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スズキ、次世代プラットフォームからハイブリッドシステムまで新技術を発表した「四輪技術説明会」
ディーゼル、マイルドハイブリッドをはじめPHV、FCも市販化に向けた研究開発を実施
(2014/4/18 22:48)
スズキは4月16日、報道陣向けに「四輪技術説明会」を開催した。驚いたことに発表された技術内容は非常に多岐にわたり、また将来に向けて開発中のハイブリッド技術にまで及んだ。これまでスズキは小規模の技術説明は度々行ってきたものの、今回のように大きな規模では行ってこなかっただけに、発表する技術には相当なる自信が伺える。
説明会は、「次世代軽量プラットフォーム」「パワートレーン開発」「ハイブリッドシステム」の3つの商品開発方針に則って進められた。
少ない部材でボディー剛性を向上させた軽量な次世代軽量プラットフォーム
スズキは現在、4タイプのプラットフォーム(クルマの土台)を使用している。ワゴンRに代表される軽自動車用の「Kプラットフォーム」、ソリオなどの登録車に使われている「Aプラットフォーム」、スイフトなどに使われているコンパクトクラス用の「Bプラットフォーム」、そしてSX4などに使われている「Cプラットフォーム」だ。
次世代軽量プラットフォームでは、このうちBとCの比較的大きなプラットフォームを統合し、新生Bプラットフォームとして使用すると同時に、KプラットフォームとAプラットフォームも新しい手法を用いたものに刷新する。新たなプラットフォームの基本的な考え方は、前述のプラットフォームを3種類へ統合することに加えて、プラットフォームを構成する部品をモジュール化することで開発効率を向上させつつ、車両全体で最大15%もの軽量化を達成すべくプラットフォームの各所を軽量化することにある。また、新生Kプラットフォームは、近い将来導入される軽自動車に採用されるだけでなく、インド(やその周辺)市場で販売される専用車にも用いることで回収源を増やし、トータルでのコストを早期に削減することを目指す。
モジュール化に関しては、サスペンションで4種類、空調システムで2種類、フロントシートフレームでは3種類に集約。一見すると3種類も必要なさそうなフロントシートフレームだが、クルマのキャラクターに応じてシート高が違うため、それに応じたフレームワークが必要になるという。
軽量化に関しては、主要構造から抜本的な見直しを行い、断面構造から部品配置に至るまで刷新した。衝突安全性能や剛性、強度、さらにはNVH(ノイズ/バイブレーション/ハーシュネス)などクルマの根幹にかかわる性能を大幅に向上させながら、このプラットフォームを採用した場合、車両全体で最大15%もの軽量化を達成する。
具体的には、現状のプラットフォームが各部に補強材を用いて必要な剛性を確保しているのに対して、次世代軽量プラットフォームでは、力の集中する角を極力作らずに、滑らかな形状で外からの入力(例:路面からの突き上げなど)を受け止め分散する形状へと大きくその手法を変えた。同時に、従来よりも板厚そのものを薄くするとともに、プラットフォームの裏側にはりめぐらされた骨格部を、従来の複数部材での構成から、連続した一体化されたものに変更することで、少ない部材でボディー剛性を向上(曲げ剛性、ねじり剛性ともに30%アップ)させることにも成功している。
2020年初頭までにガソリンエンジンの平均熱効率40%を達成すると発表
ガソリンエンジンでは、2020年初頭までに平均熱効率40%(JC08モード燃費換算)を達成すると明言。軽自動車用の660ccエンジンはアルト エコSに採用された燃費数値向上技術を継続的に昇華させながら、小型車用はデュアルジェットエンジンで培ってきた技術を改良して市販車に搭載するという。
熱効率向上には圧縮比アップが必須だが、それには燃料の微粒化噴霧や直噴技術といった燃料噴射技術、タンブル性能向上と燃焼室での乱れを制御する筒内流動技術、そして点火エネルギー強化の点火技術という3つの技術で対応する。また、EGRの大幅採用や、低フリクション化によって得られた熱効率の損失を低減させる技術も同時に導入する。
ちなみに、スイフトなどに搭載されている1.2リッターデュアルジェットエンジンの現在における平均熱効率は約34%(JC08モード燃費換算)、最大熱効率では37.1%と排気量は若干劣るものの、先ごろのマイナーチェンジで「パッソ」「ブーン」に搭載された1.0リッターの新エンジン「1KR-FE」の最大熱効率37%(JC08モード燃費27.6km/L)を0.1%だが上回っている。
また、ガソリンエンジンとしては軽自動車用を「R06A」に統合し、小型車用は1.4リッター以下に集約することも発表された。この小型車用は自然吸気と直噴過給(ターボと予想)エンジンが用意される。
ディーゼルエンジンもスズキの自社製として新たなエンジンを開発する。2気筒DOHC4バルブ、総排気量793cc、ボア×ストローク77×85mmの新型ディーゼルエンジンはターボで過給。エミッションレベルはDPFを備えることでユーロ4レベルを達成。当面は新興国に向けた商用車や乗用車に向けたパワーユニットとして、日本の小型車よりもさらにコンパクトなボディーに搭載する。
新興国では、AGS(オートギヤシフト)と名付けられたAMT(クラッチペダルレスの2ペダルトランスミッション)の導入を拡大する。5速MTをベースに、電動油圧式アクチュエーターと小型コントローラーを一体化した中枢ユニットを搭載することで、イージードライブを安価に達成。インド市場で販売中の新型「セレリオ」は、2014年2月6日~3月末日までの間に約3万5000台を受注しているというが、そのうち47%にあたる約1万6500台がこのAGSが占めている。これには、インドを含めた新興国でも燃料代が高騰していることを受け、燃費数値がよくてイージードライブが楽しめクルマの需要が高まっているという背景があるようだ。
エネチャージを発展させたマイルドハイブリッド
次世代エネルギーマネージメントの追求に向けて、スズキは3段階の技術ステップを用意した。その第1段階がアイドリングストップ技術。すでにスズキ市販車の大部分に搭載されている。第2段階が減速エネルギー回生システム。スズキはこれを「エネチャージ」として大々的にアピールし搭載車も増加中だ。そして、第3段階が減速エネルギー回生システムにISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)を組み合わせた「マイルドハイブリッドシステム」だ。
これまで「エネチャージ」で使用していたリチウムイオンバッテリーは、SOC(State of Charge:充電率)にゆとりを持たせていた設計だったため、今後は現状よりも回生量を増やして30%程度バッテリーへの蓄電量を増加させながら、ISGに対してその電力を流してモーターとして駆動させることでエンジン回転をアシストする。
この方式は、すでに日産自動車が「セレナ」でS-ハイブリッドと称して市販車に搭載しているが、スズキの場合は軽自動車への搭載も技術的には可能となるため、軽量なボディーということもあり燃費改善効果はセレナよりも高く見込める点が大きく違う。またシステム上も、現状のスターターをISG化するだけで成立することから、ハイブリッドシステムとしての付加重量が非常に少なく、これも軽量ボディーの軽自動車には結果を生み出しやすい策となるはずだ。
さらに今後は、この「マイルドハイブリッド」だけでなく、専用駆動モーターをもった「ストロングハイブリッド」、「プラグインハイブリッド」、そして「EV」や燃料電池車である「FC」も市販化に向けた研究開発を進めていくという。
今回の四輪技術説明会は、直近に採用されたAGSのような技術に加え、「次世代軽量プラットフォーム」や「ハイブリッドシステム」に対する説明が主であった。出席した役員への取材では、「そう遠くない将来に採用する技術を紹介した」というから、2015年ごろには何らかの形で市販車への導入が見込まれる。