以前のマシンはセッティングが1つしかなかったし、右手1つだけで頑張るしかなかったけれども、今はボタンを押すことで、より電子制御を効かせるか、効かせないかを選択して、コントローラブルにするかしないかを選べるようになった。

 自分やチームメイトにはそれぞれに違うところがある。1つのバイクに乗ることによるリスクを少なくするのに、あるいはそれぞれに合った乗り方を実現するのに、電子制御は役立ってくれるものだ。

チームメイトの加賀山・芳賀両選手は、自分に似ている

──今回はTeamKAGAYAMAからの参戦となります。日本を代表するレーサーである加賀山選手と芳賀選手の2人と組む、まさにドリームチームになりましたね。
シュワンツ選手:加賀山と芳賀の2人は素晴らしいライダーで、私にとってもドリームチームだ。このチームは非常に力がある上に貪欲でもある。テストでは雨が降って多くのチームやライダーは走らなかったが、TeamKAGAYAMAは違う。雨でもタイヤのテストやマシンの感触を確かめるために全員が走った。

──その加賀山選手と芳賀選手の印象を教えていただけますか。
シュワンツ選手:彼らとはレースで戦ったことはないし、一緒のチームで戦ったこともないけれど、2人ともレースでは常に100%の力でプッシュするところ、怖いものなしであるところが自分と良く似ていると感じた。100%の力を出すライダーはクラッシュが多いとも言われる。でも、そういった限界まで攻めるところがチームとしてユニークなところだとも思う。ライディングスタイルにも違いが多いとはいえ、お互いがお互いをしっかり認め合っているよ。

──鈴鹿8耐で勝つためには何が必要ですか?
シュワンツ選手:チーム力が重要だ。燃費なども頭に入れて、(給油・ライダー交代のためにピットストップするまでのおよそ)28ラップをいかにコンスタントに、全員がミスなく走るかだ。

──話は変わりますが、日本国内ではバイクレースにおいて若い人が少なく、年齢層の高い人が多くなってきているというようなケースも見受けられます。将来を見据えてバイクレースに活気を取り戻すにはどういった活動をしていくべきなのでしょうか。ご自身がライディングスクールを開催されているとも伺っていますので、その経験などをもとにアドバイスいただければ。
シュワンツ選手:一番いいのは、チャンスを与えるということだ。レースのチームは特にその時点で一番速い人、経験がある人を欲しがる傾向にあると思う。経験のないライダーはリスクがあるし、いいライダーがいるとキープして、若くて可能性がある人にはチャンスが巡ってこないというパターンがネックになっている。これは鈴鹿8耐でもそうだし、アメリカやイギリス、ドイツのシリーズ戦に参戦しているチームにも当てはまる。これらのレースで選手がケガなどをした時に、そこに若い人を代役に立てて試すのが一番いいと思うが、メーカー(チーム)によってはそういうことをしないところもある。

 しかし、たとえばホンダなどは若い人材を育てて、いざという時にチャンスを与えている。そういうスタンスが大事だと思う。私も、若い時にある日突然ロードレース世界選手権に出場するという大きなチャンスが巡ってきて、1988年の第1戦日本グランプリから参戦することになった。そういうチャンスを与えるという活動が大事だろう。そのワンチャンスでライダーがどれほどの実力を秘めているか確かめることもできるかもしれない。

──ライディングスクールではそういった可能性のあるライダーを見つけることはありますか?
シュワンツ選手:私が主催しているライディングスクールは、若いライダーの育成ではなく、安全なライディングを目的としたものだ。でも、時にはメーカーから連絡があって特定のライダーにポテンシャルがあるかどうか確認を依頼されることもある。ただ、私のライディングスクールでは必ずインストラクターと一緒に走ることになるわけで、1度走るのを見ただけで判断することはできない。

ライダーは“ビッグハート”を持っているかどうかが大事だという

 しかし、本人にどれだけモチベーションがあるかは大切だ。その人の性格を見ればレースにおける才能があるかどうか分かる部分もある。怒ってヘルメットを投げつけたりするような短気な人もいて、いろいろなタイプのライダーがいるけれども、毎日毎日頑張っているのに結果が伴わないこともあるわけだから、重要なのは、どんなことがあっても受け入れる器の大きさ、“ビッグハート”を持っているかどうか。

 何があってもやる気だけは人一倍ある人と、才能はあるけれどやる気のない人の2種類の人間がいたとしたら、いちいちプッシュしないと進まない後者のようなタイプよりも、実力はまだまだでもやる気がものすごくある人の方がいいレーサーになると思うし、育てやすい。

──話は戻りますが、7月28日の鈴鹿8耐が終わった後も、あなたの姿をサーキットで見ることはできるでしょうか。
シュワンツ選手:だといいね。1年半前にこのレースに参戦すると決めたのは、楽しそうだと思ったから。この鈴鹿8耐が終わった後に、やっぱり楽しかったなと思えたなら、その先も続けるんじゃないかな。

──最後に、本戦に向けての意気込みと、日本のファンに向けてメッセージをいただければ。
シュワンツ選手:自分にとって一番重要なのは、コンペティティブなレースができるようになること。ウェットコンディションでのタイムはすごくいいので、とにかくドライコンディションでのさらなるスピードを、次の3日間(合同テストとフリー走行)で手に入れたい。そうすれば、コンペティティブなレースができて思いっきり楽しめると思う。

 そして、28日の本戦ではできるだけ多くのファンの方にお会いして、できるだけサインもしたい。だから、ぜひ鈴鹿8耐を見に来てほしいね。

──勝利を期待しています。ありがとうございました。

(日沼諭史)