ニュース
昭和シェル石油と東大、「持続可能な社会の実現」を考える公開シンポジウム
日本の将来を想定したMountainsとOceansの2つのシナリオ
(2013/11/11 12:57)
東京大学と昭和シェル石油は10月28日、エネルギーと地球環境持続性に関するシンポジウム「持続可能な社会の実現に向けて-シナリオプランニングの手法を用いた長期的戦略の構築」を東京大学本郷キャンパス内の伊藤謝恩ホールで開催した。
このシンポジウムはロイヤルダッチ・シェルグループのシナリオプランニングチームが制作した2つのシナリオをテーマとしたもの。シナリオプランニングとは未来学の一種とされ、テーマにそったシナリオを作成し、それぞれのシナリオのストーリーを考えて将来起こりうる可能性を想像するもの。あくまで「未来の予測」ではない。未来の予測ではその結論は1つになるがシナリオプラニングでは複数のシナリオを提供することで多角的な視点を提供するのが目的になるという。意志決定者はこれを参考に全体像を想像しながら方針を決定する一助とするという。ロイヤルダッチ・シェルグループでは1973年から40年にわたりシナリオプランニングを企業戦略の検討ツールとしているという。
シンポジウムではShell InternationalのDr. Cho Oong Khong氏と同Ms. Esther Bongenaar氏が2つのシナリオについて講演した。
今回示されたのは「Mountainsシナリオ」と「Oceansシナリオ」の2つ。2100年までを想定し、社会、政治、経済、技術などが変化していく様子をシナリオ化。これらを踏まえた上で世界のエネルギー事情や地球環境への影響などを分析している。
Mountainsシナリオは政府主導の性格が強く経済が低成長を続ける格差社会的な世界のシナリオ。変化に対する抵抗力が強い。こうした社会では原子力発電やシェールガスなどの供給が促進されるため、エネルギーは豊富で安価になる。そのためソーラー発電や風力発電などの再生エネルギーは発展しない。
Oceansシナリオは政府よりも一般国民から変化が生まれてくる社会。経済は高成長を続けるが新興国が順調に成長を続けた結果、資源問題と地球環境の悪化も懸念される。政府の主導力が弱いため原発は縮小され、シェールガスなどのエネルギーも普及しない。そのため石油石炭といった資源は維持されるが需要が高く価格は上がるため、ソーラー発電などに注力される社会となる。この世界では太陽エネルギーが2070年ごろをピークに主要エネルギーとなる。
シェールガスについては現在は米国が特に力を入れているが、埋蔵量では中国が最も多い。しかし、中国がこれをエネルギーとして利用するためにはMountainsシナリオを維持することが前提であり、中国がOceansシナリオ的な社会に移行した場合はガスの輸入国で有り続けるという。また、ヨーロッパなどでもシェールガス開発が注目はされているものの現時点ではシェールガスに対してあまり良い印象を持っている人は少ないそうだ。自分の住んでいるところにガス田を作られるのは好まない傾向があるという。
日本についてはどうか。日本におけるMountainsシナリオでもやはり傾向は似ており、原発が普及していくため再生可能エネルギーの供給は低レベルになる。原油の需要は徐々に減り続け、代わりにシェールガスを含めた天然ガスの需要が2020年頃から高まっていく。また世界的な傾向とは異なるのが石炭の需要。世界的には二酸化炭素を地下へ貯蔵するCSS(Carbon Capture and Storage)技術が普及するにつれ石炭の需要が増えてくるが日本ではCSSを導入するために適した土地があまりないことから導入が難しく、石炭の需要は増えないという。
日本のOceansシナリオでもやはり反原発の動きが強まり2040年頃には原発がほぼなくなる。石油への依存度も低下していく。反対に再生可能エネルギーは発展するため2030年頃からソーラー発電が本格化、2040年頃からは風力発電も増加していくという。
さらに日本の交通分野についても分析がされた。現在はガソリンが主流だがMountainsシナリオでは電気を使った交通機関が増える。特に日本はこの分野で進んでいるとされ2060年には一足早くガソリン車がほぼなくなり、電気と水素を使ったものに置き換わるとした。Oceansシナリオでは電気自動車はそれほど普及せず、ガスを使ったものへシフトしていき、ガソリン車も2060年時点ではなくならない。
最後に、これらを想定して世界の二酸化炭素はどのくらい抑えられるのかが示された。結論としては、どちらのシナリオを続けても、2100年までに下げる必要のある二酸化炭素排出量の抑制には届かないという。これらのシナリオを踏まえながら両方の良いところをまとめて変化に対応する必要があるという。
シンポジウムの最後には昭和シェル石油 代表取締役グループCOOの新井純氏が閉会の挨拶を行った。新井氏は「米国で開発が進んでいるシェールガスなど新エネルギーの台頭は世界的なエネルギーのフローに影響し、世界のパワーバランスにも影響もあたえることが予想される。もちろん日本にも影響がある。我が国でもエネルギーの安全性には注目が集まっており、今後、原発の方向性も修正を余儀なくされるのではないかと見ている。日本でも低炭素化社会の実現や経済性の高いエネルギー開発、また、新しいエネルギーと旧来のエネルギーをシステムとして統合して運用するにはどうすればいいのかなど問題は沢山ある。これらを解決するには需要供給、政治や地域社会からの視点などさまざまな面から分析をしていかないと解決はできない。シナリオプランニングはこうした将来を考える上で一助となるものだ」などと述べ閉会の挨拶とした。